448話 戦後の後処理
前回のあらすじ「戦闘終了……」
―魔王アンドロニカスが倒れたとほぼ同時期「魔国ハニーラス・城下町 激戦地区」アルファ部隊リーダーの視点―
「……ん?」
目の前にいるラミアらしき化け物が突如として、その場に武器を落として停止する。すると、その身を悶えつつ苦しみ始める。それはこの化け物に限った話ではなく、周囲にいた化け物共も苦しみ始めた。これは好機と見た私はすぐさま目の前の化け物の眉間に徹甲弾を喰らわせて、その機能を完全に停止させる。
「リーダー! 連中がいきなり苦しみ始めてる!」
「見れば分かる……ってお前がそんな当たり前の報告をしないか……」
小型ドローンによる周辺の情報収集を行っているベクターなのだ。ベクターの言う連中というのはここだけじゃなく、化け物共全員と言いたいのだろう。
「おいおい! なんだなんだ!? さっきまでの威勢はどうしたんだよ……っと!」
ボマーが奴らに愚痴を零しつつ、手持ちの爆弾で一網打尽にしていく。
「うむ……そんな毒性の高くない毒でも始末できるな……」
ドクターは目の前で倒れている化け物を観察し始める。手に特製の改造シリンジガンをもってるので、その中にある毒を注入して始末したのだろう。
「押せ押せ!! このまま魔族共を一網打尽にするぞ!!」
「「「「おおーー!!」」」」
部隊長の怒号に隊員共も大きな返事をし、一気に化け物共を蹴散らしていく。どうやら決着は付いたらしい……私はポケットから煙草を取り出して火を付ける。
「ん? リーダー……まだ敵いるけど?」
「どうやら勝負は付いたようだ。ここからは掃討戦……まあ、こちらが手を下さずとも、勝手に死んでる奴もいるようだがな」
「何かしらの罠の可能性は?」
「無い。勘だがな」
「はいはい……リーダーの勘なら問題なさそうだ。ボマー! ドクター!」
2人がベクターに呼ばれこちらへと振り返る。すると、煙草を蒸してる私を見た2人は何かを察したかのように、適当に敵を消しらしつつ撤退行動に入る。
「行くぞ」
こうして、私達は後処理をこの国の連中に任せ戦闘区域から離脱するのであった。
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―同時刻「魔国ハニーラス・城門前」ペクニア視点―
「む?」
対峙してた大型の魔族が突然倒れる。近づいて調べてみるが、既に息絶えていた。
「呆気ないものだな」
「全く……妾達が手伝わなくとも、問題無かったかもしれぬな」
倒れていた敵の亡骸を調べていると、横から聞き覚えのある声がしたので振り返ると、竜人姿の兄上とマグナ・フェンリルがこちらへと歩いてやって来た。
「一体何が?」
「こ奴らは、大元の何かから力を与えらていた。そして、その大元がやられたせいで、その力が抜けてしまい副作用によって耐えきれずに死んだだけだ」
「大元……となると」
「薫たちが魔王を始末したのじゃろう。流石、妾が認めた連中じゃな」
そう言って、楽しそうに笑うマグナ・フェンリル。それを聞いた兄上も薄っすらと笑みを浮かべていた。この2人の状況からして戦いは終わったのだろう。しかし……
「ここに住む者達はこれからが大変ですね……」
「……だな」
地を埋め尽くすほど大量に横たわる魔族の屍……これを処理するのは一苦労だろう。それだけではない。この戦いで多くの者が志半ばで倒れただろう。その者達の家族への補償やこの戦いで傷付いた者達への対応……多くのやることがある。
「まあ……そこは薫達に任せるとしよう」
「え?」
「そうじゃな……まあ、何とかするじゃろうって」
そう言って2人は帰ろうとする。その発言に驚いた俺は2人の背中を追いかけつつ、その考えは如何なるものかと問うのであった。
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ー同時刻「旧ユグラシル連邦第一研究所 野外実験場」カイト視点-
「ミリーからの報告……一応、やったそうだ」
「一応?」
「ああ」
魔族の群れが突如として倒れ、皆が勝利の勝鬨を上げる中、僕はミリーから着た連絡をここにいる皆に共有している。魔王は倒した……が、どうも薫達の様子がおかしいとのことだった。
「勝ったはずの薫達の様子が少しおかしいようなんだ。これから事情を訊くみたいなんだが……念のために警戒レベルは維持し続けるように各部隊に伝えてくれ」
僕の説明を聞いた皆が一斉に行動を取り始める。とりあえず、余力のある者は見張りに回ってもらい、それ以外の人物は補給と休息を取ってもらい夜間に備えてもらう。
「グロッサル陛下とフロリア女王は?」
「お二人ともご無事です。ただ、前線で指揮を取られていたので、すぐには戻って来れないそうです」
「そうか……なら、僕がそちらに向かうとするよ」
僕は魔物達と連絡を取り合っている担当者から場所を聞き、しっかりとした防具を装備して部屋を後にする。一刻も早く、あの2人と今後の相談をしなければならない。城内が勝利で歓喜に包まれている中、僕は颯爽と城外へと出るのであった。
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―「旧ユグラシル連邦第一研究所 野外実験場」―
「……これは?」
マクベスがアンドロニカスだった黒焦げの死骸から何かを見つけ出す。指でそれを拾い上げると、紫色に光る魔石だった。
「薫!」
謎の生き物を逃がした僕たちは何か手掛かりが無いかと思い、焼け焦げたアンドロニカスの死骸の傍にいると、離れた場所でこの戦いを見届けていたリーリアさんとコークスさんの2人がこちらへと駆け寄って来る。
「……終わってないのか?」
「……分からない。アンドロニカスから得体の知れない何かが飛び去るのが見えたんだ。僕の攻撃と同時に消えたんだけど……攻撃が当たっているのかは分からない」
「恐らく転移したんだと思うのですが……どこに飛んだのかは分かりません。すいません……お役に立てなくて……」
マクベスがそう言って謝るのと、同じタイミングで僕とレイスも肩を落とす。決着を付けるはずが、失敗に終わったのかもしれないのだ。皆、死闘を繰り広げたりして頑張ったっていうのに……。
「気にするな。とりあえず魔族達を率いる者達がいなくなった。それだけでも今は十分だ」
「おーーい! みんなー!!」
すると、そこに潜入した他の皆がやって来る。カーターは毒にやられていたはずだが、どうやら歩けるまで元気になったようだ。
「うわ!? 薫兄……ついに魔王になったの?」
「悪魔のようにも見えるわね……」
今の僕の姿を見た泉とミリーさんがそれぞれ持っているカメラをこちらへと向ける。一応、解除することも出来るのだが、先程の怪しい奴がまだ近くにいる可能背もあるので解除しないでいた。
「僕が使える2つの召喚魔法を『融合』の魔石で固定させた憑依召喚……ってところかな」
「ほうほう……どんな風に戦たのか是非とも訊きたいところだな」
「私がドローンで撮影してるわ。そちらを見た方がいいわ」
そう言って、ミリーさんの掌に小型のドローンが下りて来た。どうやらこれでこちらの様子をずっと覗いていたようだ。
「私は直接見ていたが……この世の物とは思えない戦いだったな。正直、遠くから見ているだけだったな」
「リーリア様……」
実際にその目で僕たちの戦いを見ていたリーリアさんが何も出来なかったことに嘆いているが、今回ばかりは僕たちが異常なのであまり気にしないでもらいたいと思う。
「皆さん。すいません……少しお話があります」
そこで、マクベスがここにいる全員に魔王アンドロニカスとの戦いの最中で起きた不可解な事と戦いの終わりに何かが逃げた事を話す。僕とレイスも足りないところを補足して説明したりすると、気が付けば日が暮れ始めていた。そして僕たちが話している間、皆は一言も喋らずに静かに話を聴いてくれた。
「空飛ぶ目玉ッスか……そいつがこの一連の事態の黒幕ッスか?」
「分からない……何せすぐに逃げ出しちゃったからね」
「……ならば、ここを調査するべきですね。魔族達がここを根城にしていた以上、それに繋がる必要な情報や品物があるかもしれません」
「だな……どうする? 俺達で早速調べるか?」
「一旦撤収かな。丸一日、休みも無く戦って……皆、ボロボロでしょ?」
「そうだな……」
調べたいところだが……ここにいる全員が満身創痍である。それに空が暗くなってきている以上、さっさと寝床の確保をしないとならない。
「あの~……マクベスさん。ここって安全は確保出来たんですよね?」
「ええ。アンドロニカスが倒れた以上、ここにいる魔族達は無力化しているので、安心と言えば安心ですが……」
「じゃあ、ハニーラスの王都まで移動できる転移魔法を使っても問題無いんですよね?」
「「「「……あ」」」」
先ほどの話の流れから、ここで野営をしようとしていた僕たち。しかし、泉の言う通りで、ここに転移魔法陣を引いてハニーラスの王都に一度戻るのも手である。
「なら、2手に分かれましょう。1つはここに留まって情報収集。もう1つはハニーラス王都に戻って報告と調査隊の用意する。カーターは一度毒に犯されているので、後者の方をお願いしたいのですが……」
「分かった。俺もそれで迷惑を掛けたくないしな……ここは一度戻るよ」
「じゃあ私達も戻る!」
「まあ、彼女なんだから当然よね」
「そうッスね」
サキとフィーロがそんな話をしつつ、泉たち4人は王都行きのグループに入る。すると、リーリアさん率いる魔物たちも王都に戻ることになった。一刻も早く、陛下たちに報告したいということで、それと同じような理由でミリーさんとカシーさんたちも一度戻るとことになった。
「レイス。残ってもいいかな?」
「問題無いのです」
そして、僕とレイスにマクベス、シーエさんとマーバがこっちに留まることになった。
「じゃあ……さっそく行動しましょう」
そこで、早速分かれて行動を取る。この後、王都に戻ったグループを見送ってしばらくすると設置した魔法陣からカイトさん率いる調査隊がやって来て、アンドロニカス討伐に対しての労いの言葉を掛けつつ、明日の調査について相談を訊いてくるのであった。




