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507話 ただいま

前回のあらすじ「帰宅中……」

―「ビシャータテア王国・転移魔法陣のある建物前」―


「お疲れ様です!! 薫様!! レイス様!!」


「お二人ともご無事で何よりです!!」


 僕たちが転移魔法陣を利用してビシャータテア王国へと到着すると同時に守衛さんたちが右手を左胸に当てる敬礼のポーズをしつつ出迎えてくれた。


「薫さん!!」


「やっぱ生きてやがったか!!」


 そこに息を荒げながらシーエさんとマーバの2人も来てくれた。タイミングが良すぎるので、もしかしたら誰か先走って報告してくれたのかもしれない。


「ただいま戻りました。こちらの被害は……」


「流通など経済の被害はありましたが国内は無事、遠征に出ていた騎士団も多少のケガ人が出たものの皆無事に帰還しましたよ」


「でも、被害があったって聞いたのです」


「ああ……それはうちの国じゃなくて他の国だぜ。ガルガスタ王国やアオライ王国……ハニーラス王国も聞いてるな」


「参加した各国、何かしらの被害は出てますが、私達の国は竜人に次いで被害が軽微でしたね」


「それはなによりなのです。それと……本当に1月も経ってるのです?」


「間違いありません。けど、お二人にとって昨日のことで間違いないですか?」


 シーエさんの質問に僕たちは頷いて答える。


「皆さんかなり心配されてますから、早く行ってあげて下さい。カシー達も連絡を受けて後で向かうと思いますので」


「だな。うちらも仕事が終わったら寄らせてもらうぜ!」


 シーエさんたちと少しだけ話をした僕たちは2人と別れ、再び家に向けて走り始める。転移魔法陣のある城内から城下町へと出ると、市民の目線がこちらへと向く。


「ええ!?」


「勇者様!?」


 1月ほどいなくなっていた僕たちが突如城下町を疾走する姿に驚きの声を上げていた。


「こう驚かれると本当に1月経ったんだなって実感するね」


「これが次元の歪みってやつなのですね。まさかアニメやゲームのような話をリアルで体験するとは思っていなかったのです」


 今までの周りの反応から徐々に僕たちがあれから1月もいなくなっていた事実を実感していく。周りの反応がこれなのだから、久しぶりにあった時のユノがどんなリアクションをするのか予想ができない。


「もし、これで薫が途中で起きないで、あそこで一晩過ごしてたら……」


「半年ぐらい経ってたかも……」


 僕は途中で起きたこと、そしてすぐにあの空間から脱出して良かったと改めて思った。半年も経ってたら、今とは比較にならないほどにユノや家族に物凄い心配を掛けてしまっていただろう。いや、下手すると死亡届を出されていたかも。


「とにかく早く帰らないと……」


 城下町の大通りを走り続け、カーターの屋敷の門に到着する。すると、その門の所にカーターとサキの2人が待っていた。


「無事だったんだな英雄」


「帰って来たわね英雄!」


「英雄なんて呼ばないでよ。というか……からかってるよね?」


「もちろんだ。お前がいない間どれだけ皆が心配したと思ってるんだ?」


「悪かったって。そもそも、こっちは寄り道せずにほぼまっすぐ帰って来たんだからね?」


「そうなのです!」


「分かってるわよ。とりあえず、薫の家で皆が待ってるから、さっさと行くわよ」


 そう言って、カーターとサキがゆっくり歩きだすので、僕たちも走るのを止めて、カーターたちと一緒に『異世界の門(ニューゲート)』が設置されているガゼボへとゆっくりと歩き出す。そうゆっくりと……。


「……少し待った方がいい?」


「少しゆっくり進むだけでいいわよ。多少の身支度する時間があれば十分でしょ」


「2人はさっきまであっちにいたのです?」


「いたわよ。というか……ハリル達が慌ててあなた達が帰って来たことを報告したのを聞いたわよ」


「それで、あっちは蜂の巣をつついたかのように女性陣は大慌てでな。それで、明菜殿に頼まれて、ゆっくり来るように案内してるって訳だ」


 そう言って、苦笑する2人。そんな表情になるってことは相当大慌てだったんだろうなと伺える。


「そういえば母さんたちもいるんだね?」


「ああ。薫の姉さんである昌殿が無事に出産を終えてな。それのサポートとして薫の家に滞在していたんだ。それで、憔悴してしまったユノ様とソレイジュ女王を元気づけるために、昨日お泊り会を開いていたんだ」


「ああ、2人はその護衛としていたのか……」


「そうだ。ビシャータテア王国の姫、ノースナガリア王国の女王、魔国ハニーラスの王女……そんな3人が集まっていて、その時はゴスドラを倒せたのかも分からない状態……護衛の1人も付かないはずが無いだろう?」


「それはごもっとも」


 その言葉を最後に、しばらくの間無言のままガゼボへと続く道を進む僕たち。どう決着が着いたのかとか、どうやって脱出したのかとか訊きたい事がまだまだあるとは思うのだが、特にそれを訊き出そうとする気配が無い。


「訊かないの?」


「お前達がそんな風に帰って来た以上、しっかりトドメを差してきたのは間違いないんだろう? だったら、どう倒したかは他の皆と一緒に聞くさ」


「そうか……」


「……本当に無事でなによりだ」


 そう言って、ホッとした表情を浮かべるカーター。ここに来るまでに出会った皆が、ゴスドラや『ヘルメス』の魔石よりも僕たちの身を案じてくれていた。その事に僕はどこか心が熱くなる。


 そんな心持ちの中、僕は『異世界の門(ニューゲート)』を使って自宅の蔵へと移動し、そして蔵の外へと出る。


「薫!!」


 横から僕の名前を呼ぶ声が聞こえたので、そちらへと振り返ると同時に僕の体にユノが抱き着いてきた。その時、ほのかに花の香りがユノから漂ってきた。


「ただいま……大分、留守にしちゃったみたいだね」


「そうです! 心配したんですよ!!」


 そう言って、僕の方に顔を向けるユノ。カーターたちの時間稼ぎのおかげで身だしなみをしっかり整えられたみたいだが、目の下に薄っすらクマを確認できた。


「ごめんね。心配かけちゃって」


 僕がそう言うと、ユノが目に涙を浮かべて泣き始めてしまったので胸を貸して、そのまま泣き止むまでしばらく待ってあげる。ちなみにだが、周りの皆がニヤニヤした表情でこちらを眺めていたのは気付いていたが、今回ばかりは見逃すのであった。


「レイス……」


「お母様!!」


 僕たちが無事を確かめ合っていると、レイスが母親であるソレイジュ女王に抱きしめられていた。「苦しいです」とレイスが伝えているのだが、その抱きしめる力が弱まる気配はなさそうである。それからしばらくして、ユノが泣いてスッキリしたところで、静かに見ていた泉たちや母さんたちがこちらに集まって来た。


「全く……噂をすれば何とやらって言うけど、まさか本当に今日帰って来るとは」


「どんな話をしてたの?」


「あんたたちなら何食わぬ顔して今日にでも帰って来るんじゃないかって……ね」


「こっちは浦島太郎になった気分でそれどころじゃなかったけどね。あ、昌姉ただいま」


 僕はマスターの後ろにいた昌姉に気付いて声を掛ける。すると、昌姉はマスターの後ろから赤ちゃんを抱いた姿で出て来た。


「おかえり。ほら、この子……」


「あ、かわいい……」


「当たり前だろう? 昌の子供だしな」


「あら? 武人さんの特徴もしっかり受け継いでるわよ?」


 マスターとそんな会話をしながら昌姉が生まれたばかりの赤子を見せてくる。


「女の子だって。さっそく何か作って上げないとね」


「2人の無事も確認できたッスからね!」


 そこに泉たちが話に混ざって来る。そこに母さんも一緒に話に混ざって雑談をしていると、父さんとあかねちゃんが静かに僕に声を掛けて来た。


「薫、おかえり」


「おかえりなさい!!」


「ただいま父さん、あかねちゃん。心配かけちゃってゴメンね」


「ちゃんと帰ってきてくれさえすれば、何も問題無いよ。だよねリーリアさん?」


「全くです」


 そこにリーリアさんも現れる。そして、真剣な表情のまま僕に話し掛けた来た。


「薫……長きに渡る戦いに終止符を打ってくれてありがとう。ハニーラスに住む者達を代表してお礼を言いたい」


「気にしないで下さい。そもそも僕たちもケリを付けたかっただけですし……あ」


 そこで、言わなければならないことがあるのを思い出す。


「母さん! 言伝を頼まれていたんだけど……」


「私? 誰だい?」


「……娘によろしくって」


「……そうかい」


 そう言って、誰からの言伝なのかを察した母さんが静かに微笑む。すると、母さんが手を叩きここにいる皆に呼びかける。


「さて! こんな庭先で話すのもアレだし。家でゆっくりと話を聞かせてもらおうじゃないかい」


「賛成!」


「それなら、茶菓子が欲しいッスね……」


「その必要は無い!!」


 そんな声と共に蔵の方から直哉とカシーさんたちが現れた。その両手に持つ袋の中には、お菓子や飲み物が入っていた。


「長話になると思って用意してきたぞ」


「直哉……家族団欒って知ってる?」


「分かってる。お前達が浮遊城に残って帰って来るまでの話を聞いたらすぐさまお暇するから安心しろ」


「悪いわね。その代わりあっちこっちへの報告は私達がやってあげるから」


「というより、急かされているからな。家族団欒を邪魔されたくないなら、俺達に事の顛末を教えてくれ」


 ワブーがそう言って溜息を吐く。どうやらワブーにとって、この突然の訪問は不本意のようだ。


「分かったよ。それじゃあ家の中でさっそく……あ、この銃役に立ったよありがとう」


 僕は『アイテムボックス』から弾の入っていない特注の銃を直哉に返した。


「おお。役立ったなら何よりだ。これでトドメを差したのか?」


「あ、いや……」


「ん……」


 直哉のその質問に僕とレイスは唸り声を上げる。


「薫? どうかしたんですか?」


「いや……そのね。あの銃に入っていた魔弾が決定打になったんだけど……」


「トドメは、薫の『変態相手に能力上昇した状態で投げられた卵』なのです……」


「……って訳です」


「「「「……」」」」


 一瞬の沈黙。トドメが卵とはどういう意味なのか全く理解できず、そもそも変態って何というような表情をしている。


「「「「どうしてそうなる(ったの)!!?」」」」


 意味が分からなくなった皆が息ピッタリにそう叫ぶのであった。この後、堪った小説の仕事やら、関係各所への説明と色々後始末があったのだが、こうして僕たちの世界の命運を賭けた一世一代の戦いが幕を閉じるのであった。

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