508話 それから……
前回のあらすじ「無事に帰宅」
―それから1年後「次元ターミナル・アオライ王国方面」―
「ふう……戻ってこれた」
アオライ王国でクエストを終えた僕たちは『笹木クリエイティブカンパニー』に用があったため、アオライ王国の王都にあるターミナルからこちらへと飛んで来た。現状、このアオライ王国行きのターミナルは一般にはまだ解放されておらず、関係者だけ使える物となっている。そして僕たちが転移魔法陣のある広間から出ると大きな待合所へと繋がっており、そこには多くの人々……地球では珍しいエルフやドワーフなどグージャンパマの種族も行き交っていた。
「凄い賑わいです」
「異世界への旅行客も増えたからね」
ゴスドラを倒してからおよそ半年後に開業した『異次元ターミナル』。一般向けに解放されているのはイスペリアル国かレルンティシア国の2つだけであり、また専門の旅行店によるパッケージツアーのみとなっている。逆にグージャンパマからやって来る人達が現在自由に移動できる場所は僕たちの地元周辺となっており、許可が下りない限り他の都市や地方に行く事は出来ない。
「あ! 薫先生じゃない!?」
「ああ本当だ!!」
すると、こちらに気付いた制服を着た高校生の子達が僕を見てワイワイと騒ぎ出す。ちなみにだが、僕の今の服装は私服ではなく『面妖の民』である妖狸の姿をしている。そう……僕の正体は一部バレてしまったのだ。バレたのはゴスドラ討伐から1月後……つまり僕たちが家に帰ってすぐである。
理由だが、簡単に言うとタイミングが悪かったからである。元々、書いている小説がグージャンパマの世界と酷似していること、また発表された異世界の門の発見時の内容とほぼ同じということもあって、この小説はグージャンパマを元に書かれていると噂にはなっていた。
だが、僕がグージャンパマで実体験したことに改変・脚色などをしているので、この小説の内容から作者はグージャンパマを往来できるような人物と判断できるかもしれないが、『妖狸=作者』とすんなり繋がることは無いように気を付けてはいた。
だが、ここで妖狸が浮遊城探索の最中に行方不明となったという情報と、小説家の作者が休載という情報が同時期に重なり、妖狸帰還と作者復帰という情報がまたしても重なったことで、「この小説を書いてるの妖狸じゃないの?」と疑われ、そのままなし崩し的にバレた感じである。なお、『成島 薫』はバレていないので、素顔は辛うじてバレていない。
「次巻楽しみにしてまーす!!」
僕は手を振ってそれに応えつつこの場を後にする。このやり取りに気付いた大勢の人達の視線が凄く気になってしまう。ここはターミナルの役割がメインだが、グージャンパマに関する展示物を展示してたり、グージャンパマの他種族が実際に仕事している風景を見る事が出来るので、意外にも人が多く往来しているのだ。
「僕の格好って目立つよね……」
さらに、グージャンパマの衣服を着ている人達も多くいるのだが、顔を狸のお面で隠し改造巫女服を着た僕の格好程ではない。また世間を賑わせた有名人というのも理由の1つだろう。
「嫌だったなら着替えれば良かったのでは?」
「そうしたいのはやまやまなんだけど、施設のPRしないといけないからさ」
こうやって、たまに施設に顔を出すことで、僕たちに会えるかもと期待した観光客がここに観光に来てくれることを狙ってやっている。これはショルディア夫人や菱川総理からのお願いであり、『盗賊団ヘルメス』がなくなり、すっかりこっちでの出番が少なくなってしまった『面妖の民』という存在が今も実在しているのをアピールするためでもある。
「あ、薫先生お疲れ様です」
「紗江さん?」
ターミナル内を出口に向かって歩いていると、紗江さんとばったり出くわした。紗江さんも出るところらしいので一緒に出口へと向かう。
「今日は会合ですか?」
「はい。社長が新プロジェクトで不在なので、代わりに私が」
「副社長も大変ですね」
「仕方ありませんよ。榊さんは菱川総理の元に戻り両世界を取り持つために菱川総理の後を継いで政治家になることを決めましたし、社長は『月面ラボプロジェクト』で手一杯ですし」
そう言って、紗江さんは微笑んだ。ゴスドラ討伐してからこの1年で『笹木クリエイティブカンパニー』も大きく変わっており、実質No.2だった榊さんは会社を辞めていて、政治家として菱川総理の元で活動中であり、社長である直哉は魔導工学も含むあらゆる分野の技術を発展させるために、月面に研究所を建設するプロジェクトに参加中のため、アメリカのNASAに出張中である。
「宇宙か……流石に駆り出されないよね?」
「さあ……侵略宇宙人がいれば『面妖の民』の出番かもしれませんね?」
「いないことを切に祈るよ。ねえレイス?」
「宇宙は楽しみですけど、戦いはこりごりなのです」
レイスは腕をクロスさせて×印を作って戦うことを拒否するのであった。そして『次元ターミナル』から出て来た僕たちは紗江さんと別れ、『笹木クリエイティブカンパニー』へと向かう。『次元ターミナル』がある場所は多次元総合会議を開いたビルのすぐ近くであり、『笹木クリエイティブカンパニー』からそう遠くはない場所にある。
「現在、私達は……」
「でさ……」
周辺にはすでにお店なども出店しており、元々空き地などが多かった場所だったこの場所はいつの間にか大きな街になっており、通りは『次元ターミナル』内と同じように行き交う人で賑わっていた。
「妖狸!?」
「薫先生!?」
僕はそんな人の多い通りを、これ以上声を掛けられたり、撮影されたりするのは避けるために、気付いた人たちの声を置き去りにするように駆けて行く。そしてこのまま『笹木クリエイティブカンパニー』の正門前にやって来た。そして、守衛さんに社員証を提示する。
「お疲れ様です! 素材回収の帰りですか?」
「うん。頼まれていたヒクイトリの鉤爪と毛皮を手に入れたその帰りだよ」
「そうでしたか。紗江副社長は会合のためいらっしゃらないので……」
「さっきそこであったのです。その際に置き場所を訊いたので問題ないのです」
「それは良かった。っと……お疲れのところ長話は失礼でしたね。どうぞ」
僕は社員証を返してもらう。そして会社の敷地内へと入り、これらの素材を使用して実験する6番倉庫へと向かう。
「あら? 薫じゃないの?」
「なんでお前達がここにいるんだ?」
6番倉庫に着くと、そこではカシーさんとワブーが他の賢者や研究者たちと一緒に何かの実験をしているところだった。
「紗枝さんに頼まれて、ヒクイトリの素材をお届けに来たのです!」
「全く……その件は他の奴でも良かったんだが……」
「ええ……」
そう言って、難色を示す2人。だが、それは他の皆も同じあり、実は先ほど会っていた紗江さんも僕たちが素材を取りにアオライ王国に行って来たことを伝えたら、今の皆と同じような顔をしていた。いつもなら、素材を持って来た僕たちを歓迎する皆がそのような表情をするのには理由がある。それは……。
「結婚式の打ち合わせは大丈夫なんでしょうね?」
「我が国の姫がお前に嫁ぐ大事な儀式なんだからな?」
「あはは……」
そう。僕はついにユノと結婚することになった。ちなみに式は明後日である。しかも、泉とカーターたちの結婚式も一緒に執り行う2組同時の結婚式だったりする。
何でそうなったか、そもそもどうしてゴスドラ討伐から1年も経ってから結婚になったのかだが、まず、結婚が遅れたのは、ユノの兄であり、ビシャータテア王国の王子であるアレックス王子が何と先に結婚することになったからだ。そして、そのお相手はエルフのスメルツさん。僕と泉が初めてビシャータテア王国へ訪問した際に出会った医療・薬学を専門とした王家お抱えの魔法使いである。
この2人にそんな浮ついた話が無かったため、アレックス王子がスメルツさんを婚約者として指名した時は王様や王妃様は非情に驚いた様子だったとユノが教えてくれた。ちなみに、ユノはこの2人が恋人なのは知っていたらしく、魔法使いだが身分違いであるスメルツさんは最初は断っていたらしいが、アレックス王子の熱烈なアピールに根負けしたとのことだった。妃教育と言われる王女になるための勉強もユノの指導の元、しっかりやりきったらしい。魔法使いである彼女を王家に向かえることに王様達は特に反対する理由も無かったので、これを了承。そしてビシャータテア王国としては王位継承権第一位であるアレックス王子の結婚式が優先して執り行われたのである。
「スメルツ義姉さんに相棒のザックスもサポートしてくれているので大丈夫ですよ」
「オドオドしたあの子が……か。恋は人を変えるとはよく言った物ね」
「アレックスお兄さんの傍にいて恥ずかしくないようにしないとって言ってましたよ。まあ……その時はいつものアレでしたけど」
「容易に想像が付くわね」
「全くだ。ザックスも大変な立場になったもんだな」
ビシャータテア王国お抱えの魔法使いの同期だった彼女たちが王家に嫁いだことにしみじみとしているカシーさんたち。だが、カシーさんも他人事では無いだろう。
「そうそう、カシーさんもそろそろ決めて下さい。泉が既にウェディングドレスの図案を用意して待ってますよ?」
「分かってるわよ。いつまでも彼を待たせる訳にはいかないわ」
そう言って、頬を赤らめるカシーさん。まだ、彼女とシーエさんの結婚に関する話を本人たちから聞いていないのだが、僕たちの結婚が終わったら、早い段階で発表するのかもしれない。僕はそう思いつつ、ヒクイトリの素材を手渡しする。
「確かに受け取った。そうしたら、お前達はさっさと家に帰って結婚式の準備をしっかり整えておけ。結婚式にはここにいる全員参加するからな。覚悟しとけ?」
「分かってるって……」
ワブーがそう言って結婚式でへまをするんじゃないように注意する。それもそのはずで、僕たちの結婚式には各国の著名人や大企業の社長などお偉いさんが大勢来ることになっている。そんな人たちの前で王家の顔に泥を塗るような恥ずかしい行為をしないように口うるさくなるのは当然だろう。ちなみに、そんな多忙を極める方々の迷惑にならないようにという理由もあって、2組合同の結婚式を挙げることになったのである。
「さてと……」
素材を渡し終えた僕はレイスと一緒に自宅へと帰ろうとして、シエルを呼んで空から帰ることにした。
「それじゃあ。お先に失礼します」
「バイバイなのです!」
僕は皆に挨拶をしてシエルと一緒に空へと駆け上がる。皆に見送られつつ上へと上って行き、かなり高い位置に達したところで家へと一直線に進む。
「はあ……」
「結婚式前に溜息は良くないのです」
「分かってるよ。でも、ただの一般市民だった僕が教会で結婚式を終えたらそのまま王都の城下町でパレードして、お城でパーティーを開くなんて思ってもいなかったからさ。普通の結婚式を想像していた身としては緊張して堪らないんだんだよね」
「薫達がの結婚となれば、それ相応の式にしないといけないのだから、これ位は当然なのです」
「でも、アレックス王子とスメルツ義姉さんとほぼ同じ挙式を挙げるなんていいのかな?」
「当の本人が問題無いといってるのだから、安心して結婚するのです」
「今更だけど……何か大事になっちゃったな」
僕は明後日の結婚式に戸惑いを感じつつ家路を辿るのであった。




