501話 脱出
前回のあらすじ「主人公とラスボスの本気の戦闘」
―「浮遊城・明日の行方を眺めし場所」―
キーン!!
互いの武器がぶつかり周囲に音が響く。そして、すぐさま互いに距離を取って今度は魔法による激しい攻防が始まる。僕の下にあった床には、その先頭の激しさを物語っているように穴やヒビだらけであり、もはや床としてのその機能を果たすことは出来ないだろう。
「烏集之交!!」
『ヘルメス・トリスメギストス』からの攻撃を吸収しつつ、吸収できない、もしくは吸収しきれないと判断した物は避けて、その魔法攻撃をしのぎ切る。
「鴉巣生鳳!!」
攻撃が止んだ一瞬のタイミングを狙って、吸収した魔法を利用して大量の鳥型の魔法弾を突撃させる。すると、『ヘルメス・トリスメギストス』はその両手をガトリングに変え、先ほどのマシンガンとは比べ物にならないほどの弾数を放ち、僕が放った鳥たちを一匹残らず落としてしまった。しかも、その銃撃は止まることなく、今度は僕たちに狙いを定めてきたので、僕は狙いを定められないように、高速で空を飛び続ける。
「よっと……」
『ヘルメス・トリスメギストス』の周囲を飛び回り続ける僕。魔法によって作られたガトリングなので通常の物とは違うことを警戒して逃げに徹しているとあることに気付く、どうやら魔法で作られた2丁のガトリングは普通のガトリングと同じように反動があるらしく、その場からあまり動けていない。そのため『ヘルメス・トリスメギストス』の背後に来ると、のっそりとその場で背後を振り向くので、この時だけ若干の隙が出来ていた。
(何か特殊な能力みたいなものがあるかと思っていたけど……それは無さそうかな)
僕は飛びながら四葩を構え、紫電を纏わせる。
「星旄電戟!!」
雷撃の矛を移動し続けながらどんどん生み出し、随時放っていく。そして、それを『ヘルメス・トリスメギストス』はガトリングで対抗する。弾数で比較すると、こっちの方が圧倒的に少ないのだが、移動し続けながら矛を生み出し、反動なしに撃ち出しているため互角に渡り合っている。
「はっ!」
そこに紫電の斬撃を飛ばすと、『ヘルメス・トリスメギストス』はガトリングでは防ぎきれないと判断し、身を翻してその白い翼で斬撃を受け止める。
「あの翼。意外に硬いのです」
「そうみたい。けど……」
僕は再び四葩に紫電を纏わせる。
「乱舞に耐えられるかな?」
僕は再び紫電の斬撃を無数の刃にして放つ。その斬撃は『ヘルメス・トリスメギストス』に向かって飛んでいく物と、矛に向かって飛んでいく物で分かれる。無数の刃はガトリングで打ち消されたり、翼で防がれたりするのだが、斬撃と矛、後は矛に斬撃がぶつかることで起きる爆発の異なる3つの攻撃によって対処しきれなくなった『ヘルメス・トリスメギストス』は徐々に押されていく。
「……!」
すると、『ヘルメス・トリスメギストス』はガトリングを捨て、空いた両手を左右に広げる。そして、自分の周囲に大量の魔法陣を展開する。
「うわ!?」
それらの魔法陣から一斉に放たれる魔法。一体、何の魔法を使ったのか全てを把握できないほどの量が放たれ、その衝撃で浮遊城の外へと吹き飛ばされてしまった。
「大丈夫なのです!?」
「大丈夫だよ。咄嗟に鵺を大盾にしてたし……」
僕は宙に浮かしている僕が隠れてしまうほどに大きい大盾にした鵺に目を向ける。『天魔波洵』発動中は右手辺りを球体状で宙に浮きっぱなしで、いざという時は僕の意思で鵺を敵に向けて飛ばしたり、このように防御として宙に浮かしたまま盾を展開できるのは非常にありがたい物になっていた。
「さっきいた場所が完全に崩壊しちゃたのです」
レイスの言葉を聞いて、視線を先ほどまでいた場所に向けると、先ほどの爆発で床は完全に崩れてしまっており、その影響で砂埃も舞っていた。
「足場が無くなったから、落下には注意なのです」
「そうだね」
先ほどまでは床があったので、例えそれがボロボロだったとしても、体勢を立て直して、すぐさま飛び立てば何とか地面までの落下は防げていただろう。けど、その場所は崩れた今、足場になる場所は限りなく少ない。
「浮遊城の屋根がある場所を把握していないと……ん?」
何も無い足元を眺めていると、ここに来るのに使用した2機のヘリコプターが目に入る。しかも、モーター音を鳴らしプロペラも回っていて、すぐにでも飛び立つ気配がある。嫌な予感を感じた僕はアイテムボックスからすぐさま無線機を取り出し、オリアさんに連絡を取る。
(薫か! いいタイミングで連絡をくれたな!)
少し慌てた様子のオリアさんの声が無線機から聞こえた。いつも冷静なオリアさんが慌てているところからして、どうやら嫌な予感は当たったようだ。
「ヘリコプターのプロペラが動いているのが見えたんですが……何かトラブルでも?」
(その答えだが……この世界と元の世界を繋ぐ穴を見てくれ)
僕と無線機の会話を聞いていたレイスと一緒に地球へと繋がるオレンジ色の空間に出来た穴を見ると、その穴が少しずつ縮小していくのが確認できた。
「穴が閉じていくのです!?」
(泉たちがこちらに到着した頃に、穴の縮小が始まったらしい。このままでは我々はここに閉じ込められる。その前に脱出するべきだ)
「それには同意見ですが……」
僕は今だに砂埃が舞う浮遊城の天辺を確認する。すると、その砂埃から『ヘルメス・トリスメギストス』がゆっくりと現れた。
「……ゴスドラの生存確認。まだ終わってません」
(一旦、退くことは……?)
「無理ですね。そもそもアレをここに放っておくなんて出来ません。何せ、あの穴を作ったのはゴスドラ……いや、ヘルメスです。ここに閉じ込めておくなんて不可能ですし、むしらパワーアップしてから再度、あの穴を作って侵略を始めると思いますよ」
(それはそうだが……)
「……出来ればレイスだけでも帰したいんですけど」
「薫1人じゃ魔法は使えないのです。私も最後まで付き合うのです」
(何言ってるんッスか!? 閉じ込められちゃうんッスよ!?)
(そうだよ!! 一緒に脱出しようよ!!)
僕たちがここに残ることをオリアさんに伝えると、いきなりフィーロと泉たちの声が無線機から流れる。さらに無線機から流れる音を注意深く聞いてみると、他の皆からも驚きの声が上がっているのが聞こえた。
(薫。ここでお前達が無理しなくてもいいんだ! ここは……)
「いや、それだけじゃなくて……」
僕は無線機で会話をしながら、『ヘルメス・トリスメギストス』が放った魔法攻撃を『烏集之交』で鵺に吸収し、そのまま『鴉巣生鳳』として無数の鳥型魔弾を放つ。
「こいつの攻撃からヘリコプターを守らないといけないし……」
(それは……)
「安心するのです。ここから脱出する方法をしっかり持っているのです。ねえ、薫?」
「うん。だから勝っても負けても、それを使ってここから逃げられるから安心して」
レイスの投げ掛けを肯定する僕。それと同時に『ヘルメス・トリスメギストス』からの魔法攻撃が苛烈になり、そろそろ無線機による会話を終わりにしたい。
「ごめん。話す余裕がなくなって来たから、そろそろ切るね」
(薫兄! レイス! ちゃんと帰って来てよ!!)
「もちろんなのです!」
僕の替わりに泉へ返事をレイスがしたところで無線機をアイテムボックスへと戻し、四葩と黒剣の鵺を両手に握り、『ヘルメス・トリスメギストス』へと突撃しつつ『星光雷牙斬』を放つ。それを『ヘルメス・トリスメギストス』は自身の魔法で相殺し、再び爪を剣の形にしてこちらへと向かってきた。
「はっ!!」
互いの武器がぶつかり鍔迫り合いが始まる。ふと、視界の端に2台のヘリコプターがギリギリ通れるほどに小さくなった穴を通過するのが見えた。
「薫! 危ないのです!!」
レイスのその声に、僕は鍔迫り合いを止め、とっさに後ろへと避難する。すると、『ヘルメス・トリスメギストス』の6枚の羽の内、2枚の羽がのこぎりのような形状に変形して、僕が先ほどまでいたところ を通過していった。
「……よそ見厳禁なのです」
「うん」
僕は地球へと繋がる穴が消失したことを確認したところで、『ヘルメス・トリスメギストス』との戦闘に集中するのであった。




