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455話 夜国ナイトリーフ

前回のあらすじ「夏と言えば海!」

ー親睦会へのお誘いを受けて数日後「夜国ナイトリーフ・高級宿の一室」-


「ねえ。お母さん……今って朝なんだよね?」


「そうだよあかね。でも、ここは年中夜の国なんだって」


「へえー……」


 魔国ハニーラスの転移魔法陣を利用して、僕たちはフロリア女王が統治する国である夜国ナイトリーフへとやって来た。お昼に家を出てこちらに到着するまでの時間はおよそ30分ほどであり、到着時の夜国ナイトリーフの時間はちょうど12時間後の真夜中であった。そこで時差ボケ解消のため、僕たちは用意された宿で一度仮眠を取り……そして現在目覚めたところであり、母さんたちが僕たちの部屋に遊びに来たところもある。


「不思議ですね。時計の時刻は朝の8時……それなのに日が昇らないなんて」


「うん。しかも、夜空には星々が光ってるし……あっちの極夜みたいな現象なのかな……」


「不思議なのです……」


 宿のベランダから下を見下ろすと、そこには街灯に照らされ浮かび上がるレンガの建物群と海。上を見上げればキラキラと星々が光っている。一見すれば中世ヨーロッパの港町と思わせるような街並みだが、こちらでも見かける月のような物が空に見当たらず、街並みを出歩く人たちの中に明らかに僕たちとは違う形容の人たちが出歩いている。


「おはよー……」


「ういーッス……」


 すると、そこに泉とカーターがそれぞれの精霊を連れて室内へと入って来た。ちなみにこうなるだろうと思って、扉の鍵は開けたままである。


「おはよう4人共。ぐっすり眠れた?」


「う、うん……何か話してたらいつの間にか……ね」


「そうだ……な」


 カーターと泉の2人がそう言って、互いに頬を赤くさせる。


「期待してたんッスけどね」


「何も起きなかったわね……」


「「当然だ(です)!」」


 そこにフィーロとサキが意味深な発言をするので、泉とカーターの2人が注意する。それを見た僕たちは思わず笑ってしまうのであった。


「しかし……本当に朝なのか?」


「間違いないよ。ほら……これ」


 僕はスマホの時計をカーターに見せる。それを見たカーターは渋々ながらも頷いて納得する。


「ヴァンパイアが支配する世界といえばらしいけどね」


 泉のその意見にカーターを除いた全員が否定することなく同意する。ヴァンパイアと言えば夜であり、夜が明けない世界の支配者……漫画やゲームという偏った知識を持つ僕たちからしたら納得の意見である。


「おはよう! よく眠れたか?」


 すると今回、この親睦会の主役の1人であるリーリアさんとそのお世話役であるオークのルーネさんが室内へと入って来た。


「えーと……このたびはごしょうたいいただき、ありがとうございます」


 あかねちゃんがそう言ってリーリアさんにお辞儀をする。


「どういたしまして。それに私はそこにいる薫たちを誘っただけだからな……礼を言うならそっちにも言って欲しいところだな」


「うん! 薫お姉ちゃん達……ありがとう!」


 純粋無垢な笑顔で僕たちにお礼を言うあかねちゃん。おかげで僕たちの心の穢れが浄化されたような気になってしまう。


「それと……薫達は朝食はどうする? ミリー達は食べるとのことだったが……」


 異世界のご飯ということで、母さんたちが興味津々なので全員でいただくことにした。


「ちなみに……血を使用してるとか無いですよね?」


「安心しろ。魔国でも出るような料理ぐらいしか出ないぞ」


「それは一安心……」


 泊っている宿の1階に食堂があるので、そちらへと向かうとアリーシャ様とミリーさんの2人が席に着いていた。


「おはようございます」


「おはようございます。起きても真っ暗な街を見ると……何か不思議な気持ちになりますね」


「全くですね」


 僕はアリーシャ様と話をしながら同じ席に着く。その隣にユノ、それにリーリアさんも着席する。そして、他の皆は別の席に座り、料理が来るのを待っている。


「今回、お誘いいただきありがとうございます。しかし……本当に私も来て良かったのですか?」


「誘ったミリーからの要望だ。フロリアも承知してるし、あちらの大陸の女王と話すのも悪くないと言ってたしな。むしろ……薫。お前は良かったのか?」


 リーリアさんが義父であるサルディア王を連れてこなくて良かったのかと訊いてくるのだが、そこはちゃんと確認を取っている。すると、ユノが僕の替わりに説明をしてくれる。


「その問いですが……ただいま、ビシャータテア王国は他国と比べて、薫達を通してですが両国と交渉しやすい立場にいます。それに対して他国から妬まれてまして……」


「それで今回は見送ったという訳か」


「その通りです。それに私達が招待されているので、わざわざ自分が出向く必要も無いだろうと話されてましたね」


「確かに。ここに代理となり得る2人がいるのだから問題無いのかもしれないな」


「それに……水着姿になるのは恥ずかしいんだと思いますよ? 最近、お腹を気にされてましたから」


 ユノそれを聞いて、聞いていた皆からクスクスと小さな笑いが起きる。流石に、義父の恥ずかしい話を聞いて笑う訳にはいかないので、僕は真顔を維持している。すると、そこに料理が運ばれたので、早速、皆で料理を頂きながら話を続ける。


「この後、海へと移動するんですよね?」


「そうだ。場所はフロリア女王が住む屋敷だ」


「屋敷……そういえば、バルコニーから一際大きなお庭とお屋敷があったような……」


「それで合ってるぞ。この夜国ナイトリーフの王都に城は無く、あるのは広い庭園とそこに佇む屋敷。それが女王が住むお城だ」


「強固なお城じゃないのね」


「ここを主に攻めていたのはロロック率いる悪魔達でな。変に強固な建物にしてしまうと上空から攻めて来て、あっさり占拠されて逆に利用されかねない。だから、敢えて逃げやすく、占拠されてもすぐに奪え返せるように、あのような屋敷にしているそうだ。まあ……終わった今では、あのような屋敷の方が暮らしやすいから建て替える予定は無いらしいが」


「変に入り組んだ建物とか大変でしょうしね……」


「ああ……私の住むお城も子供の頃よく迷子になったものだ……」


 そう言って、苦笑するリーリアさん。確かに、魔国ハニーラスのお城は内部の構造が複雑だった。それ以外にも他のお城の中に入った事があるのだが、そのどれもが複雑だったのを覚えている。そこである事に気付いたので、ユノに訊いてみた。


「ビシャータテア王国のお城は1階が執務や玉座の間などがあって、2階は王族の住居っていうシンプルな構造だけど……同じ理由なの?」


「どちらかと言うと……管理のしやすさですね。それと、他国の多くはお城の内部に魔法研究や騎士の詰め所などを用意していますが、ビシャータテア王国はそれらを別の建物を用意して、そちらに入って貰っているからかもしれません」


「言われてみれば……そうかも」


 ビシャータテア王国のお城は確かに行政機関として働いており、王都の警備の要である騎士団の建物や研究機関は別の建物になっていた。緊急時は不便な点が多いだろうが、通常時はその方が仕事がはかどりやすいかもしれない。


 そんな話をしつつ朝食を取った僕たち。その後、宿を後にしてフロリア女王が住む屋敷へと向かうため、街灯に照らされた暗い街並みを歩き出す。


「手を離しちゃダメだよ?」


「うん!」


 母さんはあかねちゃんにそう注意をして自分と手を繋ぐ。本来ならお婆ちゃんと孫ぐらい歳の差があるのだが、他者から見たら、こちらの大陸では見られない珍しい人族の幼い姉妹に見えるだろう。それがどれほど危険かと察している僕たちは不審者が襲ってこないように周囲を警戒する。


「そういえば……誰も迎えに来ないんだね?」


「ああ、「どうせ街中を探索するでしょ?」ということで、移動用の乗り物は無いのは分かっていたのだが……あ、あいつは……」


 そう言って、リーリアさんが指を差す方向を見ると、向こうから知り合いのヴァンパイアであるトラニアさんがやって来た。


「申し訳ない。少し遅くなってしまったか……」


「いや。こちらもちょうど宿をでたところだ。それで……」


「昼頃に到着すれば問題ありません。それ以外の時間はそちらのペースでどうぞ」


 丁寧な言葉でトラニアさんがリーリアさんと話をしている。すると、そこに泉がトラニアさんに質問を投げ掛ける。


「そんなゆっくりでいいんですか? フロリア女王がお待ちなんじゃ……」


「我々、ヴァンパイアは基本的には夜行性だからな。フロリア様もまだ就寝中だ」


「そうなんですね」


「今回、そちらの宿に泊まってもらったのも少しそこら辺の事情があってな。屋敷内でフロリア女王に仕えている奴らの多くがヴァンパイアだから、多くが休んでいる最中なのだ」


「そうなのか……俺はてっきりその辺りは変わらないと思ってたな。ハニーラスのお城でも見かけていたしな……」


「あの時はいつ戦闘が始まってもおかしくなかったからな。常に備えていたんだ……。ちなみに、もしあの戦いが長引いて夜戦になるようだったら、俺達ヴァンパイアは先に休んで、夜戦に備える予定だったんだぞ」


 そんな先日の戦争の裏話をするトラニアさん。そして、トラニアさんの案内の元、夜国ナイトリーフの街を探索を始める。


「この照明……綺麗ッス……」


「キラキラしてるのです……」


「いいわね……」


 1つ目のお店に入ったところ、店内に飾られているガラス細工が施された照明を見てうっとりする精霊3人娘……だけではなく、他の女性陣も虜にさせていく。常に夜であるこの国にとって照明は生活に欠かせない存在であり、ここに来るまでのお店でも照明を取り扱っていた。


「匠の意匠ってところかな……父さん。これ扱いたんじゃないの?」


「そうだね。魔石で光ってるからそれだけでも売れるとは思うけど、ここまでデザイン性のある物ならそれなりに高い値でも買い取ってくれるんじゃないかな」


 父さんは真剣な目でそれらの品々を確認していく。すると、母さんたちから欲しいという声が上がって来る。


「なら、私が……」


「いや。僕がなんとかするよ……すいませーん! 素材の買取とか出来ますか?」


 リーリアさんがお金を出そうとするので僕はそれを制止する。そして、持っていたドラゴンの鱗やオリハルコンのインゴットをそのお店で換金しようとしたら、鑑定係の店員さんが悲鳴を上げつつ大騒ぎするのであった。

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