463話 ワンモアタイム
前回のあらすじ「カマソッソがいる坑道に突入!」
―「夜国ナイトリーフ・グラテック鉱山 坑道内」―
「結構、奥まで来たね……」
掘削音が遠くから響く。あれから坑道内を奥に進んでいくと、先ほどまでの鉱夫たちの賑やかな声は無くなり、今度は僕たちの歩く音と息遣い、それとたまに頭上から落ちてくる水滴が地面に当たる音が周囲に木霊する。
「この辺り……最近採掘した形跡があるな」
「ああ。カマソッソがこの近くに移動したからな。あまり五月蠅くしないようにしているんだ」
「カマソッソって一ヶ所に滞在しているんじゃないんだね」
「夜中に獲物を探すために坑道内を飛び回って、いくつかある空洞で寝ているんだ。おかげでこの坑道に魔獣は滅多に表れないぞ」
「なるほど。カマソッソが坑道内の魔獣を始末する代わりに、寝床を提供しているという訳か」
「そういうことだ」
「ということは直接的な関りは無いという訳だが……魔石はどう入手するんだ?」
「その魔石だが、フロリア様が手に入れた物であってな。直接、ご本人に尋ねてみたのだが……」
そこで、一旦会話を中断するトラニアさん。そこに僕は一抹の不安を感じてしまう。主に魔石は魔獣の体内にある物であり、それは聖獣も変わらない。これまでは魔石じゃなく羽や羊毛などの素材だったり、魔石を手に入れた時は、故人の魔石だったり、別の魔石に魔法を入れて貰ったりなどと、運良く手に入れられていた。だが、今回は果たしてそれが通用するか分からない。果たして、捕獲条件は一体……。
「忘れたらしい」
その一言に、思わず僕たちはズッコケてしまう。確かにそれを口にするのは覚悟が必要になるだろうから、言い淀むのも分かる。だが、一番大切なところなのだが……。
「まあ、あの方が忘れるということだから、戦闘になってはいないだろう。となると、別のカマソッソの魔石を貰ったというところだろうな」
「それより……本当に死者と話せたのです?」
「実際に話せた当人はそう言っていたらしい。だが……フロリア様は話せなかったらしく、かつ話せる人物はランダムらしい」
「ランダムってどういことなのよ?」
「亡くなった両親と話せた者もいれば、どちらか一方だけだったり……誰も現れなかったパターンもあってな……どのような基準なのかは不明だそうだ」
「なるほどね」
そう都合良く、本人が会いたい人物には会えないという訳か。まあ、そもそも死者と言葉を交わすなど不可能な話を、可能なレベルにまで上がってる時点で凄い話なのだが。
「ぜひとも欲しいな……あのエジソンが研究し開発しようとしていた霊界通信機を開発できるかもしれない」
「え、そんな物あるのです?」
「実物は無いよ。エジソンは人は死んだらどこに行くのか、その時、記憶や経験はどうなるのかという謎を解明するために、それを作ろうとしていたって話だよ」
「薫は知ってたか」
「オカルト話が好きな人なら一度は聞いたことがあるんじゃ無いかな」
あの有名なエジソンは晩年、魂もエネルギーの1つと考え、そのエネルギーの蓄積こそが記憶と提唱し、その記憶を引き出す機械として『霊界通信機』となる物を作ろうとしていたという記録が実際に残っており、オカルト話の1つとしてそこそこ有名な話だとは思う。
「アカシックレコードに似たような考えだよね」
「そうだな。もしその存在を立証出来たなら、とんでもない事になるがな……まあ、今回の魔石はその存在を証明するための第一歩になりかねないがな」
「グージャンパマを見つけた以上、あり得ない話では無いんだよね」
「異世界か異星の議論は続いてはいるが、地球以外て発見された別の人種。そんな存在がいるのかどうかも、つい最近までオカルト話の1つだったからな……」
しみじみと昔を思い出しながら話を続ける直哉。およそ1年でここまで世界の常識が変わったんだなと、僕もつくづく思ってしまう。
「なあ、そのエジソンって何者なんだ?」
ふと、そこで話しについていけて無かったカーターたちが、1番最初の話題に出てたエジソンについて、何者なのかを訊いてくる。だが、レイスは僕と一緒に住んでいるのでエジソンがどんな人なのか知っていると思うのだが、どこか不思議そうな表情をしている……どうしてだろう?
「あのド派手な翼を持ったラ◯オン◯ッドって、実在した人なのです?」
「それはゲームだから!?」
レイスが何かとんでもなく危険な事を言い始めたので、僕は直哉と一緒に正史上のエジソンについて説明をするのであった。そんな話をしていると、坑道から広い空洞に出た。魔道具によって照らされた空洞内には、僕たちが通った坑道以外にもいくつもの坑道があり、また近くには小屋のような物も立っているので、この付近で掘削する時はここを拠点としてそれぞれの持ち場へと移動するのであろう。
「キキッ……!」
ふと、何者かの声が空洞内に響く。すると、トラニアさんが天井に向かって指を差すのでそちらへと視線を向けると、そこには巨大な蝙蝠がぶら下がっていた。
「あれがカマソッソか」
「キキッ!」
カーターの言葉に反応したカマソッソ。その瞬間、目を開き逆さまのまま視線をこちらへと視線を向ける。カマソッソが何を話しているのか通訳してもらうために、紋章術を使ってシエルを呼び寄せ、通訳を頼んだ。
「キキ! キキィ!!」
(ふむふむ……)
早速、カマソッソの話を聞き始めるシエル。すると、唸りながら聞いた話を通訳し始める。
(えーと……「ようこそ、哀れなお客様。ここまで来るなんていい度胸だな……」だって)
「あ、うん……」
シエルに通訳してもらったカマソッソの言葉を聞いて、僕は頭を抱える。見事にフラグが立つとは……勘弁して欲しいところである。
「薫……まさか」
「皆……フラグが立ちました」
それを聞いたトラニアさん以外の皆が、いつ襲われてもいいように警戒態勢に入る。
「ど、どうしたんだ……?」
「警戒しろ。お相手さん激怒しているらしいぞ」
カーターの話を聞いて、トラニアさんも素早く警戒態勢に入る。
「キーキキッ!!」
(自ら犯した過ちを悔いるがいい!! だって……ねえ、本気でやっていい?)
「あ、いや……ちょっと話がしたいから手心が欲しいかな……」
シエルとそんな話をしている中、カマソッソは天井から足を離しこちらへと襲い掛かる。
「来るわよ!!」
サキのその言葉が空洞内に響いたところで、僕たちとカマソッソの戦いが始まるのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―3分後―
「キ……キキ……!」
「ヒヒーン!!」
「ユニコーンとカマソッソは何を離しているんだ?」
「うーーん……シエルの方が「そんな謝罪で許されると思ってるのかな?」だから、カマソッソは「許して下さい!」かな」
「瞬殺だったな」
「ああ……」
地面で倒れ弱弱しく鳴くカマソッソを前に圧倒的な強者感を見せるシエルの姿を見て、トラニアさんが呆気に取られていた。
何があったかと言うと、突進してくるカマソッソに、僕はタイミングを合わせて蓮華躑躅に雷撃を纏わせ、そのまま下から上へとアッパーの要領で上に飛ばすと、そこにカーターたちとシエルの怒涛の魔法攻撃が休む暇も無く行われ、戦闘自体は2分ともかからずに終わってしまった。そして現在、ボロボロになったカマソッソにどうやって落とし前を付けてもらうか優しく尋ねているところらしい。
「はあ……倒れているカマソッソが哀れに見えるな。俺もあんな感じだったのか……」
トラニアさんは僕たちと初めて会った時のことを振り返り、カマソッソに同情し始める。そして、それは僕も同じであり、喧嘩を売ったのはカマソッソの方だが、それをほぼ手加減なしの過剰戦力で徹底的に叩きのめしてしまったのはやり過ぎかと思っている。
「ヒヒーン……」
すると、シエルがその場で水球を作り出し、今にも撃ち出そうとしている。
「……あれは何があった?」
「うんとね……「そんな口の聞き方をするなんて反省していないようだね……」だって、カマソッソは何を言ったのやら……」
「止めてくれ薫。平和的に魔石を手に入れる方法があるのなら、それを聞いてからでも遅くはない」
「キキィー!?」
直哉の非情な言葉に反応して、カマソッソは慌てて腹を上にして降伏の体勢を取る。その目には涙が浮かんでいる。
「今回、魔石が必要だなんだよな……」
「そうなのよね……わざわざ捌きやすい体勢を取るなんてありがたいわね」
カーターとサキがそう言って、剣を構え、その刀身に炎を纏わせる。あれならカマソッソの腹を切り裂き、体内から簡単に魔石を取り出せるだろう。
「薫……」
「分かってるよ」
レイスの呼びかけに僕はそう言って、鵺を巨大な戦斧にして、さらに身に着けているグリモアから黒い靄を戦斧に纏わせる。
「じゃあ……早速」
「キィヤーー!!」
「……誰が止めるんだ?」
「知らん」
カーターたちのノリに乗って、カマソッソを捌こうとする僕たちの姿を見た直哉とトラニアさんは、そのまま静かにそのやり取りを眺めるのであった。それから、さらに数分後、完全に心の折れたカマソッソに魔石についての情報を教えてもらう。
「キィ……キィ……」
「ふむふむ……どうやら捌く必要な無いみたいだね」
「となると……マグナ・フェンリルがやったようにカマソッソに魔法を込めてもらえばいいのか?」
「うん。それと、魔法名は『ワンモアタイム』で、一応、記憶を呼び起こす魔法だって」
「一応?」
「うん。ただ、普通に記憶を呼び起こすとかじゃなくて、微睡んだような記憶を呼び起こす魔法みたい」
「何かフワッとしてるな」
「まあ……そんなのは試せばいいだろう。という訳で……頼めるな?」
「キィー!!」
シエルの通訳が無くとも、直哉の頼みに対して了承した意を表しているのだと分かる。僕はカマソッソの協力を得て、『ワンモアタイム』の魔法が入った魔石を6つ手に入れるのであった。




