449話 受章式
前回のあらすじ「終戦直後の各地の状況を見てみた」
―10日後「魔国ハニーラス・メインストリート」―
「何か久しぶりなのです」
「だね……マクベスは何度かお城に出入してるんだよね?」
「はい。アンドロニカスが倒れていた場所から手に入れた魔石の調査結果を報告したり、あの謎の生き物がどこへ向かったのか話し合ったりするために何回か来ましたね」
マクベスとそんな話をしながら魔国ハニーラスのお城へとやって来た僕とレイスは、マクベスと一緒に城門へと続く大きな通りを歩く。ここも魔族達との戦闘によって被害が出た場所であり、今は復興のために角材を担いだオーガや、金槌を手に釘を打ち付けるリザードマンなど様々な魔物が慌ただしく行き交っている。
魔王アンドロニカスを倒した日てから、あれから10日後。今日は魔国ハニーラスのお城で受章式が開かれることになった。この10日間の間に、転移魔法陣で旧ユグラシル連邦第一研究所とこの王都を行き来はしていたのだが、その間にお城には立ち寄っておらず、グロッサル陛下とフロリア女王にも会っていなかった。ただし、泉たちがカーターの養生のためにこちらに滞在していた時に出会っており、泉からは「疲れているようだけど無事だよ」と聞いてはいるので安心はしている。
「2人とも! 久しぶりだな!」
僕たちがお城の城門前に来ると、そこにはドレス姿のリーリアさんと正装したコークスさんが待ってくれていた。
「10日ぶりだね……大分町中も活気が戻って良かったよ」
「ああ。魔王アンドロニカスがこの世からいなくなり、魔族もいなくなったからな……安心して外に出られるようになった。それに……あっちこっちに転がっていた魔族共の亡骸の処理や洗浄などを君達が一括してやってくれたしな……」
そう言って、リーリアさんが苦笑いをする。王都周辺を埋め尽くした魔族達の亡骸……その変異した肉体はドラゴンさえも食べられないほどの毒を持っており、下手な処理をすると周囲の環境に悪影響を及ぼすためどう処理しようかとグロッサル陛下は悩ませていた。
それを見たリーリアさんが僕たちに相談してきたので、僕たちは新しく覚えた『天魔波洵』の能力を試す形で魔族の亡骸を1ヶ所に集めてもらい、アンドロニカスとの戦いでは使用しなかった7つの技の1つであり、召喚魔法である『守鶴&尾曳』の必殺技である『暗き湖沼へ』によって塵1つ残さず消滅させ、町中の汚れは泉たちがセイレーンで王都を丸ごと洗浄するという力技で、これらの悩みをたった半日で解決させた。まあ……これがどれほどの非常識なのかは自分達も自覚している。
「私からもお礼を述べさせていただきたい……ありがとう。おかげでグロッサル陛下とリーリア様を守ることが出来た」
「気にしないで。それに……まだ、終わってないからさ」
「確かにそうだが……今日は君達の功績を正式に称えるための日だ。そのようなことは今日だけは忘れて、胸を張って受け取って欲しい。そうですよねリーリア様?」
「ああ。父上の為にもそうしてくれると嬉しいのだが……」
「分かりました。それと……このお面も今日で終わりかな」
僕は今も付けている狸のお面に手を振れる。大体、人前ではずっと付けていたお面……グロッサル陛下との約束もあるので、どこかのタイミングで外すつもりである。
「そうかもしれないな……。話もそこそこにして、そろそろ行こうか。他の皆は既に集まってるぞ」
そう言って、リーリアさんが歩き出すので、僕たちもその後ろを歩き出す。城内を進むとお城の中で仕事中の人達がこちらを見て頭を下げる。それはリーリアさんだけではなく僕やマクベスにも向けられているようにも感じられる。
「何か僕たちにも向けられていないかな?」
「既に魔王アンドロニカスを討伐したのが薫とレイス、それにマクベスだと周囲に知らせている。長年苦しまれた敵の大将を討ち取った者達に敬意を示さない奴などほとんどいないだろう」
「自分は驚きですね……グロッサル陛下から恨まれてますから」
「姉の代わりに役目を果たしたから……と言ってたよ。そもそも父上だってマクベスを恨むのは筋違いだと思っていたしな」
「そうでしたか……」
「おーーい! 3人とも!」
すると、前から僕たちを呼ぶ泉の声がするので、廊下の先を見ると、研究所での戦闘に参加した皆が集まっていた。そこには毒で療養中のはずであるカーターもいた。僕たちはすぐさま皆と合流し、授賞式を行う玉座の間へと一緒に向かう。
「体はもう大丈夫なのカーター?」
「ああ。デメテルにある薬草で強力な解毒薬を作ってくれたおかげで、変な後遺症も残らずに済んだよ」
「それは良かったのです。カーターの身に何かあったら泉が泣いていたのです」
レイスのその言葉に、僕は頷く。それを見たカーターと泉から「からかわないで!」と注意されてしまった。そのやり取りに、他の皆から笑いが起きてしまう。
「私からも言っておくが……泣かせるなよ? 親戚である私が許さないからな?」
「ああ。まあ……その前に薫にぶっ飛ばされそうだがな……」
「今なら消去出来るけど?」
「勘弁してくれ……」
肩をすくめて両手の手のひらを上に挙げるカーター。まあ、僕が手を下さなくとも、周囲の人たちが圧力を掛けて来るとは思うが……。そんなやり取りをしながら玉座の間までやって来た僕たち。門番の人が玉座の間の両扉を開けたところで静かに入室する。玉座の間には既に魔国ハニーラスと夜国ナイトリーフの貴族たちが室内で待機しており、また今回の作戦で指揮をしていたカイトさんや王都防衛に務めていたペクニアさんなどの戦闘に参加した西の大陸の人たちもいた。
「よくぞ来た勇者達よ!」
僕たちが玉座に座るグロッサル陛下とリーリアさん。そして、その脇に控えているフロリア女王の前で僕たちが膝を付いたところで受章式が始まった。僕たちの功績を宰相が読み上げていき、その後、戦後の王都の状況についての報告、魔王アンドロニカスの体から逃げた謎の生物についての報告、そしてそれらが終わると勲章と報酬を受け取る流れになる。ちなみに報酬として何を頂くのかは聞いていない。なるべくなら持ち帰りの出来る物だとありがたいのだが……。
そんなことを思いながらも受章式は進み、謎の生物についての報告が始まろうとする。その際に、マクベスが立ち上がって報告を始める。
「まず、謎の生物についてですが……魔王アンドロニカスが残した魔石から正体が判明しました。あれはイレーレの研究者が作り出した意思を持った魔石でした」
その発表に室内からどよめきが起きる。魔道具としてならマクベスやセラさんなどのコッペリアという存在がいるのは何となくだがまだ理解できる。しかし、魔獣から採れ、ありとあらゆる魔道具に使われる魔石が意思を持つなんて正直言ってピンとこない。
「意思を持た魔石……お主のようなコッペリアとは違うのか?」
「僕たちは動力源として魔石を利用し、肉体は生物とは異なる材質で出来てますが、魔石だけで何とか出来る訳ではありません。しかし、この謎の生物は魔石自体が本体であり肉体……そして」
一度、そこで話を区切り呼吸を整える素振りを見せるマクベス。そして、再びグロッサル陛下の方へと視線を向けてから話を続ける。
「ありとあらゆる生物に寄生する能力を持ってました。詳細は全てこの中に……」
そう言いいながら、マクベスは魔王アンドロニカスの亡骸から見つけた魔石を前に構えて、グロッサル陛下に許可を貰ってから、その魔石を発動させるのであった。




