49話 休日はショッピングモールで。
前回のあらすじ「装備品が出来たよ」
-カーンラモニタの見学から数日後「カフェひだまり・店内」―
「武器を持ち込まないんじゃなかったのか……?」
やや呆れた感じで、調理中のマスターが訊いてくる。
「僕もそう思っていたんだけどね……」
「すいませんなのです」
今、僕は鵺を所持している。球体は持ちにくいと思ってたら、手首に巻き付いてブレスレットになってくれたので、基本的にはこの状態で持ち歩くようにしている。
「こんな武器があるってなったら大変なことになるぞ?」
「かと言って、家に置いて盗まれたりすると大変だし……」
直哉が異世界から帰ってきた後、鵺の構造分析をしようとしたら機械がエラーを起こして何で構成されているか分からなかった。こんな未知の物質が盗まれたりしたら大変という事で家に置いておく気にならなかった。
「まあ、近頃じゃ盗賊団を名乗る物騒なやつらがいるしな」
「しかも、日常生活に凄く便利で……」
そう。形が変わるので、武器以外にもハサミ、カッター、お盆にエコバッグといい仕事をしてくれる。
「武人さん。ワインオープナー壊れちゃったんだけど予備があるかしら?」
「いや。それしか無いはずだが……困ったな」
「僕が開けるよ。貸して」
僕は鵺をワインオープナーの形にして、コルクの蓋を抜く。
「はい。開いたよ」
「……確かに便利だな。それと料理出来たから運んでくれ」
「うん」
今度は鵺をお盆にして、その上に料理を載せて運ぶ。
「お待たせしました」
ガチャン!
音のした方を向く。そこには子供を連れた母親がいた。
「ごめんなさい」
床にガラスの破片が飛び散っている。どうやら子供がコップを落としたみたいだ。
「大丈夫ですか?」
「はい。でも……」
「お気になさらないで下さい。すぐ片付けますね」
僕はカウンターの後ろから道具を取り出すふりをして、今度はホウキと塵取りにする。
「本当にすいませんでした」
「いえいえ」
回収したガラスの破片を片付けて、鵺をブレスレットに戻して厨房に戻る。
「本当に便利だな。それ」
「何にでも使えるなんていいわね」
「そうなんだよね」
材質さえも変化させることが可能な鵺。本当に便利すぎて僕は鵺を日常生活で多用しているのだった。
「玉ねぎ切り終わりました!」
「おう。サンキューな。しかし……2人とも悪いな働かせて」
「まあ、この後、薫をお借りしますからこのくらいは」
「そうね」
「ありがとうねカーターさん、サキちゃん」
「いえいえ」
「気にしないでちょうだい」
今、厨房にはカーターとサキもいる。どうしてここにいるのかは、この後の予定のためである。ちなみにだがカーターの服装は既にこちらの世界の物になっている。
「こんにちは!」
話をしていると泉たちが来たようだ。僕と昌姉は出迎えるために厨房からお店の入り口へと向かう。
「失礼します……」
「お邪魔します」
すると、こちらの世界の格好をした王子様たちも泉に続いて入ってくる。
「いらっしゃいませ。薫ちゃんならもう少しで空くのでこちらでお待ち下さい」
昌姉が王子様たちをテーブル席まで案内する。
「泉姉。ケーキセット3つ。3つとも紅茶でお願い」
「ええ。ケーキはどうする?」
「ショートケーキにモンブラン、後はタルトで。2人も色々な物が食べられた方がいいと思うし」
「あ、いえ。お構い無く……」
「遠慮しないで。この世界を案内するのに何も食べないなんてあり得ないもの」
「ありがとうございます」
「それじゃあすぐに用意するわね」
「僕、ケーキを用意するね」
「ええ。お願い」
そう言って、昌姉は紅茶の準備をする。そして、僕もケースに保管されているケーキを取り出すのであった。
それで、王子様たちが何故こっちの世界にいるかというと、僕たちの世界の視察である。カシーさんたちが直哉の工場を見たいということで、カーターたちが付き添いに来る事は約束していた。
だがその前日にカーターたちが来て、『王子たちもいいか?』ということになり、予定を変更して、カシーさんたちは迎えに来ていた紗江さんと一緒に車で笹木クリエイティブカンパニーへ向かってもらい。王子様たちはそことは別の場所に案内するために、泉と一緒にまずは衣服の準備、そしてカーターたちは待っている間、ひだまりでのお手伝いとなったのだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―数十分後―
着替えて、泉たちの席に昌姉と一緒に向かう。
「お待たせ」
「あれ? もういいの?」
「ええ。一段落着いたからいいわよ。それでお口に合いましたか?」
「はい! もの凄く!」
お姫様が眩しいほどの笑顔で答える。王子様も首を縦に振っている。
「良かったわ」
そう言って、昌姉が顔を王子様たちに近づける。
「(一国の王子様とお姫様を満足させる事が出来て光栄よ)」
小声で言うと、顔を離して笑顔を浮かべる。
「ありがとうございます」
「あらあら。うふふ。それじゃあ2人とも。しっかりエスコートしてあげてね」
「うん」
「分かった」
泉たちが席を離れようとする。すると泉の鞄からフィーロが顔を出す。
「(ご馳走様ッス!)」
「(あらら。また来てね♪)」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「ショッピングモール・駐車場」―
「うわぁ~」
「大きいですね……これがお店なんですか?」
「うん。入ると中に様々なお店があって飲食店もあるよ」
「すごーい……」
「ふふん。これで驚いていたらきりがないわよ。まだこれより大きいのがあるんだから」
「これよりですか!?」
「そうよ。この近くだったらアウトレットが隣接するショッピングモールだってあるんだから」
「あうとれっと?」
「えーと……薫兄。何て言えばいいんだろう?」
「主に工場での直接販売だったり、売れ残った在庫を安く売るお店の事だよ。泉が言ってるのは後者の方だね」
「なるほど」
「サンキュー! 薫兄!」
「ねえ? それより中に入らない? 寒いんだけど」
「サキの言う通りですね。入りましょうか」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「某ショッピングモール・店内」―
「広いのです……」
「……そうね。店としてはでかいわね」
僕の持っている鞄からレイスとサキが頭を出す。
「そう言えば、レイスも初めてだったっけ?」
「はいなのです」
「ウチは何回か泉と一緒に来てるッスけど、あっちと比べたらデカいッスよね」
フィーロも泉の鞄から頭を出して話に混ざる。周囲に見られないように僕は泉の近くに寄る。
「あれ? あそこに売ってるのってケーキですか?」
お姫様が指で差している方を見ると、そこには全国展開をしている洋菓子店だった。
「そうよ。あそこのガラス内にある物、全部お菓子だから」
「え!? 全部!?」
「お菓子はケーキ以外にもクッキーにシュークリーム、プリンって色々あるわよ。しかも、ここは洋菓子店だから、あっちの和菓子店だとまた違うのがあるわ」
「へぇ~……驚きです。こっちでは本当に色んなお菓子があるんですね」
お姫様はそのまま泉と一緒に洋菓子店を見にいく。
「薫さん。あっちの大量の食料が売っている店は?」
「あそこはスーパーマーケットだよ。カーターとサキはこことは別だけど行った事あるよね」
「ああ」
「そうね。でもここは少し小さいかしら?」
「あっちは店舗まるごと1つのお店だからね」
「凄いですね……色々な食材があります。あの赤い実もですか?」
「あれはトマトだよ。色々使える野菜だから便利だよ」
「へぇ~。じゃあ、あっちの実も野菜ですか?」
「あれはリンゴ。野菜では無くて果物だよ。あれもそのまま食べてもいいし。ジャムにアップルパイなどのお菓子しても美味しいよ」
「あれ? 隣のあれもリンゴだよな? 何か左と右で分けられてないか?」
「品種や品質、サイズとかの違いで分けてるんだ。ちなみに左の方が高級品だよ」
「同じ物でも違うのね」
「私達の国では野菜をそんな風に分けてはいないですからね」
「あ、いたいた」
説明をしていると泉たちが戻って来た。手には洋菓子店の箱を持っていた。
「何を買ったの?」
「シュークリーム。こちらのお土産にと思って」
「それにしては何か多いような?」
「王様達と……メイドさん達にです」
「ああ……」
お姫様の言葉に王子様が何かを察する。この前の王様の反応といい本当に何があったんだろう?
「あれは凄かったわ……」
「だな。俺達でも止められなかったしな……」
カーターとサキが遠くを見ている。『止められなかった』って騎士であり魔法使いであるカーターたちを退けるなんて、本当に何が起こったのだろうか。
「ユノちゃん。何があったの?」
泉がお姫様をちゃん呼びする。あの短い間に大分仲良くなったようだ。
「えーと……すいません。私の口からは……」
「……泉。聞かないでおいてあげよう」
「そう……だね」
「でも、気になるッスよ?」
「ダメなのですよフィーロ」
お姫様が喋るのを拒否したのだ。これ以上訊くのは止めておいて、他の店を巡っていく。
「衣服や小物の店がたくさんあるのはあっちと変わらないですね」
「あ、化粧品や薬屋さんもありますよ」
王子様とお姫様がはしゃぎながら店を巡っていく。
「2人ともはしゃいでるわね」
「ああ。ここだと人目を気にしなくていいからな。王都だと国民の目があるから粗相しないように気をつけているしな」
「王族って大変なんだね」
「その国の象徴だからな。最近、別の国で傍若無人な王が追放されたらしい」
「そうなんだ。それで、その国ってどうなったの?」
「その後は、各族長が話し合って国家運営してるわよ。会議に来るのは族長全員ではなく代表の1人だけど」
「そうしたら僕たちの国に近いかな。政治での代表とは別に国の象徴がいるけどね」
「じゃあ、そちらから代表を連れてくるとしたらその政治の代表になるのか」
「流石にそこまでいけるのかな……」
流石に一国の代表を連れて来るなんて無理だと思うんだけどな。魔法がこっちの世界でもっと周知されれば出来なくも無いかもしれないけど……。
「あの~」
「うん? どうしたのレイス?」
「王子様達、凄く注目浴びてますよ……」
レイスに言われて、辺りを見ると確かに物珍しそうに2人を見ている人たちがいる。
「異国の美形兄妹って事で目立つだけだよ。この辺りって外国からの旅行者が来る事も少ないし」
「というより……何かウチらも視線を集めいているような気がするッス」
フィーロに言われて、もう一度辺りを見回す。確かにこっちにも視線が来ている。
「まあ、いつも通りよ」
「え?」
「薫兄と一緒にいると男性の視線が凄いから」
「泉もだよ。良く男性に声かけられるでしょ。しかもカーターがいるから女性の視線も集めているし」
「俺ってこっちでも同じような反応されるんだな」
カーターが周りを見ると、見ていた女性たちから声が上がる。
「ウチ当たり前になっていたッスけど……ウチらの知り合いって周り美男美女ばかりッスよね」
「フィーロの言う通りなのです」
「私もよ。あっちだとシーエ達と一緒にいると視線を良く集めているから、寧ろこの状況を普通に思っている私がいるわ」
精霊三人娘が僕たちの事を美人と評価する。こんな注目を浴びるのは、こちらとしては勘弁して欲しいのだが……。
「って、後を追いかけないと王子様たちとはぐれるよ」
すっかり、注意散漫していた僕たちは、慌ててはしゃいでいる王子様たちの後を追いかけるのであった。




