478話 懸命な調査の成果は
前回のあらすじ「『ヘルメス』の魔石の効果が判明」
―マナフルさんとの会話から1週間後「コンサートホール・ホール内」―
「調査結果だけど……かなり面倒な罠だな」
「ええ。これだと飛行魔法を使って侵入した瞬間に落ちてしまいますね」
「そうなると……飛行機などによる侵入、もしくは降下作戦ですかね」
「そうなりますね。けど、名のある部隊が命からがら撤収したということですし……慎重に人選しなければ……」
「そうなるとですね……」
前にいる2人の男女がそんな会話をしている。このような会話をしているということは、軍事に関わる仕事をされているのだろう。英語で話をしているので、英国圏だとは思うが……具体的にどこなのかは分からなかった。
「周辺のヒビは徐々に大きくなっており、このまま放置した場合、この世界にどのような悪影響を及ぼすのかは不明です。また、浮遊城のある空間ですが……確認できた内容で報告しますと、周辺に浮遊城よりも小さい浮島が無数にありました。広さに関してですが……未知数。専用の自動型ドローンの機体情報から、片道でおよそ500kmは飛行しています」
「(どのくらいの距離なのです?)」
「(うーん……東京から京都とか滋賀ぐらいかな?)」
浮遊城の裏側はグージャンパマと繋がっているので、あの空間を使って地球からグージャンパマへと移動するだけなら、せいぜい数キロ程度だろうが、あの空間自体はかなり広大なようだ。
「(どんな空間なのか調査を頼んできますかね?)」
「(いや……無いと思うよ。あの浮遊城にいるゴスドラを倒したら、今開いている出入り口がどうなるのか分からないしね)」
僕とレイスは小声で意見を交わしつつ、報告を聴き続ける。その後、別の人に変わり、浮遊城の周辺で何かしらの異変が起きていないか調査していたグループの代表の話になるのであった。
マナフルさんから話を聞いてから1週間、ドローンによる浮遊城の調査が終わったということで、多次元総合会議が行われたホールに妖狸の姿でやって来ており、現在、席に座り静かに報告を聴いている。その隣には妖狐姿の泉たちもいて、同じく真剣に話を聴いて……。
「(凄い……あの人の身に着けている装飾品。全て高級ブランド品だよ)」
「(ほへー……でも、他の人はどうッスか? ここに出席するぐらいだから、ここにいる全員結構な金持ちだと思うッスけど……)」
「(あそこの人とかは市販品だと思うよ? 後は……)」
「(2人とも……)」
「(ファッションチェックしてないで、しっかり話を聴こうね……しかも、これ生放送されてるんだからさ……)」
僕とレイスは真面目に話を聴いていない2人に注意して、壇上で話をしているカイトさんに視線を戻す。ちなみにだが、この報告会は関係者以外にも向けたものであり、カメラを通して全世界に放送中である。そのため、奇抜な格好をしている僕たちがふざけてたり、居眠りなどしていたら非常に目立ってしまうだろう。
「今回の調査で分かった事だけど、魔法を無効化するバリアみたいなのが張られていて、そこを通ると、今度はこのモンスター共に襲われる」
カイトの後ろにあるスクリーンに、イリスラークの施設で戦った事のある人の死体に機械が混ざったような魔獣であるギアゾンビが映し出される。そして、そのギアゾンビが着ているボロボロの衣服は囚人服や看守服……つまり、この刑務所で殺された方々なのだろう。
「以前、とある施設で発見された人工魔獣であるギアゾンビに似た魔獣が建物周辺を徘徊している。ドローン1機を接近させたところ、例の魔法無効化を使われて落とされそうになった。そして……肝心の建物内だが……」
カイトさんがそう言って、スクリーンの映像を再び再生するとドローンが入り口から侵入したところでいきなりドローンの映像が乱れ、そのまま真っ暗になってしまった。
「このように撃墜。他の箇所からの侵入を試みたのだが、セキュリティが高く、また電波の影響でこれ以上の侵入は不可能だった」
「つまり……建物内が今現在どうなっているのかは不明ってことですか?」
「そうです。よって……現在もあの建物内にゴスドラが潜伏しているのか、ゴスドラが何を企んでいるのかも不明です」
そこで会場内がざわめく。浮遊城が発見されてから1週間経過しており、その間に様々な方法を用いて浮遊城の調査が行われていた。その結果、建物外はある程度の調査結果は出たが、内部に関しては全く成果を上げられなかったという事に、周囲の出席者は驚きのようだ。
「(どう思うのです?)」
「(むしろ、どうして浮遊城周辺が無防備なのか気になるかな……ゴスドラなら、ドローンが飛んでくる可能性も考慮していただろうし、必要な対策を取ると思うんだよね。例えばドローンガンとか……)」
ドローンへの対抗策の1つであるドローンガン。ジャミングガンとも呼ばれる武器であり、妨害電波を放つことで、ドローンを墜落させることが出来る。テロリストであるゴスドラならもっとも警戒する相手なのだから、手に入れた力でそのような魔法を作っていてもおかしくないだろう。
「(ドローンガン……そんなのあの城内部に置かれているのです?)」
「(あくまで例だよ。それに、実際に飛んでいるドローンが1機撃墜されていることだし、何かしらの遠距離武器はあるとは思うんだよね)」
「(確かに……)」
「それでアレをどうするべきだと!?」
「早く行動を取るべきなのでは?」
すると、出席者の中から浮遊城に対して、何かしらのアクションを取るべきでは無いかという声が上がり始める。地球とグージャンパマを繋ぐ得体の知れない謎空間……そんな不安な物をいつまでも放置し続けることに不安を持つ人たちがいてもしょうがないだろう。と、僕がそう思っていると、出席者の1人がこちらへと向かって指を差した。
「そこにいる彼女達を派遣すれば万事解決なのでは?」
出席者の1人が僕たちに指を差したまま、そのような訴えをする。僕たちの素性を知っている人ならこんなことをする訳が無いので、この出席者は何も知らされていない賑やか担当で呼ばれた人なのかもしれない。
「いや……その……」
壇上にいる進行役の方が戸惑っている。それもそのはずであり、僕たちは今日の報告会で発表する予定が入っていない。今日はあくまで報告を聴きに来ただけ、僕たちは話を振られても、それを無視して良い立場である。
「(どうするの妖狸?)」
「(無視。と言いたいけど……こうも注目されちゃうとね……それに)」
僕は先ほどから視界の端に入っていた壇上にいるカイトさんへと視線を向ける。すると、両手を合わせてお願いのポーズをして、差支えの無いように話してくれと頼まれてしまった。
「全く……ちょっと行ってくる」
僕はそう言って、レイスと一緒に『飛翔』の魔法でその場から跳んで、壇上に向かってゆっくりと着地する。そして、カイトさんからマイクを受け取って、先ほどの出席者の訴えに反論する。
「この場をお借りして私共の意見を申し上げさせてもらいます。まず、私共が出撃すれば万事解決かというご意見ですが……そうとも限らないというのが回答になります。何せ相手はテロリストとして活動をしていて、頭の切れる相手です。もしかしたら、あの浮遊城は私共を一網打尽にするための罠の可能性もあります」
「つまり前に出る気は無いと?」
「今すぐは無いです。もう少し、準備を整えてから……」
「そう言って、報酬を吊り上げる気じゃないのか!」
「そうだそうだ!」
僕たちがすぐに出ないと話すと、出席者の中から罵声が起きる。何でもかんでも魔法の力で解決できるんだろうと思っているらしく、さらに僕たちが今になっても出撃しないのは報酬の値上げが目的と思っているとは……実に浅はかな考えである。さて、どうやってこの場を収めようかと考えていると、そこに「パンパン!」と手を叩く音が、マイクの力も借りてホール内に響き渡る。それによって罵声を上げていた出席者たちが静かになる。
「あらあら……寄ってたかって女性に言いがかりを付けるなんて恥ずかしくないのかしら?」
そして、その音を鳴らしたショルディア夫人が口を開いて、罵声を上げていた出席者たちを窘める。罵声を上げていた出席者たちは反論しようとするのだが、ショルディア夫人の鋭い眼光を見て怖気付いて黙り込んでしまった。その気迫はとても迫力があり、関係の無い出席者たちも口をつぐんでしまった。
「彼女達は危険を顧みず、浮遊城に出撃する意思を示しているのに、対してあなた達は安全な場所から愚痴を零すだけ……当然だけど、私達は彼女達を支援するし、擁護もするわよ? それとも、彼女達に替わって、あの浮遊城に侵入してくれるかしら?」
ショルディア夫人がそこでさらに目を細め、罵声を上げていた出席者たちに向かって睨み付ける。睨み付けられた出席者たちは顔を明後日の方向に向けたり、下を向いたりして視線を合わせないようにしている。
「(全く……誰が罵声を上げていたかなんて、すぐに分かることなのに無駄な足掻きをするなんて……あなたのような勇猛な男性はいないようね)」
「(そうですね……まあ、彼らの気持ちも分かるんですけどね)」
他の人たちに聞こえないように僕たちは会話をする。その後、この報告会が終わった所で、今度は別の場所で作戦会議が行われるのであった。




