46話 武器を作ってみよう!
前回のあらすじ「研究施設見学中」
―薫が倒れてから十分後「魔法研究施設カーンラモニタ・第一研究区画」―
「……というのが雷の仕組みだ」
「なるほど……雲の中の氷がぶつかり合う事によって出来る自然現象ってことなのね」
「定説だがな。発生原理に関しては完全に解明はされていない。しかもだ。薫の出した魔法の雷がどのような仕組みなのかは分からない」
「というと?」
「人間が作り出す電気は磁石とコイルというのを使って作る。他にも火山の噴火によって起きる雷は砂の粒子がぶつかり合って出来たりすることもあるのだが……薫の使う魔法はどれに当てはまるのか……それともこれらとは違う未知の方法なのかは私にも分からん」
「これはとんでもない事実だな……というかアイツら黙っていないで報告しておいて欲しいものだ」
「全くその通りね」
「……言っとくがお前が原因だからな」
タオルの隙間から見るとワブーがカシーさんを睨みつける。はい。その通りです。カシーさんに教えると仕事にならないからと王様から緘口令が出されてました。
「とりあえず一度は見てみたい。薫か泉のどちらかのペアにやってもらうとしよう。だが、まずは今日の予定を済ましてからだ」
「そうね。先に用事を済ませるとしましょう」
「……話が終わったが、立てるか薫?」
「だいじょうぶ……少し良くなった……」
今、僕は目元にタオルを当て、さらに泉に膝枕してもらい寝っ転がっている……が、少し恥ずかしい。
「さっきよりは顔色が良くなってるッス」
「でも、無茶はダメなのです」
「大丈夫。もう良くなったから」
ゆっくりと起き上がる。少しくらっとするが問題無い。
「泉もありがとう。痺れてない?」
「大丈夫よ。薫兄そんなに重くないし……けど、妹(仮)に膝枕されるなんてチョットしたギャルゲーっぽいよね」
「あ。確かにそうかも。でも……恋愛に発展することは無いけどね」
ここは絶対に間違いない。そもそも泉の好みはシーエさんやカーターのようなカッコいい男性だ。僕はそもそも恋愛対象から外れている。一方、僕も妹のように接していたからそういう風に見ることは出来ない。
「とにかく、これで僕は地、水、雷に適性があって、泉には地、水、風に適性があるってことだよね」
「ええ。まさか2人して3色使いの魔法使いで、しかも薫の場合は珍しい雷の適正者。本当にレアだわ……」
「どれくらい珍しいんですか?」
「2色使いでも見つかれば国が大急ぎで使いを送って破格の内容で交渉すると思うわよ。3色使いなら下手すると私が直接交渉しに行くかもしれないわね。少なくてもこの世界で数百年は見つかってないわ」
「「数百!?」」
「そうなのですか?」
「うちらは実感が無いッスね」
「まあ、俺達精霊には関係のない話だからな。それはしょうがない……まあ、魔法使いになれる人物も少ないことだし……数百年見つからないのも頷ける話だとは思うが」
「それでもレアケースなんだね……でも、どうしてそんなに大切にされるの?」
「戦いで便利だからよ。私のエクスプロージョンは爆発によって敵を一斉に倒す。でも場所が町や森の中で使ったら大変なことになるでしょ。だからそういうところでは他の属性が優先されるの。そして、あなた達は3色使い。どんな場所でも臨機応変に対処できるからって重宝されるわ」
「せ、戦争はちょっと……」
「もちろんよ。あなた達は異世界の客人よ。この前のような時は頼むことがあるかもしれないけど戦争はさせないわ」
カシーさんがハッキリと断言する。流石に死ぬ可能性が高い戦争に駆り出されるのは勘弁して欲しい。
「それだから、これから魔法の練習するなら適性のある物を重点に練習した方がいいわ」
僕たちはそれを聞いて頷く。今度から魔法の練習はそれらをメインにやっていこう。
「ちなみに薫達に聞いときたいのだが……」
「うん? 何?」
「攻撃魔法の練習……何の為にするんだ? さっき話したワイバーンの件を除けば生活には不要だと思うんだが……」
「カッコいいから!!」
「なったからには極めたいわ!!」
「日々鍛錬なのです!!」
「中途半端はいやッス!!」
「……そうか」
そう言って直哉は額に手を当て、困った表情を浮かべる。まあ、普通に考えたらおかしいことを言ってるのは間違いない。けど……強い呪文が使えるなんてロマンがある。アニメにゲームのような自分だけの必殺技を持ちたいのは当然のことなのだ。
「そうしたら、次行くぞ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―それからしばらくして「魔法研究施設カーンラモニタ・第三研究区画」―
「そしたら次はここ第三研究区画よ」
あれからまた移動をしながら施設を見ていく。途中の第二研究区画では、他の研究員たちが魔石を使っての生活に必要な魔道具の開発をしたり、魔道具に取り付けるために必要な魔石の研磨、そして魔石に魔法を込める工程を見せてもらえた。
「さっきのは凄いな。水を浄化するための魔石を一気に短時間で作れるとは」
直哉の手にはその魔石が3個ある。その色は全て紫色をしていた。
「水を浄化するのに紫なんですね。てっきり青だと思ってた」
「一応、無属性に属するわね。それ1つで酒樽100杯分の水を1日で綺麗に出来るわよ」
「凄すぎるだろう! これを浄水がままならない地域に持っていったら大儲けできる……しかも半永久的に動くとは……」
直哉が浄化の魔石の高スペックさに、こめかみの辺りを手で押さえつつツッコミを入れていく。
「くっ。とりあえずこれがどれだけの性能か、後でしっかりと測定するか……というよりこれを購入して、そのままあっちで売れば大儲け出来る気がしてきたぞ……」
「確かに売れそうよね。災害用の飲み水の確保にも使えそうだし」
「これと機械に薬品……組み合わせるとしたらどんな風にすればいいのか見当がつかないぞ……」
直哉が珍しく困っている。そんな難しい話だろうか?
「どれだけキレイになったか分からないから、センサーとか機器計かな?」
「うーむ。そうだな……まずはそれが必要か。いやまてよ? 精密機械の洗浄液として使えるかも?」
そう言って直哉はぶつぶつ考え始めた。
「どんなのが出来るかしら?」
「さあ。交換不要の浄水器とか出来そうだけどね」
「便利ですからねあの魔石は。水筒に入れてそれに水を汲めば清潔な飲み水の完成ですから」
「旅の必需品ッスよ!うちらも道具は捨てても魔石は取っておいてあるッス」
そういえば、2人のボロボロになった旅の道具を捨てる際に何かしてると思っていたけどそういうことか。
「魔石ってホント便利よね」
「うん」
「着いたわよ」
目的地に着いたので、話を一旦止めて前を見ると……そこには大きな扉があった。
「ここは?」
「武器の製造よ。魔法使い専用のね」
「魔法使い専用?」
「冒険者達や騎士達が使う武器は、単に魔石が嵌められるような窪みをつけて完成なんだけど、魔法使いは作成段階で魔石を使用して作らないと自信の魔法に武器が耐えられないの」
「へえ~……じゃあ、カーターやシーエさんの武器も?」
「もちろんだ。それと整備とかもここでやってるから、武器に異常があればここに来てくれ」
ワブーが扉を開けてくれたので、その部屋の中に入ると大きな窯とそれに繋がるように設置された魔法陣が2つあり、さらにその前にはドルグさんとメメがいた。
「よう!」
「待ってたわい」
僕たちは2人に挨拶を済ませ、さっそく武器の作成をお願いする。
「それで、今日はお前さんの武器と、この2人の武器の製造でいいんだな」
「ええ」
「カシーさんも作るんですか?」
「以前使っていたのが折れちゃってね。新しい物を作ろうと思っていたの。良い材料も手に入ったしね」
「良い材料ってもしかして……」
「お前らが倒したあの変異型ワイバーンの骨と魔石だ。これらを使えばいい物が出来るぞ」
「そうしたら。まずはお前らの武器を作るぞ。準備してくれ」
「分かったわ」
そう言って準備を始める。釜の中に細かくした魔石に骨……それと折れた杖を入れていく。
「材料ってこれだけ?しかも折れた杖をいれたけど?」
「魔法使いの武器は最初に出来た物を、こんな風に釜に入れて修復とか強化し続けてどんどん強くしていくのが普通だぞ。まあ、出来た後に細かい作業はするがな」
そう言ってドルグさんが釜を閉める。そしてカシーさんたちが窯と線で繋がっている魔法陣の中に入る。
「あっちの魔法陣は使い手の情報を釜に伝えるやつで、ほら。魔法陣から線が伸びて、釜の魔法陣に繋がっているのが分かるだろう」
確かに魔法陣同士繋ぐように伸びている。釜の魔法陣を見るともう1つ線が伸びていて辿るとドルグさんが今いる魔法陣とくっついてる。
「で、こっちは釜を調整する魔法陣ってわけだ。どう調整するかは……見てもらった方が早いか」
そう言って、カシーさんたちが片手を魔法陣に当てると魔法陣が発光し始める。すると魔法陣の線を伝って釜に施された魔法陣も光りだす。そのあまりの眩しさに、思わず目を覆った。
「眩しい!」
「ははは! 眩しいだろう? 最初はこんな風に強く輝くのさ! ドルグいくよ!」
するとドルグさんとメメの2人が両手を魔法陣に当てる。すると光が弱くなっていき、普通にしても問題ないくらいの暖かみのある光になった。
「これをキープし続けないといけなくてねぇ。これに関しては私達が一番なんだ」
「もうちょっと、出力高めて良さそうだ」
「あいよ!」
ドルグさんとメメは魔法陣に手を付けた状態で、時折、相談しながら作業が続く。
「少し強く……」
「ちょっと弱くだ」
2人がそんな会話をしながら、なおも作業は続いていく。その間、光は穏やかな発光をし続けており、そんな様子が10分程ほど続いた辺りで、窯の魔法陣の光がスッと消えてしまった。
「おっし! 出来たよ!」
ドルグさんが釜を開けると中には赤を強調したカシーさんの背丈ほどある杖が出てくる。
「ほお~。折れた杖が元通り……ではなく強化か。これはおもしろいな。今の材料でどうしてこんな形になるか分からんところが実におもしろい」
直哉がそんな感想を述べている中、カシーさんが杖を手に取る。そして杖の先端から炎の玉を作り出す。
「かなり強化されているわね……」
炎の玉を見て、どれだけパワーアップしたのかを確認するかカシーさん。前がどれほどなのか分からないが、カシーさんの驚いた表情を見る限りでは、かなりパワーアップされているのは間違いないだろう。
「そういえばベルトリア城壁までの道を開通させる時にも持ってきてたの?」
「ああ、持ってきてたぞ。2発で開通したんだが、その時の使い方に耐えきれずにへし折れたんだ……ワイバーン襲撃の時には、魔石使いが使用する杖で代用したけどな」
「へえ~」
「あれ? じゃあその杖を装備した状態ならどうなるんッスか?」
「この杖なら、この前の土砂もワイバーンも8匹まとまってれば一撃で仕留められるわよ」
その発言だが……いくらなんでも大幅に強化され過ぎではないだろうか? そんな物を地球で使われたら迷惑極まりないと思うのだが……果たしてこちらではどう思われるのだろうか。
「やっぱり使用した魔石と材料がいいわね」
「そうだな」
「なかなかに良いものが出来て良かったよ!」
そう言って、メメが杖を触ったりして細かく確認していく。
「うん。かなりいい感じ♪ 多少の無茶振りも大丈夫だよ!」
メメが満面の笑顔で答えていることから、かなりいい物だと分かる。
「では、少ししたら次の武器を作るとするかの。次は誰のにするかな?」
「私でお願いします!」
「泉。ノリがいいッスね」
「……薫兄の前にやっときたいの。絶対やらかすから」
「「「「ああ……」」」」
泉の意見に僕以外の皆が同意する。
「いや。納得しないでよ?」
「直前のお前のアレを見たからな……絶対、何かやらかす」
直哉が断言する。ただ武器を作るのにそんな事が起きるわけない。しかも、その武器を作るのはドルグさんたちであり僕ではない。だからそんな事が万が一の可能性で起きるということは無い……僕はそう思うのであった。




