440話 対峙する2人
前回のあらすじ「アンドロニカスが闇堕ちしました」
―アンドロニカスの変異したのと同時刻「魔国ハニーラス・王城 会議室」カイト視点―
「緊急事態発生! 魔族達が変異しました!」
「変異……?」
ペクニアとニケイルスが戦闘に入るという報告の直後に突如として入って来た連絡に、突如として舞い込んできたその情報に僕が呆気に取られていると、目の前に置いてあるパソコンに最前線の兵士が装備しているカメラ映像が送られて来た。そこには悶えながらその姿を変えていく魔族達の姿が映し出されており、一番前にいたゴブリンを見ると、お腹が裂けそこから2本の腕が出てきて、さらに口が片方大きく裂けて奥歯が見えるようになる。そのような変異が他の魔族にも表れている。
「な、何が起きているんだ!?」
「前線に確認しろ! 多少の違和感でもいい! すぐに……」
どんどんおかしくなっていく魔族達を見て慌てるメンバー達。そんな中、僕は集まって来る映像を次から次へと確認していく。同じ種であっても起こる変異は個々で違いがある。中には、その変異に耐え切れずに絶命する個体もいるようだ。
「原因となる物は? 毒の可能性は?」
「現在、調査中! 毒の可能性は……味方には異変の兆候の報告が無いので低いかと」
「アルファ部隊から報告! 付近での有毒な物質は発見ならず!」
毒物のスペシャリストがいるアルファ部隊から毒物が発見できていないという報告が入るということは、我々の知らない未知の毒の可能性もあるが……。
「なお、変異は今も魔族のみだそうです。それと……」
(hgrlhjt;kprfrjgp!?)
(hろgjろhtgrhthmhjr……!)
スピーカーから流れる音魔族達の音声。こちらには理解できない謎の言語を話し始める魔族達。これは一体どういうことだろう。まるでB級ホラー映画の化け物ようである。
「敵……動き出しました!」
「ペクニアと変異型ニケイルスの戦闘が始まりました!」
「変異型ニケイルス……そいつも同じような状態なのか? 変な言語を話しているのか?」
「そのようです」
この魔族の軍を率いる奴も変異しているところで、これが予想外の事態だと判断する。僕は緊急事態用の秘策……彼女の援護を要請をする。それが終わると、今度はミリーから緊急通信が入る。
「ミリーどうしたんだ?」
(緊急事態発生中よ。今、ドローンを通してアンドロニカスとの戦闘を覗いているだけど……)
「もしかして、異形化して変な言語を話してる?」
(そうだけど……そっちもかしら?)
「ああ……それで、そっちの様子は?」
(そうね……)
そこでミリーの言葉が詰まる。少しの間の後、ミリーが口を開いた。
(マクベスが負傷したわ……後は薫達次第かしら)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―魔族達が変異していく少し前「旧ユグラシル連邦第一研究所 野外実験場」マクベス視点―
「jhろstrlrhbんp!」
何かを叫んでいる変異型アンドロニカスが槍を使って攻撃を仕掛けてくる。普通の構えではなく、3本ある腕を上手く使って払い攻撃や突きなどを繰り出し、時には槍に炎を纏わせている。自分はそれを杖で槍を弾いたり距離を取って攻撃を避ける。
「テトラ・アイス・ランス!」
自分の周囲に3本の『アイス・ランス』を設置して、いつでも撃ち出せる状態にする。これで迫って来るアンドロニカスを迎え撃つ。とりあえず、1本を牽制で撃ち出そうとする。
すると、アンドロニカス左胸にある目が大きく見開く。その瞬間、自分の力が抜けると同時に『テトラ・アイス・ランス』が全て打ち消されてしまった。
「一体、今の……が!?」
何をされたのか分からず戸惑っていると、アンドロニカスがとんでもないスピードで接近し槍を自分の胴体に突き刺す。そして、すぐに引き抜いて2度、3度と自分の体を刺していく。
「ウィンド・バースト!! って……え?」
今、アンドロニカスから距離を取ろうとして風魔法を唱えた。しかし、魔法は発動せずにそのまま4度目の突きで足を刺されてしまった。自分は慌てて杖で何とかしようとするが、ケガした体のせいで上手く避けることが出来ない。そして、ついには杖も弾かれてしまった。
「しま……った」
アンドロニカスは槍を後ろに構え、そこから強烈な一撃を繰り出そうとしている。これは避けられない……せめて、急所は外さないと……そう思って、体を動かそうとした。が、足のケガで上手く動けない。こうなったら、ケガして使えない腕を犠牲にしようと前に出して覚悟を決める……そう思っていた。
「黒雷!!」
すると、アンドロニカスの頭上に黒い雷が落ちる。死角からの突如の攻撃に、誰が攻撃を仕掛けたのか確認し始める。しかし、その確認よりも早く彼はアンドロニカスに接近し、そのまま左胸の目を黒い剣で切り裂いてしまった。
「てゃえいghrんglgrhr!!!?」
急所を突かれたのかのように慌てふためくアンドロニカス。
「薫! アレって一体……?」
「分からない……マクベス! ケガしてるところ悪いんだけど説明をお願い!!」
何とも緊張感の無い声で、薫は私に現状の説明を求めてくるのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「旧ユグラシル連邦第一研究所 野外実験場」―
僕たちがマクベスたちの後を追って、この建物の別棟である屋上へとやって来ると、倒れているマクベスがアンドロニカスと思われる人物に襲われているところだった。僕は慌てて『黒雷』で動きを止め、何か弱点っぽい大きな目玉をぶった切ってみた。この予想は大当たりだったらしく、斬られた相手は奇声を上げながら慌てふためいていた。
「えーと……自分にもよく分からないです。突然、アンドロニカスがあの姿に変わってしまって……その前は普通に会話も出来たのですが、今はそれも不可能です」
「そのケガ……今のアンドロニカスにやられたのです?」
「ええ……槍で刺されました。魔法で距離を取ろうともしたのですが、何故か掻き消されて……」
マクベスの言う「何故か」という言葉に、僕はこの今の状況がマクベスにとっても全くの想定外だということに気付く。しかし……魔法無力化とは。
「気を付けるのです薫。マクベスが感知できないアンチ・マジックなんてチートなのです」
「そうだね」
魔法が使用できない戦闘。僕の持つ武器とアイテムに魔石でどう迎え撃つか考えないと……。
「いえ……多分出来ないかと……今、薫さんがぶった切りましたから」
「え……?」
「変異したアンドロニカスが魔法を打ち消す時に、あの目が大きく見開いたんです。だから、あの目を潰されてしまった以上、打ち消すのは不可能かと……」
そのマクベスの一言に僕たちのテンションが一気に下がる。何かこう……最終戦みたいに激しい戦闘やら厳しい条件での戦闘やらを想像していたのだが……。後者の方はたった今、僕がぶち壊したようだ。
「何か……申し訳ない気がしてきたのです」
「いや……この世界のことを考えたら良かったんだと思うよ。とにかく……」
僕は気を取り直しつつ黒剣状態の鵺でさらに追撃を仕掛ける。変異型アンドロニカスはいまだに混乱状態なので出来るのならこれで仕留めてしまいたい。ユーピテル型であるアンドロニカスに対して、ここで魔法を使用してしまえば一気にこちらに注意を向けてしまうかもしれない。だから、ここは魔法を使わずにアンドロニカスの急所を狙うしかない。
「……」
僕は足音を消し、殺気と気配も消す。そして混乱している変異型アンドロニカスの背中側から近付いていく。卑怯かもしれないが、背後から一撃で仕留めさせてもらうとしよう。
「trhrhlthtmbbvfgks!!」
と、思っていたが。奇声を上げながら変異型アンドロニカスが槍をこちらへと向ける。僕はその槍を黒剣で軌道を逸らし、そのまま一気に変異型アンドロニカスへと近付く。
「gyふぃうおp!!」
すると、変異型アンドロニカスから暴風が巻き起こる。僕はそれによって吹き飛ばされて、変異型アンドロニカスとの距離を強制的に離される。
「鎌鼬!」
僕は風魔法を使用した斬撃を変異型アンドロニカスへと飛ばす。対して変異型アンドロニカスは鎌鼬を槍に魔法を込めて、それを振ることで掻き消して来た。
「マクベス! 今のって魔法による相殺でいいんだよね?」
「そうです! 今のは通常の回避ですね!」
僕はマクベスにお礼を言いつつ、四葩をアイテムボックスから取り出し、『ジェイリダ』の魔法が込められた魔石を嵌める。そして今度は氷の斬撃である『翠色冷光』で攻撃を仕掛ける。
「ghgりえあ!!」
変異型アンドロニカスはそれに対して、『ファイヤー・ボール』と思われる魔法による反撃を仕掛けてくる。そして、互いの魔法がぶつかり合うと爆発音を立てて相殺される。
「ghr……」
「ふう……」
そこで互いに様子を伺う。3本腕という特殊な状態から繰り出す槍の攻撃に少々戸惑うが、何とか戦うことが出来ている。しかし、変異型アンドロニカスは本気を出している訳では無さそうである。その証拠として、床が一部崩れていたり近くの柱が崩れていたりと、今戦っているこの場所の荒れ具合を見れば分かる。
「ghろjhs!!!!」
そう思っていると、変異型アンドロニカスは意味不明な雄たけびを上げる。それが、僕たちと変異型アンドロニカスの本格的な戦いの始まりの合図になるのであった。




