486話 天へと続く牢獄の間
前回のあらすじ「グージャンパマ側は激戦中」
―「浮遊城・天へと続く牢獄の間」―
「うわ~……凄い。ゲームでよく見る牢獄を迷宮にしたフィールドって感じだね」
「ああ……言われて見るとそうッスね。って、あそこの牢屋ってどうやって入るんッスかね?」
「それは空を飛べば……」
「そこ。そんな話をしている場合じゃないわよ」
浮遊城の壁を壊して内部へと侵入した僕たちは、入り組んだ通路内に現れたギアゾンビを倒したり、用意されていた罠を掻い潜ったりして進むと、複数の牢屋とたくさんの階段が上へとどこまでも続くとても広い空間へとやって来た。
「階段が入り組んでますね。あのどこにも繋がっていない階段は何の意味があるのでしょうか?」
「何の意味も無いんじゃないか? あそこの階段とか壁と壁に繋がるだけで何の意味も無さそうだしな」
カーターが上にある無数の階段から1つの階段に指を差し、それが意味が無いと断言する。僕も見るのだが、両端は壁とくっついており、隠し扉とかじゃ無ければ意味の無い階段と僕も判断するだろう。そして、僕はそのまま奥へと視線を向けると、無数のコンクリート製の階段と牢屋が続いており、そのまま暗闇が続いていた。
「薫兄。ラスボスはどこにいると思う?」
「上かな。何となくだけど……」
「何となくっていうのは珍しいのです」
僕が理由も無く何となく上にドスゴラ達がいるんじゃないかと言う発言に、泉やレイスが物珍しい物を見るような目で見てくる。確かに、身を守るという意味なら地下や下層の可能性も無きにしも非ずだが、現在グージャンパマ側から集中砲火が行われている以上、それを対処するために眺めのいい場所にいるんじゃないかという理由はある。が、あまりにも確証が無いため何となくという言葉で片付けていたりする。
「じゃあ、ここから上へと飛んでいけばいいのね!」
「レッツゴーだぜ!」
サキとフィーロが一気に上へと進もうと今にも飛び出しそうなのだが、それを他の皆が制止する。
「ここは慎重に飛んでいきましょう。飛んでいる最中に魔法無効化されたら落下してしまいますよ」
「だな。もしかしたら、相手はそれを考えてこのような作りにしている可能性もあるしな。だからここは……」
カーターはそう言って、サキと一緒に自身の真上にある階段まで飛ぶ。僕はレイスと一緒に近くにあった階段を普通に上がっていく。そして、他の皆も上へと上るために、各々各自の方法で上へと登って行く。
「よっと!」
登っていた階段が途中で途切れてしまったので、『飛翔』の魔法で横にある階段へと飛び移る。そして、そこから上へと登って行く。
「お先に失礼するわ」
階段を歩く僕の横をカシーさんたちが上へと通り過ぎ昇って行く。『フライト』で飛んでいるのかと思ったが、その飛ぶ姿はいつもと違って、足を使って駆け上がるように飛んでいた。
「あのブーツ、魔道具っぽいのです」
「そうだね。確かこっちの配送関係者が移動速度を上げるためのブーツを使用していたはずだけど、それの強化版って感じかな」
僕とレイスはそんな会話をしつつ階段を普通に登っていく。すると、皆から少し距離が離れてしまった。
「飛翔」
僕たちはそこで『飛翔』を使って、皆の近くまで飛んでいく。そして、一番近かったシーエさんたち横へと着地する。
「薫には珍しくゆっくりじゃないか?」
「慌てても仕方ないし、敵や罠があるかもしれないからね。気を付けて進んでいるだけだよ」
「それには同意ですね。しかし……静か過ぎますね」
シーエさんはそう言って辺りを見回す。下層から大分上って来たが、ここまで罠らしき物がなく、警備するギアゾンビなどもいない。
「この場所はそのような場所であって他意はない……と言えば楽ですが。そうでは無いでしょうね」
「このようなフィールドで戦うのが有利……そういう敵なんだと思いますよ」
僕は静かに鵺を黒剣にして手に持つ。そして、シーエさんも自分の愛刀を手にする。それを見たそれぞれのパートナーである精霊も周囲を警戒し始める。
「見た限りいないように見えますが……」
「上からですね……」
僕は鵺を上に掲げて盾にすると同時に金属同士がぶつかり合う音が周囲に響く。その時、防いだ腕が痺れてしまう。腕には手甲である蓮華躑躅を装備し、さらに自身には強化魔法を掛けているはずなのにである。そんな僕の腕が痺れたという事は、まともに喰らったら大ケガでは済まない威力なのだろう。
「アイス・ストーム!!」
シーエさんが剣に冷気を纏わせ、それを風の魔石の力で上へと放つ。青白く光る極寒の奔流は上へと進み闇へと消えて行った。
「……当たりましたかね?」
「どうですかね……とりあえず『城壁』」
僕は鵺をドーム状に展開し、出入り口が2ヶ所あるかまくらのようなシェルターにする。そこにシーエさんがマーバと一緒に中へと避難すると、先ほどと同じ金属同士がぶつかり合う音が周囲に響く。
「どうやら敵は私達に狙いを定めている感じですね……」
「そうみたいだね。そして、恐らくヘリコプターに攻撃を仕掛けて来た人物と同一人物かな」
「他の皆は大丈夫なのです?」
「それなら平気だぜ。ここに入る前にチラッと見たけど、物陰に隠れてたりしてたぜ」
「……安全では無いかもしれませんよ?」
そう言って、シーエさんがドーム状になっている鵺の天井に指を差す。綺麗なドーム状に展開したはずなのだが、今は天井部分がでこぼこしている。
「オリハルコンを使用して強化された鵺の強度でこれです。普通に物陰に隠れただけでは安全とは言えないかもしれませんね」
シーエさんはそう言って、鵺から一瞬だけ顔を出して、他の皆の様子を確認する。たった数秒の出来事なのだが、シーエさんが顔を引っ込めたと同時に階段に弾痕が出来る。その弾痕の跡からして、顔を引っ込めるのが1秒遅かったら、弾丸が頭を貫通していたかもしれない。
「スナイパーライフルっていう武器からの狙撃……だよな?」
マーバが敵から繰り出されるこの攻撃が狙撃銃からの攻撃じゃないかと訊いてくる、すると、シーエさんが剣を使って地面にめり込んでいた敵の弾を掘り出し、それをじっくり観察し始める。
「ふむ……どうやら少し違うようですね」
シーエさんが手に持っていた弾を渡してきたので、僕はそれを受け取って、その弾をじっくりと観察する。
「これ……銃の弾じゃない。見た目はそれだけど別物だよ」
弾を持つ僕の手にレイスとマーバが集まり、その弾を一緒に観察する。
「この弾、魔石で出来てるのです!?」
レイスがその弾丸が魔石で出来ていることに気付く。見た目は弾丸であり、色も黄金色だったので、少し離して見ると、普通の弾丸にしか見えない。しかし、近くで見ると魔石特有の光沢があり、角ばったところもある。
「魔石を削って作ったかのようですが……そもそもこのような色をした魔石は見たことがありません」
「僕も無いですね」
弾丸型の黄金色をした魔石。まるで、この攻撃用に作られたかのような魔石に困惑する僕たち。そもそも魔獣から1つしか取れない魔石をこのように丸ごと消費するなんて、とてつもなく燃費が悪すぎる。ミリーさんたちが使う特殊弾も魔石を使ってはいるが、魔石を粉砕し粉末状にした物を使っており、それを普通の弾丸に薄くコーティングすることで安価で大量に作れるように考えられている。
「こんな風に魔石を丸々使った弾丸とは……驚きですね。魔法を使って撃つには最高の弾丸なのでしょうが……」
「でも……これ変なのです。魔力を感じたのですが、今は全く感じられないのです」
「うちも同じ意見だぜ。まるで魔石もどきって感じだな」
それを聞いたレイスも頷いて肯定する。特殊弾を観察した精霊の2人が、そのように判断した。つまり、これは一時的に魔力を溜めておけるが、攻撃後にはただの石になってしまうという事だろう。
「使い捨ての魔石……そんなのを作る技術は今の所どこにもありませんね」
この弾丸をどのようにして作っているのか、敵はどれだけ保有しているのか考える僕たち。弾切れがあるなら、それを狙って耐えるという方法もありだろう。だが、もし……これを絶えず作り出せられる物だとしたら、上から降って来る弾丸をどう潜り抜けるか考えなければならない。そんな事に頭を悩ませていると、物陰に隠れている他の皆から注意を促す声が聞こえる。
「気を付けろ! 攻撃手段を変えて来たぞ!!」
その声に、僕たちは今隠れているドームから外を確認する。すると、今度は粘性のある黄色い液体のような物が上から落ちて階段にぶつかり、それが階段を溶かしていく。
「まさか、薫の鵺を溶かすつもりか!?」
「……いえ。これはこの階段が狙いですね」
そのような話をしている間にも、僕たちのいる場所の階段が溶けていく。
「このままだと、階段が崩れて落下しますね……いや~困りましたね」
「いやいや!? 何、悠長なことを言ってるんだぜ!? さっさと逃げないと……」
「でも、どうやって逃げるのです!?」
強力な火力を持つ凶弾と、強力な溶解液……もし、少しでも僕たちの姿が見えたら、すぐさまそれらの餌食になるだろう。
(せめて、敵の姿が見えたならな……)
他の3人が緊迫した様子を見せる中、僕はそのような能天気な事を考えるのであった。




