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453話 帰って来た日常

前回のあらすじ「魔国ハニーラス編終わり」

ー受章式の翌日「薫宅・庭」-


「んーー!! はあ……久しぶりの我が家……帰って来れたんだな……」


 僕は暑すぎる空気をその身に感じながら背筋を伸ばす。受章式の翌日、あちらでの仕事を後任の人に引き継いだ僕は、ユノたちと一緒にいくつもの転移魔法陣を利用し、ビシャータテア王国で一度王様たちに顔を見せてから自分の家まで帰って来た。


「やっぱり住み慣れた我が家が一番だね……」


「昨日今日だけでも、色々ありましたからね。また、新しいお家も手に入れましたし」


「はは……そうなんだよね。内装とかどうしよう……」


 ユノの言葉に苦笑いしながら返事をする。それで、どうして家を貰ったかというと、受章式の後、僕たち家族はグロッサル陛下たちと別室で話し合いをし、魔国ハニーラスでの貴族の位は辞退することにした。その理由としては、魔国ハニーラスに長期間留まることが出来ないからである。貴族となれば、その国のために仕事をしなければならず、適度な休みが欲しい気持ちと、あっちこっちに顔を出すために移動し続ける僕たちにはそれは不可能である。その替わりとして、西の大陸と地球への交流のための仲介人を頼みたいということで、その拠点となる屋敷を貰うことになったのだ。


「イスペリアルにハニーラス……それと、クロノスにデメテル、エーオース……色んな建物の所有者になっている気がするな……」


「まだ、ヘルメスが残ってますが、当初の討伐対象であったアンドロニカスは倒されたのですから、管理権をどなたかに譲渡したらどうですか」


「そうだね……。今後はその辺りも話し合って行かないと」


 「魔王を討伐し世界に平和が訪れた……。その功労者である勇者はお姫様と末永く幸せにくらしましたとさ」というのが物語の終わりだろうが、ここは現実であり、どちらかといえば「俺たちの戦いはこれからだ!」である。明日からは、また忙しい日常の始まりである。


「薫! 私と茂はあかねを迎えに昌の店に行ってくるね!」


「うん。分かったよ」


 母さんと父さんは家に寄らず、そのまま昌姉たちのお店である『カフェひだまり』へと車で向かった。話すこともあるだろうから、すぐには帰って来ないだろう。


「じゃあ……私達も家に帰ろうかな。次のイベントの衣装を準備をしないと」


「時間が無いけど……大丈夫なの?」


「大丈夫! 出発前に粗方の準備は終えてるから問題無し!」


「後はハニーラスで手に入れた生地を利用すれば完璧ッスね!」


 泉とフィーロはそう言って、自宅へと帰って行った。残ったのは僕とユノ、それにレイスの3人である。


「とりあえず……中に入ろうか」


「はい」


 僕は久しぶりの我が家へと足を入れる。出発時と何も変わっていない家の中、ただし、空気が淀んでいる気がするので、僕は家中の窓を開けて空気の入れ替えを行い、居間に関してはエアコンを起動させておく。


「当然だけど……冷蔵庫は空っぽだよね」


 絶賛、太陽がじりじりと照らす夏の真っただ中、喉が渇いたので何か飲もうとして、冷蔵庫を開けてみたら何も入ってなかった。2ヶ月はあちらにいると思っていたので、空っぽにしたのは覚えていたが、封が切れていないミネラルウォーターぐらいは無いかと思って見てしまった。


「まずは買い出しかな」


「早速行くのです! 茶菓子もとかも無いのです!」


 僕はレイスに急かされ、車の鍵を手に取り玄関へと向かう。その途中で居間にいたユノにも声を掛け、3人で車に乗り込み、帰って来た報告も兼ねて鈴木商店へと走らせる。すると、隣に座っているユノが慣れた手つきで車のラジオを付けた。独特なラジオCMが流れ、それが終わるとニュースが流れ始めた。


(続いてのニュースです。今日未明……)


 車を運転しつつニュースを聞いてみるが、在り来たりなニュースしか流れてこない。


「そういえば……魔王アンドロニカスの討伐って、ニュースになるのです?」


「どうかな……こっちに影響があるかと言われたら、そうでも無いだろうし……」


「実際に被害もありませんからね」


 ニュースを聞きながら、それにあった会話をしていく僕たち。すると、グージャンパマ絡みのニュースが流れて来る。


(次世代のエネルギーとして注目されている魔石。それに関する国際会議が笹木クリエイティブカンパニーで行われました……)


「へえー……あそこでそんな会議が行われてたんだ……」


 前までは変人奇人の集まった小規模な会社だったはずだが、今では最先端エネルギーの研究と開発を行っている有力企業になるなんて……。


「何か感慨深いな……」


「薫が笹木クリエイティブカンパニーに情報を持ち込まなかったら、こうはならなかったでしょうね」


「そうだね……」


 そんな思いがけないニュースが流れたところで目的地である鈴木商店に到着した。車を出て、店の中に入ると、こちらに気付いた店長さんが声を掛けて来た。


「やあ、薫ちゃん! 元気そうだな!」


「お久しぶりです。無事に帰って来ましたよ」


「あはは! そうだな! それで……今日は何を買いに来たんだい?」


「普通の買い物……と、またお酒を用意してもらっていいですか? こっちのお酒を気に入ったみたいでして、とりあえず種類は問わず、用意してもらいたいんですが」


「そうかいそうかい……なら、今週中には用意しておくよ」


「お願いします」


「店長! お電話来てますよ!」


 店員のその言葉に店長は「またな!」と別れの言葉を言って、店のバックヤードに入っていってしまった。


「じゃあ、僕たちは買い物をしょうか」


 その後、僕たちは買い物を済ませ自宅へと帰宅。冷蔵庫に買ったものを詰め込み、ついでに買ったお弁当で少し遅めの昼食を取り始める。


「天丼が美味しいのです!」


「こっちも美味しいですよ。食べてみます?」


「いただくのです。そうしたら私は……」


 そう言って、お弁当のおかずを交換し合うレイスとユノ。どこかお店に食べに行った方が良かったかなと思ったが杞憂のようである。一足先に食べ終えている僕はそんな2人のやり取りを見つつ、スマホを操作していると、担当の梢さんから電話が掛かって来たので、すぐさま廊下に出てその電話に出た。


「もしもし……」


(もしもし。お久しぶりです薫さん! 魔王討伐お疲れ様でした!)


「ありがとうございます。でも、よく分かりましたね? 僕がこっちに帰って来たのはついさっきですよ?」


(お姉さんである昌さんからご連絡を頂きまして……お疲れだとは思うので、今後の予定だけでも軽く相談出来れば……)


「分かりました。本職である小説家のお仕事に復帰しないといけないと思ってましたから。一応、あっちでも小説を書いていたので、後で送りますね」


(流石、薫さん! 助かりますよ~!! それで何ですが……)


 梢さんの話はそこまで急ぎの物は無く、原稿の締め切り日と簡単な打ち合わせだけであった。長期間、留守にしていたので、忙しくなると思っていたが梢さんのおかげでそうはならずに済みそうである。


(では、よろしくお願いします。それでは)


「はい」


 そこで梢さんからの電話が切れる。電話を終えた僕は再び居間に戻ると、2人とも弁当を食べ終えており、お茶を飲みながらお喋りをしていた。


「あ、おかえりなさい。急ぎのお仕事ですか?」


「ううん。梢さんのおかげでそこまで急ぎにならずに済みそうかな。それに使った道具の片付けもしないとね……」


 僕はそう言って、身に付けている指輪を見る。アイテムボックスであるそれの中には野営で使った道具類や着用した衣服なども入っている。


「お手伝いしますよ」


「同じくなのです!」


「ありがとう二人共。それじゃあ、まずは……」


 その後、3人で協力して片付けを済ませていく。その間、特に誰かから連絡が来ることも、尋ねることも無かったので片付けに専念でき、2時間程で終えることが出来た。


「これで片付けが終わりましたね」


「そうだね……」


「どうかしたのです? 片付けが終わったのに嬉しそうじゃないのです」


「片付けが終わったのは嬉しいよ? そうじゃなくて……ほら、さっきの梢さんみたいに、何かしらの連絡が来ると思ってたんだけど、1回も来なかったからちょっとだけ不思議に感じただけだよ」


「そう言えば……そうですね。今の薫は国家の重鎮と親しくしてますし、そんな彼らから何の連絡も寄こさないのはおかしいですね。把握していない……という訳でも無いでしょうし……」


「僕としては菱川総理やシャルス大統領、それとショルディア夫人辺りから連絡が来るかなと思ってたけど……」


 僕は念のためにスマホを確認するが、特に連絡は来ていない。もしかしたら、忙しかった僕たちへの配慮から、今日のところは連絡を寄こさないのかもしれない。


「こっちから連絡するのです?」


「今日のところはいいんじゃないかな。それより、3時になったことだし、おやつにでもしようか」


「そういえばそうだったのです! 早速、買ったお菓子を食べてみるのです!」


 レイスは嬉しそうな顔で、おやつが置いてある台所へと飛んでいってしまった。そんなレイスの後ろ姿を見た僕とユノは互いに顔を合わせ、思わず笑ってしまうのであった。

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