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468話 泡沫の夢幻

前回のあらすじ「死者蘇生発動!!」

―花火が打ち上がる少し前「笹木クリエイティブカンパニー・お祭り会場」とある老人の視点―


「……ここも賑やかになったもんだ」


 娘家族に連れられてやってきた笹木クリエイティブカンパニーという会社が主催のお祭りにやって来た。本来なら足腰の悪くなった身なのだから、家で留守番してるつもりだったが、つい孫にせがまれてやって来てしまった。その足腰を労わるために、設置されていたベンチに座り、娘家族3人が金魚すくいをやっているところを後ろから眺めていた。


「いい家族になったな……」


 頑張って金魚をすくおうとする幼い孫を温かい眼差しで見守り応援する娘と娘婿。すると、3回目の挑戦にして金魚を上手く掬うことができ、その成功に3人して大喜びをしている。そんな姿を見て、この光景を婆さんが見ないままこの世を去ってしまったことは非常に残念である。


「お前がいたらどう思っただろうな……」


(素敵な家族だと思いますよお爺さん)


 ふと、懐かしい声が聞こえ、すぐさま横を振り向くと、死んだはずの婆さんがベンチに座っていた。ただし、その体は透けておりぼんやりと青白く光っていた。


「お前……なのか……」


(ふふ……そうですよ。どうしてここに来れたのかは分かりませんがね)


「俺は夢でも見ているのか……?」


 ありえない現実に、俺は夢を見ているのかと思ったのだが、その直後に俺の体にぶつかってくる衝撃によって、これが現実だと知ることになる。


「おじいちゃん。この人……だれ?」 


「あ、ああ。この人はな……」


「お母さん!?」


 すると、娘が驚きの表情を浮かべながら、大急ぎで婆さんの元へと駆け寄り、その姿を確認し始める。


(あら。元気だったかしら?)


「嘘……」


 そこで泣きながら婆さんと話し始める娘。そして娘婿が辺りを見渡しながらやって来るので、何を見ているのかと思い、視線を周囲に向けると、婆さんと同じような姿をした人達が他にもおり、生きている人と会話をしていた。


「おじいちゃん?」


「あ……ああ。すまなかったな。この人はお前のおばあちゃんだよ」


「おばあちゃん?」


 孫はそう言って、不思議そうな表情で婆さんの方を見る。婆さんもその視線に気づいたらしく、孫の方を向いて朗らかな笑みを見せる。


「あ……」


 すると、花火を打ち上げ時間になったらしく、1つの花火が打ち上がった。俺達は5人でそれを見上げる。


(綺麗ですね……)


「……ああ」


 理解できないこの状況に戸惑いつつ、俺は亡くなった最愛の妻とその娘家族と共に夏の終わりを告げようとする花火に見入るのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「コンサートホールに隣接するビル・展望室」泉視点―


「綺麗……」


「そうだな」


 カーターさんが打ち上がる花火への感想を述べる。短く淡々とした口調なのだが、その顔を横目で見ると、少しばかり頬を赤らめており、そして明らかに緊張しているのが分かる。


「……」


 私も黙ったまま静かに彼の言葉を待つ。この前のプロポーズを私は有耶無耶にしたまま逃げてしまった。それを気にした彼が事情を知っているおばさんか薫兄にでも相談して、私の遺恨を晴らすにはどうしたらいいのかと考えた結果、このような滅茶苦茶な方法を用意してくれたのだろう。


「……」


 そこで、視点を亡くなったお母さんとお父さんへと向ける。つい先ほど、私は泣きながらあの時の事を謝った。私をもう触ることが出来ない2人は寄り添いながら、あの時の事を許しくれた。「あの喧嘩と私達が死んだのは関係ない」と言って。


 あの日、2人が事故で死んだ事と朝の大喧嘩は関係ないとは周りの皆から言われてはいた。確かに関係は無いとも頭の中では分かっている……けど、本当に関係は無かったのだろうか? 


 もし、あの大喧嘩が無ければ、2人は予定を早めて出掛けていたかもしれない。そうすれば、あそこで信号待ちなどせずに通り過ぎていたかもしれない。もしかしたら、別の用事をこなしてから家を出ることになって、あの場に来るのが遅くなったかもしれない。そう……あの大喧嘩さえなければ……2人は今もここで……。


(あら? 難しい顔はこの場では似合わないわよ?)


 その声に意識を戻された私は、すぐさまその声の張本人であるお母さんへと振り向く。お母さんはあの頃と変わらない優しい微笑を浮かべ、隣にいるお父さんも同じように笑みを浮かべていた。実際のところ、この2人が本当に私の実の両親なのかは分からない。そんな都合よく死者を呼ぶ魔法なんてあるとは思ってないのだから。けど……。


(……あなたはまだ自分を許していないと思う。けど……私達はあなたのせいにするような、みっともない親だったかしら?)


「それは違う!」


(なら、このことで自分を責めるのはこれでお仕舞い……ね?)


 お母さんはそう言って、自分が出来るとびきりの笑顔を私に向ける。ああ……そうか。こんな当たり前のことを考えられなかったのか。私が自分を責めれば責めるほど、自分の知る両親を乏しめていたんだ。

そして、それを私は……望んではいない。


「……うん!」


 笑顔で私はそう返事をする。私の知る2人はそんな人じゃない。いつも私のことを思ってくれた優しい両親だった。それは目の前の2人が私の作り出した幻想だとしても変わらない事実。


「やっと、分かってくれたんだね」


 すると、そこに明菜おばさんが私とお母さんの間に入って来る。


「静音もよかったね」


(うん。やっと……伝えられた)


「そう……本当に良かった……」


 明菜おばさんはそう言って、打ち上がる花火を一緒に眺める。ふと、横にいたはずのカーターさんがいつの間にかいなくなっていた。私はどこへ行ったのかと思って辺りを見渡すと、私達がここへ来た時に使った転移魔法陣の傍で1組の男女と話していた。そして、その男女の顔には見覚えがある。


「いや~……今日も美しい……ごふっ!」


「夫がすいません」


 カーターと一緒にやって来たのは彼のご両親であるソフィーさんとジョンさんの2人だった。


「お久しぶりです……どうしてここに?」


「ユノ様に呼ばれたの。婚姻前の挨拶をしようと思って、遠くに戻られる前に明菜さん達にご挨拶しようと思ったんだけど……」


 ソフィーさんはそこで私の隣に立つ両親へと視線を向ける。


「カーターから事情を聞きました。娘さんとお付き合いしているカーターの母、ゾフィー・リーブルと申します……ほら、あなた」


「ジョン・リーブルと申します……亡くなられた泉さんのご両親とこのような形ですが、ご挨拶出来て嬉しい限りです」


 カーターさんのご両親の挨拶に、私のご両親も挨拶を返す。ユノがどれほど先のことを読んでいたのか分からないけど、互いの家族への挨拶がこれで済んだ。これで、私の外堀は完膚なきまでに埋められてしまった。


「(泉……)」


 すると、その当の本人であるユノが私の横へとやって来て、小さな声で呼びかける。そして、私に耳を貸すように促すので、耳を近付けると「頑張ってくださいね」と一言伝えて、自分の彼氏である薫兄のところへと戻って、腕に抱き着いた。それを見た私はカーターさんの横へと近付いて、同じように……は、流石に恥ずかしいので、軽く腕に抱き着いてみた。


「い、泉!?」


 他の人達……特に互いの両親が見ている中、このように甘えてくる私に驚くカーターさん。けど、私はこの姿勢を崩さず、そのまま顔を彼に向ける。


「どうし……た……」


 頬が熱を持つ中、私は真剣な眼差しで彼の目を見つめる。周りがここまでお膳立てをしてくれたし、それに私の両親のためにもここではっきりと……あのお決まりの文句を言って欲しい。そう、私が思っていると、どうやら彼にもそれが伝わったらしく、私の腕を優しく解いて、私の前に立って1つの小さな箱をアイテムボックスから取り出す。


「騎士として……生涯あなたを愛し、尽くすことを誓う。俺と結婚してくれないか?」


 そう言いながら、箱を開けて中の指輪を見せてくれた彼。私はそのまま手を出しながらその返事を返す。


「不束者ですが……よろしくお願いします」


 その返事を聞いた彼は箱に入っていた指輪を手に取り、それを私の薬指に嵌めてくれた。そして、そのタイミングで周りの皆が拍手で、私達を祝福する。そして、その拍手に混じって花火の破裂音が外から響いており、その音もまるで私達を祝ってくれているように聞こえる。


(おめでとう……)


(娘をよろしく頼みます)


 私の両親が彼にそう言うと、彼は頷いて「幸せにします」と力強く返事をしてくれた。それを聞いた両親はどこか安心したような表情を浮かべる。その後も、皆から祝福の言葉をもらいつつ花火観賞を楽しむ。この嬉しい時間が長く続けばいいのにと思うのだが……それも長くは続かなかった。


(さてと……)


 それからしばらくして花火の打ち上げが終わり、外が静かになったところでお母さんが薫兄にあるお願いをする。


(……薫ちゃん。私達からの()()()()()()。さっきの歌をもう1回歌ってもらえないかしら?)


 そこで、私はこの夢の時間が終わりに近づいているのを知るのであった。

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