480話 必殺の魔弾
前回のあらすじ「作戦会議中……」
―会議の翌日の夜「カフェひだまり・店内」―
「2日後か……何か決戦って感じがしないね」
泉がそう言って、グラタンを口に入れる。店内に他のお客はいないので、レイスとフィーロもテーブルの上に座って夕食を取っている。
「ハニーラスで戦争の雰囲気を味わっちゃったからね。命の危機とは程遠いこの町じゃ、そう思えないかもね」
「浮遊城のある町にいるならともかく、そこからも離れているのです」
「そうッスよね~……」
そう言って、一足先に食べ終えていたフィーロがテーブルの上でだらけ始める。レイスがはしたないと窘める姿を見つつ、『ひだまり』でゆっくりと夕食を取る。そんな僕たちをカウンターで片付けをしている雪乃ちゃんたちが呆れた様子で見ていた。
「皆さん……落ち着き過ぎですよ。2日後に激戦を繰り広げるんですよね?」
「そうだよ? すでに侵攻が始まっている以上、悠長に構えてられないからね……」
僕は指を差して、ニュースが流れているテレビに指を差す。
(今日の未明、浮遊城と呼ばれている謎の空間内にある建物から、正体不明の生物が国内に侵入、警戒していた自衛隊を襲って来た所を射殺されました。その後の調査で、この生物には臓器などが存在せず、まるでロボットのようだという事です。現在……)
ニュースが昨日の会議で発表された浮遊城に関わる内容を話していた。それによって、大勢の人がグージャンパマでは魔王が既に討伐されていること、そして、それの置き土産である危険な魔道具が『ヘルメス』のリーダーであるゴスドラの手に渡っていることを知った。中には、この情報がフェイクニュースだと騒いでいたり、今、映っているコメンテーターのように信じられない人も一定数いたりする。
このように不安を煽るような情報を流したのには理由があり、浮遊城はおとりであって、他の場所でゴスドラが悪さしている恐れがあったりする。そこで、人々の不安を煽る事で、警察に通報するように向けたり、SNSなどに相談という形で情報を投稿させたりと無意識に誘導させる事で、より多くの情報を集めたり、人々の警戒を高めていたりしているのである。
(大変な事になって来ましたね。『ヘルメス』のリーダーであるゴスドラがグージャンパマの技術を利用して、このような事を行っているという情報があるのですが……どこまでが本当なのでしょうか?)
(ゴスドラが関与しているのはほぼ間違いないようです。グージャンパマの技術に関しても、先日、大規模作戦によって倒された魔王の持つ魔道具の1つがこちらに転移された可能性があるとのことです)
(いやはや……こんなヤバい物を持っていた魔王ってどんな奴だったんですかね? ってか……そんな魔王を倒したのってまさか……?)
(……『面妖の民』のリーダーである妖狸です。両者の戦いはすさまじく、こんな戦いが本当に行われていたなんて、実際の映像を見ても信じられませんでしたけどね)
(え、見たんですか!? 一体どうやって?)
(両世界の貿易協定に関して色々頼まれましてね。その際に彼女の活躍を見せてもらいましたよ。公になっていない彼女の活躍……思った以上に、面妖の民は両世界のため、その骨を折ってくれているようです。だから、うっかり彼女を乏しめる発言をすると……とても面倒なことになりますよ)
(その笑顔怖いですよ……しかし、なるほど。妖狸の強さを知っている者からしたら、今回の件でも彼女の手を借りたいということですか)
(ですね。未知数の力を手にしたゴスドラに対抗するには、同じ未知数の力を持つ妖狸達しか対処できないでしょうからね……)
「薫さんの活躍を見たって言ってますけど……本当ですかね?」
テレビでのナレーター達のやり取りを見て、あみちゃんがそのような質問をしてくる。
「あの時の戦い……僕が身に着けていたボディカメラの映像を提出してるんだけど、多分、それを見たのかもしれないね。となると……もしかして、妖狸が男だって知ってるのかなこのナレーター?」
テレビに映る僕の戦う姿を見たと言っているナレーターの顔を見る。以前、どこかで見たような気がなくもない。もしかしたら、アザーワルドリィや笹木クリエイティブカンパニーにいるところを見かけているかもしれない。そんな事を考えていると、厨房からマスターが顔を出す。その手には布に包まれた箱のような物を持っていた。
「明日、見送りに行けないからな……今のうちにこれ渡しておくぞ。明日の昼食にでも食ってくれ」
「マスターありがとう! しっかり倒してくるから、昌姉のことよろしくね!」
そう言って、泉がマスターから明日のお弁当を受け取る。今、「ひだまり」に昌姉はいない。妊娠9ヶ月なのだが、今日おしるしがあり、曲直瀬医師との相談の末、病院に入院することになった。曲直瀬医師の見解では、早産になるかもしれないとのことだった。
「任せろ。と言いたいところだが……こういう時の男は無力だよな」
「パパになる覚悟オッケーッスか?」
「子育ての道具とか買い揃えているのです?」
「道具は準備万端だが……覚悟は決まっているつもりだな。こういうのは実際に目の当たりにならないとな。ああ、それと昌からの伝言なんだが……「こっちは気にせず、しっかり帰って来てね」とのことだ。あいつが泣くようなことにはならないでくれよ?」
「分かってるって! ねえ薫兄?」
「もちろん。マスターも頑張ってね」
「お互いにな」
それから、マスターから貰ったお弁当以外に頼んでいたお土産も手に入れたところで、お会計を済ませた僕たちは「ひだまり」を後にする。その後、今日は自分達の家に帰る泉たちと別かれ、僕とレイスだけで自宅に帰る。
「ただいまなのです!」
「戻ったか」
自宅に帰ると、お留守番をしていたマナフルさんが迎えてくれた。一緒に「ひだまり」での晩御飯を誘ったのだが、用事があるということで、自宅のお留守番をお願いをしていたのだ。
「これお土産です」
「おお……これはグラタンってやつじゃな。これは楽しみじゃな」
マナフルさんの口元から涎が溢れ出る。今回の件に協力するため、我が家に泊っているマナフルさん。その間の飲食はこちらで準備しているおかげで、彼女の好物がチーズだというのが分かった。理由は簡単であり、チーズのような食材が狩猟では得ることが出来ず、こうやって僕たちが調理しないと美味しくいただけないからである。
「それで、どうでしたか?」
「ちょうど、終わったぞ?」
「そうですか……」
そして、僕たちは一緒に居間へと入る。
「おう! 帰って来たか」
すると、テーブルの上に散らばった様々な道具類を片付けている最中の直哉が僕たちを出迎える。その表情は非情に晴れやかであり、それだけで何かしらいい事があったのが伺える。
「その様子だと……満足のいく物が出来たのかな?」
「ああ。お前が見つけた監視者様のおかげでな」
あの会議の直後、直哉は僕の家にやって来て、すぐさまマナフルさんが監視者だと言い当てた。というのも、前々からマナフルさんの知識が森暮らしにしては妙に物知りであり、また魔法陣や魔道具などの扱いにも長けていたのが不思議だったらしい。そして、昨日の会議での僕の発言から、ここまで辿り着いたとのことだった。
そして、マナフルさんに協力を仰ぎ、今日の朝一からぶっ続けである物の開発に勤しんでいたところである。
「というわけで……待たせたな。アンドロニカスが残した『ヘルメス』への対抗策……それを元に作った銃だ」
そう言って、僕に完成した銃を手渡す。見た目は銃なのだが、非常に軽くプラスチックのような素材で出来ているモデルガンのようであり、殺傷能力は無さそうである。
「こんな銃じゃ倒せないのです……」
「いや? 何ならゴールドドラゴンさえも倒せるかもしれない可能性を秘めているぞ?」
「でも……そうには見えないのです」
そう言って、レイスがその銃に触れようとする。すると、直哉はすぐさま銃を僕から奪い取り、レイスに触れさせないようにする。
「すまん。言っておくが、レイスやフィーロのような精霊には触れさせるな。側を触っただけでも悪影響があるかもしれないからな」
「……毒の銃弾?」
「そうだ」
僕の呟きに、直哉はすぐさまその通りだと答える。そして、銃を持ったまま中に入っている弾について説明を始める。
「タンザナイトとユニコーンの角、カーバンクルの魔石を錬成して作った特注の弾頭の中に、『融合』の魔石を仕込んだ弾丸だ。目標に当たった瞬間、中の『融合』の魔石が発動し……弾頭の成分が体内に回る仕組みだ」
「タンザナイトの魔石を持つ生物への弱体化を付与するって事?」
「そうだ。タンザナイトだけなら不可能だったが……聖獣の一部の材料と、アンドロニカスが探し求めていたそれらを相手に埋め込む方法である『融合』のおかげで出来上がった弾丸だ。ちなみにだが……予測では弱体化なんて生易しいものじゃない。魔石で出来た物なら一瞬にして灰に出来るほどの恐ろしい毒だと思ってくれ」
そう言って、直哉が僕に再度銃を手渡す。
「この銃自体も、中の弾丸の効果が変わらないように配慮した特注の銃でな……すまないが1発限りの切り札だ。その性質上、アイテムボックスに入れるのは止めといた方がよくてな……」
「そこで妾の出番じゃ……」
そう言って、先ほどからグラタンを黙々と食べて、口周りがホワイトソースで汚れたマナフルさんが、和服柄のガンホルダーをどこからか取り出す。
「これに妾特製の魔法を掛けておいた。この中に仕舞っておけば魔法無効の効果も何回かは防げるはずじゃ。無くすんじゃないぞ?」
「ありがとうございます。ちなみにですけど、このガンホルダーってまさか……」
「泉に頼んだ。頼んで1時間でお届けとは……恐ろしいほどの服飾技術だな」
そう言って、苦笑いする直哉。僕はその銃をすぐさま用意されたガンホルダーに仕舞い込み、足に取り付ける。
「似合ってるぞ」
「それはどうも」
「……こちらの出来ることはこれだけだ。後は……お前の戦闘技術に賭けさせてもらうぞ。外すなよ?」
そう言って、直哉が拳を付き出すので、僕はそれに対して拳を当てて返事を返すのであった。




