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503話 最後の手助け

前回のあらすじ「その時、薫は閃いた!」

―「浮遊城・上空」―


「星光雷牙斬・二式」


 僕は『セイクリッド・フレイム』の魔石を嵌めた黒剣の鵺と『ジェイリダ』の魔石を嵌めた四葩に紫電と黒電を纏わせ、それを勢いよく『ヘルメス・トリスメギストス』へと振って斬撃を放つ。


「……!!」


 対して、『ヘルメス・トリスメギストス』は伸ばした爪に黒い靄を纏わせ、5つの黒い爪撃を飛ばす。それが最初に飛ばした電撃を纏った炎の斬撃とぶつかり相殺する。だが、爪撃はそれで全部消えてしまったため、もう1つの同じく雷撃を纏った氷の斬撃が『ヘルメス・トリスメギストス』へと向かって飛んでいく。


 『ヘルメス・トリスメギストス』はその飛んで来る斬撃を反対の爪で打ち消そうとして、こちらにも黒い靄を纏わせてタイミングよく氷の斬撃に向かって振り下ろした。


パキン……


 砕ける音が辺りに響く。『ヘルメス・トリスメギストス』の爪が割れた音でもあるのだが、その爪と繋がっている腕1本が粉々に砕け散った音でもある。


「……!!」


 『ヘルメス・トリスメギストス』は慌てた様子で失った片腕の肩辺りを抑える。すると、すぐさま白い光と共に新しい腕を生やしてしまう。すると、その位置から自身の周囲に大量の魔法陣を展開し、威力に極振りした魔法から数に極振りした魔法と多種多様な魔法をこちらへと放って来た。


「それなら……」


 僕は『セイクリッド・フレイム』と『ジェイリダ』の魔石を武器から取り外し、そこに球体状に戻した鵺に、その2つにプラスして風属性の魔石を追加して嵌め直す。


「烏集之交・三式」


 強力な魔法を避けつつ、数だけの魔法は『烏集之交』で集めていく。すると、鵺の表面に取り込んだ魔石の色と同じ光が公転し始める。そして、さらに魔法を取り込ませていくと鵺が生きているかのように脈動を始める。


「いけ! 鴉巣生鳳・三式!」


 鵺が脈動を始めたことで集められる量に限界が来たと判断した僕は『鴉巣生鳳』を発動させ、集めた魔法を無数の鳥型の魔法として放つ。それらは赤、青、緑の3色をしており、その体の表面に各色にあった属性の魔法を纏っていた。


 それを見た『ヘルメス・トリスメギストス』は無数の魔法陣から攻撃魔法の雨だけじゃなく、両手に再びガトリング砲を構え、圧倒的な手数でそれらを撃ち落とそうとする。


「集まれ!!」


 それに対して、僕は各色の鳥を1体ずつ計3体を接触させる。それを数回行うと、火魔法と氷魔法、風魔法の3つが混ざり合った事で、僕たちと『ヘルメス・トリスメギストス』の間に濃霧が立ち込める。


「……ふう」


 僕は鵺を弓と矢にして、矢を射る体勢を取る。魔力の籠った濃霧の影響で手あたり次第の攻撃が間一髪のところで、僕たちの横を通り抜けていく。


「……暗き湖沼へ」


 僕はそう唱え、強く引いた弦を離すと、矢は勢いよく濃霧の中へと侵入し、濃霧が立ち込める前に確認できた『ヘルメス・トリスメギストス』のいた場所へと進んでいった。そして、『暗き湖沼へ』が発動し、僕たちが作り出した濃霧さえも飲み込む黒い球体へとなった。


「当たったのです?」


「どうだろうね……」


 『暗き湖沼へ』の術の範囲が予想よりも広く、僕が矢を射った場所からでも、黒い球体の方に引っ張られそうになったので、僕は浮遊城の中にあった中庭へと下りた。


「黒い太陽みたいなのです」


 僕たちの頭上で発動し続ける魔法の姿にそんな感想を述べるレイス。それにしては随分とデカい太陽だなとお心の中で思いつつ、辺りを警戒しつつもそれが終わるのを待つ。それからすぐに黒い球体は収縮し、放った矢が手元に落ちて来たので、僕はそれをキャッチしつつ、こちらを見下ろす『ヘルメス・トリスメギストス』の姿を視界に入れる。『暗き湖沼へ』が当たったらしく右足が欠けているのだが、それを先ほどの腕のように治す素振りを見せない。


「何をする気なのです?」


 『ヘルメス・トリスメギストス』な欠けた右足をそのままにさらに上へと移動し、そこで再びこちらを見下ろすと、6つの羽を大きく展開し、この浮遊城がある陸地より大きな魔法陣を空に展開した。


「……どうやらここが正念場かな」


 『ヘルメス・トリスメギストス』が勝負を決めに来たと思った僕は『天魔波洵』で使える7つ目の魔法を放つ準備をする。


「これで倒せなかったらピンチになるのです。それでも使うのです?」


「うん。あっちも勝負を決めに来たみたいだし、それに……」


「それに?」


「『天魔波洵』の効果が切れそうな気もするんだよね」


 何となくだけど、後少ししたら変身が解除される気がしている。だから、僕もここで『ヘルメス・トリスメギストス』と勝負を決めに行かないといけない。そう決断した僕はアイテムボックスから無属性も含ん6属性の魔石を取り出し、それらを全て鵺に取り込ませる。すると、鵺はその姿を徐々に変えていき黒龍となって、僕の傍で待機する。


「ここで中二病感満載の黒龍とはね……」


 僕は現れた黒龍に手を触れようとするが、その手は体を擦り抜けてしまった。よく見たら、その体は透けており、物質として存在する鵺を素材としているはずなのに手に触れられないというのは不思議な感覚である。


「薫! 来るのです!」


 レイスに言われて、上を見上げると『ヘルメス・トリスメギストス』が展開した魔法陣が一際輝きだす。


「これで終わりにしよう……奥義・黒龍六道天衣」


 僕が最後の呪文を唱えると、傍にいた黒龍が僕の体を包み込み、ドラゴン型のオーラみたいな物になる。


「……」


 『ヘルメス・トリスメギストス』は手を前に出すと、展開した魔法陣から眩いほどの白い光が落ちて来た。それは浮遊城を破壊し、浮遊城を支えていた陸地やまだ生き残っていたギアゾンビも全て焼き尽くす光の柱となったのだろう。そんな白い光の中を僕たちは『ヘルメス・トリスメギストス』がいた場所へと向かって飛ぶ。


「凄いのです……」


 全てを破壊し尽くす光の中を黒き龍のオーラを纏った僕たちが上へと突き進む。もし、誰かが離れた場所からこちらを見ていたら、白い柱の中を一筋の黒い光が伸びていく姿が見えたのかもしれない。


「……ぐっ」


 上へと進むにつれてスピードが落ちて行く。僕はこの先にいるはずの『ヘルメス・トリスメギストス』を貫くため四葩を前へと構えながら飛ぶ。すると、四葩の持つ魔法を弱らせる効果が働いたのかスピードが速くなった気がしたが、今度は僕の腕が痺れて始める。


「もう少しなのに……」


 距離的に後少しで『ヘルメス・トリスメギストス』の元に辿り着くはずなのだが、こっちの方が先に体力が尽きてしまうかもしれない。


「頑張るのです!」


 歯を食いしばる僕の姿を見たレイスが応援する。僕もその期待に応えるべく、何よりも男としての意地を見せるべく気合を入れる。


「はあーー!!」


 進めば進むほど『ヘルメス・トリスメギストス』が放つ光の力が強くなっていく。ついには纏っている黒き龍のオーラも押し負け始めていた。


「マズいのです!?」


 押し負けていることに気付いたレイスが慌てているのに気付くのだが、それに対して答える余裕はない。万事休すとはこのことかと思いながら、何か手段が無いかと思考を巡らせるのだが、落ちてくる光の抵抗で精一杯だった。


「後、少しなのに……」


 ついには前に進まず後退し始める僕たち。ここまでかと諦め始めたその瞬間、どこからともなく僕の腕を誰かが掴む。それに驚いた僕がその腕の先を見ると、僕に非常に似た恐らく女性だと思われる人がいた。


(後少しよ。頑張って!)


 耳ではなく頭の中に直接流れるその女性と思われる優しい声。すると、その人は僕の腕を掴んだままこの光の中を先導する。頭の中は何が起きているのかで一杯だったが、とにかく『ヘルメス・トリスメギストス』を倒すことに集中する。


「速い……」


 僕の腕を引っ張ってくれる女性。これといった防具らしき物を身に着けていないのに、この光の中を凄いスピードで突き進んでいく。


(もう少しで着くわ。準備はいいかしら?)


 再び頭の中に流れる彼女の声。僕は四葩を強く握りしめ、『ヘルメス・トリスメギストス』に突撃する覚悟を決める。


「……はい」


(じゃあ、いってらっしゃい……あの子によろしく伝えてね)


 彼女はそう言って、僕の腕を掴むのを止め、僕たちから離れて行く。


(ありがとう。おばあちゃん……)


 僕が心の中でそう伝えると、彼女……祖母であるアンジェが微笑を浮かべ、すうっと消えて行った。

 祖母の姿を見届けた僕はすぐさま前に集中すると、前に構えていた四葩が何かを貫く。


「いっつけえーー!!」


 そのまま貫いたそれを押し出す僕。そして、遂に光の中から脱出することに成功し、四葩で『ヘルメス・トリスメギストス』の胴体を貫くことにも成功するのであった。

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