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461話 取り戻せない過去

前回のあらすじ「カーターと泉の関係に変化が……!」

―親睦会から数日後「薫宅・居間」―


「はあ~……」


 溜息を吐きながら手を顔に当てるカーター。相棒であるサキはテーブルの上に座り、レイスと一緒にアイスクリームを食べて談笑している。


「泉に何をしたの?」


「そのことで相談しに来たんだが……?」


 夜国ナイトリーフから帰って来て数日後のある日、カーターとサキの2人が自宅にやって来た。今は居間で冷たいお茶を飲みながら、相談を聞こうとしているところである。


「というか……泉と何かあったと分かってるんだな」


「この前、海で一生懸命何か伝えようとしていたでしょ? だけど、泉が暗い表情を浮かべていたからさ……で、何をしたの?」


 僕はそう言って指をポキポキと鳴らし始める。内容次第では、肉体言語でお話ししないといけないだろう。


「待て待て……! 泉が嫌がるようなことは何もしていないはずだ! ただ……もしかしたら、俺の知らない何かで彼女を傷付けてしまったのではないかと思ってだな。そこで、泉の兄のような存在である薫に相談しに来たんだ。もしくは……泉から何か相談を受けていないか?」


「ちなみにだけど……あの時、どんな話をしてたの?」


「……告白だ」


「こく……はく……? でも、それって済ませてるよね?」


「ああ。ただ、今回はその更にもう1歩踏み込んだ話でな……結婚しよう。そう伝えたんだ。アンドロニカス討伐も終わった以上、待つ理由は無いしな」


「ああ……なるほど」


 僕は両手の力を抜いて、それは良かったと思ってしまう。それを聞いたら母さんや父さんも大喜びして、泉の門出を祝ってくれるだろう。ただ……。


「どんな伝え方をしたら、泉があんな顔をするのです?」


 そこにアイスクリームを食べ終えたレイスとサキも話に参加してくる。ちなみに、2人ともその時の泉の表情を見ていたので、どれだけ泉が困惑した顔をしていたのかを知っている。


「レイスの言う通りだよ? どんな回りくどい言い方をしたの?」


「「魔王の件も片付いた……だから、結婚しよう」だ。本当にそれだけ」


「返事は?」


「少しだけ待って欲しい……と。その後、どうしてか訊いたんだが答えてくれなかった。それで、何か心当たりは無いか?」


「何も言わないか……レイスとサキはどうかな? 何か心当たりある? 例えば、ここ最近悩んでいたとか……」


「フィーロなら何か聞いているかもしれないけど……私は聞いていないのです」


「同じく。あの日も特に変わった様子は無かったと思うわ」


「そうか……」


 そこで、とうとうこの日が来たかと思う僕。カーターに落ち度が無いなら理由としてはこれしか無い。だが、この問題を解決するのはかなり難しい話である。何せ……この世にいない人物に謝ることなど出来ないのだから。


「泉ちゃん……あのことを引きずってるんかね……」


 すると、母さんが居間へと入って来た。あかねちゃんとお昼寝するために、少し前に2階に行ったはずである。


「あかねちゃんとお昼寝してたんじゃ?」


「私は寝ないよ。小説の締め切りも近いしね……それよりも、泉ちゃんに結婚しようと告げたのは間違いないんだね?」


「はい」


「……よし。それなら話すとしようか! 泉ちゃんの抱えている闇ってやつをね」


「母さん……楽しんでない?」


「な訳ないでしょ。ただ一緒になる以上、いずれ知ることになると思うしね……」


「まあ……そうだね。でも、ここで僕たちが話さなくとも、泉の口からいずれ話すんじゃないかな?」


「それなら結婚前に片を付けないと。結婚式に悲しい表情なんて似合わないよ」


「片を付ける……って、かなり難しいけど?」


「まあね。時間が解決すると思って放っていたところもあるけど……そうも言ってられないでしょ」


 そう言って、静かになる母さん。母さんとしては泉に幸せな結婚式を挙げたて欲しいのだろう。その式を見る事が出来ない母さんの妹である泉のお母さんのためにも。


「俺も手伝う。だから……話してくれないか?」


「私達も手伝うわよ!」


「頑張るのです!」


 意気込む3人。それを見た僕と母さんはさっそく泉の悩みについて話し始めた。


「泉の両親が事故で死んだのは知ってるんだと思うんだけど……その直前に実は喧嘩してたんだ」


「喧嘩?」


「うん。実は将来のことで少し揉めたんだ。服飾系の仕事は良かったんだけど……個人で衣服を作りコスプレイヤーとして生計を立てるって話してね……」


「それは不味いのか?」


「親としては様々な保証がされる企業に勤めて欲しかったんだよ。個人で仕事をすると色々な手続きや申し込みなんかを全部1人でしないといけないからね。それに、個人で衣服を作って売れるかどうかなんて分からないし……」


「まあ、あの2人も何となく理解はしていたから、出来れば数年は企業で勤めてからでも遅くないんじゃないかって説得していたんだけどね……泉ちゃんって少し頑固なところがあるからね……」


 そう言って、顔を伏せる母さん。この件に関して母さんは電話で話を聞いており、その話を聞いたのは事故直前とのことだった。つまり……この話こそが泉の母さんとの最後の会話になってしまったのだ。


「事故の日の朝、その件でちょっとした喧嘩になってね。そのまま仲直りすることもなく……」


「泉はそれに対してずっと後悔しているってこと?」


「うん。どうしてちゃんと話をしなかったんだろうって……。当時はもっと酷くて、私との喧嘩が原因でこうなったんじゃないかって」


「事故って……どんな事故だったんッスか?」


「玉突き事故……複数の車同士が強く接触した交通事故だよ。飲酒運転の車が猛スピードで信号待ちしていた列に突っ込んで、運悪く泉の母さんたちの車も……」


 僕はそこで母さんを見ると、いつものような明るさは無くうつむいたまま静かに僕の話を聞いていた。きっと、その事故の後、霊安室で静かに横たわった泉の母さんの姿を思い出したのかもしれない。あの時の母さんは大粒の涙を流しながら、声が枯れるまで泣いていた。あんな大泣きした母さんを見たのはその時だけである。


「泉も分かっていたんだ。自分の考えがどれだけ浅はかなのかっていうことは。だから、在学中に自分が作った衣服を売ったりして、ちゃんと見極めるつもりだったらしいんだ。そして、泉の両親も泉が何か考えがあると思ったらしくて、学校から帰ってきたらしっかりと話を聴くつもりだった」


「だが……それは叶わぬ夢になった」


「うん。どちらも悪くなくて、チョットしたすれ違いがその日に起きて、たまたまその日に事故が起きてしまった……ただ、それだけ。タイミングが悪かったんだ」


「じゃあ……カーターの結婚の申し込みに関して、泉が時間が欲しいと言ったのは……」


「そんな自分が本当に幸せになっていいのか……悩んでるんだろうね」


 根は真面目な子である泉だから、自分が結婚してカーターと家庭を築くことを考えた際に、しっかりと家庭を築くことが出来るか不安になっただけという、いわゆるマリッジブルーという可能性もある。だが、僕たちが泉の両親について話題に出すと、必ずと言っていいほど泉の表情は暗いものになる。


「それは難しい話ね。流石にいない人の声を聞くなんて不可能だもの」


「そうなのよね……だから、泉ちゃんを見守る事しか出来ないの。後は相談に乗るくらいかな……」


 そこで母さんが溜息を吐く。僕たちもそれに釣られて溜息を吐いたり、難しい表情を浮かべたりする。この問題は当事者である泉の問題であり、親しい僕たちでも局外者でしかない。それだからやれることも少ないのである。


「おーーい! 薫いるか?」


 すると、玄関のチャイムと同時に、僕の名前を呼ぶ直哉の声が玄関から聞こえる。僕は玄関へと向かい扉を開けると、そこには直哉とリーリアさんの2人が立っていた。


「どうしたの? 直哉はともかくリーリアさんがここにいるなんて……」


「実は、この前の親睦会で話したレアメタルの交易が思いのほか反応が良くてな……それで調査することになったんだ」


「ああ……その相談のために直哉と一緒に来たのか……」


「そうだ。で、今回2ヶ所調査をするのだが、リーリア姫はカイト達と一緒に魔国ハニーラス。そしてこの私とお前達で夜国ナイトリーフの調査をしたい」


「ナイトリーフから人は?」


「トラニアという男が来るそうだ。私と薫にレイス、それとトラニアの4人だな」


「珍しい組み合わせ……というか、直哉とあっちで少人数で一緒に行動するのって初めてかも」


「基本的にもっと大勢だったしな。それで都合を訊きに来たんだが」


「僕は明後日なら。レイスは……」


「私もそれで大丈夫なのです」


 玄関先で直哉と話してると、居間にいたレイスたちも玄関に集まって来た。リーリアさんが皆に挨拶していると、カーターの顔を見て首を傾げる。


「カーターもいるようだが……何か元気が無さそうだがどうかしたか?」


「あ~……実はね」


 カーターの替わりに母さんが先ほどのやり取りを話す。それを直哉とリーリアさんは母さんが話し終えるまで静かに聴いてくれた。


「あの時か……お前に相談されて、一緒に遊びに行ったりしたな。元気になったと思っていたが……まだ癒えてはいなかったか」


「何かいい案ある?」


「曲直瀬医師に相談してカウンセラーでも紹介してもらうとかぐらいしか案は無いぞ。人の心はそう簡単には癒せないからな」


「だよね……泉が両親と仲直り出来たらいいんだけど……」


「それこそ無理だろう。死者が蘇ることなどありなえいのだからな」


「……いや。そうでもないぞ」


 僕と直哉の話にリーリアさんが口を挟んでくる。このタイミングで口を挟んできたってことは、まさか死者を蘇らせる魔法がグージャンパマにあるというのだろうか。


「生き返らせるなんて出来るの!?」


「流石にそれは無理だが……死者の声を聞く方法があるというのは知っている。そして、ちょうどよく薫達が行く場所で出会える可能性があるな」


「それって……」


「カマソッソという魔獣の魔石にそんな力があると聞いた事があってな……かなり入手困難だが、薫達なら手に入るかもしれない」


「……マジで?」


 突如、リーリアさんからもたらされた死者の声を聞ける魔法にびっくりする僕たち。そして、すぐさまカーターが今回の調査に参加出来ないか直哉に訊くのであった。

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