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454話 祝勝会と海水浴

前回のあらすじ「久々の日常」

―その日の夜「カフェ・ひだまり」―


「……ってことで、大分穏やかな日になったよ」


「そうか。まあ、頑張った後なんだ。その位、静かな日があってもいいだろうって」


 マスターはそう返事をしつつ、出来た料理を僕に手渡すので、それを皆がいる席へと持っていく。ユノとレイスと一緒に自宅でゆっくりしていると、母さんからスマホに連絡が来て、泉たちも一緒にカフェひだまりで夕食を取ることになった。そして、お世話になった何人かにも連絡を取っており、その1人である橘署長もすでに参加していおり、今は泉たちと話をしていた。


「薫さん。それやりますよ!」


「気にしないで。マスターともう少しだけ話をしたいからさ」


 皆と一緒に食事をしていたあみちゃんがお手伝いすると言ってくれたが、僕はそれを断り、手に持っていた料理をテーブルの上に置く。そして、再びカウンター席に腰掛け調理中のマスターと話を続ける。


「あっちに行かなくていいのか?」


「もう少しだけ……こうやって静かにお酒を嗜みたいからさ」


 僕はそう言って、先程から飲んでいたワインを口に含み、つまみであるチーズを口にする。あっちでは禁酒していたので、こうやってお酒を飲むのも約1ヶ月ぶりである。


「そうか……」


 マスターは一言だけそう発して、静かに次の調理へと入る。前からはトントンと包丁を叩く音、後ろは皆のにぎやかな声がとても愛おしく、落ち着いた音に聞こえる。アニメなどの大仕事を終えたカッコイイ主人公たちが日常へと戻る時、今の僕と同じ気持ちだったのかもしれない……と思ってしまう。


「……」


 僕はワインを揺らし、その揺れている様子を眺めながらこれまでの日々を振り返る。あの日、カーターとサキに出会い、ビシャータテア王国のピンチを救い、そして今度は教会に潜む悪魔を退治し、黒い魔石を使う悪い連中やドラゴンとも戦い……そして、魔王とその配下とも戦って勝利を収めた。それらの間にもたくさんの戦いと出会いがあって……約1年半にしてはとても濃密な時間だった。そして、その戦いの末にヘルメスという組織も魔族もいなくなった以上、戦いの頻度や各国からの応援依頼は一気に減るだろうが、それでもまだまだ僕たちは戦うことがあるだろう。何せグージャンパマにはまだまだ未開の地で溢れているのだから。


「冒険者として活動するのも悪くないかな……」


「それもいいが、かみさんとなるユノを泣かせるなよ?」


「分かってるよマスター」


「おー。やってるな!」


 すると、そこに直哉と紗枝さんが店内に入って来る。紗枝さんら直哉と少し会話を交わした後、僕がいるカウンター席へとやって来て隣の席に座り、コーヒーを注文する。


「お酒は飲まないの?」


「この後、会社に戻らないといけないからな。お前達の魔王討伐の知らせを待ち望んでいた連中が一斉に動き出してな。お前の知らないところでお祭り騒ぎだ」


「ご苦労様。僕たちは明日から休暇をもらうよ」


「もちろんだ。ちゃんと有給にしといてやるから、しっかり休んでこい」


「そうさせてもらうよ」


「……さて、もう1つ。大事な話があるんだが」


「かなり重要?」


「ああ。こっちにレルンティシアの連中が作った施設があるのを覚えてるか?」


「観測場でしょ? 『異世界の門』を検知する……ってことは」


「お前達が魔王討伐した日に極微小な魔力反応があったそうだ。恐らくだが……」


「場所は?」


「アフリカ。各組織が調査を行っているんだが、その反応が何なのかはまだ掴めていない」


「……取り逃がしちゃったか」


「分からん。仮に人工生命石『ヘルメス』がやって来たとしても、それが無事にこちらへとやって来たかどうかも分からないからな。案外、瀕死の状態でこちらに来て、既に壊れた可能性もある。実際、その反応後にその辺りで不可解な事件が起きてはいないしな」


「そうか……ねえ。ヘルメスの連中が今どこに捕らえられているかは知ってる?」


 たまたま、名前が同じな盗賊団『ヘルメス』の事を直哉に訊いてみる。すると、直哉はしばらく黙ってから、その口を開いた。


「詳しい場所は知らないが……グージャンパマに一箇所。それとアフリカだ」


「……そうか。それは嫌な感じがするね」


 盗賊団『ヘルメス』と人工生命石『ヘルメス』がたまたま同じアフリカにいるかも知れない。その可能性があると知り、僕はすっかり気分が萎えてしまう。


「まあ、この私にも情報が来ている以上、現場では厳重な警戒がされているだろう。何かあればすぐに連絡はくるさ」


「そして、僕たちが出撃かな」


「だな。現場で処理できるなら、ありがたいんだがな……」


 そこで、マスターがコーヒーを持ってきたので直哉はそれに口を付けて、一旦会話が中断する。僕もワインを飲んで、気分を入れ替える。


「難しい話はここまでにしようか」


「ああ、そうだな。魔王討伐祝いの席には相応しく無かったかな」


 直哉はそう言って、コーヒーカップを手に取り、こちらへと近付けてくる。それを見た僕は、ワイングラスを手に取り、直哉の持つコーヒーカップに近付ける。


「魔王討伐おめでとう。そして、これからの私達の技術発展を願って……」


「乾杯」


 直哉と僕はそう言って、静かに乾杯をするのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―それからおよそ10日後「薫宅・書斎」―


「ってことで海に行きたい!」


「いや何!? いきなり部屋に入って来て、何を言ってるのか分からないんだけど!?」


 「カフェひだまり」の祝勝会からしばらく経ったある日。無事に例年のイベントに参加し終えた泉が執筆中の僕の部屋に飛び込んできて、開口一番で海に行きたいと叫んだ。


「ほら、今年の夏って魔王討伐で潰れたでしょ? 全く夏らしいことをしてないでしょ?」


「いや……泉は堪能してるじゃん」


「うん。それで次に海に行きたいな……って」


「去年、海に行ってないし、それに今年は海ならもう行ったじゃん」


「薫兄。私の言いたいことを理解しているのに、話の筋を逸らしてるよね」


「まあね……つまり、海水浴に行きたいって事でしょ?」


「分かってるじゃん! ってことで……」


「明日から台風の影響で天気が崩れて海は大荒れ、海水浴は不可能だと思うけど?」


「ぐっ!?」


 今日の天気はとても夏らしいムシムシとした暑さと眩し過ぎる日差しが照り付けている。しかし、明日からは台風の影響で天気が崩れ1週間ほどは海も荒れるとの事だった。


「薫兄はそれでいいの? ユノちゃんの今年の水着姿を見たいと思わないの!」


「泉……オジサンっぽいよ」


「シリアスな展開が長かったからね! 欲求も溜まってるのよ!」


「いやいや……」


 僕は若干、暴走気味の泉を宥める。が、確かに泉の言い分も分からなくもない。あの祝勝会から休む予定ではあったのだが、何だかんだで次の日から小説家以外の仕事もしており全く休めていない。理由としては直哉の話した件が気になっており、何があってもいいように待機していたのだが……。


「海水浴か……確かに行きたいね……」

 

 すると、いつの間にか母さんが執務室にやって来ており、泉の意見に賛成する。


「おばさんもそう思うよね?」


「プールにあかねを連れて行ったりしてるけど……海はまだだったね」


「僕たちがあっちに行っている間に行かなかったの?」


「私達の都合がつかなくてね。行けなかったんだよね……」


 僕たちが魔王討伐に行っている間、母さんたちはあかねちゃんの学校が夏休みに入ったところで、僕が留守の間の家を預かる形で滞在していた。その間、どこか遊びに行ったりしていると思っていたが、海まで遠出はしていなかったようだ。


「それなら余計に海水浴は危険じゃないかな……荒れた海にあかねちゃんを連れて行ったら危ないと思うよ?」


「そうなんだよね……でも、思い出に何とか……」


「薫! ユノちゃんが来たよ!」


 僕たちが話し合っていると、1階にいる父さんからユノが来たと呼ばれたので、2人を置いてすぐに1階に下りて玄関へと向かう。玄関には父さんとユノ。そして、ユノに抱き着いているあかねちゃんがいた。


「あら……元気いっぱいですね」


「うん!」


 抱き着いてきたあかねちゃんの頭を撫でながら、笑顔で触れ合うユノ。その光景に僕と父さんはほっこりしてしまう。


「いらっしゃいユノ」


「こんちには薫。今、お時間空いてますか?」


「大丈夫だけど……もしかして、結構重要な話? 服装が制服ってことは学校から直接来たんでしょ?」


「はい」


 そう言って、こちらへと振り返るユノ。その表情からしてかなり重要そうな話である。僕も覚悟を決めて、さっそく話を訊こうとすると、後ろからドタドタと階段を下りる音が聞こえてきた。


「ユノちゃん! 久しぶり! 海行きたいよね!?」


「え!?」


 2階から下りて来た泉がいきなり自分の欲望を言葉にしてユノを困らせる。そこですかさず僕は何があったのかを説明する。


「ああ……それは好都合でしょうか……」


「好都合?」


「はい。私が今日急いで来たのは、魔国ハニーラスのリーリア姫と夜国ナイトリーフのフロリア女王からあるお誘いがありまして……」


「まさか……海水浴?」


「その通りです。フロリア女王主催の夜国ナイトリーフでの親睦会でして、元は戦時中のリーリア姫とフロリア女王の短い余暇の行事だったらしく、本来ならお二人と付き人達だけで楽しむものだそうです」


「けど、今回は僕たちも誘われた……?」


「はい。特にフロリア女王が私達に来て欲しいようです」


「僕たち……か」


 戦争が終わって間もないこの時期。フロリア女王には何かしらの思惑があるようだ。


「家族同伴でもいいかな……?」


「大丈夫だと思います……が、あまり大勢で来られるのは困るから、ある程度は絞って欲しいと言われました」


「なるほど……」


「薫! 絶対に私達も連れて行ってね!!」


 すると、いつの間にかいた母さんが自分たちも連れていくようにお願いしてくる。妹であるあかねちゃんのためにも一緒に連れて行きたいとは思っているので何とかするしかないだろう。


「とりあえず……相談してくるかな」


「そうですね」


 この後、僕はフロリア女王たちと連絡を取り、親睦会への準備を進めるのであった。

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