460話 新しい産業
前回のあらすじ「レアメタルを見つけた!」
―「フロリア女王が住む屋敷・プライベートビーチ」―
「こ、これは……」
「いや〜……まさか、こんなにあるとは予想外だったかな」
あの後、フロリア女王に訊いてみたところ、他にも石が採れるということで、それらの石も持って来てもらったところ、様々なレアメタルの鉱石と加工済みの金属を持って来てくれた。中には僕の分からない金属もあり、それが貴重なのかどうなのか分からない物もあったりする。
「金はともかく……これってプラチナ? こっちは銅よね?」
「そうだと思います。そして、その銅鉱石に似ているのに銅が取れないこの石……悪魔の銅と呼ばれたレアメタルのニッケルじゃないかと」
「宝の山じゃないの!? それら全てがこの地域で採れてるってことでしょ?」
「そうみたいです。直哉に頼んで、ちゃんとした専門家を呼んで調べてもらった方が良さそうですね……」
様々なレアメタルが一同に揃った今の現状に、アリーシャ様とミリーさんは興奮気味である。それはこの2人だけではなく、フロリア女王にリーリアさんも同じであり、これらは気軽に大量に手に入れられる石とのことで貿易品として十分に取引できるらしく、上手くいけば産業として起こせるかもとのことだった。
「薫って石に詳しいんですね?」
「全然。小説の知識から引っ張っただけだよ」
ユノの言葉に、僕はそう答える。異世界系の小説の中にそんなレアメタルについての話があったのを思い出しただけであり、その後、写真とかで確認したことはあるが実際に鉱石として見たことは無かったりする。
「それでも凄いですよ。薫がいなかったらこの発見が遅れていたかもしれませんし」
「そうよ! 流石、英雄ね! あなたを呼んだ甲斐があったわ!!」
いつの間にか僕たちの近くまでやって来たフロリア女王が喜々とした表情で僕のことを称賛する。それは近くにいたトラニアさんも同じであり、すぐさま他の人を呼び、それらのレアメタルの鉱石がどれほど採掘されているか調査するように指示を出している。
「薫……このようなレアメタルというのがあれば、あちらの世界のような道具を作れるのか?」
「そうですよ。リーリアさんも使ったあのスマホの中にもレアメタルが使われてるんですよ」
「そうか……ちなみに、薫が一番需要があると思っているレアメタルはなんだ?」
「それは……珪石ですかね。ケイ素を含む石でして……」
「どんな石だ?」
「白い石でして……河原とかでよく見掛ける石らしいとしか……」
「白い石……か。なるほど」
そう言って、リーリアさんが悪い顔をする。恐らく、その白い石を探してハニーラスの貿易品として売り出すつもりなのだろう。あまりにも期待し過ぎな気もするので、僕はすぐさま追加の情報を伝える。
「リーリアさん。夢を壊すようで悪いんですが……ただの白い石じゃダメなんです。高品質の珪石じゃないといけないんです。それだから一度調査とかしないと……それに貿易品として高く売れるかどうかも……」
「そうか……だが、調べておいて損はないだろう。長い目で見れば、こっちであのスマホやゲーム機を作り出せるかもしれないのだからな。そうなれば、それによる産業も起こせる」
「それは……そうかもしれないですね。ただ、気を付けないと搾り取られるだけ搾り取られて終わりの可能性もありますから注意が必要ですよ?」
「そこは……親戚の君の名を借りるさ。「そんなことをしたら、私の親戚が黙ってないが?」ってな」
「僕もそこまで万能じゃないですよ?」
「分かってるさ」
リーリアさんはそう言うのだが、本当に分かってくれたのか心配である。僕という印籠がそこまで融通が利くとは思えないのだが……。
「おーーい! 薫兄!!」
泉に呼ばれそちらへと振り返ると、ビーチボールを片手に持っており、その近くに母さんたちやレイスたちが集まっていた。
「食後の運動! ビーチバレーをしない? ユノも一緒にやろうよ!」
そう言って、こちらに手を振る泉。それを見たフロリア女王が「おお! いいね!」とまるで僕の母さんのようなノリで、泉たちの元へと行ってしまった。
「難しい話はここまでにして、そろそろ本格的にバカンスを楽しみませんか?」
「……だね。リーリアさんもそれでいいですか?」
「もちろんだ。私もビーチバレーに混ぜてもらうおうか」
「もちろんですよ」
ユノが笑顔でリーリアさんのビーチバレーの参加を喜ぶ。一方、僕はヴァンパイアであるフロリア女王と魔人であるリーリアさん、それと精霊も含めた他の参加者たちを見て、これで果たしてビーチバレーが出来るのかと疑問に思ってしまう。
そして、そんな疑問を思ったままビーチバレーが始まるのだが、予想通りというか、魔人であるリーリアさんの強烈なアタックによって、フィーロがまたしても海へと吹き飛ばされてしまった。
「フィーロ!?」
「うわ! 溺れてる!!」
溺れているフィーロを見て僕はすぐさま救助する。その後、フィーロが抜けた状態で再びビーチバレーが始まるのだが、激しい動きのせいでフロリア女王の水着の紐が緩くなってビキニトップが脱げたり、
泉がボールを取るために、砂浜を転がったことによって水着がはだけたりなど、どこかエッチなハプニングが続出するのであった。
その後、ビーチバレー以外の遊びもして、しっかりと海水浴を楽しんだ僕たちは、夕方頃の時間に海水浴を切り上げ、道具の片付けなどを始める。この後、夕食会が行われるので、すぐにシャワーを浴びて砂を落とそうと思った僕はレイスに頼んで、水魔法を使って手早く道具類に付いた砂を落とし、風魔法でそれらを乾燥させていく。
「ん?」
その時、カーターと泉が波打ち際で何か話をしているのが見えた。カーターが泉に一生懸命、何かを伝えているのだが、その泉はどこか悲し気な表情をしている。
「何かあったのです?」
「多分、何かあったんだと思うけど……」
僕とレイスはそれを見て、何があったのだろうかと少しだけ心配するのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―少し時は遡り「とあるVR空間」ある幹部の視点―
「薫達は夜国ナイトリーフでバカンスか……はてさてどんな収穫がありますかね」
「これ以上の収穫って……魔王の手からグージャンパマを守った時点で十分過ぎる働きだろうって。しかも、新素材を山ほど見つけてくるし……」
「彼の意見に同意ですね。まあ、あの世界でも珍しいとされている素材を見つけている以上、我々を驚かすような発見は早々無いとは思いますが……」
「全くだな」
そこで談笑をしていた3人が笑い合う。あちらの世界での最大の厄介事であった魔王を薫達が討伐したことで、両世界の交流がいよいよ本格的に始まることになった。パスポートを持って海外に遊びに行くような感覚であちらに行くことはまだ不可能だが、ツアーや仕事での渡航が出来るように法の整備を進めている最中である。そして、既に来年には一般人でもあちらへと行くことが出来る予定である。
さらに、あちらで見つかった新素材の流通に関しても両世界で管理する国際機関を発足させ、流通をコントロールするという案が出されており、我々や加盟国の重鎮などはその機関の局長を誰にするかと、ここ数日はそのような話し合いばかりである。
「そういえば……彼の話で思い出したんですが、あれはどうなったんですか? 薫が掌サイズほどのダイヤを売却しようとしていた件」
「ああ。その件は保留中だよ。展示品の宝石で出来た天板でも大騒ぎなのに、巨大なダイヤモンドが見つかったとなったら、それ以上の騒ぎになるだろうからな」
「それでいて宝石の価値は真逆ですからね……うっかりこちらの世界の感覚で買い取ると大変なことになりかねない」
「いっそのこと、婚約者の装飾品として使ってもらった方がこちらとしては楽だな」
「全くだ」
すると、3人の話はお使いの賃金として手に入れた時価総額数億は下らないだろう天然のダイヤモンドの話に変わっていく。こちらで買い取る案もあったのだが、あれほどのダイヤがグージャンパマでは気軽に手に入ってしまう以上、そう簡単には買い取れないということになった。
(……ふむ。それなら私の方で凄腕のデザイナーを紹介するのもいいかもしれないな)
3人の会話を聞きつつ、彼に恩を売る方法を考える。すると、またしても3人の会話の内容が変わっていく。
「そういえば……宝石があるのにレアメタルとか見つかっていないな」
「そういえばそうでしたね。金、銀、銅辺りは良く見つかってるみたいですが、他のレアメタルが発見された報告は聞いていないですね。オリハルコンやアダマンタイトのような素晴らしい金属もいいのですが、やはりこの世界を支えている既存の合金の素材があると助かりますね」
その話に、私は心の中で支持をする。魔石、魔獣の素材、特殊な合成金属……そのどれもが素晴らしい素材ではあるが、今のこの世界を支えているありとあらゆる物の全ての代替になる訳では無い。それゆえに、あちらの新素材の調査に加えて、既存の素材が採れないか裏で調査もしているのである。
(レアメタルの鉱床……彼らが見つけてくれると助かるんですがね……)
我々、組織としても見過ごせないレアメタルの確保。果たしてあちらの世界にもそのような物があるのか……あるとしたらどこにそれがあるのか……。今日の議題についての会議が始まるまで、私はそのことについて考えてしまうのであった。




