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490話 余談

前回のあらすじ「ラスボス前の中ボス撃破!」

―薫達が化け物を倒した時と同時刻「浮遊城・外周」オリア視点―


「……無駄話をしてもいいか?」


 ヘリコプターを背にギアゾンビを迎え撃つ私に、同じくヘリコプターを背にしているリーダーがこちらに目線を合わせずにそんな事を言い始める。


「珍しいな。お前が作戦中にそんな事を言うとは……」


 私はそう言って、ギアゾンビの頭を撃ち抜く。そして空の銃に弾の装填をしつつ、リーダーの無駄話に耳を傾ける。


「今となっては最善の選択だったと思うが……どうしてあの2人を始末しなかったんだ?」


「あの2人……薫と泉のことか」


「そうだ」


 そう言って、リーダーは迫って来るギアゾンビの頭に銃弾を撃ち込んだ。その際、声の抑揚を変えることなく、あの2人を始末しなかったことを尋ねて来た。そして、こちらが返事をする前に話を続ける。


「あの大火事の時に現れた彼らを見た組織は、すぐさまお前も派遣したはずだ。それだから、いくらでもあいつらを自然死に見せかけるチャンスはあったんじゃないか?」


「……メリットは何だ?」


「グージャンパマの全て……魔石、技術、生態系、そこに住む人類……ありとあらゆるものに価値がある。その全てを独占したくなるほどにな」


「……お前の言う通りだ。表向きはソフィアが交友関係を築いていたが、裏では私を主体に彼らを始末する作戦も動いていた」


「やはりか」


「薫達の手に入れた力は組織が望む世界の安定を脅かす可能性があったからな。早い内に危険な芽を摘むべきというのはあった。他にも組織のもう1つの望みである世界の更なる発展……その術を我々が独占するべきという邪な考えもあったな」


「はっはは!! あの強欲共が随分大人しくしていたと思えば、やっぱりそんな事をしていたか!! で、どうしてやらなかった?」


「1つはあちらに行く方法が彼らしか持っていなかったから。今は電力を用いることで地球とグージャンパマを転移する技術がもう少しで確立するのだが……それまでは、魔法使いという存在しか転移魔法陣を起動させられなかったからな」


「魔法使い……あの小人との契約が必須とかだったな」


「その通りだ。あればっかりはどうしようも出来ないからな。それなら封じ込め作戦もあったのだが、既に日本とアメリカがグージャンパマの存在を知った後だったからな……」


「それでも……出来たのではないか?」


「2つ目だが……その頃、既に薫がユノ姫と婚約を結んでいた。薫があっちと関係を持ってから半年ほどの話だな。それほど親しい間柄にある彼が不慮の死などすれば、両世界の関係にヒビを入れかねないしな……」


「まあ……確かに、そうかもしれないね」


 リーダーが迫りくるギアゾンビの群れに銃を向ける。が、それよりも早くボマーの特製手榴弾が投げ込まれ、ギアゾンビの群れが一網打尽になったので、リーダーは銃の構えを下ろし、再び話を続ける。


「……私達に薫達の暗殺任務が下されていたのは知っているか?」


「もちろん。組織の保守派が慎重すぎる私達を見かねて、先走った行動を取ろうとしてたいのは把握している。しかし……お前達はその任務を拒否したと聞いているが……何があった?」


「娘が風邪を引いてね……その看病だ」


「そう言って……いつもの勘だろう?」


 彼女の能力とでも言っていい直感がいつものように働いて、薫達と戦うのは良くない判断したのだろうと私が思っていると、彼女は小さく笑い始める。


「いや……真面目な話だ。あの時は遠距離からのスナイパーライフルによる射殺かドクターの毒で十分だと思っていてな。引き受ける気だったよ。娘には助けられたね……」


「……どのタイミングだったんだ?」


「……ショッピングモールでの一幕があった時さ」


 ショッピングモールと言えば、あの化け物となったスパイダーとの一戦のことだろう。あの日の事は、私も鮮明に覚えている。全世界に流れた巨大な蜘蛛型の化け物となったスパイダーと薫達以外のメンバーとの戦闘。私も含んだ他のメンバーも画面越しに彼らの戦闘を見届けていた。まず、我々ではどうしようも出来ない相手。それと、同等とはいかなくとも、足止めしている彼らの戦いは素晴らしいと思う反面、我々が相手する者達がここまで非常識だとは思っていなかった。


 それだけでも非常識……しかし、真の非常識だったのは薫達だった。神話の聖獣を思わせる神々しい獣、それが降らす裁きの雷、手の付けられないはずだった化け物はその聖獣の前では赤子のようなものだった。そして、薫達が放ったトドメの一撃……海外のネットでは「divine judgement(神の裁き)」や聖剣の名前などで呼ばれている光の剣に驚愕する者が多くいた。


「あの化け物を一方的に蹂躙……トドメに頭からレーザービームで真っ二つ。そんな化け物を我々に相手させないで欲しいものだな……」


「……そうだな」


 あの時……あれを見た組織は彼らを始末するのではなく懐柔する方向に完全にシフトした。そして、我々もその意見に反対する気にはならなかった。神獣を携えし巫女として認識されてしまった彼らを荒波立てずに始末するのが難しくなってしまったのと、あの化け物となったスパイダーを処理できる手段が1つも無い我々としては、今後の『盗賊団ヘルメス』の対処のために彼らの協力は必須だった。


「あの事件の後、私は薫と直接顔を合わせ、その後の作戦行動を共にすることになったな……」


「羨ましいね。私達は変わり者集団だから、会うのが随分遅くなったよ……ちなみに、もし同じ命令が来たらどうする?」


「断るだろうな。そもそも、泉は知り合いの情報屋の一人娘だ。そんな彼女に手を掛けたとなれば、あの世にいる彼に会わせる顔が無い……で、そっちは?」


「同じだ。あれでも使える部下を失うのは勘弁だからな……」


「あれとは酷い言い草だな……」


 私達が無駄話をしていると、そこにドクターが投擲物らしい物を手に近くへとやって来る。


「いままで何をしてたんだ? ベクターやボマーから不満が出てるぞ」


「ギアゾンビに普通の毒は通用しないようなのでね……特注の毒の準備をしていた。全くアイテムボックスというこの魔道具は素晴らしい」


 そう言って、自身が身に着けている指輪型のアイテムボックスをうっとりした表情で見つめるドクター。通常、作戦行動の邪魔にならないように、持ち運ぶ道具は少なくしなければならないのだが、本作戦で支給されたあのアイテムボックスにはそんなのは関係ない。ドクターのことだ。容量が一杯になるまで、自身が配合したご自慢の毒や現地で配合できるように材料や器具などを詰め込んだのだろう。


「おっと……噂をすれば何とやら」


 すると、ギアゾンビの群れがこちらに向かってやって来た。


「……それ」


 すると、ドクターはその群れに向かって、手に持っていた手作り感満載の投擲物を投げつける。それは1体のギアゾンビの頭にぶつかると『ボン!』という音と共に煙を伴いながら破裂する。煙がギアゾンビの群れを覆うと、ギアゾンビ達は1匹また1匹とその場に倒れていき、仕舞いには全てのギアゾンビが地面に倒れ込んでしまった。


「あれに毒なんて効かないと思っていたが……」


「確かに、アレには毒は効かない。今回、私が使ったのは腐食剤だ。人が触れると炎症を起こしたりするが、今回はそこは関係ない。私が着目したのは剥き出しの金属部品……あれらはギアゾンビが動くのに大事な役割をしているらしく、それが腐食したりサビてしまうと……ああなってしまう」


 ドクターはそう言って、倒れているギアゾンビに指を差す。私はそれに近寄り様子を伺うが、既に事が切れていた。


「この歯車のような金属がどんな役割があるのかと思っていたが、まさか重要な役割を担っているとは……」


「一応、腐食に強い金属を使用しているみたいだが……弱点剥き出しに変わらないな」


 すると、ドクターも倒れているギアゾンビをじっくり観察し、作った毒がどれほどの効果があるのかを確かめ始めている。


「……おっと。オリア。水を持っているならすぐに手を洗いたまえ。ほっとくと酷い炎症になるぞ」


 ドクターのアドバイスに私は素直に聞いて、ギアゾンビに触れた手に持っていた水を掛けて、手に付いた腐食剤をしっかり洗い落とした。


「我々の近場で使わないで欲しいのだが……?」


「分かっている。うっかりすると、我々の肌が大変な事になるからな」


 ドクターはそう言って、周囲に気を付けながら、再びギアゾンビの観察に専念する。ふと、ここであることを思い付いてしまう。


「薫達に持たせたかったな……」


「止めておけ。私みたいに精通した者じゃ無ければ、自爆して終わりだ。それに……」


 そこで言い淀むドクター。気になった私は何が言いたいのか尋ねてみる。すると……。


「一番の恩恵を受けているだろう標的のゴスドラが、わざわざ弱点をさらけ出すとは思えないしな……」


「……そうだな」


 私はドクターの意見に同意する。あの男は用心深い性格だ。そんな馬鹿なことはしないだろう。


「そう考えると……弱点剥き出しのギアゾンビは使い捨ての駒か」


「もしくは……改良中だな」


「改良中……か。勘弁して欲しいものだな」


 今後の戦闘中にギアゾンビの強化版が来ないことを、私は願うのであった。

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