495話 一瞬の安寧
前回のあらすじ「ゼロ距離メテオ」
―「浮遊城・支配者の間」―
「……やったかしら?」
「それフラグッスよ……」
「お前……よくこんなところでボケてられるな」
「これでも真剣だと思いますよ? これで倒せたら先に戦った刑務官達でも倒せたのは分かってるはずなので……。まあ、施設にロケランとか置いてあったとかなら別問題かなと……」
「それだったら、うちらがここに来ることは無かったッスね」
「あなた達のそのロケランへの信頼は一体何なのかしら……」
「ラスボスを爆砕するのに必須アイテムなので!」
「木っ端微塵にして、死なない奴はいないッスからね!」
「その意見には確かに一理あるけど……」
ゲームの話を持って来た2人に呆れるカシーさん。そんな、ゴスドラへの攻撃後にこちらへと戻って来た泉たちとカシーさんたちの何とも緊張感の無い会話が室内に響く。そんな中、僕たちとカーターたち、それとシーエさんたちで泉の『メテオ』で出来た穴からゴスドラたちが出てこないか警戒している。
「ねえ。薫」
すると、僕たちの後ろにいるサキがこちらに声を掛けて来たので、僕は前に視線を向けたまま返事をする。
「どうかしたのサキ?」
「そのロケランでゴスドラって倒せたと思う?」
「……あの穴からゴスドラが出てこなければ倒せたんじゃないかな。あれだけの速度が出た鉄球なら威力はロケランぐらいはあるだろうし」
サキからの質問にそのように答える僕。実際はもっと威力があって、戦車砲並みの威力かもしれないが……生憎、そこまで理系脳じゃないので、この回答が限界である。
「普通ならあれで人は木っ端微塵になるのです……」
「だろうね……。懸念は床の方が先に壊れただろうから、それによって、どれくらい軽減されてしまったってところかな。まあ、それでも最高速度の新幹線に真正面から轢かれたくらいの衝撃はあるかな……」
「そんなんじゃ子犬を助けた超人なら耐えちゃうんじゃないか?」
「……どこでその古のネタを仕入れたのマーバ?」
「何か図書館にそんな本が置いてあったぜ?」
一体、どのような経由でそんなレジェンド漫画がグージャンパマ入りしたのか非常に気になるのだが……。
「何でそんな漫画が図書館にあるの?」
前を向いていた僕はついに我慢できず振り返り、それを知っていそうな2人に訊いてみる。
「知らないからな?」
「同じくです。それよりも前を向いて下さい……」
間を開けずにカーターとシーエさんからそのような回答が返ってきた。仕方ない。帰ったらユノにでも訊いてみるとしよう。そして、視線をゴスドラたちがいた場所に戻す。そこには目線を外す前と変わらない光景が広がっており、大きな床の穴から何かが飛び出す気配は未だに無い。
「出てこないけど……本当に倒せちゃった?」
すると、カシーさんたちと話し終えた泉が、穴から出てこないゴスドラたちを倒してしまったのかと疑心する。
「泉。あの鉄球だけど、オリハルコンとか特殊金属じゃないよね?」
「もちろん。逆に利用されるかもしれないから、あの用意してもらった鉄球だって重いだけの粗悪品にしておいたよ」
「そっか……」
その言葉を聞いて一安心する僕。そうなると、ゴスドラたちは何を企んでいるのだろうか? もしかして、本当に倒せてしまったのか? 『メテオ』の威力は十二分に理解している。普通の奴ならあの一撃で消し飛ばすことは可能だろう。だが、ヘルメスをその身に宿したゴスドラを倒せるのかと言われるとかなり怪しい。そもそも、そんなんで倒せていたら、ヘルメスに取り憑かれたアンドロニカスも楽に倒せていただろう。それに何か忘れている気が……。
「あっ!?」
「薫兄? 何か……」
「みんな! あの穴に向かってダッシュして!! そのまま下層へ避難するよ!!」
「それどういう意味……って薫!? 私を掴んで移動しないで欲しいのです!?」
僕は近くで飛んでたレイスを掴み、ゴスドラが落ちて行った穴に向かってダッシュする。僕のその姿を見た皆が緊急事態だと察して、すぐさま僕の後を付いて来る。
「よっ……と!」
穴に飛び込み『飛翔』を使用しながら『メテオ』で開いた穴を通り下へと移動する。そして、『メテオ』の核として使用した鉄球が粉々に砕かれた状態で放置されていた階層に辿り着く。無機質なコンクリ剥き出しのその階層にゴスドラとヘルメスはいない。薄暗いが光源はあるこの広い空間には何も道具が置かれていないので、何に使うのか決まっていないスペースなのかもしれない。
「そろそろ離して欲しいのです……」
「あ、ごめん……」
僕は掴んでいたレイスを手から解放する。
「ビックリしたのです……」
「ごめんごめん。いつ、反撃が来るか分からなかったからさ」
「反撃って……ゴスドラたちは何をする気なんだ?」
すると、僕の後に続いて穴へと飛び込んだ皆が到着する。そこで、僕は鵺を城壁にして防御に徹しながら、これから起きることを皆に伝える。
「ゴスドラたちはレーザー砲をグージャンパマに向けて放っているらしいんだけど、先ほどまで戦ったゴスドラは一切それを使う様子を見せていなかった。その背後にいたヘルメスも含めてね……」
「つまり、レーザー砲を放つ別の存在がいると予想しているんですね」
「そう。そして……あっ」
僕が気付くと同時に、精霊たちも何か違和感に気付いたらしく、辺りを見回し始める。
「ワブー?」
「急いで防御しろ! ドラゴン並みの魔力が突如として現れた!」
「どこから!?」
「そっちだ!」
ワブーの指差す方向。他の精霊たちも頷き、そちらから猛烈な魔力を感じると断言する。
「……って、薫は何故気付いたんだぜ?」
「いつもの女の勘でしょ! そんなことより早く!!」
僕たちは防御魔法を展開して、その強力な魔力に対して備える。そして、それが襲い掛かって来た。
「うわ!?」
「危ない!!」
現れたそれから泉を守るためにカーターが泉を抱き寄せその上に覆いかぶさる。僕たちの頭上を流れる光の奔流。強化魔法や強力な防具をしていなければ、近くにいただけで火傷は必至だっただろう。それだけの熱量を頭上から感じられる。
「危なかったな。防御魔法で何とか出来たのか怪しいところだったな……」
ワブーが冷や汗を掻きながら、その光の奔流を眺めている。他の皆もそれを見て、それが収まるのを静かに待っている。
「外れた……です?」
「……そうみたい」
頭上を流れる光の奔流が弱くなってきている。そして、それが完全に収まると、天井は綺麗に無くなっており、見えるのはあのオレンジ色の絵の具ような空間と、周囲を漂う謎の瓦礫群だった。そして、もう1つ……先ほどのレーザー砲を放ったと思われる空飛ぶ異形の存在に乗ったゴスドラとヘルメスの姿が見えた。
「何、あれ……?」
サキがゴスドラの下にいるそれを見て顔を顰める。どんな生物とも例えられないその姿に何と言えばいいのか分からないのだろう。しかし、僕はその姿を見たことがある。
「大きな天使の翼に巨大な単眼を持つ異形……なるほどね」
「アレに心当たりがあるのか?」
「ヘルメスだよ。アンドロニカスを倒した時にあれの小さい姿をした奴を見たことがある」
僕はそう言って、鵺を黒槍にして構える。他の皆も武器を構えており、全員でゴスドラたちと対峙する。
「まさか、あんな風に幻影を映し出せるとはな……しかも、あんな強力な物理攻撃を放ってくとは……!」
「生憎だったね! こっちも色々やってる身なんでね!」
「そのようだな!」
お互いに聞こえるような大きな声で喋り、そして静かになる。どっちが攻撃を先に仕掛けないといけないのかは分かっている。時間を置けば、また先ほどのアレが来る以上、待つのは得策じゃないのだから……。
「いくよ!」
僕はそう叫び、皆と一緒にゴスドラたちに向かって突撃するのであった。




