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472話 嵐の前の静けさ

前回のあらすじ「ゴスドラ脱獄に成功」

―ゴスドラの脱獄から2日後「ショルディア夫人宅・応接間」―


「これが唯一生存を果たしたアルファ部隊が手に入れた情報よ」


 ショルディア夫人の話が終わると同時に映像が流れ始める。けたたましい銃撃音を上げ、アルファ部隊の人たちが人型の何者かと戦闘を繰り広げていく。その人型はしっかりとした人の形をしているのだが、背中から生えていると思われる3つの副腕、体に組み込まれている金属がただの人間ではないことを示していた。


「これがゴストラか……顔が無かったら別人だと思ったがな」


「私もよ。何せ……ゴストラはその前日に刑が執行されて死んでるわ」


 ショルディア夫人のその発言に室内がざわめき出す。つまり、このゴストラは死体ということらしい。言われてみれば、ゴストラは一言も言葉を発しておらず無言を貫いており、映像だから確かな事は言えないが呼吸をしていないように見える。また、その顔に血は通ってるようには見えなほどに白く、唇は青く変色している。


「死刑方法は?」


「電気椅子よ。前日の正午に死刑執行し、その12時間後に霊安室に安置していたら動き出したそうよ」


「質問なんですけど……体内に何か仕込んでいたんですか?」


「その可能性は十分にあり得たから、投獄する前に徹底的に調べてその可能性は潰してあるわ。だから、その可能性はかなり低いわ」


「なら、その後はどうだ? 特にアンドロニカス討伐の直後だが……」


「調べていないわ。ただ、監視カメラなどで常に見張っていたから、何か怪しい動きがあればすぐにでも分かったはずよ」


 そう言って、首を横に振るショルディア夫人。ゴストラのこの変化を考慮すると、明らかにグージャンパマの何かしらの力……しかも、とびっきり強力な力の影響を受けていると考えられる。そして、今現在考えられるものの中で一番可能性があるのは『ヘルメス』の魔石しかないだろう。


 そうなると、どのタイミングっでゴストラと『ヘルメス』の魔石が接触したのかになるのだが、『ヘルメス』が地球にやって来た日から、ゴストラが死んでから異形化する前の間には違いないだろう。ここで普通ならゴストラが死ぬ前と考えるのが普通なのだろうが、生きた魔石である『ヘルメス』の力を考慮すると、ゴストラが死んでいてもその体を媒体にする位は可能な気がするからだ。


「それで……今、ゴストラはどこへ?」


「刑務所内にいた囚人や看守、そして自身の仲間を生死関係なく異形化させていったのが確認できたわ。ただ、途中で監視カメラを壊されてしまったから、その異形化された奴らがどれだけの数いるのかは不明。そして……刑務所ごと姿を消してるわ」


「刑務所ごと?」


「そうよ。刑務所を含んだ土地の一部がスプーンでくり抜かれたように消失していたわ。ちなみに周辺に異形化した存在は確認されていないわ」


「嫌な予感がするな……」


「はい」


 ショルディア夫人が別の人の質問に答えている間に、僕はオリアさんとこの事件についてお互いの意見を出し合い始める。


「君の予想でいいが……ゴスドラは生きている間に『ヘルメス』と接触したと思うか? それとも……死んだ後か?」


「僕としては生きている間だと思います」


 僕はそう言って、資料として配られていたゴスドラの独房の見取り図と実際の写真が掲載されているページを開いて見せる。


「ここ。監視カメラの死角になってるんですよね」


 僕は監視カメラのすぐ下が死角になっていることを指摘する。かなり極小のスペースだが『ヘルメス』の魔石ならギリギリ映らないスペースであり、その監視カメラの上には人は通れないが『ヘルメス』なら移動できるぐらいのサイズの換気口もある。


「定期的に看守による見回りがあるみたいですが……もし、ここに奇跡的に『ヘルメス』が転移したとしたら? もしくは、この換気口を通ってゴスドラの部屋に到達したとしたら?」


「うむ……可能性としては無くもないな。そもそも、相手は未知の存在。その位は出来てしまうと考えた方がいいだろう。もしくは……会った時の監視カメラの映像は魔法による影響を受けており、そのシーンだけが書き換わっているとか……」


「それもゼロじゃないのが厄介ですね」


「ああ。それで……ゴスドラと『ヘルメス』は次にどのような行動を取ると思う?」


「どちらが主人格なのか、それとも2つの意識が混ざり合った状態なのかで変わってくると思うんですが……」


 ゴスドラと『ヘルメス』……その2つが脅威に感じており、恨みを持っている相手。それは……。


「日本……いや。僕を狙ってくるかもしれないですね。何せ、ゴスドラと『ヘルメス』の両方に関わっていますから」


「だろうな……その可能性は否定できない」


 オリアさんは腕を組んで静かに考え始める。どちらが主人格とか2つの意識混ざり合っているとか考えたとしても、この世界に何かしらの深刻な被害を与えることしか予想できない。そして、これほどの脅威が野放しになっているのだ。こうなってしまった以上、僕たちは相手の行動を先読みし事前に待ち構えないといけない。


「面倒な君を潰しにくるか……それとも、弱者を痛めつけ、奪うのを優先するか……だな」


「ゴスドラが主人格なら裏工作などを仕掛けてくるかもしれないですね」


 組織としてのヘルメスの主な活動は強盗である。そう考えると、新たに手にいれた力でそのような活動を再び行うかもしれない。


「逆に、『ヘルメス』が主人格ならこちらの科学技術の知識を取り入れ、新たな兵器を生み出し、それによる世界規模の破壊活動をするだろうな」


「はあ~……最悪の事態ですね」


「うむ……ただ、ここまでの偶然が重なるものだろうか? 黒の魔石の力を使って、犯罪行為をしていた連中の元に『ヘルメス』の魔石がやって来る……」


「偶然と片づけるのは難しいですね……ゴスドラに何かしらの原因があるのかも」


「……ということで、各自警戒をするように。ここも襲われる可能性のある1つなのですから」


 そこで、この会議は解散となったので、僕とオリアさんの話も切り上げる。オリアさんはこの後、ゴスドラの行方を調べるということで屋敷を後にする。そして、僕もショルディア夫人に一度挨拶をしてから、自宅へと戻るのであった。


「ただいま……」


「あ、おかえりなさい」


 自宅に戻ると、お泊り会の準備をしていたユノと泉たちが出迎えてくれた。その後、お泊り会に来たあみちゃんたちも含めた皆と夕食を取りつつ、今日の話をする。


「……ってことらしいんだ」


「ショルディア夫人に呼ばれた理由って、そういうことだったのですね」


「緊急連絡って言うから、何があったかと思ったッスけど……予想以上にヤバそうッス」


 レイスとフィーロが夕食のハンバーグを食べながら話を聞いている。今日の夕食は急用で留守にした代わりに、ユノたちが作ってくれた手作りハンバーグとサラダであり、僕はそれらの料理を楽しい会話で味わいたかったなと思いつつ料理を口にする。


「それ……私達も聞いていいんですか? ただのアルバイト店員なんですけど……」


「事情を知っている2人にも危険が及ぶかもしれませんから、聞いてもらった方がいいと思いますよ。もし、何か異常があれば、すぐにでも笹木クリエイティブカンパニーかアザーワルドリィに避難していただいた方がよろしいかと」


「そんなことが起きるんですか?」


「可能性はかなり低いと思うけどね。私や薫兄達みたいに直接関わっていないし」


「そうそう。だから2人にとってこの話はもしかしたらの話で覚えておいて欲しいかな」


 僕たちの話を聞いてあみちゃんと雪乃ちゃんが頷く。可能性はかなり低いが、どんなことが起きるか分からない以上、僕たちと関わりのある人たちには話をして用心してもらわないと……この後、母さんたちや昌姉たちにも連絡しておかないと。


「それで……私達は何をするの?」


 すると、泉が自分たちは今回の件で何を頼まれたのかを訊いてくる。ここまで深刻な話なのだから、魔法を使える僕たちに当然それに関する依頼とか頼まれていると思ったのだろう。


「特に無いよ。とりあえず戸締りをしっかりすることかな。それと、泉たちはしばらくはカーターの家に住まわせもらった方がいいかもしれないね」


「それもそうッスね……一緒に暮らすんッスから、結婚してからと言わず、今から生活を始めても問題無いッスよね?」


「うーーん……とりあえず相談してみる。多分、問題ないとは思うけど。むしろ薫とレイスは大丈夫なの?」


「ここは大丈夫だよ? 特に蔵には夜通し見張ってくれるシャドウの方々がいるし……他にも色々と護衛が付いているみたいだし……」


「それは……安心ですね」


「ということで……しばらくは普通に生活かな。もちろん、出撃の準備もしつつね」


「やっぱり行かれるんですね?」


「恐らくそうなるだろうね……銃弾が利かない相手となれば、僕たちが対処しないといけないだろうし」


「私も。ここまでやってきたんだから……最後まで付き合うかな」


「お母様の後を継いで女王になる身……自国のためにも付き合うのです」


「3人がやる気がある以上、うちも付いて行くッスよ!」


 そう言って、僕と泉たちは今回の件に関わることを決意する。世界平和とかそんな大袈裟な話ではなく、自分の大切な物とその未来を守るため……ただ、それだけの理由で戦う。そう覚悟を決めたと同時に、泉が思っていたことを口にする。


「これがゲームでよくある最終決戦ってやつかな?」


「……何かその一言で台無しな気がする」


 泉のその言葉に、僕はそう言葉を返すのであった。その後、予定通りにお泊り会が行われ、先日、発売された新作のレースゲームを皆で楽しむのであった。

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