451話 ついに素顔公開!
前回のあらすじ「褒美は東の大陸で使える金貨だったりする」
―「魔国ハニーラス・玉座の間」―
「最後に……成島 薫とレイス。前に」
僕とレイスは呼ばれ、グロッサル陛下の座る玉座の前へと進み。玉座の前で片膝を付いて頭を下げる。
「そのような儀礼は不要だ。魔王アンドロニカスを討ち倒し、我が国に平和をもたらした英雄。堂々とした佇まいで構わない」
片膝を付いて頭を下げる儀礼を不要と言い放ったグロッサル陛下に周囲からざわめきが起きる。今いる場所は魔国ハニーラスであり、王が住む居城。そしてその主であるグロッサル陛下に対して敬意を示す必要が無いというのは、自分達がグロッサル陛下と対等か下手するとそれ以上の立場だと周囲に示すことになってしまう。僕は頭を上げ、発言の許可をもらってからその行為に異を唱えたのだが、グロッサル陛下は首を横に振ってそれを否定してしまう。
「あの……どうしてなのか訊いてもいいのです?」
「その理由は……既に君達は知っているんじゃないか?」
そう言って、質問したレイスから僕へと視線を向けるグロッサル陛下。そのタイミングで横にいたフロリアさんが口を開いた。
「私も同意見ね。後ろで控えているあなたのお仲間達が冷静な様子からしても、私の思っている理由であっているみたいだし……」
フロリアさんのその言葉を聞いて、後ろに視線を向けると周囲が動揺している中、皆の反応は薄かった。むしろ、心当たりがありますと訴えるような、そんな困惑したような表情になっていた。
「それだから立ち上がり、こちらへと来るがよい」
「陛下! いくらなんでもそれは……!!」
すると、僕に対するグロッサル陛下の対応に、部屋の片隅で静観していたハニーラスの一部貴族たちから非難の声が上がる。その中には、この前の謁見の際に意見を唱えた奴もいたので、非難の声を上げている彼らは恐らく反対派のグループなのだろう。
ただし、そのような抗議を取らないだけであって、今のグロッサル陛下の行動に不満を抱いている一部の貴族たちからも懐疑的な目がこちらへと向けられていたりする。中には僕に王位を譲る気では無いのかと心配するような声も聞こえてくるのだが、グロッサル陛下はそれに気にすることも無く、僕が近くに来たところで静かに口を開く。
「薫。魔王討伐に向かう前に言った話したい事……ここで話してもらってもいいだろうか?」
「それは……」
グロッサル陛下のそのお願いに、僕は少し戸惑う。僕としてはこっそりと伝えるつもりだったので、このような公の場で話すつもりは無かった。ただ、僕たちの受章を最後にした事、僕たちだけ特別扱いにしようとした事、その2つの所為からして、最初から僕に自分の正体を話させるつもりだったのは間違いないだろう。
「薫としてはこの我に話すだけのつもりだったのだろうが……これからは我が娘リーリアが国を牽引することになる。薫にはそのお手伝いをしてもらいたいとも思っている。そしてそれは……薫も同じ気持ちでは無いのだろうか?」
「その発言ですが……リーリア姫と僕を婚姻させようしていると勘違いされませんか?」
「そうならないためにも、ここで話して欲しい」
グロッサル陛下と僕の会話を聞いている周囲の人たちからしたら何とも意味深に聞こえるだろう。グロッサル陛下は王位を僕に渡すつもりでもなく、リーリアさんと婚姻を結ばせる訳でもない。そうなると、他にどんな理由があって僕を特別扱いにしようとするのか気になっている人たちもいるだろう。ここで、話さなければグロッサル陛下に変な噂が立ち、今後の復興活動に支障をきたす恐れがある。そう考えると、ここで話さない訳にはいかなくなってしまった。
「……これが僕たちを最後にした狙いですか?」
「ああ……あれから考える時間はあったからな。ある程度の予想も出来ているし、それを受け入れる覚悟も出来ている……だから、この場で話して欲しい」
「分かりました……」
僕は付けていた狸のお面を外し、グロッサル陛下とフロリアさんに素顔を晒す。すると、2人から後ろを振り向いて、他の皆にも見せるように促されたのでゆっくりと後ろを振り向く。
「……アンジェ様!?」
近くにいた貴族の1人が僕の顔を見て、慌ててその場で膝を付き始める。そうでは無くても、僕の顔を見たハニーラスの貴族たちは何かしらのリアクションを取っていた。しかし、1人の反対派の恰幅のいいオークの男があることに気付き、してやったりと言いたげな表情を浮かべつつ、こちらへと近付きながらその気付いたことを言ってきた。
「陛下騙されてはいけません! この者からはアンジェ様の持っていた魔力は感じられません! こいつは偽物です!」
「いつ僕がアンジェ本人だと言いましたか?」
僕はそのオークの発言にすぐさま反論し黙らせる。だが、僕のその態度に憤慨したオークは僕に指を差しながら暴言を吐ていくる。
「貴様の魂胆など知れている! その容姿を利用して陛下を誑かす……!!」
「……あなたはこれを見ても、僕に口答えるするつもりですか?」
僕はアイテムボックスからあの六芒星が刻まれた魔石のネックレスを取り出しその男に見せつける。しかし、それでもオークは引き下がらない。
「そんなものまで用意して……!」
「薫。魔石の部分を手に持って『メモリア』と唱えてくれないか?」
すると、言い合いをしていた僕とオークの話を遮って、グロッサル陛下が僕に再びお願いをしてくる。そこで、一旦僕はその魔石の部分を持って『メモリア』の魔法を唱える。すると、魔石から女性の声が聞こえてくる。
「この声があなたに聞こえてるなら……この魔石はきっとあなたの元に戻ってこれたのかしらね」
「姉上……」
グロッサル陛下のその一言で、これが祖母の……アンジェの声だと気付く。クロノスで聞いた時よりも弱弱しいその声からして、亡くなる少し前にこの音声を記録したのかもしれない。
「私の娘達には母親として色々残すことは出来た。けど……そちらの世界に残した弟であるあなたに向けた物は何も残していなかった……だから、もし……これがあなたの元に届くようなら、このメッセージを送ります」
僕はそこで『メモリア』の魔法を解除し、持っていたネックレスをグロッサル陛下へと差し出す。
「この魔石に込められたグロッサル陛下の姉上であるアンジェのメッセージは陛下だけのものであって、これ以上は僕たちが聞くことは出来ません。だから……このネックレスはグロッサル陛下にお返しします。アンジェの娘である僕の母親もそれを強く望んでいました」
「……となると君は」
「僕とそこにいる泉はアンジェの娘たちの子供……アンジェは僕たちの祖母です」
「祖母……! そうか……そうだったのか……」
そう言って、グロッサル陛下は僕に抱き着き、僕の耳元で「よく来てくれた……」と囁き、今度は僕の両肩に手を当てて、僕をまじまじと見つめる。
「本当に我が姉そっくりだ……それと、そちらにいる泉も雰囲気や性格がどことなく似ているな……」
そう言って、グロッサル陛下は今度は後ろにいた泉の方を見る。それに気付いた泉は、僕の横に来て会話に混ざり始める。
「そうなんですか? お婆ちゃんは私達が生まれる前に亡くなってるので、私と薫兄は実際に話したことが無くて……」
「そうだったのか……君達の母親はご健在か?」
「私の母は事故で……薫兄の母親である明菜おばさんは健在ですよ」
「そうか……それは済まないことを訊いてしまったな。出来れば、泉の母親にも会って話を聞いてみたかったところだ……」
「リーリア姫も同じことを言ってましたよ」
「そうだったか……ということは。リーリア! お前は既に会っているのか?」
「はい。私があちらの世界に飛ばされた時に助けて下さったのが明菜でした」
「そうか……我が姉の残した者達がこの国を救ってくれたのだな……あの時と同じように……」
そう言って、グロッサル陛下は笑顔を見せながら、静かに目を閉じ姉であるアンジェとの思い出を口にしていく。強く、破天荒でいて、それでいて優しかった姉。そんな姉が目の前からいなくなってどれだけ自分が悲しんだかと……誰かに話すというよりも、独り言に近い話し方で、短時間ではあったがアンジェのことを話してくれた。
「すまない。このような場で話すものでは無かったな……場所を変え、是非とも君達とゆっくり話をしたい」
「構いませんよ。ただ……祖母のことを知っている訳では無いので、出来れば母がここにいれば……」
「そう思って来ましたよ?」
ふと、玉座の間の入り口から可愛らしい聞き覚えのある声がしたので、そちらへと振り向くとドレス姿のユノと同じくドレスを着た母さんと正装した父さんがこちらへと向かってゆっくり歩いて来る。
「え? どうしてここに?」
「カシーから受章式があると報告があったので、明菜さん達と一緒にこちらへやって来たんですよ。きっと、こうなるとは思っていたので」
「そういうことで、来たんだけど……とりあえず、薫に泉、それとレイスちゃんとフィーロちゃん……お疲れ様」
「うん」
母さんからの労いの言葉に、僕は短い返事をする。その後、泉たちも母さんと少しだけ話をしたところで、僕は母さんと父さんをグロッサル陛下の元へと案内する。
「……君が我が姉の娘なのか」
「はい。成島 明菜といいます。こちらは旦那の茂。ここにいる愚息の両親でもあります」
「ここで愚息は酷くないかな……?」
「真面目な話してるんだから口を挟まないの」
「ははははっ!! 構わない! 姉の娘とその孫であり英雄の薫ならそのぐらいのことは気にはしないさ! ようこそ……ここが君の母親の故郷である魔国ハニーラスだ。君とその家族を歓迎する」
「ありがとう叔父さん」
そう言って、握手するグロッサル陛下と母さん。こうして、グロッサル陛下に僕と陛下は親戚だと伝えることが出来たのであった。