488話 スパイダーとクラーケとのセカンドバトル!
前回のあらすじ「上から来るぞ! 気を付けろ!」
―「浮遊城・天へと続く牢獄の間」―
僕は上から降って来る銃弾と溶解液に気を付けながら、この無数の牢獄のある空間のほぼ中央へと向かう。
「行くよ……」
そして、アイテムボックスから四葩を取り出し、既に『ジェイリダ』の魔石が嵌められているので、後は『鎌鼬』を発動させて、魔法を上に向けてぶっ放すだけである。
いつもなら冷気の斬撃を飛ばすのだが、拡散型にして冷気を上に放つだけにする。シーエさんたちみたいに冷気で相手を凍らせることは出来ないが、僕にはこの四葩がある。剣に纏っている冷気に四葩から放たれる粒子をたっぷり混ぜ込んでいく。
「相手が魔石を内部に仕込んでいるかもしれないなら、この攻撃はかなり有効だよね……! いけ! 翠色冷光!」
魔石を体内に持つ生物を酷く弱体化させる効果のある光を放つ四葩の力をふんだんに取り込んだ冷気を上にいる奴らに向かって放つ。
「毒を巻き散らす戦法……何かやっちゃいけないような気がするのです」
「そこは卑怯とは言うまいねだよ。そもそも、真っ当な正義のヒーローっていうの柄じゃないしね」
上からの攻撃を避けるため、階段の下に隠れながら話をする僕とレイス。ふざけた話をしているが、これでも上の様子を伺いつつ、次に放つ魔法の準備をしている。
「……特に声とかしないのです」
「反撃も来ないね……」
僕たちがそう思っていると、再び上から銃弾と溶解液が降り注ぐ。しかし、それは僕たちに向けられたものでは無く、少し離れた場所にいる僕たちの幻影に向けらたものであった。それが、泉たちの『ミラージュ』による幻影だと気付いた僕たちは移動しながら、すぐさま次の『翠色冷光』を上に放つ。凍らせるほどの冷気ではないが、魔獣相手なら凍死、または相手の動きを確実に阻害させるほどの威力はある。そこに四葩の粒子を混ぜ込んだのだから、魔石を取り込んだ人間にはかなり辛いだろう。
「翠色冷光!」
そして、他の階段に飛び移りながら、再び『翠色冷光』を撃ち込む。先ほどと変わらない反撃が繰り出され続けるので、イマイチ効果が出ているのか分からない。
「合計3発……効果なしかな?」
僕がそう結論付けて、別の作戦を考えようとしたその時、上の方から何かの悲鳴が小さく聞こえた。
「効果アリみたいなのです!!」
「そうみたいだね……なら」
僕は再び『翠色冷光』を上に向けて放つ。
「じゃあ……私達は冷気を送りましょうか」
「私達は『ミラージュ』で攪乱するね!」
魔法で手伝うシーエさんたちと泉たち。
「私達は待機ね……」
「接近戦になったら、一気に行くぞ……」
この後の事を想定して、カシーさんたちとカーターたちは牢屋に隠れたまま待機。それを横目に僕は再び『翠色冷光』を放つ。
「……これってバ〇サ〇戦法?」
「虫なら効果テキメンッスね」
「ちょ!? そこ! 怒られるから!!」
少し離れた場所でそんな事を話す泉とフィーロに注意する。バ〇サ〇で敵を倒せたら苦労しないし、バ〇サ〇が毒ガスみたいな今の言い方……これが関係者の方々の耳に入ったら訴訟ものである。
「ここには私達しかいないのですよ?」
「いつどこで話を聞かれるか分からないからね……用心しないと……」
「キシャアアアアーーーー!!!!」
突如、この広間に人では無い動物の金切り声が響き渡る。そして何かを引きずる音、壁などが崩れて小さな瓦礫が途中にある階段にぶつかる音、それらの音が徐々に大きくなっていき、こちらへと近付いて来る。
「我慢しきれずにやって来たぜ!!」
マーバがそう叫ぶと、待機していたカーターたちとカシーさんたちが牢屋から外へと出て来て、一ヶ所に集まらないように散開する。それと同時に銃撃と溶解液による攻撃も再開する。
「スパイラル・ファイヤー・ランス!!」
「オクタ・エクスプロージョン!!」
音を頼りにカーターたちとカシーさんたちが攻撃を繰り出す。広間の上層へと向かって放たれた魔法は豪炎と爆裂となって上層を焦がすかのように、僕たちの上を覆うように広がる。
「さらにここでプラス……!!」
そこに、泉たちが自身のアイテムボックスから大鎌型の武器シンモラに『セイクリッド・フレイム』の魔石を嵌め、そこに上級魔法である『トルネード』を組み込む。
「ファイヤー・ストーム!!」
大鎌を回転させながら放たれる炎を巻き込んだトルネードがそこに追加される。それによって凄まじい温度となり、これなら上にいる敵を焼き尽くすかもしれないと思えてしまった。
「極寒地獄から灼熱地獄……温度差が激しいのです」
「だね……」
僕がレイスの意見に同意していると、上で燃え盛っている炎がみるみるうちに小さくなっていき、あっという間に消えてしまう。それに替わり、この広間の壁を這う何かが姿を現す。
「うっ……!?」
その姿を見た泉が思わず動揺して声が漏れる。そして、他の皆も声には出さないがその異形の姿に忌避感を抱いている。
「キシャアアアア……!!」
スパイダーと思われる奴が奇声を上げる。そして、恐らくクラーケだっただろう女性……みたいなものがうねうねと動いている……。そして、それらは1つの蜘蛛のようなイカのような体にくっついていた。
「いやはや……魔族との戦いで見慣れたと思っていましたが、より私達に近い姿の人間が化け物になると、少々心に来ますね……」
シーエさんが剣を構えたまま、敵の姿をじっくりと観察している。他の皆もすでに敵を注視しており、あまりじっくり見ていたくないだろう泉もしっかりと敵の方を見ている。
「キシャアア!!」
こちらを威嚇する敵。人間なのにその口はムカデのような顎みたいであり、その全身化け物と表現するのに相応しい。蜘蛛のような胴体に本来なら蜘蛛の頭が付いている場所にスパイダーと思われる異形の姿をした男性の上半身が接着しており、右腕の銃のような形状の腕を左手で押さえながらこちらへと照準を合わせていた。
さらに、蜘蛛の胴体部分には両腕の無いのっぺらぼうの女性の上半身が付いており、おへそ辺りに赤い目のような物がぎょろぎょろと辺りを見渡している。そして、それらを支えるのは蜘蛛の脚とイカのような触手であり、歪な配置で胴体に取り付けられたそれらによって壁にへばり付いていた。
「2人分の人間を蜘蛛の体に繋げた気色の悪いクリーチャーなのです……」
「うん」
レイスの意見に僕は頷く。以前の巨大化したスパイダーの姿はRPGなどに出て来るボスモンスターらしさがあった。しかし、今のこの姿はホラーゲームに出て来るクリーチャーであり、こんなのが真っ暗な空間からいきなり出たら悲鳴を上げていただろう。
すると、女性型のお腹にある目がぎょろぎょろとせわしなく動いてたのだが、泉たちの方に視線が固定された。
「泉! フィーロ! 来るよ!!」
僕の掛け声に反応して、2人がその場から下の階段へと向かって飛び降りる。それと同時に、化け物の触手の先端から溶解液が飛び出し、泉たちのいた場所に着弾する。そして、シューという音と異臭を放つ煙を出しながら、階段の一部が溶けてしまった。
「鉄壁!」
それに僕が注意を向けていると、化け物から殺気を感じたのでとっさに鵺で壁を作る。その直後に、『カン!キン!』と敵の銃弾の当たる音が聞こえ始める。
「アイス・ランス!」
「ボム!!」
「喰らえ!!」
すると、他の皆が化け物に向かって攻撃を仕掛けてくれたため、敵の攻撃が一旦止む。僕は鵺を大盾にして、身を隠しながら、敵の射線から外れる位置へと退避する。
「ギシャアア!!」
「魔法を打ち消す源はあの目ですかね?」
「結論付けるのは早いぞ! とりあえず、攻撃をし続けて弾幕を張れ! 敵の攻撃には注意しろ!」
ワブーが指示を出す。それに対して、全員で化け物から一定の距離を取って、遠距離からの攻撃を仕掛けていく。
「レイス。僕たちも行くよ……」
「もちろんなのです!」
魔法を打ち消すことが出来る相手の様子を伺うため、敵の攻撃を避ける事を第一優先にして、僕たちも攻撃を仕掛ける。
「雷撃!!」
「ギャア!?」
初撃に雷による攻撃を仕掛ける。すると、魔法は打ち消されずにそのまま化け物に直撃し、その体を硬直させる。その隙を狙って、他の皆が魔法を放つのだが、化け物の目が大きく見開いたと同時にそれらの魔法が全て打ち消されてしまった。
「常時無効化は出来ないみたいなのです!」
「皆! 試しに時間差で仕掛けてちょうだい!! もしかしたら、隙を付けるかも!」
カシーさんの案に皆がすぐさま反応して、同時に魔法攻撃を仕掛けずに、タイミングをずらして魔法攻撃を仕掛け続ける。
「キシャアアアア!!」
それに対して、魔法を無効化しつつ溶解液や銃撃を化け物が仕掛けてくる。十分な距離を取っている僕たちはこの広間の高低差を利用して、その攻撃を避けていく。そして……どちらも有効打が与えられたないそんな膠着自体がしばらく続くのであった。




