499話 最終局面へ
前回のあらすじ「大体、ゲームのラスボスって第3形態ぐらいあるよね」
―「浮遊城・明日の行方を眺めし場所」―
「ネイル・ボム!」
「ダーク・アイス・ランス!!」
カシーさんたちとシーエさんたちが『ヘルメス・トリスメギストス』を挟む形で魔法を放つのだが、『ヘルメス・トリスメギストス』はノーモーションでそれらが当たる前に打ち消してしまう。
「フレア・カラミティ!!」
「ウィンド・デスサイズ!」
「風燐火斬!」
すかさず、僕たちとカーターたちで接近戦を、泉たちは大鎌形態の『シンモラ』で風の刃を回転させながら飛ばす。だが、『ヘルメス・トリスメギストス』はまたしてもそれらを打ち消してしまう。そして、振り抜いた剣も手刀ではなく両腕で防がれてしまう。
「わっ!?」
手刀を解除した『ヘルメス・トリスメギストス』がカーターと僕の剣の刀身を掴む。そして、剣を掴んでいた僕たちごと強い力で放り投げられた。幸いにも壁に直撃ではなく、床に転がりながら落ちたので、受け身が取れたこともあって大したダメージにはならなかった。
「大丈夫なのです?」
「いてて……身体強化の魔法を使った弊害だね。普通なら手から剣がすっぽ抜けるはずなのに、握力もが向上しているから一緒に投げられちゃったよ……レイスは大丈夫?」
「薫が上手く転がってくれたの無事なのです。むしろ、あんな状態でよく私を潰さずに転がれるのです……」
「むしろ、この状況だから落ち着いて受け身を取れるかな」
『ヘルメス・トリスメギストス』がゆっくりと動き出す。僕はその動きを静かに観察する。
「あの姿……きっとゴスドラの切り札なんだろうけど、どうしてアレを初めから使用しなかったのか疑問なんだよね。テロリストとして戦場も渡り歩いているなら、下手な余裕は死に直結することは分かっているはず。それなのに初っ端から本気で挑まないなんておかしな話なんだよね」
「でも、最初余裕を見せていたのです。『ヘルメス』を途中から繰り出していたし……」
「アレは力量と間合いを計っていただけだよ。もし、敵わないと思ったら撤退する気だったんだろうね」
「舐められたもんなのです……。つまり勝てると判断されたってことなのです?」
「もしくは……ここで始末しないといけないと判断されたかもね」
僕とレイスがそんな話をしていると、『ヘルメス・トリスメギストス』の姿が消えた。すると、別方向から金属音が聞こえたので、そちらを振り向くと泉たちの前で『ヘルメス・トリスメギストス』とカーターたちが刃を交えていた。そこにシーエさんたちも参戦し、2人がかりで戦うのだが常に魔法が打ち消されてしまうので、これといったダメージを与えられていない。ちなみに、カシーさんたちはその間に泉たちと合流してその場から離れている。
「いくよ」
「はいなのです」
僕たちも戦闘に加わるためにそちらへと近付く。
「でも……どうして最初から初っ端から本気で挑まなかったんだろう……デメリットがあるとか?」
「もしくは『トリスメギストス』には別の役割があったとかかな」
そんな話をしながら、皆の元にやって来た僕たち。そして、背後から斬りかかろうとすると、『ヘルメス・トリスメギストス』はその3対6枚の羽を使って上へと逃げ、少しの動作でいきなり巨大な火炎弾をこちらへと放った。
「皆! 僕の後ろに!!」
僕がそう言うと、すぐさま皆が僕の後ろに移動。そして、僕は四葩を手に『水破斬』でその火炎弾を一刀に斬り伏せようとすると、途中で『水破斬』が打ち消されてしまった。時間も無かったので、そのまま巨大な火炎弾に向かって四葩を振り下ろすと、火炎弾は左右に分かれて、後ろの壁へと衝突した。
「『水破斬』が打ち消されても何とかなったか……」
僕は冷や汗を掻きながら、何とか巨大な火炎弾を処理できたことにホッとする。だが……すぐさま巨大な氷弾、巨大な巨石、巨大でたくさんの風の刃と連続で放って来た。皆が魔法を放とうとするのだが、『ヘルメス・トリスメギストス』の魔法無効化で何も出てこない。
「鉄壁!!」
流石にこれは避けた方がいいと判断した僕は鵺で皆が逃げるための時間作りの壁を作る。そして、流石にこれだけでは防げないので迫りくる風の刃だけ切り伏せていく。
「こんなの反則!! 効果無効は時間制限あるよね!!?」
「そんなご都合主義があるのはゲームまでなんじゃないか?」
「ワブーの言う通りだけどさ!」
泉の言葉にワブーがツッコミを入れる。僕たちの一番の武器である魔法が使えないというこの状況で、ここで関係の無い会話をしている場合かと思うのだが、それだけこの2人……いや、ここにいる皆が強くなったという証拠でもある。泉もフィーロと一緒に僕やレイスの知らないところで討伐のクエストや難しい頼みごとを引き受けていたりする。ワブーだって研究職のはずなのにカシーさんと一緒に国政に関わるような討伐をこなしており、詳細は知らないが、一緒にクエストを受けたことも聞いている。それはカーターたちやシーエさんたちも同じであり、それ故に、僕たちも含めて、このような危機的状況というのに慣れてしまっていたりする。
「……で、本格的にどうするか?」
「うーーん……そうですね。武器による物理的な攻撃しか出来ない以上、手の打ちようがないのが実状ですかね。カシーは何か重火器を持ってきましたか?」
「あるけど……あなた達の剣を受け止める事の出来る化け物に効くとは思えないわね。泉とフィーロはさっきの爆弾を持ってないかしら? アレなら多少なりとは効くかも……」
「さっきから使っていたッスからもう無いッスよ? それに爆弾なんて爆発する前に消し飛ばされるッス」
「それは……そうね」
万事休すとはこの事だろう。しかし、ここでカシーさんがとんでもない発言をする。
「一応、薫の『四葩』と同じタンザナイト製の武器なら持ってるんだけど……」
その一言に、皆から「それを早く言え!」と猛烈なブーイングが起きる。すると、そのタイミングで『ヘルメス・トリスメギストス』が大量の火炎弾を生み出し、それをマシンガンの如く放って来たので、僕たちはこの戦闘中に崩れて出来た無数の瓦礫の裏に隠れる。すると、カシーさんは早口でタンザナイト製の武器の弱点を説明し始める。
「残念だけど『四葩』の劣化版だから、持っているだけで魔力の持つ相手を弱らせる性能が無くて、弱らせるには相手を斬らないといけないわ!」
「それでもダメージを与えられませんか!」
「関節とか……弱い場所を狙えば斬れるかも」
それを聞いたシーエさんは近くにいるカーターに目配せすると、カーターは静かに頷いた。それを見た僕は2人が何を考えているのかをすぐに把握した。
「……薫さん」
「2分。それだけ時間を稼いでくれれば『天魔波洵』になれる」
「それなら……やることは決まりましたね」
「待って! それなら私達とカシーさん達で視界を遮るから! カシーさん、ワブー。あのね~……」
カシーさんたちのすぐ横にいた泉が2人に耳打ちする。それを聞いたカシーさんたちが最初に攻撃を仕掛けると言って、その直後に僕たちに『天魔波洵』の魔法陣を展開の指示と、カーターたちとシーエさんたちに『ヘルメス・トリスメギストス』への攻撃を指示する。
「ミスは許されないからな……全員、気合を入れてあたるように!」
ワブーのその掛け声に僕たちは頷き、それぞれの役割をこなすために分かれる。
「降り注げ……『レイン』!」
「いくよ!!」
隠れていた瓦礫から飛び出したカシーさんたちが水魔法の一種である『レイン』を使って、『ヘルメス・トリスメギストス』周囲にだけ雨を降らせ始める。攻撃技では無いその魔法を『ヘルメス・トリスメギストス』は掻き消すことなく、目に入ったカシーさんたちと、一緒に瓦礫から出て来た泉たちへと攻撃を仕掛けようとした。
「『ホット・スポット』!!」
『シンモラ』を両手に持った泉が初めて聞いた魔法名を唱える。すると、いきなり霧が発生して、辺りが見えなくなるくらいに視界が悪くなってしまった。
「(今なのです!)」
僕とレイスは手筈通り、すぐさま『天魔波洵』を発動させるために魔法陣を展開し、融合の魔石に込められていた麒麟と守鶴たちの力をその上で解き放つ。
「ここは通さないぞ!」
「我々に少し付き合ってもらいますよ?」
カーターとシーエさんのその声と共に斬撃音が周囲に響く。皆が必死に1秒でも多く時間を稼ごうとしており、僕とレイスはなるべく早く魔法を発動させるように集中する。
「天と地、その2つを統べる大いなる力よ。その闇に満ちた神通力を我が身に貸し与えたまえ……」
呪文を口に出すと、黒い光が僕たちを覆うように流れていく。すると、辺りを覆っていた霧が爆風と共に晴れ、こちらへと視線を向けた『ヘルメス・トリスメギストス』と目が合ってしまった。
「……!!」
無言のまま僕たちに突撃する『ヘルメス・トリスメギストス』。すると、そこにボロボロ状態のカーターがタンザナイト製の剣を振って邪魔をする。
「薫!」
「……見よ! これぞ人智を越えし存在の力……天魔波旬!」
カーターの掛け声に押されて、呪文を唱え終える僕。黒い光が僕たちを完全に覆ってすぐに弾ける。そして、僕は黒い翼と黒い巫女服を身に纏った『天魔波洵』へと変身するのであった。




