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450話 生きた魔石『ヘルメス』

前回のあらすじ「戻って来た日常編」

―「魔国ハニーラス・玉座の間」―


 マクベスが持った魔石から光があふれ、それが口を持たない赤髪の男性を映す。その背景の具合からして旧ユグラシル連邦・第一研究所内で間違いないだろう。そこで、僕はこの男性こそが魔王アンドロニカスなのだと理解した。すると、その男性がこちらを見てゆっくりと会話を始める。


(そこにいるのだろうマクベス? お前がこれを手にしているなら……俺は負けたのだな)


 不愛想な表情を浮かべていたアンドロニカスが、そこで柔らかい笑顔を浮かべる。


(お前が俺を仕留めた……とは思えないな。俺とお前は同型だが、俺の方が若干戦闘能力は高め……そして、今はアレが作った自慢の肉体だ。お前が勝つことはないだろう……となると、俺を倒したアンジェとララノアのような輩と一緒に来て、そいつが俺を止めただな。まずはその誰かにこの言葉を贈らせてもらおう……終わらせてくれてありがとう)


 そう言って、頭を下げるアンドロニカス。その物腰柔らかさを見て、周囲の人たちからどよめきが起きる。これが、私達の怨敵だと思っている人たちからして、この映像に映る彼はあまりにも思っていた姿と違っていたのだろう。そんな周囲の様子にお構いなしに映像が流れていく。


(アレがいつまで眠っているか分からない。だから……今のうちに俺の中にいるアレについてその魔石に記録しておく。俺と共に死ねばいいが……そうならなかった場合はこの情報を利用しろ)


 映像のアンドロニカスはそう言って、近くにある椅子にゆっくりと腰掛け話を続ける。


(まず、俺の身に何があったのかだが……とある施設で改造を受けた。とは言っても……改造内容は至極簡単な物であって、俺の体内に追加の魔石が組み込まれただけだがな……まあ、まさかその魔石が生きていたとは予想外だったがな)


 『生きている魔石』と断言するアンドロニカス。つまり、あのアンドロニカスの体には2つの異なる意思が混在していたことになる。そして、このアンドロニカスの行為からして、その『生きている魔石』とは相容れることは無かったのだろう。


(あの時、ユグラシル連邦のイレーレの達は自分達がこの星に君臨するために必死だった。しかし……そんな中で俺とお前の意見は「他種族と仲良くせよ」だった。一向に進まない事態……いや、悪化していくこの事態に奴らは頭を悩ませていた。そこに1人の男がある提案をした。それがこの俺をイリスラークという連中の施設で改造することだった。お前じゃなかったのは、俺の方が血の気があったからだろう。奴らが望んだのはお利口な人形ではなく、敵を殲滅する兵器……道具だったのだからな)


 映像に映るアンドロニカスの「道具」という言葉を聞いて酷い違和感を感じた。最後に正気に戻ったアンドロニカスと一線交えた身としては、あれは覚悟を決めた一人の漢だった。とてもだが道具として見做すなんてことは僕には出来ない。僕はそんな強い憤りを感じつつも映像は流れていく。


(話が逸れたな……それで俺が改造されることになったが、当然そんな命令は受けていない。俺は「とある作戦のため用意された兵器の実用性を検証するから、比較のため君にも協力して欲しい」という命令を受けて、その施設に一緒に出向いたのだ。だが、施設に入った途端に俺は拘束され……すぐに生きた魔石である『ヘルメス』を埋め込まれてしまった)


「(え?)」


 隣にいる泉から驚きの声が漏れる。地球で魔石の力を使って悪事を働いていた『ヘルメス』と戦った僕たちが、グージャンパマでは『ヘルメス』という魔石を埋め込まれたアンドロニカスが率いる魔族と戦う。単なる偶然だとは思うが、それにしては出来過ぎである。泉が驚くのも無理もない。


(『ヘルメス』の影響を受けた俺はすぐさまとある作戦を閃いた。まあ、それが本当に俺の考えた作戦なのかは不明だがな……そこから先はお前も知っているだろうから、その辺りは省かせてもらうぞ。で、俺がお前とアンジェ、ララノアの3人と戦って負けた後の話だが……『ヘルメス』が俺の核となる魔石と一緒にお前達の目を盗み逃亡、その後、俺の知識と『ヘルメス』がイリスラークから手に入れた知識を利用して新たな体であるこの肉体と、配下となる魔族を作り出した。恐らく、お前達は哀れな姿となった魔族達の姿を見たと思うが……魔族達は強力な魔法の使用や、身体能力の向上を得るために『ヘルメス』と繋がっている。そして、俺が『ヘルメス』によって変異した時、繋がっている魔族達は知能が落ちる代わりに更なる身体強化と魔力を持った化け物と成り果てる……)


 淡々と話を続けるアンドロニカス。すると、頭が痛いのか両手で頭を押さえ始める。


(時間が無いか……『ヘルメス』の目的はユグラシル連邦の勝利。しかし、その意味は大分捻じ曲げられてしまって、ユグラシル連邦に所属する自身さえ無事であれば勝利であり、それ以外の事は些細な犠牲というものだ。魔族達や俺は下等種族……そういう扱いだそうだ。そんな考えなど……到底、理解できないがな)


 座っていたアンドロニカスが立ち上がりこちらへと近付いて来る。どうやら話はここまでらしい。


(さて……すまないがそろそろ時間だ。これを強固な防御魔法を施してから体内に仕込み、俺がこんなことをしていたという記憶を消す作業があるのでな。他に聞きたいだろう内容はこの魔石に既に記録しておくから見るといい……それと最後に言っておく。『ヘルメス』の考えに俺は同意できない。魔族達も消えていくのが一番なのだろう。だが、魔族達は生きている。こんな操り人形である俺を慕ってくれてもいる……要は彼らに情が湧いてしまったようでな。だから……あいつらが生きた証を残すためにも戦った。仮に勝ったとしたら、『ヘルメス』を何とかして、俺は魔族達のための世界を作るために奔走するつもりだった。だから……俺に同情は必要は無い。魔族達の王として戦う1人の男としてお前達の前に現れるつもりだ。四天王を手元に置き、お前が連れた手練れと真正面から迎え撃つ……これが俺の作戦だ。まあ、奴らの意思を尊重して順番や場所は奴らに任せるから、余計な事は言わずに俺は座って見守るだけだがな)


 そう言って、アンドロニカスは自信を記憶し続けている魔石を持ち上げる。


(ということで……これで話は終わりだ。さらばだマクベス。願わくばお前達が築く未来に幸があらんことを……)


 そこで映像が途切れる。この後、無事に『ヘルメス』が起きる前にこの魔石を体内に仕込み、この時の記憶を消去することが出来たのだろう。彼の最後の足掻きが見事に成功し、こうやって敵の情報がこちらに伝わった。敵ながら天晴とはこのことだろう。


「……ということです。今、アンドロニカスが話した以外の内容がこの魔石に記録されていたので、後で情報をまとめて関係各所にお知らせします。それとアンドロニカスは『ヘルメス』という存在に操られつつも、魔族に味方するのは自身の意思だったということらしいので、憎き相手として処理して下さい」


「随分、薄情だな」


「アンドロニカスがそう言ってるのだから、そう処理するだけですよ……きっと、それが彼のためでしょうから」


 マクベスは淡々とそう言ってはいるが、決戦直前までアンドロニカスの身に何があったのか、彼がどうしてあのような凶行をとったのか調べており、もし、彼が捕えられた場合は擁護、あるいは減刑などを求めるつもりだったのかもしれない。そう考えると、彼が残した遺言を聞いた後、きっと僕たちが見ていないところで、友を世紀の悪人として罰する覚悟を決めたのだろう。


「それよりも……生きた魔石『ヘルメス』が本当に倒せたのか分からないので、警戒は怠らないことを進言します」


「うむ。了承した。準備が出来次第『ヘルメス』の姿絵を公布する! ここにいる皆も十分に警戒を続けて欲しい!」


 グロッサル陛下はそう言って、ここにいる全員に注意を促す。フロリアさんもその後にここにいる自国の民に対して同じような注意を告げており、こうして魔国ハニーラスと夜国ナイトリーフで『ヘルメス』への警戒網が引かれることとなった。きっとこの後、西の大陸の国々も同じように警戒網を引かれるだろう。


「さて……この話は以上だ! 次に魔王アンドロニカスとその側近である四天王を討伐した者達に勲章と褒美を授ける受章式に入る! 名を呼ばれた者は前に出て勲章と褒美を受け取るように!」


 ここでこの話は終わり、次に本来の目的である受章式へと入る。カシーさんとワブーの動きを観察すると、2人の名前が呼ばれ玉座の前へと来ると、そこでグロッサル陛下かフロリアさんが直々に勲章と褒美を渡す形になっていた。そして、カーターとサキ、シーエさんとマーバ、泉とフィーロ、マクベスにミリーさんと順に呼ばれ、ついに僕たちの番となった。


「(最後にしたのに理由がありそうなのです)」


「(だろうね)」


 僕たちはこの順番に意味があるだろうと推測しつつ、グロッサル陛下とフロリアさんの前へ出るのであった。

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