500話 黒翼の妖怪VS白翼の天使
前回のあらすじ「ファイナルフォーム!」
―「浮遊城・明日の行方を眺めし場所」泉視点―
「皆! 下がって!」
私の掛け声と共に薫兄達以外の皆が天使もどきから離れようとする。当然、その背後を狙って天使もどきが攻撃を仕掛けてくるのだが、その間に『天魔波洵』となった薫兄が間に入り、その攻撃を防いでくれた。
「皆はオリアさんたちと合流して!」
そう言って、薫兄は天使もどきへと向かって行く。本当は一緒に戦いたいのだが、天使もどきによって魔法が使えず、武器等の攻撃もあまり効果が無いこともあって、ここにいては薫兄たちの邪魔になると判断した私達は、素直にこの場から退散して、下で待機しているオリアさん達と合流することにした。カシーさん達が先頭になってこの場から飛行魔法を使って離れようとするので私達もその後に続く。
「薫兄! ユノちゃんが待ってるんだからしっかり勝ってよ!」
「レイスもケガするんじゃないッスよ!」
私達がそう言うと、2人は背を向けたまま手を上げて答えてくれた。それを見た私達は『フライト』を使って、浮遊城から外へと脱出する。ギアゾンビの群れから魔法妨害によって落下させられないか心配したが、そこは各々が強力な魔法を放ち、落下地点付近のギアゾンビ達を退ける。
「こっちだ!」
無事に下りてこれたことにフィーロと一緒に安堵していると、カーターさんが私の手を取り、ヘリコプターが着陸している場所へと私を引いてくれるのだが、ここにはまだギアゾンビ達がいるので剣を振るうカーターさんの手が塞がってしまうのは、かなり危険である。
「わ、私歩けますから!」
「分かってる。ただ……ここでお前をケガさせたら、帰って来た薫達に顔向けできないからな。だから、ここはお前を守らせてくれ」
「……!?」
カーターさんに凛とした表情でそんなセリフを言われてしまった私は気恥ずかしさのあまり顔が熱くなる。
「戦闘中ッスよ?」
「分かってる!!」
フィーロにからかいに、私は強く反発する。それを私の後ろから見ていたカシーさんたちから「妬けるわね……」と言っていたのが聞こえたので、私はそちらへと振り返り睨み付けようとすると、そのカシーさんたちの真後ろに1体のギアゾンビが物陰から突然飛び出してきた。
「カシーさん後ろ!!」
私がそう叫ぶと同時に銃声がどこからか聞こえる。そして、それと同時にカシーさんの後ろにいたギアゾンビの額に穴が開いて、その場に倒れてしまった。
「お前達! 早く来い!!」
その声のする方に振り向くと、リーダーさんがいかつい銃を構えていた。私達はそのままリーダーさんと合流する。
「……薫達がここにいないのと、上から爆音が聞こえているところから判断して、まだ戦闘中か」
「その通りです。ゴスドラが追い詰められて常に魔法を打ち消せる状態になりまして、それに対抗できる薫さん達に任せて、邪魔になる私達は下りて来た所です」
「了解した。そうしたら、薫達が戻って来るまで……」
「リーダー!!」
すると、ベクターさんが手を振りながらこちらへとやって来た。
「どうした。何かあったか?」
「大変なんだ! 実は……」
ベクターさんの報告を聞いた私達はすぐさまヘリコプターに向かうのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―同時刻「浮遊城・明日の行方を眺めし場所」―
『天魔波洵』になった僕は球体状の鵺を前に掲げ、それを『ヘルメス・トリスメギストス』に向けて射出する。
「暗き湖沼へ」
その言葉と共に、射出した鵺を中心に黒い球体が発生する。『ヘルメス・トリスメギストス』は発動前に逃げて当たらなかったので、周辺の瓦礫や床を消失させただけで終わってしまった。
「……」
すると、『ヘルメス・トリスメギストス』が背中から副腕を生み出し、それらから拡散レーザー砲を放ち、元の両腕には自身の魔法で作り出したマシンガンを派手にぶっ放してきた。
「星旄電戟!!」
こちらへと飛んでくる攻撃を『星旄電戟』による生み出された電撃の矛でいくらか打ち消し、『ヘルメス・トリスメギストス』の攻撃を潜り抜ける。そして、『星旄電戟』によって紫電を纏った四葩で『ヘルメス・トリスメギストス』へと斬りかかる。だが、それに対して『ヘルメス・トリスメギストス』はマシンガンでそれを受け止め、マシンガンが耐えられないと判断するや否や、それらを手放して僕たちから距離を取り、4つの腕を前に出して魔法陣を形成、すぐさま極太のレーザー砲を僕たちに向けて放つ。
「レイス。しっかり捕まってて!」
衣服に隠れている僕はそれをローリングで避けつつ、『暗き湖沼へ』で放った鵺を手元に回収する。そして、すぐさま鵺を前に構えて、すでに放たれていた『ヘルメス・トリスメギストス』の魔法攻撃を『烏集之交』で全て吸収する。それを見た『ヘルメス・トリスメギストス』が遠距離攻撃は効かないと判断したのか、副腕を含めた爪を伸ばしこちらへと一気に近付いて来る。
「はあー!!」
僕は迎撃のため、『星旄電戟』で紫電を纏っていた四葩を振って紫電色の斬撃を飛ばしたのだが、それを『ヘルメス・トリスメギストス』は白い炎のような物を纏った爪で、僕の放った斬撃を掻き消してしまったので、僕は鵺を黒剣にして、四葩と鵺の2刀で『ヘルメス・トリスメギストス』の爪による攻撃を捌いていく。その際に、副腕の手を開いて掌をこちらに向けてきた。恐らく、僕の『天魔波洵』を打ち消そうとしたのだろうが、僕の攻撃が変わらずに続くのを見てすぐさま攻撃魔法に変更する。
「星旄電戟!!」
僕は再び『星旄電戟』を発動させ、『ヘルメス・トリスメギストス』を囲うように矛を生み出し、時間差を置いて放っていく。『ヘルメス・トリスメギストス』はそれを回避したり、弾いたりしてなかなか当たらない。
「これならどうだ!!」
僕は矛に囲まれた『ヘルメス・トリスメギストス』に向けて紫電の斬撃を飛ばす。それらは途中で無数に分裂して、その全てが矛に向かって斬撃が飛んでいく。そして斬撃が矛に当たると、矛が帯電し始めて爆発を引き起こし、矛に周囲を囲まれていた『ヘルメス・トリスメギストス』はその爆発に飲み込まれた。
「やったのです!」
レイスがやっとまともなダメージを与えられたと思って喜んでいると、爆発の粉塵の中から半透明な緑色のバリアに包まれた『ヘルメス・トリスメギストス』が飛び出してきた。そして、すぐさま無数の槍型の属性魔法を雨の如く放ってきた。僕はその中を擦り抜けるように回避し続ける。すると、攻撃を避け続ける僕に痺れを切らした『ヘルメス・トリスメギストス』が武器を何も無いところから再び生成し4連ロケットランチャーを構えた。
「万物を切り裂く二振りの霊剣よ! その力を持って終焉をもたらせ!」
僕はすぐさま黒剣の鵺と四葩を両手に握り『星光雷牙斬』を放つ構えを取る。
「喰らえ!!」
『ヘルメス・トリスメギストス』がトリガーを引いて4弾全てのロケットランチャーの弾を発射したと同時に、僕も剣を振って淡い青い光を放つ紫電と黒電の斬撃を飛ばす。それは僕と『ヘルメス・トリスメギストス』の丁度中間あたりでぶつかり、激しい爆発を引き起こす。
「うわわ……」
レイスが悲鳴を漏らす中、僕はその爆発に巻き込まれないようにそれから距離を取りつつ、身に着けている籠手である蓮華躑躅に力を溜める。そして、爆発が収まり始めるとすぐさま『ヘルメス・トリスメギストス』が再度長くした爪で斬りかかって来る。
「獣神撃!!」
僕は『ヘルメス・トリスメギストス』の攻撃を避け、渾身のストレートを『ヘルメス・トリスメギストス』の胴体に繰り出す。カウンター攻撃のため『ヘルメス・トリスメギストス』は避けることは出来ずに、そのまま胴体に当たるとおもったのだが、胴体に当たる直前に、先ほどの見た半透明な緑色のバリアが邪魔をする。そのため、『ヘルメス・トリスメギストス』は後ろへと吹き飛ばされるだけであって、まともなダメージを与える事が出来なかった。
「……」
「……」
一瞬だけ生まれた静寂、互いに顔を見合って次に繰り出す魔法を何にするか考える。そしてすぐさま再び激しい攻防を始めるのであった。




