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464話 いわくつきの魔法

前回のあらすじ「ラスボス討伐後の主人公が苦戦するはずもなく……」

―「夜国ナイトリーフ・グラテック鉱山 坑道内」―


「これを起動させれば、周囲の音が調整できるから。これで安眠できるんじゃないかな……あ、ちなみに故障したら、ここの人に事情を伝えておくから持って来てくれるかな?」


「キキッーー♪」


(「ありがとうございます!」だって)


「どういたしまして。ありがたくこれを頂戴するね」


「キキ!!」


 カマソッソは満足したような鳴き声を上げ坑道の更に奥へと飛び去って行った。『ワンモアタイム』の魔石を貰った後、一方的にこちらだけ恩恵を受けるのは心苦しいので、カマソッソが何故虫の居所が悪かったのか訊いてみると、ここ最近の採掘音が五月蠅く満足な睡眠を取れなかったらしいとのことだった。そこで、僕は『ワンモアタイム』の魔石のお礼として周囲の音を調整できる魔道具を渡したのであった。


「あっさり手に入ったな」


「うん。さて……直哉。ここで調査活動する?」


「そうだな……色々な坑道と繋がっているこの場所には、運び出す際に採って来た鉱石の一部が欠片として落ちている可能性があるしな……少しの間、調べてみるか」


 カマソッソが去ったところで、僕たちはここでも鉱石を回収していく。その後、無事に鉱石のサンプルを集めた僕たちは採掘場を後にするのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―2日後「イスペリアル国・領事館 応接室」―


 カマソッソから魔石を貰って2日後、イスペリアル国の領事館で仕事をしていた僕とレイスに、直哉が『ワンモアタイム』の魔法についての報告のためにやって来た。すると、直哉は応接室のソファーに座って開口1番に謝罪をして、この魔法が使えなかったことを伝えて来た。


「使えなかった?」


「ああ、誰も使えなかった。そこでマクベスやセラにも訊いてみたんだが……あの2人が言うには、いわくつきの魔法らしい」


「いわくつきなのです?」


「ああ。そうだ」


「マクベスがそう言うなんて、かなりのいわくつきなんだね」


「説明するぞ。まず、カマソッソの言う通りで、微睡のような幻を見せる魔法で間違いないらしい。だが、それはカマソッソが使用した場合の話であってそれ以外の者が使うと、効果範囲やその幻の鮮明度がかなりのランダムだそうだ。しかも、見せられる幻もどんなシチュエーションでどんな人物が現れるのか……その全てがランダム過ぎて、その規則性が未だに分かっていないらしい」


「ランダム……か」


 マクベスさえも詳しく知らないとは思っていなかった。こうなるんだったら、この魔法を魔石に込めてくれたカマソッソにしっかりと聞いておくべきだったと後悔する。


「もう一度、鉱山に行ってカマソッソから話を聞いてみる?」


「どうだろうか……むしろ、その魔法を実際に使用したフロリア女王から詳しく訊いてみる方がいいかもな」


「フロリア女王か……」


 恐らく、話を取り次ぐことは可能だとは思う。だが、彼女はその当時のことを詳細には覚えていないというのを、この前のトラニアさんの話から聞いている。それだから、今すぐ思い出してもらうというのは難しいかもしれない。


「……それならフロリア女王にお願いして、フロリア女王が持つ『ワンモアタイム』の魔石を調べてみてはどうなのです? もしかしたら、何か違いが……」


「あれ? レイス聞いてなかったっけ……『ワンモアタイム』は使い捨ての魔石だよ」


「それじゃあ……もうないのですね」


「砕け散った魔石を残して置くとも思えないしな……」


 有力な手掛かりが無いことに、僕たち3人は深い溜息を吐く。やはり、死者の声を聞くなど夢物語なのかもしれない。僕がそう思っていると応接室のドアを誰かがノックする。


「クリーシャです。薫様、ユノ様が来られたのですが、いかがされますか?」


「そうしたら、この部屋に案内して下さい」


「かしこまりました」


 クリーシャさんにそうお願いすると、すぐさまユノをこの部屋に連れて来てくれた。


「こんにちは」


「やあユノ。どうしたの何か急用?」


「大した用事では無いんですが……少しだけ確認したい事があって」


 大した用事ではないというが、わざわざ転移魔法陣を使って、このイスペリアル国の領事館へ訪れるのだから、それなりに急を要する内容だとは思うのだが……。


「何を訊きたいの?」


「薫の住む町で花火大会が開かれるということで、薫と一緒に行きたいな……と思いまして」


「花火大会……?」


 僕はユノのその話に首を傾げる。確かに僕の住む町には手筒を使用した花火大会はあるのだが、それは僕たちがアンドロニカス討伐をしていた時……つまり先月の話であり、今月にそんなイベントがあるというのは聞いたことが無い。


「そういえば、薫に伝えてなかったな……」


「直哉は知ってるの?」


「その花火大会の主催者だが……ショルディア夫人でな。アザーワルドリィと笹木クリエイティブカンパニー、それと例の複合施設を会場にチョットした催しをすることになったんだ」


「へえー……どうしてまたそんな催しを開こうとしたの?」


「泉が夏を満喫したいと言ってたんだろう? それじゃあ、その望みを……」


「「マジで(なのです)!?」」


 それを聞いた僕とレイスは思わず、それが本当なのか直哉に訊いてしまう。だが、すぐさま直哉から冗談だと言われ、すぐさま本当の理由を告げられる。


「単純にここまで注目されている企業が夏休み期間に特別な催しを行っていないからな……それなら、花火大会でも行うかということになった。自治体や警察の協力も得て、周辺の道路を封鎖して露店も開けるようにして……さながら夏祭りだな」


「それ……無事に開催できるの?」


 僕はその催しを聞いて思わず無事に開催できるのか不安になる。注目企業が開く花火大会である。そんな催しなら大勢の客が雪崩れ込みそうではあるが……。


「それだから人数制限を設ける。花火会場はいくつか場所を用意して自由にそこから見てもらうとして、メイン会場はチケット制にして、社員専用のチケットに、周辺住人への招待チケット……それと抽選だな。それだから、お前達にも後で渡すから家族と一緒に楽しむといい」


「……ちなみにいつ?」


「3日後だ」


「そういうのはもっと早く言ってくれないかな……母さんたちの用事もあるだろうし」


「それなら事前に私の方から話をしました。泉達も張り切って用意するそうですよ」


「用意って……」


「浴衣だろうな。まあ、とりあえず泉がこれで少しは元気になるんだからいいんじゃないか?」


「それもそうだね……」


 どうせ、僕用に女性用の浴衣を用意するだろうし、それを女性らしい装飾品と一緒に着せられるだろうが、それで元気が出るのなら今回だけは大目に見るとしよう。そう思っていると、ユノがゆっくりと口を開いた。


「泉に何かあったんですか?」


「そういえばユノには話してなかったね。実は……」


 そこで、ユノにここ数日で起きた事を話し始める。クリーシャさんが用意してくれたお茶を飲みつつ、カーターからの相談、鉱山調査にカマソッソの魔石、そして『ワンモアタイム』の魔石と順に話していった。


「なるほど……それは難しい話ですね。後は泉の気持ち次第でしょうから」


「うん。僕たちがこの縁談に待ったを掛けることは無いし、外野が口を挟む状況じゃないしね……」


「さて……そろそろ私は帰るとしよう。この前の鉱石の調査結果も纏めないといけないしな」


 すると、直哉がソファーから立ち上がり応接室の扉へと進む。そこで「それじゃあ、またな」と別れの言葉を言って部屋を後にした。


「私達に気を配ったのでしょうか?」


「さあ……どうだろうね」


 直哉が帰った理由について、ユノが自分たちへの配慮じゃないかとい訊いてきたので、僕はそう返事をするのであった。


 その後、領事館での仕事を終えた僕とレイスは、ユノと一緒に僕の自宅へと帰った。家に帰り、母さんが用意してくれた夕御飯を皆で食べていると、話題は3日後の祭りの話になった。


「夏休みの最後の思い出にちょうど良かったね。浴衣も泉ちゃんが用意してくれるそうだし」


「私も楽しみですね」


「私も! レイスちゃんも楽しみだよね!」


「なのです! どんな露店があるのか楽しみなのです!」


 女性陣が3日後の祭りの件で話が盛り上がる中、僕は気になっていたことを父さんに訊いてみた。


「父さん。あかねちゃんの夏休みの間、ずっとこっちで仕事だったけど……来月は東京で仕事なの?」


「そうだよ。ショルディア夫人から1ヶ月間、お願いしたい仕事があるということで指名が入ったんだ。それで、笹木クリエイティブカンパニーの近くにある複合施設内のレイアウトや装飾品の発注などの仕事をしてたんだ。まあ、魔石の付いた魔道具のことも知ってるから丁度良かったんだろうね」


「後は僕の都合かな……」


「薫が万全の状態で戦えるように配慮したのかもね。まあ、ショルディア夫人や他の方々にも好評を得られて、次の契約も取り付けられたからこちらとしても満足のいった仕事は出来たかな」


「流石、父さんだね」


「そうでもないよ。もう歳だし、そろそろ引退も考えないとね」


「……させてくれるの?」


「実は、父さんも同じことを思ってるんだよね……」


 父さんはそう言って味噌汁をすする。どうやら務めている会社から定年後も会社に留まってもらえないか打診されているらしく、父さんとしてもあかねちゃんの養育費を稼ぎたい気持ちがあるので、もう少しの間、会社で働こうか悩んでいるらしい。


「僕も出すから無理しないでね」


「ああ、分かってるさ。ただ……」


 父さんはそう言って、ユノと楽し気に会話をしている母さんを見る。


「男として、何でもかんでも任せたくないんだ」


「……そうか」


 父さんなりのプライドを聞いた僕は、そんな父さんが誇らしいと思うのであった。

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