502話 激化極まる空中戦
前回のあらすじ「ここは俺に任せて先に帰れ!」
―浮遊城脱出からしばらく後「公民館前の駐車場」泉視点―
「そうか……あやつらは決着を付けるために残ったか」
「はい」
ヘリコプターで戦闘区域から脱出した私達は再び出発地点である公民館前の駐車場へとやって来た。既にこちら側に侵攻していたギアゾンビの群れは粗方討伐されており、現在はギアゾンビの残党が残っていないか自衛隊で確認作業中とのことだった。また、ここまで一緒に行動を共にしていたオリアさん達は組織への報告とヘリコプターの回収のため、すでにこの場を離れている。
「それが正しい。放っておけばアレはさらに力を付け、こちらでは手に負えなくなる可能性があったからのう」
「ただ……帰って来れるのかな」
その私の疑問にここにいる誰もが答えられず沈黙する。あの時は時間が無くてどんな手段があるのか訊けなかったけど、準備のいい薫兄のことだから何かしらの手段を用意しているはずである。
「それなんじゃが……1つしかない」
マナフルさんのその言葉に皆が驚きの声を上げる。しかし、マナフルさんはそのまま話を続けた。
「あそこに浮遊城を作ったのは『ヘルメス』。そしてあの穴……時空の裂け目と言うのだろうか、アレを作ったのも『ヘルメス』じゃ……つまり」
「まさか『ヘルメス』に開けてもらわないといけないって事!?」
「そうじゃ。一応、転移魔法陣の研究が進めばあそこに行く転移魔法陣が出来るかもしれないが、こちらの技術じゃとどれほど掛かるか分からんのう」
「そんな……」
「変な期待感を与える訳にはいかないからのう……非情とも取れる発言済まないな」
「いえ。それならそれでこれから私達が取るべき行動が見えるというものです」
「だな」
すると、カシーさんとワブーの2人が何か決意したような表情をする。
「早速、他の研究職の奴らを集めて、あの時空の裂け目がどんな物なのか解析するとしよう。とりあえず、詳しそうなカイトにはすぐにでも来て欲しいものだな」
「なら、それらの手筈はこちらでしましょう。一刻も早く薫さんには帰って来てもらわないと困りますからね」
「はいはい。あんたらこんな激闘をした直後にすぐに働こうとしないの。しっかり体を休めてからにしなさい」
「サキの言う通りだ。俺達は報告を済ませたら、一度休むべきだ」
「だな。ってことで……泉もそんな暗い顔をするんじゃないぜ?」
「うん」
マーバが私の頬を触れながら励ましてくれる。確かにこんなところで考えている暇はない。自力で帰って来てくれることを祈りつつ、私達も出来ることをしていこう。
「それで思ったんッスけど、マクベスに訊くのはどうッスかね?」
「それが一番だろうな。という訳で……さっそく行動に移すぞ」
ワブーの言葉に私達は一斉に行動を起こす。各々が行き先を決める中、とりあえず私とフィーロは明菜おばさん達や昌姉達に今の状況を伝えに向かうのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―ヘリコプター脱出後「浮遊城・上空」―
「はぁー!!」
「……!!」
泉たちがこの場を去り、地球とグージャンパマに繋がる穴も閉じてしまった後、僕たちと『ヘルメス・トリスメギストス』の戦いは激化していた。先ほどまでは浮遊城の屋上内で戦っていたが、今は浮遊城の周囲を互いに飛び回りながらの中~遠距離での戦闘になっている。
「危ないのです!」
レイスの声に、僕は窓から浮遊城の内部に入り、そのまま別の窓を潜り外へと逃げる。その直後、『ヘルメス・トリスメギストス』の攻撃が最初に入った窓周辺に当たり、その周辺が粉々に砕ける。対して、僕が攻撃をすると、『ヘルメス・トリスメギストス』は浮遊城の物陰に隠れて、僕の攻撃をやり過ごす。
「……!!」
僕が浮遊城の屋根に着地すると、ここぞというばかりに攻撃魔法を放ってくるので、僕は屋根を全力で走って攻撃を避ける。
「当たれ!!」
『ヘルメス・トリスメギストス』の背後を取った僕が『星旄電戟』の矛を放つと、『ヘルメス・トリスメギストス』は浮遊城の壁に張り付き、矛が当たる直前に手足に力を入れて横に跳んで逃げ、矛を壁にぶつけて回避する。
一進一退の攻防。互いに浮遊城を壁代わりに使うため、浮遊城はあっちこっちで穴が開き、衝撃に耐えきれない箇所は崩れていく。地面近くで戦えば、互いの攻防の余波を受けたギアゾンビたちが吹き飛ばされる。もはや、僕たちと『ヘルメス・トリスメギストス』の戦いに口出す者は、この場には誰一人としていない。
「暗き湖沼へ!」
鵺を『ヘルメス・トリスメギストス』に向けて飛ばすと、再び何もかも破壊する黒い球体が発生する。『ヘルメス・トリスメギストス』は避けてしまったが、浮遊城に当たった事で、城の一部が大きく破壊され、そこから建物が大きく倒壊した。倒壊した建物は地面を叩き、その衝撃で浮遊城が立つ島が一部崩れ、この異空間に落ちて行った。
「……!!」
防御に使用していた鵺が僕の手元から離れたことで好機と判断した『ヘルメス・トリスメギストス』が急接近し、両手の爪を再び伸ばし硬質化させた爪の剣で僕たちに斬りかかろうとする。それに対して、僕は籠手である蓮華躑躅に力を溜めつつ四葩で片方の爪の剣を弾き、もう片方は蓮華躑躅に溜めた『獣神撃』で腕ごと弾く。そうして、バランスを崩して倒れた『ヘルメス・トリスメギストス』に、四葩を両手で構えて、僕はその胴体を突き刺そうとする。すると『ヘルメス・トリスメギストス』は倒れた勢いを使って『四葩』の刀身を蹴り上げて攻撃を回避されてしまう。そして、再び互いに距離を取ったタイミングで『暗き湖沼へ』の術が終わった鵺が手元に帰って来た。
「……」
「……」
何度目かの互いに睨み合う緊張の時間。次に繰り出す技をどうするか、弾かれたらどうするかなど今考えられるパターンを予測する。互いに繰り出す魔法の威力が高いため、一撃でもまともに喰らってしまえば、それだけで勝負が決してしまうかもしれない。
「(なかなかダメージを与えられないのです)」
「(うん……)」
小声で会話をする僕たち。なかなか決定打を与えられないことに心の中で若干の焦りが生まれる。この『天魔波洵』の変身時間には限界があり、一応、ハニーラスでの大規模清掃時に検証したところおよそ1時間は持つのは分かっている。だが、ここまで魔法を連発してはいなかったので、もしかしたらもっと短い時間で限界が来るかもしれない。対して、あっちはどれだけあの状態を維持できるのか分からない。
(先にあっちが限界を迎えるなら助かるんだけど……『ヘルメス』の魔石という謎の物体を取り込んでいる以上、望み薄かな)
いざという時は、『天魔波洵』の使える魔法で唯一まだ使っていない魔法を使うしかないだろう。ただし、これを使ったら召喚魔法の必殺技ように強制的に『天魔波洵』が解除されてしまう。
(これは本当に最後の手段かな……)
そんな事を考えていると、『ヘルメス・トリスメギストス』が再びガトリング砲を1丁作り出して、それをこちらに向けて来たので、僕はすぐさま上へと逃げる。すると、その後を追い掛けるように両手でガトリング砲を構えたまま『ヘルメス・トリスメギストス』が飛んで移動を始める。
「両手で構えることで、機動力も確保って事か……」
僕は浮遊城を壁にしつつ、『ヘルメス・トリスメギストス』の攻撃を躱しながら策を考える。
(どうにかアイツの動きを一瞬でも封じることが出来れば……)
シーエさんの氷魔法なら相手を凍らせたり、カーターやカシーさんの魔法なら目くらましとして使えるのにと、『天魔波洵』で決められた7つの魔法しか使えないこの状況に嘆きたくなる。
(……ってあれ?)
そこで、それなら魔石で何とかなるんじゃないかと気付き、すぐさま氷魔法である『ジェイリダ』の魔石を四葩に嵌め、蓮華躑躅に炎魔法である『セイクリッド・フレイム』の魔石を嵌める。
「何をする気なのです?」
「まあ、見ててよ……」
僕はなおも追い掛けて来る『ヘルメス・トリスメギストス』の方に体を向けて、『星光雷牙斬』を放つ構えをしながら、『ジェイリダ』の魔石を発動させる。すると、四葩に纏わりついた冷気によって周囲の空気が一瞬にして冷えて、辺り一面が深い霧に覆われるが、『ヘルメス・トリスメギストス』は自身の翼を羽ばたかせ、それをすぐさま掃ってしまう。
「星光雷牙斬!」
そんな一瞬のタイミングを見計らって、僕は淡く青い光を放つ紫電と黒電の斬撃を放つ。飛ばした斬撃を『ヘルメス・トリスメギストス』は翼で防ぐと、その翼が一瞬にして凍り付き『ヘルメス・トリスメギストス』の本体も一部凍らせる。それによって、身動きが取れなくなった『ヘルメス・トリスメギストス』に、僕は急接近し、左手の拳に力を込める。
「獣神撃!!」
僕が動けなくなった『ヘルメス・トリスメギストス』の胴体に渾身の左アッパーを加えると、『ヘルメス・トリスメギストス』は蓮華躑躅に嵌められた『セイクリッド・フレイム』によって生み出された炎の巨大な火柱に焼かれながら上へと吹き飛ばされた。
「決まったのです!!」
痛恨の一撃を喰らわせたことに興奮するレイス。それは僕も同じ気持ちであり、ここでやっと戦況を大きく動かす事が出来たことに心の中でガッツポーズを取るのであった。




