446話 天魔波旬の光来
前回のあらすじ「召喚魔法と召喚魔法の禁断融合!」
―同時刻「魔国ハニーラス・王都の外」―
「ふん!」
尾でニケイルスという魔族だった奴を薙ぎ払う。突如として変異したニケイルスに対抗するためにドラゴンの姿になったブレス攻撃や空を飛べなくしたりするという奇妙な魔法を使ってきたが、どうやら知能が低下したらしく、わざわざあちらから近付いたタイミングで強烈なカウンターを仕掛けさせてもらった。ただの人間なら致命傷だっただろうが、ニケイルスは喰らっていないかのように平然と起き上がって来た。
「jhrjkls!?」
何を言ってるのか分からない悲鳴なのか、ぼやきなのかを口にするニケイルス。そして、異形な羽で空を飛び始める。例えるのが難しいあんな歪な羽で良く飛べるものだと思う一方、あれは一体何なのだろうかと自分の頭の中にある生物のカテゴリーから逸脱した存在に少しばかり畏怖する。
「ふん!」
そんなことを思っていると、ニケイルスが『ウィンド・カッター』を放ってくるので、翼を羽ばたかせてそれらを吹き飛ばして回避する。このくらいなら、真正面から喰らっても大したケガにはならないのだが、そんな悠長にしていたせいで痛い目にあっているのだ。慢心はしない。それがあれで得た教訓である。
しかし、こちらは魔法が使えないのに、あちらはこのように普通に放っている。果たしてどんな仕組みなのだろうか。それと、ここにいる大将がこれなら、薫達が今戦っている魔王アンドロニカスという輩はどれほどの実力者なのだろうか。
「j;tkhjjy!!」
再び奇声を上げながら、今度は特大サイズの『フレイム・カッター』を放ってくる。直撃は危険と察し、後ろへと跳んでそれを避ける。そしてお返しとして、ニケイルスに向けて特大の火球を口から放ってやるのだが、当たる直前にまたもや掻き消されてしまった。
「これではこちらの攻撃が当たらないな……」
ニケイルスが飛んでいるため、魔法や飛び道具が無いと当てるのは不可能……そこらへんの瓦礫やらを投げ飛ばしてやってもいいのだが、案外すばしっこいので上手く当てられる可能性はかなり低いだろう。
「じょ;klll!!」
何となくだが笑っているようなニケイルス。どうやらあざ笑うという感情はまだ残っているようだ。だが……この大きな感じる魔力に気付いていないのだろうか? ドラゴンにも匹敵する膨大で冷たいこの魔力を……。
「ふむ……ならばこれはどうじゃ?」
その声とともに周囲の気温が急激に下がる。すると、ニケイルスの周囲を覆うように厚い氷が出来る。球体状の氷の中に閉じ込められたニケイルスはその氷ごと地面へと落ちてくる。
「魔法を防げる範囲は有限……ならば、その範囲外の水を凍らせばいいだけのことじゃ。ほれ、さっさと仕留めるのじゃ」
「……ああ」
俺はニケイルスを閉じ込めたマグナ・フェンリルにそう言って、ニケイルスの上へと跳び、そのまま下へと落ちる。氷の中に閉じ込められ、身動きの出来ないニケイルスにドラゴン状態の質量をただぶっつけるだけの原始的な攻撃方法……だが、これで十分だろう。
「hjりjljls!!」
何か言っているニケイルスを氷ごと右足で踏み潰す。そして、すぐさま足をどけて潰れたニケイルスを両手で殴り続け、徹底的に潰したところで攻撃を止める。
「無事に倒したようじゃな」
「そのようだな……で、何でいる?」
「薫達が魔王と直接戦っているようでな。四天王も全滅し、あちらの大陸が襲撃される可能性は低く、少しでも薫達の手助けになるなら……ってことでやって来ただけじゃ。もはや勝敗は決まったような物だしな。ああ、貴様の兄も他のトカゲ共々と一緒に来ていたぞ?」
「兄上が!? それは……」
兄上達は今回の件で「人々の戦い」と言って、最低限の戦力……つまり俺を寄こして見守る姿勢だったのだが、実際のところは、薫達を置いてあちらに来るようなら兄上達が仕留める予定であった。その必要がなくなったということは、この戦いはあと少しで終わるのだろう。
「しかし……魔王が残ってるのに勝敗が決まったのは少々早いのでは?」
「なに……どうせ、あやつらが勝つ。それよりも、ここの被害がどれだけ抑えられるかじゃ。あやつらが帰った時に町がありませんでしたは無いからのう……」
「そうですね……まあ、兄上が出たのなら問題は無いと思われますが」
俺がそう言うと、東の空が明るく燃え上がる。兄上がブレスを放ったのだろう。あのブレスを喰らった魔族の中には魔法を無効化出来る輩もいただろうが、このマグナ・フェンリルのように周囲を灼熱地獄にされてはそれも意味が無いだろう。
「さて……我も遊ばせてもらうかのう……」
そう言って、マグナ・フェンリルはあっという間に別の戦闘地帯へと向かって行ってしまった。私も兄上に負けないように他の奴らの手伝いに向かうのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―その頃「旧ユグラシル連邦第一研究所 野外実験場」―
「薫さん! まだですか?」
「もう少し待って!!」
『黒装雷霆・麒麟』を呼ぶための魔法陣に、守鶴たちの力を取り込んだ融合の魔石の力を解き放った瞬間に黒い閃光が周囲にほとばしる。これが危険だと察したアンドロニカスがさらに猛攻を仕掛けてくるのだが、それをマクベスが何とか防いでくれている。
「薫……!」
「分かってる」
僕は意識をほとばしる黒い閃光に集中する。すると黒い閃光はその形を変えていき、僕の周囲を巡る黒い無数の光となって流れていく。そして、その無数の黒い光が頭の中にあるイメージの姿になれるよう、呪文を口にしつつ紡いでいく。
「天と地、その2つを統べる大いなる力よ! その闇に満ちた神通力を我が身に貸し与えたまえ! 見よ! これぞ人智を越えし存在の力……天魔波旬!」
呪文を唱え切ったと同時に無数の黒い光が一瞬だけ僕を包み、すぐに黒い光の粒子として弾ける。そして、僕はすぐさま今の自分の姿を確認する。着ていた巫女服は黒くなっており、背中には烏のような黒い翼、さらに額宛のようなものが付いている。左手の四葩は青光りしながら帯電しており、右手の鵺は黒い靄を放出する球体となって僕の掌の上で浮いていた。そして籠手である蓮華躑躅も僅かにオーラのような物を放っている。
「薫の額にあるそれ……何か天狗と烏を足して割ったようなお面なのです。それに薫の瞳が紅くなっているのです」
僕の胸元に隠れていたレイスが出て来て、僕の姿をまじまじと眺めている。
「ねえレイス……今の僕ってどんな感じなの?」
「ゲームの……魔王とか堕天使……いや、お面の様子からして烏天狗……中二病の極み……とりあえずイメージ通りなのです」
「ああ……うん。分かった。とりあえず無事に成功したってことだね」
守鶴たちから流れて来たイメージ……それはシェムルが使ったような召喚魔法を自身に纏う憑依召喚魔法ともいえる魔法だった。しかも、シェムルがガルーダ1体に対して、こちらは2体分の召喚魔法を『融合』の魔石でさらに安定させながら強化した上位バージョンである。
「jtこp;えsk!!?」
すると、アンドロニカスが大きな奇声を上げ、先程から展開していた攻撃魔法をさらに増やしてこちらへと放って来た。
「マクベス! そこから離れて!」
僕はマクベスにそこから離脱するようにお願いする。聞いたマクベスはすぐさま僕たちの射線の妨げにならない位置に避難してくれた。僕は心置きなく掌に浮いたままの球体状の鵺を前に構える。
「烏集之交」
僕が唱えると、こちらへと放たれた魔法が掌にある鵺へと方向を変え、黒い靄とも混ざり合いながら1つになっていく。そして、放たれた魔法全てが1つの黒い球体となったところで別の呪文を唱える。
「鴉巣生鳳!!」
黒い球体にひびが入り、それが割れると黒いオーラを纏った鳳凰のような鳥が現れると同時にアンドロニカスへと向かって突進する。そして、肉塊となったアンドロニカスに大きな風穴を作って消滅する。
「kmにおえrじぇ!?」
アンドロニカスは悲鳴を上げるが、すぐにその風穴を修復して反撃をしてくる。先ほどのような数での攻撃は返されると思っただろう、触手を束ねたと思ったらその先端が口のように開き、その口の内部で何かが光っている。そんな触手が数本作られており、それが全てこちらへと向いている。
すぐさま先ほどより強力な攻撃が来ると判断した僕は、黒い翼を羽ばたかせてすぐさま上へと飛ぶ。そしてその判断は正しかったようで、触手の先端の口から放たれたのは怪獣映画のような光線であり、当たった場所が爆音を上げて壊れていく。そして、それを放ったまま触手を移動させてきた。直撃すれば大けがは免れないだろう。
「レイス……しっかり隠れててね」
「はい!」
僕はそう言って、アンドロニカスの光線攻撃を避けつつ、アンドロニカスへと接近する。背中に付いた黒い翼が自動的に僕の飛行に合わせて必要な動きをしてくれるため、『飛翔』を使って飛んでいる時よりも、より速く繊細な動きが出来ている。おかげで、アンドロニカスの無数の光線を軽々避けられている。
そして、もう少しでアンドロニカスに近接戦を仕掛けられる距離になったところで、今度は四葩を構え、アンドロニカスの横を通り抜けながら斬る。今のアンドロニカスは分厚い硬い肉の塊なのだが、帯電した四葩の切れ味はすさまじく、『青黒ノ電影魔刀』よりも切れ味がいいかもしれない。
「じょhrkhtlk!?」
アンドロニカスが驚きつつ、魔法を放たずに待機していた触手で僕を捕まえようとする。僕は一度アンドロニカスから離れて再び距離を取り、アンドロニカスの触手が攻撃できない所まで避難する。ただし、光線は届いてしまうので先程のように移動して避けていく。
「今のは大分ダメージが入ったのです!」
「うん!」
先ほどの攻撃でアンドロニカスの体に付けた四葩による切り傷が回復できていない。そこでこの戦いはそう長くは続かないと思うのであった。




