494話 激しく入れ替わる攻防 その2
前回のあらすじ「激戦中……」
―同時刻「ドルコスタ王国・浮遊城へと繋がる空間のひび割れ近くの町」カイト視点―
(次、先ほどのレーザー砲が北東方向に来るぞ)
「りょーかい!! Gチーム! ただちにそこから離脱せよ! 繰り返す! ただちにB地帯まで離脱せよ!」
(了解。全部隊、直ちに離脱する)
ギアゾンビの群れとレーザー砲に苦戦する僕達。しかし、頼もしい応援がやって来てくれたことで形勢が好転した。
(ギャオーー!!)
(グルル……!!)
雄叫びや唸り声を上げるドラゴン達。竜の王であるゴルドがドラゴンの群れを引き連れ応援に来てくれたのである。その頼もしさにしみじみしていると、レーザー砲が北東方向に放たれる。
「被害は?」
「全員、撤退済み。被害ゼロです」
「よかった……」
(ふん。威力に関しては認めるが、気配を取られるようでは我の相手にもならん)
通信機の向こうからゴルドがレーザー砲を見て、そのような感想を述べているが、僕達の魔石の力を得て数段に性能が向上した機器で感知できていないのに、それを感知できるのはおかしいと思っている。
「確認したいんだけど……結界を張って、気配を消してるよね?」
(ああ、気配は消えている。殺気なども感じない。それは見事だが……攻撃する直前だけ魔力を集中させる必要があるみたいだな。そのタイミングだけ気配が丸分かり、溜め時間という無駄な時間のせいで我にはバレバレだ。しかも、我だけではなく愚弟やハクにもバレているぞ?)
「こっちはそれさえも感知できないんだけどな……」
(薫を見習え。あいつなら直感で反応できると思うぞ)
「彼、人間のはずなんだけどな……」
ゴルドの発言に頭を悩ませる。確かに、薫は人としては規格外な面が多々ある。魔人の血を持つクオーターだからと結論付けしていたが、もしかして違っていたのだろうか?
(人間には間違いない。ただ、あいつはこの星に選ばれている)
「……星に選ばれるってどういうこと?」
(お前達が知らない繋がりがあいつにもあるってことだ。知りたいなら、この世界の謎を解き明かす事だな)
そう言って、ゴルドはこの話を終わりにしてしまう。彼が言っているのは、セフィロトというこの星を管理するシステムのことでは無いだろう。セフィロトとは違う維持システム……そんな物がこの星に存在し、その在処を薫は知っている……。
「もしかして、イレーレより前の時代……その時代の何かを既に見つけたのか……?」
薫ならそんな物を見つけたなら誰かに報告しているはずだろう。となると、何か理由があって公言していないのかもしれない。
「はあ~……どうやらこの件が片付いても、研究者共の忙しさは変わらないようだな」
まだ、知らない未知の技術が実在する。研究者達にとってそれがどれほど心を躍らせる事だろうか。
(おい。どうやら増援のようだぞ?)
ゴルドのその言葉を聞いて、他のチームに状況を報告してもらうと、巨人のようなギアゾンビや空を飛ぶギアゾンビと様々な化け物共が浮遊城と繋がる穴から現れて、こちらに迫っていると報告が来た。それを聞いた僕は気を引き締め直して、指揮に当たるのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「浮遊城・支配者の間」―
僕が『暗き湖沼へ』を放った後、再び激しい攻防が何度も入れ替わりながら繰り広げられる。敵はゴスドラとその背中に繋がって、まるで背後霊のようにいるヘルメス。対してこちらは5組の魔法使い。手数はこちらの方が上のはずなのだが、なかなか攻めきれない。
「……」
無言で床に手を当てるゴスドラ。すると、床から銃を錬成する。その形からしてモデルはマグナムだろう。ゴスドラはそれを片手で反動が無いかのように連射してくる。
「マグナムなのにそんな連射ズルい!!」
ゴスドラの持つ銃をマグナムと判断した泉から不満の声が上がる。泉があれをマグナムと判断した基準だが、多分僕と同じでゾンビゲームやFPSで使用したことのある銃とそっくりだったからだろう。
「この方がしっくりくるな」
ゴスドラはそう言って、僕たちが繰り出す魔法を避けつつ、新しい銃を作り出す。形状からショットガンで間違いないだろう。そして、その銃口はこっちを向いていた。
「城壁!!」
鵺の黒剣を変えて、僕の前に黒く厚い壁を作り出す。僕はその壁に隠れ、銃による攻撃を避けつつ、ゴスドラの様子を伺う。すると、ゴスドラの背後にいるヘルメスが必死に手を前に出して、僕に対して何かしらの攻撃を仕掛けているみたいなのだが、何をしているのか分からない。
「(あれ……魔法を打ち消そうとしていませんか?)」
「(多分そうだね。この壁が魔法で作った物だから打ち消せると思っているみたい)」
小声でレイスと言葉を交わし、ヘルメスの謎の行動を推測する。確かにこれも魔法の武器なので効果がありそうなのだが、ソーナ王国で戦った変異ギアゾンビの魔法無効空間でも問題無く使えた武器である。それは、ヘルメスも例外では無かったみたいである。
「アイス・ブレード!!」
「スプレッド・ステッキィ・ファイヤー!」
そして、ゴスドラとヘルメスの意識が僕たちへと向いたこの絶好のチャンスに、シーエさんたちは冷気の斬撃を飛ばし、カーターたちは粘着性のある無数の炎の火球をばら撒いたりして、素早く魔法による攻撃を仕掛ける。
「ヘルメス!」
すると、僕に対して『アンチ・マジック』を放っていたヘルメスが素早く体の向きを変え、攻撃を仕掛けた4人のいる方向に対して再び『アンチ・マジック』を放つと、もう少しで当たるはずだったそれらの魔法攻撃が全て打ち消されてしまった。
「シルバレット・ボム!!」
すると、カシーさんたちが銀色の弾丸のような形状をした魔法を放つ。僕の知らない魔法であり、どんな効果があるのか分からない魔法を放った。
「ちっ!?」
ゴスドラはそれに対して再び床に触れて、自分達の前に壁を作り出す。カシーさんたちの魔法がそれに当たると、2度の爆発音と共に粉々に吹き飛び、無数の破片が周囲に飛び散った。
「ぐぅ……!!」
その近くにいたゴスドラとヘルメスは飛び散った破片によって、微少だがダメージを喰らう。
「チビ……メテオ!」
そして、ゴスドラたちから大分離れた位置にいる泉たちが『チビメテオ』を放つ。泉より投げ出された無数の鉄球がゴスドラの真上に向かって……。
「そんなのが効くか!」
だが、タイミングとしては遅すぎた。既に体勢を整え直したゴスドラがヘルメスに指示を出して、その魔法を打ち消そうとする。ヘルメスが両手を前に出すと、鉄球は失速するどころか跡形もなく消えてしまった。
「あれ? チビメテオに使う玉って実物だから消えることは……」
レイスが疑問を口にすると、それとほぼ同時に今まで確認できなかったゴスドラたちの頭上にある巨大な金属の塊を確認する事が出来るようになる。そして、先ほどはゴスドラたちから大分離れた場所にいたと思っていた泉たちがその金属の塊の近くを飛んでいることに気付いた。
「いけぇーー!!」
そして、金属の塊が目に止まらぬ速さでゴスドラたちに向かって落ちた。それによって、ゴスドラたちがいた場所の床は崩れて大きな穴が空いてしまった。
そこで、僕は泉たちが何をしたのかを理解する。皆の攻撃の最中、泉たちは『ミラージュ』を発動させて、自分たちの姿を隠しつつ、幻影であたかも自分たちが攻撃を仕掛けている最中だと錯覚させた。そして、当の本人たちは『メテオ』を確実に当てるために、ゴスドラたちの上で待機しつつ、上から様子を伺っていたというところだろう。
「よし!」
「直撃ッスね!」
そして、大技が上手く決まってご満悦な泉とフィーロは、鵺で作った壁を片付けている最中の僕たちと合流するのであった。




