474話 次元の狭間に建つ浮遊城
前回のあらすじ「ラスボス登場!」
―お泊り会から数日後「薫宅・居間」―
お泊り会から数日経ったある日の朝、テレビから流れるニュースに僕とレイスは釘付けになる。
(現在、太平洋側の日本近海に空飛ぶ城のような物が現れ、近隣住民から不安の声が上がっています)
そこで、画面が切り替わり、空の一部がひび割れて夜の暗さとは違う暗い空間が歪な円形状に広がっており、その中心には抉られた大地の上に立つ歪な形をしたお城のような物が浮かんでいた。
(現在、周囲には避難警報が出ており、近隣のお住まいの方々は警察、自衛隊の指示の元に避難して下さい……)
「これって……例の刑務所なのです?」
「それしか考えられないと思うけど?」
明らかに、グージャンパマの魔法という力が無ければ作ることが不可能な浮遊城。ニュースでもグージャンパマとの関係性があるんじゃないかとコメンテイターの人たちが話をしており、そこから、これの危険性だったり、国はどう対応するのかという話題へと変わっていった。僕とレイスはそのニュースを静かに見ているとスマホに着信が入る。
「誰からなのです?」
「えーと……直哉からだね」
僕はスマホをスピーカーにして通話を開く。そして開口一番に「ニュースを見たか?」と訊いてきた。
「見てる最中だよ。あそこにゴスドラがいるんだよね?」
「確証を得られていないが……まあ、間違いないだろうな。こっちはアレの対処のため大忙しだ」
直哉との電話越しに聞こえる大勢の人々の騒めき。聞き耳を立てると、アレの情報収集のために様々な案を出し合っているようである。
「僕たちもそっちに来た方がいいかな?」
「お前達は待機でいいぞ。調査は任せろ……で、話はそれだけじゃなくてな……」
「こちらも大変なことになってます」
「マクベス?」
「はい。そうです」
直哉と替わって電話越しに話すマクベス。僕が何が大変なのかを訊く前に、マクベスがグージャンパマで起きている異変について説明を始める。
「あの城がこちらにも出現してます。恐らく、同一の物かと」
「つまり……アレは地球とグージャンパマの次元の境界上にあるという事なのです?」
「その通りです。あの城は地球とグージャンパマの間……次元の狭間と言える場所にあります。そして、この状況……かなりヤバいです」
「どのくらい?」
「地球とグージャンパマ……2つの世界の終焉へのカウントダウンが始まってると思って下さい」
「空間に穴が空いている状態……通常ではありえない状態だ。そして、あの穴は今も大きくなっている。何もせずに放置し続ければ……」
「あの次元の狭間に全て飲み込まれる?」
「かもしれない……何せ、今までに無い異常事態だからな。何が起こるのか予想できない。だが……いつ、この世界が終わってもおかしくない程に不安定だと予想している。」
そこで、一旦会話が途切れる。突如として訪れた世界終焉の危機。しかも、いつ終わってもおかしくないというのは冗談であって欲しいところである。
「うかうかしてられないね。すぐに動けるように準備を整えておくよ。とりあえず、時間を空けないといけないから、執筆を終わらせておかないと……」
「こっちは出来るだけ情報を集めておく。早ければ数日中には出発することになるから、準備を整えておけ」
「今回はこの前の戦い以上の総力戦になるでしょう。もちろん、その時は自分も出ますのでよろしく」
2人はそう言って、通話が切れる。僕は梢さんにすぐ連絡を取って時間を空けてもらえるように頼み、その後、小説家としての仕事を終わらせるために自室に閉じこもるのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―ラスト・クエスト「終刻の時」―
内容:次元の狭間に続く穴が広がっており、このままだと2つの世界が飲み込まれてしまいます! 全力をもって、浮遊城へと侵入し原因となる存在を倒しましょう!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―その日の夜「カフェひだまり・店内」―
執筆を終わらせた僕はレイスを連れて晩御飯を食べに『カフェひだまり』へとやって来た。すると、店内には泉たちの姿があり、他の客はいなかった。僕はカウンター席に座り、レイスは泉たちと一緒にテーブル席に座って談笑を始めた。
「いや……ラグナロクを迎えるとは思わなかったかな」
「神々の黄昏ってやつッスね! 何かそう考えると燃えてくるッス!」
「まあ、ある意味ラスボス戦……いや、裏ボス戦のようなものだもんね」
出来た料理を食べながら、今の状況をゲームで言う所の裏ボス戦と例える泉。その言葉にあみちゃんたちが苦笑いを浮かべている。
「こんな時でもお二人とも平常運転なんですね……」
「だねー。とまあ……私も状況をしっかり飲み込めないせいか、世界が終わるなんて信じられないんだけどね……」
「そんなものじゃないかしら。私も他人事のように思えるもの」
昌姉が今の自分の心境をそう話す。店内にいる僕も含めた全員がそんな気持ちだろう。いきなり世界が滅びますと言われても実感できる人はそう多くはいないはずである。
「薫。それでいつ出発するんだ?」
「数日中に行く予定だよ。その前日にブリーフィングがあると思うから……決まり次第伝えるよ」
「数日……か。準備期間にしては短いな……俺達に何かできることはあるか?」
「なら……ワインに合う料理を用意してくれる? マナフルさんやゴルドさんにも協力を得てもらうために交渉の手土産に持っていきたいんだけど」
「任せろ。お前達は命を張ってるんだ。この位お安い御用だ……それで、いつ取りに来るんだ?」
「ゴルドさんは明後日かな。マナフルさんは……今度、来訪の連絡が来たら連絡するよ」
「それ……間に合うのか?」
「マスターの言いたいことも分かるんだけど、どこに住んでるのかは分からないからね。あっちが察して来てくれると……」
僕とマスターがそんな話をしていると、お店のドアを誰かが叩く音が聞こえた。それを聞いて、精霊であるレイスたちが隠れたところでゆっくりと雪乃ちゃんがドアを開けると、その足元を1匹の白い犬のような姿をした聖獣……マグナ・フェンリルのマナフルさんが店内へと入って来る。そして、そのまま僕の座っているカウンター席の隣にやって来て、僕に話し掛けて来た。
「妾を呼んだか?」
「呼びましたけど……どうしてここに?」
「あっちでかなりヤバい気配を感じてな。カーターという男が住んでいる屋敷の『異世界の門』を使ってこちらへと来てみたのじゃ。こちらでも同じ気配を感じているのじゃが……アンドロニカスとか言う奴が可愛く思えるのう」
「マナフルさんがそう言うなら、お相手は正真正銘の化け物のようですね」
「ふむ……このヤバい気配が何なのかを、やはり知っているようじゃのう。妾に説明してもらってもいいかのう?」
「もちろん。ただ……ここまでいらしたのですから何か食べませんか? 何かご要望があればこちらのマスターがそれに見合った料理をご用意しますよ」
「ふむ……そうじゃのう。ならば魚介類を使用した料理を頼むとするか。料理にすると魚介類の生臭さが無くて美味いからのう!」
マナフルさんの話を聞いたマスターが少しだけ考えた後、鮭のムニエルとアクアパッツアの2つを提示する。マナフルさんは特に考える素振りを見せずに、その2つを注文する事にした。マスターは料理を作るために厨房に行ってしまったので、料理が出来る間、僕は店内にいるみんなと一緒にマナフルさんに現状の報告をしていくのであった。
マスターの料理が出来た後も説明は続き、マナフルさんが料理を食べ終えた頃にやっと話が終わった。
「なるほど。『ヘルメス』という生きた魔石が先日の戦闘の黒幕だという話は聞いていたが、まさかそれが生き延びていて、短期間でここまでの力を溜め込んだと言う訳か。いやはや世界消滅の危機とは……」
「『ヘルメス』の関与はあくまで予想ですけどね。それで、マナフルさんにもご協力をお願いしようと思って、料理を土産に相談しに行こうとしてたんです」
「そして、そこに妾が丁度良く来たという訳か。いいじゃろう。世界が無くなってしまえば、妾も死んでしまうからのう。協力してやろう」
「ありがとうございます」
幸先よく、マナフルさんに協力を得ることが出来た。後はゴルドさんたち竜人にも協力を仰ぎたいので、明日は会う約束をしてこようと考えていると、またしてもお店のドアが外から叩かれる。
「こんばんは! シシルですが入ってもよろしいでしょうか?」
店のドアを叩いていたのがシシルさんだったのを知り、彼女を店内へと招き入れ、彼女の用件を聞き始める。
「サルディア王から「明日、お城に来て欲しい」とのことです。今回の件に関して相談したいことがあるようで、少しお時間を頂きたいそうです」
「それって、私達もかな?」
「はい。出来れば皆さん揃って来て頂ければ」
僕と泉、そしてレイスとフィーロの4人で一回、明日の予定が空いているかを確認してから、明日の午後に伺うことを伝える。すると、シシルさんは僕たちの返事を聞いてすぐさま店を後にしてしまった。
「あちらも忙しそうね」
「そうみたい」
シシルさんの姿を見て、僕と昌姉は今の現状の深刻さを改めて実感するのであった。その後、僕とレイスはマナフルさんを連れて自宅へと帰宅。明日のために早めに寝床に就くのであった。




