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4話 異世界に笑顔のスパイスを

前回のあらすじ「異世界を日帰り」

―夕方「薫宅・蔵」―


 僕たちの周りを包んでいた光が消えていく。目の前に広がる光景は幾つものガラクタが置いてある僕の家の蔵だった。


「同じ場所に戻れたみたいだね」


「そうね」


「上手くいってよかったよ。内心はビクビクだったしな」


 あっはは! とカーターは笑って答えていた。無事に戻れて本当に良かった。これでこの魔法陣で2つの世界の往復が出来ることが分かった。


「……そういえば」


 僕はその場でしゃがみ込み魔法陣を良く見る。


「どうしたの薫? 気分でも悪いの?」


「いや。ちょっと魔法陣を見ているんだけど…」


「魔法陣を?」


 よく見ると魔法陣はコンクリートを彫って作られている。


「これ……」


 魔法陣を見たサキが何かに気付く。


「カーター見て。これ魔石を流し込んであるわ!」


 カーターも座って魔法陣を見る。


「まさか……な。いや。むしろ納得のいく話か」


「魔石を流し込むってどういうこと? 魔石って溶かして流し込めるの?」


「出来るわよ。すっっっっっっごく難しいけど」


「俺たちの間では賢者と呼ばれるような存在が作れる」


「賢者って?」


「魔法使いと呼ばれるのには精霊との契約なんだが、その魔法使いの中でも技術的に優れた人の事を敬意を込めてそう呼ぶんだ。使う魔法も俺達じゃ比べ物にならないのを使う。知り合いだと数百人規模の隊を一撃で吹き飛ばせる爆発呪文を使えるぞ。変人だけど」


「あの2人が来てくれれば、その爆発呪文であっちの問題解決なんだけどね。変人だけど」


「すごい人っていうのと、変な人って言うのは分かったよ。で、魔石を流し込む技術と賢者になんの関係があるの?」


「魔石を液体にするのって難しいの。私達もやったことがあるんだけど……出来なかったわ。私達の国でもその賢者だけしかできないわ」


「へえ~……ということはこの魔法陣は賢者が作ったってことか」


「ええ。元の世界に戻れる転移の魔法陣を作っているところからしても間違いなく。確実に歴史に名を残せるような存在よ」


「曾祖父はこれを使って帰ってきたのか? しかし曾祖父が使った魔法陣を使ってこっちにいった奴等で帰ってきたという話は聞かないしな……」


 この魔法陣だけで様々な疑問が出てくる。むしろ、僕のおじいちゃんはこれを知っていたのか? もし知っていたなら何故、誰にも教えずに、しかも魔法陣の上にガラクタを置いた棚なんかがあったのだろう? 


 少しの間、考えていたがすぐ答えが出なそうなので、とりあえず当初の目的であるカレールーを買いに皆して蔵を出る。外に出ると外が少し紅くなり始めていた。車の時計を見ると時間は16時。行ったのが12時だからおよそ4時間。あっちで確認した時間と同じだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―約1時間後「車内」―


「明るいわね」


「街の明るさは俺たちの国と変わらないが、車が走っているせいか余計に明るく感じるな」


 カレールーを無事に入手して、帰る途中の車内で街中について2人が話している。


「……実際に異世界を見て、そこには私たちと変わらない人がいて普通の生活をしている。おかしいわよね? 異世界に行った人たちはことごとく全員死んだのに」


「そうだな。今のこの世界を見るとそうは見えないな」


 2人が話すその事に関して、僕はある可能性を見出していた。転移魔法陣の仕組み……それを考慮すると、どうして誰一人帰って来ないかの理由はこれだと思う。そういえば……。


「ねえ? 訊いていいかな?」


「なんだ?」


「気になっていたんだけど、異世界に行った人が帰ってきたせいで国が滅んだ話を聞いたけど具体的にはどうだったの?」


「確か書物で読んだ内容だが……寒気を感じて高熱、膿が出来て肌が黒くなって死んでいったって聞いてる」


「それって……それで最終的にはどんな風にして終息したの?」


「その時だけは各国が協力して、その国の領土の全てを燃やしたらしい。本当にありとあらゆるものを……な」


「そうか……」


 この症状は間違いないだろう。歴史の授業でも取り上げている位に有名な伝染病だ。


「薫はこれについて知ってるの?」


「知っているんだけど、その前にもう1つ。その後、同じような症状が出た人はいるの?」


「無いな。この数百年一度も」


「完全に抑え込めたってことなのかな。……そしたらさ。シーエさんたちもいる時に話すよ。今、話すと二度手間になっちゃうし」


 今まで謎だった国の滅亡理由が分かるならという事でオッケーしてくれた。どうして異世界から来た人々は死んだり行方不明になったりしたのか。僕は今までの話を聞いてある仮説を立てた。もしかしたら……この出会いは単なる偶然じゃなくある程度必然だったのかもしれない。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「薫宅・蔵」―


 再び蔵の魔法陣の前に来る。またこの魔法陣を使えばあの同じ場所に行ける。


「薫は怖くないの?」


「うん? 何が?」


「実は言うと、また同じ場所に戻れるのかなって思ってたりするの。今まで誰も成功していなかった異なる世界の往来なんてことをやっているから……」


 そういえばカーター達が初めて異世界の往来成功者になるのか。これで戻れれば2往復したことになる。


「いや。いけると思うよ問題なく」


「どこからそんな自信が出てくるのよ」


「普通の転移の魔法陣には行き先の方にも同じ魔法陣が必要なんでしょう? 多分これは2人が使った魔法陣と繋がっている魔法陣なんだと思う」


「……同じでは無いわよ」


「でもさ。何となく似てないかな?このあたりとか。というか同じ」


「本当だ…そういえばそうね」


 魔法陣を良く見るとあっちの魔法陣と同じなのだ。ただ、その周りに何か他にも描かれているだけであって。


「多分だけど。本来なら中央のこの部分だけでもいけるんじゃないかな。で、この外側はまた別の意味だと思う」


「薫は魔法について知らないんじゃなかったのか」


「知らないよ。でもよくよく考えたらおかしなことが当たり前のように出来ているからさ。話してくれた転移魔法の知識と合わせれば推察は出来るかな」


 そう言って僕はポケットからスマホを取り出し魔法陣が写るように写真を撮る。


「何したんだ?」


「写真を撮ったんだ。これでいつでもこの魔法陣を見ることが出来るよ」


 そう言って2人にスマホを見せる。カラーの画像に2人は驚いていた。


「すごいわね!ドローインの呪文よりきれいだわ」


「これは凄いな。諜報活動にかなり便利だ」 


 これで皆で話す際に映像を見ながら話すことが出来る。僕のスマホの写真で2人の不安が少し薄らいだところで、話をそこそこに魔法陣の中に入る。そして呪文が唱えられてまた光が包んでいくのであった。


「今度は戸締りしたから問題ないよね…」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―それからすぐ「ビシャータテア王国・ベルトリア城壁 執務室」―


「ただいま!」


「おかえり!! どうだった? カレールーっていうのは手に入ったのか?」


「落ち着けマーバ。ちゃんと手に入ったよ」


「よっしゃ!! 異世界の料理が食えるぜ!!」


 マーバさんの喜びがオーバードライブしている。もうはしゃぎ過ぎて皆が少し呆れている。


「そんな喜んでいるマーバさんにこれ。お土産ね」


 僕は家にストックしていたミカンを渡す。


「食っていいのか!?」


「どうぞ」


「やりー!!」


 サキに食べ方を教わりマーバが目を輝かせ食べ始める。そしてミカンを口にしたマーバは美味さのあまりプラトーンのあの有名なポーズをしていた。異世界でまさかそのポーズを見ることになるとは。


「マーバ……」


 シーエさんが額に手を当てている。


「シーエさんもどうぞ」


 シーエさんにもミカンを渡す。


「私は隊長ですからそういうのは…」


「それなら毒見という事で食べて下さい。それならちゃんとした理由になるでしょ?」


 僕は笑顔でそう答える。すると後ろから……。


「恐ろしい子。あれで何人の男性が犠牲になったのかしら」


「男って頭で分かっていてもあれは……な」


 僕って笑っちゃダメなの……?


「モグモグ。天使ような悪魔の笑顔ってところか?」


「……不覚にもドキッと来ましたよ。男に」


 そんなつもりはないんだけど……。そのことに僕はため息をつき落ち込んでいる間にシーエさんもミカンを口にする。


「おいしい! これはどんな食べ物の中でも群を抜いて美味しいですよ」


「モグモグ。こんな甘いもの食べたこと無いぜ」


「俺たちも食べた時も驚いたし!!」


「そうそう」


 4人で話が盛り上がっていく。まさか、ミカンでそこまで喜ばれるとは……。


「そんなに喜んでもらえたらうれしいよ。というかこっちにミカンみたいに甘い果物とかないの?」


 さすがにミカンのような果物とかあるんじゃないかと思って何気なく聞いてみた。


「無いのよねこれが。果物自体はあるけどこんなに甘くないわ。」


「そうなんだ……」


 異世界なんだから、それこそ漫画みたいに地球では食べられない美味しい果物とかあるかと思ったが……残念だ。


「それならイチゴとかブドウとかを持ってきても良かったな……」


「それも甘いのか?」


「品種によるけどね」


「品種?」


「簡単にいうと甘いミカンの実が生る木同士を掛け合わせてより甘いミカン作り出すんだ。他にも用途によって掛け合わせたりするよ」


「なるほど。ということは生産性を上げるために掛け合わせたりもするんですか?」


「もちろん」


「農地の整備以外にもそんな手段があるとは……これは真似が出来そうですね」


「直ぐには成果は出ないけどね。物によっては数年、数十年はかかるかな」


「となるとそちらの世界から種など仕入れた方が早いということですね」


 シーエさんが何か企んでいる。食料の生産性の向上やより美味しい物は全体の士気を高めるに違いないだろうし。とりあえず頼まれたら種苗法に引っかからない物を持ってこよう。


「シーエが何か企んでいるわ」


「モグモグ……。あいつそういうところあるからな」


「僕は気にしてないよ。それに国の発展も大切なお仕事でしょ?」


「ご理解頂きありがとうございます」


「でも……。タダじゃ駄目だからね」


 僕は目を細めて釘を刺すつもりで言っておく。無償の愛を送れるほど僕は善人じゃない。困った時の助け合いは必要だと思うけど、だからといってずっと頼りぱなしにされるのはゴメンである。


「もちろんですよ。そんな虫の良い話あるはずがないですし、良い関係を築くには多少の遠慮は無いといけません」


「親しき間にも礼儀ありだね」


「そうですね」


 お互いに笑い合う。シーエさんは僕に強制するつもりは無いみたいだ。そのつもりになればいくらでも手段があるはずなのに、初めて会った異世界の人たちが彼等で本当に良かったと思う。


「で、そろそろ作らないと不味いんじゃね?」


 マーバがふと話を遮る。確かに時計を見ると17時半を過ぎていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―5分後「ビシャータテア王国・ベルトリア城壁調理場」―


 という訳で、エプロンを借りて食堂で晩御飯の準備を始める。


「凄い!!」


 思わず言葉が出る。何故なら台所の設備が僕たちの世界と変わらなかったからだ。蛇口を捻れば水が出て、よく見るコンロなんかも置いてある。というより全体的に見てレストランとかの厨房と変わらなかった。


「料理事情がアレだったから、台所の設備もアレかと思った!!」


「軽くこの世界をディスられた気がするんだが……」


「しょうがないんじゃないかしら?それに本人も悪気があって言っていないだろうし」


「まあ、あちらの話を聞いていると飲食物に関しては、かなり高い技術を有しているみたいですしね」


 そんな話をしているのをなんとなく聞いていたが、僕は厨房内の設備を見て1人テンションを上げるのであった。


「嘘!? 冷蔵庫もあるの!?」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―数分後―


 ……ということで一通り感動したところでエプロンを装着し夕食の準備を始める。


「じゃあ、お手伝いお願いします」


「「「「おーーー!!!!」」」」


 ということで料理を開始する。とはいってもカレーでかつ量多めなのでアレンジとかはせずに普通の手順で作っていく。なお厨房にはお手伝いの騎士さんたちとカーターたちがいる。


「カーターも料理するの?」


「騎士達全員が出来るさ。夜営もあるしな。ただ、カレーなんて初めて作るから教えてもらわないと無理だけどな」


「大丈夫!! 切って煮込むだけだから!!」


 ということで具材を切る。具材はジャガイモに玉ねぎ、人参、鶏肉あとは疲労回復のためほうれん草とブロッコリー。後は食感が良いエリンギにした。


「キノコだよなこれ? 大丈夫か?」


「ばあちゃんからキノコだけは止めとけって言われてるんだ!」


 騎士がエリンギを不安そうに見る。他の騎士たちも同様だった。


「大丈夫だよ。僕たちの世界でもよく食べられてるし……しかも、これは人口栽培してるしね」


「「「キノコを人口的に!?」」」


 そこに驚くか……。と僕が不思議そうな表情を見せているとサキがその疑問に答える。


「私達の世界では普通キノコは食べないわ。毒があるものが多いから毒殺とかに使われるイメージね」


 話してくれたサキも若干引き気味だ。


「エリンギは食用だから安心して。それに食べると体の調子を整えてくれるから疲れている体には良いはずだよ」


 そんな話をして全員に指示を出す。ジャガイモ、玉ねぎ、人参は皮を剥き一口大にする。ブロッコリーも小房に切り分けて茎は皮を厚めに切り一口大に切る。


「人参はジャガイモと同じようにやっていけばいいのか。」


「色もオレンジ色でいいな。」


「いつもながら玉ねぎは目に滲みるぜ!」


 ほうれん草は下茹でするので大きめに切る。また鶏肉、エリンギは食べやすいサイズに切る。ちなみにエリンギは僕が担当した。サラダ油で各種材料を炒めていく。


「キノコ…入れるのね」


「不安?」


 心配するサキに、フライパンで炒めながら訊いてみる。


「それは……ね」


「食べてみる?」


 炒め終わったエリンギに買っておいた醤油を足らして出す。サキは恐る恐るそれを食べる。


「お、美味しいーー!!」


 満面の笑顔で厨房内に聞こえるような大声で感想を言う。その声に反応して全員がこちらを見る。


「不思議な食感……。歯ごたえがあって野菜とも果物とも違ってそれでいて美味しい…」


「キノコは旨味成分が多いからね。食感も独特だから料理に加えるといいアレンジになるよ」


「旨味って?」


「えーと……。人が舌で感じる味覚と言われるものの一つで、他にも酸味や苦味なんかもあるよ」


「へー」


 そんな会話をサキとしていると、周りの騎士さんたちがキノコが気になりやってくる。サキに出した物と同じ物を用意する。


「一口どうぞ」


 お互いが一度顔を見合せてから、それぞれ手に取っていく。


「「「「う、ウマーー!!!!」」」」


「こんな食感初めてだ!」


「ああ! こんな美味しい物があったなんて!」


「今度、森の中のキノコを採ってみるか。」


「やめとけって。ぜってぇ死ぬぞ」


「でも、こうも美味しいと確かに採ってみたくなるな」


「カーター……。忠告しておくけど知らない野草やキノコを無闇に採取するのは危険だからダメだよ」


 副隊長で魔法使いであるカーターの身を案じて注意をする。これが原因で毒に当たってあの世に逝かれては困る。


「少し怒った表情もカワイイ……」


「ああ……分かるぜ。こうドキッとくるよな」


「おい!! あの子は男の子だって聞いただろ!!」


「俺……もうホモでいいや」


 今、身の危険を感じた! 思わず男でも良いと言った奴に顔を向ける。いや良くないから! 見た目は女でも体は男だからね?


「骨の芯まで焼かれたいかしら?」


 見るとサキが手のひらに炎を出しながら騎士さんたちに冷めた目を向ける。


「「「「すいませんでした!!!」」」」


「全く男って!」


「薫。俺たちがいる間は心配するな。もし何かしたらサキの言った通りに…」


「いやいや!? 騎士さんたちの命大切にしてね! というかそこまでは求めてないからね!?」


「問題ないわ。骨さえ残らないようにするから」


「証拠が無ければ問題ないじゃないから!! というかもしかしてからかわれてたりする!?」


「……半分わね。でもやっぱりふざけたことをしたら罰則は与えるわ」


「そもそも、そんな灼熱の炎なんて出せるわけないけどな」


 カーターとサキが笑う。どうやらちょっとしたジョークが入っていたらしい。冷静に考えたら骨も溶かすなんて高温だし無理だよね。と思っていると兵士の1人が。


「この前の練習で岩をドロドロに溶かすほどの火の魔法を使っていた副隊長達ならあり得ると思うんですが……」


 確か岩って1000度より少し高めぐらいで溶けたはず……。それを聞いて2人から少し距離をあける。2人がそれに気づき慌てて弁解をする。


「あれは、あくまで全力全開でやった時だからな」


「やったら1日は完全に疲労で何もできなくなるからね」


 いや!! それってつまり1日1回は岩を溶かすほどの高温の炎を出せるってことじゃん! さっきの冗談ってなんだったの? 


 そんな異世界ジョークに衝撃を受けながら調理を進めていく。炒めた材料、水を鍋にいれて灰汁を取りながら煮込んでいく。


「スープを作るのとあまり変わらない気が……」


「まあ、お手軽料理だしね。それとご飯の準備大丈夫?」


「もう少しで炊き上がるぞ」


 これも驚いたことで米もジャガイモ、玉ねぎと一緒にやってきていた。しかも稲作までしているらしい。それ以前は小麦が主食だったらしいが遠征とかになるとパンにしなければならず長期保存のためかなりパサパサで固かったらしい。その反面、米は外でも調理がしやすく腹持ちがいいとのことだった。


「よし。そしたらカレールーを入れていくよ」


 火を消してカレールーを少し砕いて入れていく。ルーが溶けるようにかき混ぜる。最後に下茹でして湯切りしたほうれん草も加えて、火を入れ直す。


「食欲をそそる匂いだな」


「ルーの中には食欲不振や疲れた体に効くスパイスが入ってるからね」


グゥーーーーーーーー。


 準備していた騎士さんたちのお腹が一斉に鳴る。調理場から食堂を見ると既に手の空いた騎士さんたちが食堂に来ている。何かプレッシャーを凄く感じる。


「何か目をギラギラさせていないかな?」


「私たち全員が1週間程ろくに食べてないですからね」


「隊長!!」


 騎士さんたちが右手を胸に当てる中シーエさん達が厨房に入ってくる。


「すいません。騎士達には注意したんですが、空腹とこの匂いで待っていられなかったようで」


「スゲーいい匂いだな!!」


「大丈夫ですよ。もう出来ましたから」


 そう言って、皿にご飯、カレーの順でよそる。それをトレイに載せて水とミカンも置けば……。


「はい! 完成です!」


「カレーはご飯と混ぜて一緒に食べる感じか?」


「そうだよ。とりあえずこんな感じでよそって配膳していこう」


「分かった」


「私も手伝いましょう」


「隊長がですか!?」


「まあ、気にしないで下さい。空腹で飢えている騎士達の様子を見ると忙しくなりそうですし」


 それから手分けして騎士さんたちに渡していく(僕は襲われる心配があるので皿によそる作業になった)。そして料理が渡った人から食べ始めていく。初めてということで恐る恐る口にいれていき、そして……何も言わず涙を流した。


「そこまでだった!? それとも辛かったかな……?」 


 一応、甘口にしといたんだけど。口に合ったか合わないか何とも気になる表現をしていたが、以外にもその解答は先に食べていた精霊の2人から聞くことになった。


「今までの人生って何だったのかしら……」


「そうだな。世界にはこんな美味しい物があったなんて…」


「口の中に広がるこの独特な味にこの香り。そして舌がピリピリする感覚その全てが初めての感覚……これが幸せなのね……」


「ああ。そうだな…」


 涙を流しながら話をする2人。涙を流すほどそしてマーバの口調を変えるほど旨かったみたいだ。他の人も同じような感じなのだろう。


「食べたら泣く料理ってなんだよ」


「早く俺たちも食べたいよな」


「くぅ~~。今日が当番だったことを凄い後悔してる」


 騎士さんたちが無我夢中で食べていく。額に汗をかき、時に失った水分を補うために水を飲み、カレーのCMを見ているかのように美味しそうに食べる。食後のミカンもこれまた好評だった。そうして多くの騎士さんたちが満足していく。ただ物足りなさそうにカレーが入っていた皿を見ている人もいた。


「1人1回お代わりオッケーでーす!」


 そう言った瞬間、一斉に騎士さんたちが我先にとお代わりに来るのであった。

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