458話 ナイトオーシャン その3
前回のあらすじ「海を満喫中」
*今年の投稿はこれが最後になります。次回の更新は1月2日の予定ですが、作者の都合で5日になるかもしれないのであらかじめご了承ください。それでは皆様、良いお年を。
―「フロリア女王が住む屋敷・プライベートビーチ」―
「うーーん! 美味いわね!」
串を片手にビールを手にするフロリア女王。白のビキニ姿の女の子にしか見えないので、事情を知らない人からしたらすぐに飲酒を止めさせるだろう。そして……。
「たくさん動いたから美味しいね!」
「うん!」
そして母さんもお酒を飲んでいる。あかねちゃんの手前ということもあって、嗜む程度で済ませているが、こちらも同じように注意されてもおかしくはない。そして、周囲の人達はそれに対して何も気にすることなく、料理の味を堪能したり、お喋りを楽しんだりしている。
「違和感が仕事しない……」
「そんなの分かりきったことなのです……そもそも、薫がこんなに人がいる中で男水着チャレンジをしていることが……」
「いや、これが普通だから……」
レイスのボケにツッコミを入れつつ、僕はコンロの空いたところに新しい串を置いていく。
「薫さん。ここからはやりますよ」
「でも、ルーネさんが……」
「先に料理をいただきましたし、調理の様子も見させていただいたので何とかなりますよ。そもそも、お客さんである薫さんにやらせっぱなしというのは失礼ですから」
「……分かりました。後はよろしくお願いしますね」
「ええ。お任せ下さい」
そこで僕はルーネさんと調理を交代することになった。どうしようかと思っていると、ふと視線の先にミリーさんとアリーシャ様が見えたので、料理と飲み物を持ってそちらへと向かってみる。
「あら。お疲れ様……あなたってお客様じゃないのかしら?」
「じっとしてるのが落ち着かないだけだよ」
僕は2人の近くにあるビーチチェアに座り昼食を取り始める。串に刺さった分厚い牛肉に食らいつくのだが、肉汁が口の中に溢れ美味いと思うと同時に、これをバーベキューで焼くのはもったいなかったかなと思ってしまう。
「このお肉大分いい物を使ってるけど……どこからの頂き物かしら?」
「菱川総理を含む連盟からです……アリーシャ様はご存知じゃないんですか?」
「知ってますよ。私はご相伴に預かってるだけです」
そう言って、串に刺さった野菜を上品に食べるアリーシャ様。そして、それを食べ終えると再び話を続ける。
「薫さんのおかげでこちらの大陸の方々とも親しくなることが出来ました。どうでしょうか? お礼として私を頂くというのは?」
アリーシャ様はそう言って、胸を寄せながら自身の水着姿を僕に見せつける。その均衡のとれた体に銀髪と相まった美貌から繰り出されるセクシーな姿は世の男を容易にメロメロの状態にできるだろう。
「僕には効きませんよ。それに色々面倒なことになっちゃいますよ?」
「ふふ。そうですね……まあ、半分本気ですが」
そう言って、ビーチチェアで寛ぐ体勢をとるアリーシャ様。今の発言、ただの冗談ともとれるのだが、それをミリーさんが窘めないところからして、本当に僕を堕とすつもりだった可能性が高い。
「珍しいですね。お酒でも飲み過ぎましたか?」
「ええ……少しだけ」
アリーシャ様がそう言うのだが、どうもお酒を飲み過ぎたにしては酔った人特有の特徴が見られない。恐らく、アリーシャ様は酔ってはいないだろう。
「僕をそんなに自国に取り込みたいんですか?」
「もちろんです。薫なら妾としてでも構いませんよ?」
「お生憎ですが……愛人を持つ気は無いので。仮に持つとしたら、僕の後ろにいるユノの許可が要りますね」
僕はそう言って、先程から僕の後ろでこっそりと様子を伺っていたユノの方へと振り向く。先ほどからのアリーシャ様の発言に憤っているかなと思ったのだが、その様子は無く、むしろ同情しているようにも見えた。
「アリーシャ様の発言に怒ってないの?」
「私がアリーシャ様の立場だったら、同じことをしていたかもしれませんね。薫の国ではなじみがないとは思いますが、こちらでは有力者が愛人を持つのは結構当たり前の話なんですよ。それ故に、現在でも多くの貴族や豪商の方々が妾を持ってますよ」
「なるほどね……でも、僕に愛人は不要だよ。甲斐性なしと思われたくないしね」
「あら。あなたならちゃんと養ってくれそうだけど?」
「そうとは限らないよ。そもそも最近、小説家以外の仕事もあって慌ただしく地球とグージャンパマを行き来してるしね。そこに複数の女性と親しく出来るかと言われたら……怪しいかな」
冒険者や妖狸としての仕事が減り、僕は本業の小説家と各施設の管理人がメインとなっている。時には仕事が長引いて帰りが夜という時もあり、そんな中で大勢の女性を侍らせるようなことをするなんて、時間的にも無理である。
「そうですか……それは残念ですね。ユノ姫が羨ましいですね。こんな素敵な殿方をゲットしたんですから」
「自慢の旦那様ですから♪」
そう言って、僕の腕に抱き着くユノ。その胸の柔らかい感触に僕が顔を赤くさせると、それを見たアリーシャ様たちが僕を揶揄い始める。
「お。集まってるわね」
僕がアリーシャ様たちの揶揄いに対処していると、大きなお腹をしたフロリア女王がリーリアさんと一緒にこちらへとやって来た。
「そちらのお酒も美味かったけど、料理も流石だったわね……あのスパイス購入できないかしら?」
「それならお送りしますよ。そんな手に入りにくいものでは無いので……それと今回はプレミアムだったので、通常と辛口に……あとブラックの3つもお付けしますがいかがでしょうか?」
「ええ、頼んだわ」
そう言って、フロリア女王は料理の食べ過ぎで大きくなった自分のお腹を撫で始める。ビキニ姿のため、その妊婦のようなお腹が丸見えになっており、今回用意した料理がどれだけお気に召したのかが分かる。
「あなたも頼んだら? 親戚なんだしその位は頼まれてくれるんじゃないの?」
「それは……そうなんだが。しかし頼むのは……」
「気にしなくていいですよ。フロリア女王にお渡しする物と同じでいいですよね?」
「ああ……頼んだ」
リーリアさんが申し訳なさそうに返事をする。僕としてはつい先日まで魔族との戦いでなかなか我儘を言えなかっただろう彼女のことを考えるとこの位はサービスしてもいいと思っている。そもそも、前に仕事の受けた時にいただいた報酬があるので、それで十分におつりが返って来るので問題ない。
「薫……あなたちゃんとお礼を請求した方がいいわよ? 親しき中にも礼儀ありって、あなたの国では言うんでしょ?」
「大丈夫ですよミリーさん。先日、お使いのお礼に手のひらサイズ……1000カラットクラスのダイヤモンドを2個も頂きましたから。しかも1つはブルーダイヤですよ」
「……」
ミリーさんがそれを聞いて沈黙してしまう。それは仕方も無い話で、1000カラットのダイヤとなればその希少価値から数億は当たり前に付く超高級品である。そして、ブルーダイヤは普通のダイヤより更に希少のため数十億……たかがアウトドアスパイスの100本や1000本など痛くもかゆくもない出費である。
「そう言えばグージャンパマでの宝石の価値が地球のそれとは違うのを忘れていたわ」
「普通にそれより大きいダイヤモンドが見つかるなんて日常茶飯事らしいですからね。ルビーの天板なんていう品もあるくらいですし」
以前、アリッシュ領でプレゼント用の宝石を購入する際に、そのような品を勧められて購入したのを思い出す。グージャンパマがどんなところなのかを紹介するのに役立つということで、現在は笹木クリエイティブカンパニーの展示場に高級机として展示されており、展示場の来訪者にグージャンパマへの興味を持ってもらうのに役立っている。
「ふう……さて、そろそろ今回の目的を話させてもらおうかしら」
すると、僕とミリーさんの話をフロリア女王が遮る。僕とミリーさんがフロリア女王の方へと視線を向けると、いつの間にか用意されたビーチチェアで横になっていた。これから真剣な話をするにしてはその姿は相応しくないと思うのだが、それに気にすることなくフロリア女王は話を続ける。
「そこで薫……この海水浴なんだけど、あなたの感想を聞かせてもらいたいんだけど」
「僕の感想ですか? そうですね……」
ここで僕はフロリア女王の意図を考える。このフロリア女王の様子、そして周囲の従者たちの様子……それらを踏まえるとある1つの考えが思い付く。
「この場所は他には類のないレアな場所だと思います。それを目当てにこの地へとやって来る観光客も大勢いると思いますよ」
「なるほど……薫の世界の人間もかしら?」
「同じです。これならツアーとして企画を立て、団体客を見越せると思います。ただ、そのような観光客を呼び寄せるには、色々整備を見直さないといけないですが」
「具体的には?」
「例えばこの海ですが、海を泳ぐ人の安全性を考慮して、ネットで遊泳エリアと禁止エリアをしっかりと分けといた方がいいと思います。また、魔獣が襲ってきた時のことも考えて、警備する方も付けた方がいいかと」
「ふむ……なるほど。いい勉強になるわね」
目を瞑り、ビーチチェアで横になりながら話を続けるフロリア女王。その後もフロリア女王の質問に対して、僕だけじゃなくユノやアリーシャ様たちも回答をしていく。そして、いくつかの質問を答えていくうちに、フロリア女王たちの今回の目的がハッキリとしていく。
「フロリア女王は王都を観光地化して、この地にお客を呼び寄せるおつもりなんですね」
「その通りよ。それだけじゃなく、娯楽を増やして王都の住人を活気づかせる意味もあるわ」
そう言って、体を起こしてこちらへと顔を向けるフロリア女王。そしてこの後、僕たちは夜国ナイトリーフが抱え持つ問題を知ることになるのであった。




