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469話 夢幻泡沫

前回のあらすじ「プロポーズ大成功!」

―「コンサートホールに隣接するビル・展望室」泉視点―


「お母さん? お父さん?」


(……)


 私の戸惑う声に、困ったような表情を浮かべるお母さんとお父さん。それを見た私はこの後どうなるのか悟ってしまった。


「待って……もう行っちゃうの?」


 2人に対して私がそう訊くと、2人はゆっくりと静かに頷く。


「なるほど……そろそろ終わりか」


 直哉さんがそう言うので、私は他の蘇った人達を見ると、それぞれお別れを告げるような素振りを見せており、話をしていた人達は悲しそうな表情を浮かべていた。


「待って! せっかくまた会えたのに……」


 私は2人にまだここにいて欲しいと懇願する。頭の中では理解している。一度亡くなった死者がこの世に留まることは出来ない。いずれは泡沫ように儚く消えていくというのも。


「よし! お前に最高の演奏を聴かせてやるからな! しっかり昇天させてやる! なあ、皆!」


「ええ!」


「仕方ねえな……成仏させてやるか」


「そんな歌詞あったな……それでも歌ってもらうか?」


「雰囲気ぶち壊し! そんなんだから、この子にフラれたんだよ?」


「ちょ!? お前な!」


 すると、1人の女性と話しているバンドマンの人達が楽しそうな会話をしつつ、薫兄と演奏の打ち合わせを始めようとうする。そこで、薫兄は私の両親に最後の挨拶を済ませると、バンドマンの人達と一緒に和やかな雰囲気で打ち合わせを始めた。あの亡くなった女性とまた離れ離れになるというのに。


「人生は出会いと別れの繰り返し……時には永久の別れもある。あの方達はそれを悔いの無いように頑張ってるのよ」


 そこにカーターのお母さんであるソフィーさんが、そっと私の肩に手を当てて語り掛けてくる。


「泉さん。僅かな時間……あなたも悔いの無いように最後の時間を楽しみましょう」


 そう言って、ソフィーさんが私に優しい笑みを見せる。それを見た私は今度は前にいる両親へと視線を向けると、同じように優しい笑みを浮かべていた。


「……分かりました。ありがとうございます」


「義理の娘になるのよ? 頑張り屋のあなたにこの位は当然……ねえ?」


 ソフィーさんが私の両親にその言葉を投げかけると、2人共静かに頷いて、自分達の替わりに、私のことを頼み旨を伝える。


「もちろんよ。ねえ、あなた?」


「うむ。リーブル家の名の元にお約束しましょう」


(ありがとうございます……)


「さて……まだ、両親に話していないことがあるんじゃないか泉?」


 すると、タイミングよくカーターさんが話に入って来て、両親への何かしらの話があるんじゃないかと話題を振って来る。それを聞いた私は「もちろん!」と返事を返し、そこからグージャンパマでの冒険談を残り僅かな時間で可能な限り話し始めるのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「コンサートホールに隣接するビル・展望室」―


「じゃあ……よろしくお願いします」


「分かりました」


 打ち合わせが終わり、僕は再びマイクを手にする。先ほどは死者を迎えるために歌ったが、今度はあの世に無事に還れるように祈りを込めながら歌う。


「ユノはいいの?」


「泉のご両親が薫を指定したことに意味があるかもしれないので、私は観客側に回ります。それに……旦那様の素敵な歌声を聴くのも悪くないかと」


「あはは……」


 その素敵な歌声がハスキーボイスでカッコイイ歌を歌うのではなく、高音で歌姫のような声で歌うので、自分としては素直に喜べない。今度、機会があれば男らしさのある曲でユノを喜ばせれば……。


「ハスキーボイスのお姉さんがカッコよく歌ってるで終わりだと思うのです」


「だから、心を読まないでよレイス……」


 レイスの言葉に少々気落ちしつつも、歌うための準備を進めていく。その際、泉たちの様子を確認すると、カーターの家族と一緒に両親と楽し気に会話をしており、その様子を母さんたちが優しく見守っていた。


「笑顔で良かったですね」


「うん」


 皆の楽しそうな姿にホッとする僕。今更だが、亡くなった両親と合わせるという方法を選択した事に多少なり反省をしている。泉の両親が泉を恨んでいないのは間違いない。けど、この『ワンモアタイム』で呼び出された死者が歪んだ性格で呼び出される可能性もあったし、もしかしたら、両親のどちらかしか呼べなかったり、どちらも現れず他の人達には現れた様子を見て、両親が恨んでると勘違いさせる可能性もあった。結果は万事良しだったとしても、それらの可能性もあったことを忘れてはならないだろう。


「薫、難しい顔は今は無しですよ」


 そう言って、笑顔で僕の顔を覗きこむユノ。そのユノの笑顔を見て、反省するのを止めて、しっかりと歌を歌えるように気を引き締める。


「こっちはオッケーです!」


「俺も……」


「薫さんはどうですか?」


「いつでも大丈夫ですよ」


 お互いに準備が整ったところで、バンドの方々がもう一度先ほどの曲の演奏を始めようとする。すると、そのタイミングでステージの周りに展望台にいた人たちが集まり始める。どうやら、亡くなった人たちがステージに集まろうとして、それに追随して他の人たちも集まったようである。


「どうして集まってるのです?」


「なんだろうね?」


 歌をより近くで聴くため……と結論付けてもいいのだが、この普通じゃない状況ではそれが理由となるのかはっきりしない。それと、もう1つの原因として考えられるのは、発動中の『ワンモアタイム』の魔石を僕が持っているからというのもありえる。魔石は先ほどより弱々しい光を放っており、いつ魔法の効果が切れてもおかしくない状況である。だから、この魔石の効果で呼ばれた亡くなった人たちは少しでも魔石の力の恩恵を受けるために集まって来たのかもしれない。


 そんなことを考えているとバンドの演奏が始まったので、僕は歌に集中する。すると、歌い始めた瞬間に、亡くなった人たちの形を作っていた青白く光る粒子が少しずつ、上へと昇りながら消失していく。すると、あかねちゃんが展望台の窓の方に視線を向けていたことに気が付いて、そちらへと視線をずらすと、窓の向こう側でも同じ現象が起きており、暗い夜空を背景に見えるそれは、まるで夜光虫の群れが天に昇って行く様子にさえ見える。そして、その夜光虫の群れの数だけ蘇った人たちがいるのだろう。


「(外にもこんなにいたのですね……)」


 僕の肩に座っているレイスが外の状況を見て、誰かに話すわけでもなくボソッと呟く。その感想には同意であり、まさか『ワンモアタイム』の魔法でこれほどの人たちが呼ばれていたのかと思っていた。


「……!」


 声が聞こえた気がして、視線を前に戻すと泉が泣きながら、徐々に薄くなっていく両親に何かを伝えていた。何を話しているのかは全ては聞き取れなかったが、「生んでくれてありがとう」とか「幸せになるから」とかそのような感じの事を話していたと思う。そして、歌も最後のサビの部分になると、亡くなった方々は本当に薄っすらとした存在になり……そして。


「……」


 歌が終わり、ピアノの伴奏だけが展望台に響く。その伴奏が終わると同時に、実の娘に向かって手を振っていた泉の両親の姿は完全に消えてしまった。


「……ひぅ」


 両親がいなくなった途端に、泉はカーターに抱き着いて声を上げながら泣き始める。それは泉だけの話ではなく、ピアノの伴奏をしていた人も他のバンドメンバーに励まされながら泣いていた。


「ごめん……なさい……」


「いいんだ。気にせず泣いてくれ……」


 僕は泉とカーターの様子を静かに見守る。それは他の皆も同じであり、泉が泣き止むまで展望台で静かに待つのであった。こうして、僕たちの夏祭りの夜が過ぎていくのであった。

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