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43話 食べ物のレパートリーを増やそう! 

前回のあらすじ「そーらをじゆうにとびたいな~♪」

―夜「ビシャータテア王国・庭」―


「好評でしたね」


「ああ。まさかあの後、この国の国民を乗せることになるとはな。まあ、お陰で気球の操作になれてもらえたみたいだがな」


「そうですね。それにわが社のPRにもなりましたしね」


 最初のフライトを終えると、気球を見た王都の人々が王宮の城門前に押し寄せてきたらしい。その後、『こうなったら乗せてあげよう!』という事になり、流石に全員は無理なので子供を中心に気球の飛行ショーを行うことになったのだった。ちなみに僕たちの魔法を見せる訳には行かないので、下で案内役や説明、撮影などをしていた。


「夕日がきれいでしたね……」


 僕と紗江さんは最後のフライトの際に異世界での記念として気球に乗ったのだが、丁度夕日が山々の間に沈むタイミングで、スマホで思わず写真を撮ってしまうくらいに綺麗だった。


「はあーー」


 紗江さんが手を顔の前に持ってきて息を吐いている。


「暗くなってより寒くなりましたね。今さらなんですけどこちらの世界も日本と同じ冬なんですよね……」


「そうですよ。何か温かい飲み物が恋しくなりますね」


「そうだな……って、ここにはコンビニも自販機も無いんだったな」


「そしたら王宮で茶を出すぞ。それと、夕食も用意するから食べていってくれや」


「いいんですか! 異世界での料理って気になっていたんですよね!」


「自分もです! 社長もいいですよね!」


「問題無い。それに今日はこちらの世界を知るために来ているのだしな。当然その申し出を受ける」


「それじゃあ、案内するぞ」


「そうしたら俺達は気球を片づけるか」


 カーターがそう言うと、シーエさんやドルグさんたちと一緒に気球の方に向かって歩こうとする。


「あれ? 来ないの?」


「流石に大人数になるからな。ただカシーとワブーは相席するからよろしく頼む」


 それを聞いて、急いでカシーさんがどこにいるか確認する。


「警戒しなくていいわよ。落ち着いたから」


「2階から飛び降りてきて、僕の上に跨り、凶器を出す人を警戒するなと?」


 何かに熱中すると周りが見えなくなり狂戦士化する人、それによって命の危機を感じた直後である状態で怖がるなというのは無理である。


「安心しなよ。気球という物に触れて日ごろの鬱憤が晴らせたようだからね」


「そうじゃな。俺達も話を聞きたいところなんじゃが、また今度にするとしようかの……他の仕事を確認しとかなければいけないし」


「お二人とも今日はありがとうございました。僕たちの世界への来訪をお待ちしていますね」


 そう言って、僕はドルグさんとメメさんに握手をする。


「その時は頼んだから!それじゃあね!」


 そして2人は気球の撤収作業に入る。


「私との対応違くないかしら?」


「カシーそれはお前が悪い」


「それじゃあな! 今度はうちらもいくぜ!」


 シーエさん達4人も作業に入っていくので手を振ってそれに答える。


「それじゃあ行くのです」


 残った僕たちも王様と一緒に王宮へと移動をするのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「王宮・食堂」―


「温まりますね……」


「だな。しかし、このシャンデリヤが光度と消灯の自動調整が可能とは……」


「ええ。意外にハイテクでしたね。トイレも水洗、ウォシュレット機能ありってなんなんですかね?」


 直哉と紗江が感想を述べあっている。榊さんはカメラのチェック。泉とフィーロ、レイスはお喋りをしている。今、この食堂には王様たちはおらず僕たちしかいない。僕はお茶を飲みながら自分の手帳に今日の出来事を書いていく。今日の出来事はいいネタになるだろう。


「薫さん? ちょっといいですか?」


 紗江さんに呼び掛けられて、手帳から紗江さんへ顔を向ける。


「どうかしたんですか?」


「はい。こちらの異世界の住人が行き来するのに薫さんの蔵を使用しなければならないので、そのことで話を……」


「今の通り道はあれだけだからな。蔵の方の整備とか必要なら手伝いを寄こすがどうする?」


「お願い。電気とか引くとかあれ資格が必要だし……」


「社員の方に電気工事士の資格を持っている人がいるので手伝ってもらいましょう」


「内装も建設や設計関係をやっていた社員がいるからなそいつらに手伝ってもらうするか」


 蔵内の整備が早く進みそうだ。しかし……。


「……前から気になっていたけど、なんでそんな職種バラバラで仕事できるのかな? 機械の専門受注が本職だよね?」


「……すいません。実は私も思っていました。何で上手くいっているのでしょうね?」


「まあ、社員共通して言えるのは時間に拘束されたくないとか自由がいいとかで前の会社を辞めてうちに来てる変人共だからな。まあ、今回の魔法の件では逆に拘束されてもいいとか全員言ってたが……」


「変人共の巣窟ですね。我が社は」


「良くマネージメントしてるよ……紗江さん」


「確かにそうですね。まあ私もその変人の1人ですが……」


 カメラをいじっていた榊さんが話に加わる。


「まあ、榊さんはそれらを気にしてくれているので問題無いのですが……一方このバカ社長は納期が厳しいのにこの前のようなゴミを作るし……はあ~」


「紗江さん? 大丈夫ですか?」


「はい。大丈夫です泉さん。お気遣いいただきありがとうございます」


「無理は良くないッスよ」


「必要なら休憩をとったほうがいいのですよ?」


 先ほどまで少し離れた場所で話をしていたはずの3人が紗江さんを励ます。特に2人の精霊に励まされた時はいい笑顔を浮かべていた。


「大丈夫です。むしろこうして子供の頃に夢見た精霊とお喋り出来るだけで元気が出ますから。それに今日はドワーフにエルフに猫耳獣人と……色々な方とお話しもできましたし」


「私も服を作るのに何度もこっちに行き来しているから慣れていたけど、やっぱり見ててワクワクしますよね」


「そうですね。今も夢を見てるんじゃないかと思っていますし……」


 そう言って紗江さんがいきなり自分の頬を抓り始める。どうやら今になってこれが夢じゃないかと疑い始めたようだ。


「痛い。大丈夫これは夢じゃない、夢じゃない……」


「まあ、ここまでアリエナイの連発ならそうなるのです。私もたまに抓りますし」


「レイス。そんなことしてたの?」


「はい。やっぱり夢とか疑っちゃうのです」


「これからはそれが普通になるかと思うと私は楽しみだがな! これは死ぬまで退屈しなささそうだ! ははは!」


「あら。そこは共感するわ」


 そこにカシーさんとワブーの2人が食堂にやってきた。


「お! 来たか! 話をしたいんだがいいだろうか!」


「もちろんだ。というわけでカシー…暴れるなよ?」


「……分かってるわよ」


「多少の間は……まあ、気になるがまあいいだろう。榊! お前もこっちの話に混ざれ!」


「ええ! もちろん!」


 そのまま4人で話を始める。なんとか保存とか法則とか言っているのが聞こえる。紗江さんと泉、フィーロにレイスもお喋りを続けている。


「……」


 その一方、僕は手帳に目を通し、内容をまとめる作業に戻る。その後、王様たちが来て夕食が始まるまでそれが続くのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―およそ1時間後―


「お口にあったかな?」


「ええ、美味しかったです」


 食事が終わり、皆で食後のお茶を飲んでいる。


「それは良かった。ここで出せる最高の料理だからな」


 王様がそう言った時どこか寂しそうだった。


「この前、王都のお店で食事したんですけど全部塩や胡椒だけのシンプルな味付なんですよね?」


 泉が王様に尋ねる。


「ああそうだ。酒を使って臭みを消したりもするが、けれどもそちらのように味の幅が無い。しかも食材も多少そちらの世界のお陰でバラエティーになったが、そちらの世界よりはるかに少ない」


「そうなのですか?」


「ああ一応戦争中だしな。かと言って食べるというのは国民にとっては楽しみの1つだ。そこは王としては満足させたい」


「確かそう言ってたな。まあしょうがない。戦争中は味よりいかに量を保てるかになる。食材を使ってダシを取るとかソースを作るという贅沢な事は出来ないのだろう。まあ、こっちにも冷蔵庫に変わる物があるのだから乾燥とかして長期保存させる手間は無いだろうがな」


「直哉。言い忘れてたけど魔法で瞬間冷凍も出来るよ」


「ぶっ! けほけほ!……マジか?」


「うん。最近家で料理の作り置きの際にやってるから」


 料理を作り置きする際に、レイスに頼んでアツアツの料理を直ぐに冷凍できるので凄く便利だったりする。


「そうか……冷静に考えればそうだよな。氷を空中にポンと作れるんだ。冷凍も当然だな」


「すいません。食材で思い出したんですけど、薫さん」


「うん? はい」


 食後のお茶を飲んでいた僕にお姫様から声を掛けられる。


「牛乳とバター、それとこれがヨーグルトかなと思われるものがある村で見つかったそうです」


「え? そうなの?」


「はい。山間部の村で細々と作っていたらしく市場には出していなかったそうです。それで王宮も支援して増産することになりました」


「お姫様。それって本当ッスか?」


「ええ」


「良かったのです」


「じゃあ、これでシチューとか甘味とか作れますね」


「ええ。それと一般に普及するために他の地域でも飼育してさらに増やす予定になっています」


「行動早くないですか?」


「先ほどお父様も言ったように美味しい物を一般に普及させたいというのがありますし、それにカーターがお土産に持ってきたそちらのお菓子が……その美味しくて……」


 両手の指を合わせて恥ずかしそうに言う。どうやらかなり私的な思惑で増やしたいようだ。


「……まあ、ユノの気持ちは分からなくもないわ。私としてもね」


「他におこぼれに預かったメイド達から好評でしたからね」


 そう言って王子様が王様を見る。


「……ああ。あの気迫は怖かった。うん。怖かった…」


 ……王様に何があったのだろう? 何かティーカップをカタカタさせちゃってるのだが?


「ということで薫さん。後で出来れば色々レシピを教えていただけないでしょうか? 出来れば一般家庭でも作りやすい物がいいんですが……」


「もちろん! それとダシの中に野菜の端材とかだけで作れる物もあるから、それも一緒に教えるよ」


 べジブロスと言われるこのダシは通常では食べることのない野菜くずで作れるので、こちらの食品事情を圧迫させずに済むし、動物の骨を砕いてとか、こちらには無い鰹節や昆布を用意する必要がいらない。これなら一般の家庭でも作れるだろう。


「そんなのでいいのか?」


「うん。ソースやケチャップとかなら食材を細かくしてドロドロに煮詰めるて作るんだけど、あくまでお出汁なら。水に食べない皮や種とかの野菜くずを入れて弱火でじっくり煮崩れしないように煮て、最後にこして出来上がり」


「食べない種や皮を使えばいいのか……まあそれなら無駄にはならねえな」


「これは特に決まったレシピは無いから、その時余った端材次第になるけどね」


「なるほど。そうしたらコックに頼んで試しに作ってもらうとするか。そこから国民に広がっていけばいいしな」


「ならばそれを凍らせてダシ氷として売り出してみるのもありだな。せっかく瞬間冷凍があるのだからな」


 直哉の言葉に、長野県のえのき氷みたいな物を思い浮かべる。生活習慣病に効果のあるダシとして、長野県ではよく使われているお出汁である。そしてべジブロスも使う野菜くずによって変わるが、似た効果のある物が作れるだろう。


「あの~。その事なんですが……少し無理かと」


 ここで王子様が直哉の方法が無理だと伝える。その発言に僕たちは首を傾げてしまう。


「なんだ? 魔道具としてあるのだろう?」


「ええ。あります。魚を運搬する為に氷漬けにして鮮度を保つ道具として。だから水を凍らせることは出来ます……」


「うん? 氷漬けにしてだと?」


「はい。だから水以外の……物質を一瞬にして冷やす魔法は存在しないはずなのですが……」


「へ? それって?」


「今まで黙っていたが王様達に変わってツッコミを入れてやる。お前ら! さりげなく凄い魔法を作るな!!」


 今まで黙っていたワブーがツッコミを入れる。


「え、えーと。ごめんなさい?」


「なのです?」


 僕とレイスはとりあえず謝るのであった。


―特殊魔法「凍結」を覚えた!―

効果:一瞬にして物を凍らせます。ただし射程距離は数センチ以内と物凄く短いです。また生き物には使用不可です。え? どうして生き物には使えないのかって? ……知りません。

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