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436話 四天王全滅……そして魔王の元へ

前回のあらすじ「砕け散る巨大ロボット」

―エクスプロージョンが当たった直後「旧ユグラシル連邦第一研究所 建物外」ネル視点―


(何が……起きた……)


 あの女の魔法が当たった瞬間、ヘカトンケイルが粉々になり、そして……この身も粉々に散ろうとしている……。限りなく長くそして短い自身の消滅するこの時間……何が起こったのか、色々思うところがあるのだが……これだけは言わな……ければ……。


「申し……訳……ありません。魔……王さ……ま……」


 最後まで、あなた様の元にいられなかった事……私はその事を無念に思うのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―ネル撃破直後「旧ユグラシル連邦第一研究所 建物外」カシー視点―


 『エクスプロージョン』の爆発が治まり、辺りが静かになったところで、私は周囲を確認する。あれだけの質量を持った存在が、きれいさっぱり跡形もなく消え去ってしまった。


「いや~……終わりましたね」


「そうだな……」


 そこに、この事態を引き起こした張本人であるシーエとマーバが私達と合流する。


「シーエ……今のは?」


「凍らせただけですよ? まあ……絶対零度までですけど」


「絶対零度……なるほど低温脆性か」


 ワブーのその言葉に、私はネルの身に何が起こったのかを把握する。


「ええ。直哉さんには感謝ですね。その知識があったおかげで倒せましたから」


 なるほど……直哉なら当然その事を知っているだろう。そして、もしかしたらシーエ達に頼んでその低温脆性の実験を研究所で行っていたのかもしれない。


「なあなあ……ていおんぜいせいって何なんだぜ?」


「低温脆性とは一部の金属が低温状態になると非常に脆くなる現象だ。本来、金属は変形してから破壊にいたるのだが、この状態になると変形をほとんどせずに破壊が起きる……簡単に言うと、さっきのネルはガラスのような状態だったという訳だ」


「なるほど……」


 それを聞いて納得するマーバ。そこからワブーが補足説明を始め、マーバは静かにその話を聞き始める。そこにシーエが傍に寄って来て気になっていたことを、あちらに聞こえないように小声で私に訊いてくる。


「(低温脆性なんですけど……あくまで一部の金属なんですよね……ネルとヘカトンケイルの全身がそれで出来ていたのかと思うと怪しいのですが……)」


「(それは私も思ってたわ。といより……私達の『エクスプロージョン』で粉々になるような破壊は起きないと思うのだけど……)」


 低温脆性という現象はある。しかし……銅のように絶対零度に近い温度でも、その強度が落ちる事の無いな金属もあり、あの巨大なヘカトンケイルにそれらの金属が全く使われていなかったというのは不自然である。そもそも、金属だけで全てを構成していたのかも怪しい。


「(興味深いわ……他の研究者達にも報告して調べてみるわ。下手すると絶対零度よりさらに低温を叩き出したのかもしれないわ……ね)」


「(絶対零度より低温ですか……)」


 私はそう説明したが、実際にはもしかしたら別の力が働いているかもしれないと思っている。地球で得た科学の知識は魔法を使う物に対して更なる理解を与え、より強力な魔法を行使することが出来るようになった。しかし、その科学という知識では考えられない現象を魔法が引き起こしている事が多々ある。薫達や泉達はその最たるもので、特に薫達の疑似ブラックホールを発生させたという話を聞いた時は、他の科学者達も冷や汗を掻いたものである。そんなのが本当に出来てしまったら、地球やグージャンパマは一瞬にして消えてなくなってしまうのだから。


「(もしくは……いや、今はそれどころじゃないわね。さっさと屋内に避難しましょう)」


「(それもそうですね)」


 シーエは私の意見に同意して、ワブー達に声を撤退するために声を掛け始める。私は一番の脅威であるマクベスとアンドロニカスのいる別棟の屋上を見ると、戦いはさらに激しさを増しており、このままだと私達のところにまでその余波が届きそうである。


「3人とも! 早く!」


 私は先にネルがヘカトンケイルによって崩れた壁の近くまでやって来て、中に敵がいないかを確認する。先ほどはヘカトンケイルのあのデカい胴体が床一面に広がっていたのだが、その胴体は欠片の1つも残っていなかった。ただし、床や壁、柱にはその後が残っており、何か巨大な物があった事は分かるだろう。


 そこに3人もやって来たので、そのまま中へと避難して周囲の警戒をしつつ休息を取る。その際に床の巨大な穴を覗くと、建物の2階と1階、さらにその下に巨大な空間があるのが確認できた。


「まさか建物の下にあんなのが隠してあったとは……」


「そうですね」


 私以外の3人も穴を覗き始める。ここから敵が這い上がって来ないか心配したのだが……今の所は無さそうである。


「とりあえず安全は確保できたかしら……シーエ。その鎧を脱ぎなさい」


「……気付いてましたか?」


 シーエはそう言って鎧を外しそれを床に置いた後、自分もその横に座り始める。私はシーエの前にしゃがんで、体の様子を確認する。


「ハイポーションは使ったのよね?」


「もちろん。ただ、予想以上に酷いケガのようですね」


 そう話してから、一息吐くシーエ。ポーション系でケガを治す事は可能なのだが、酷いケガだと痛みが直ぐに引かなかったり、治るのに時間が掛かったりする事がある。薫の親友である大輔という人物の腰のケガに関しても、本人がベットから立ち上がるのに半日ほど掛かってたり、薫がロロックとの戦いの時にポーションでケガを治したが、その後、ケガの痛みや疲労によって気絶したりという事例もある。


「すぐさま応援に向かうのは難しいぜ?」


「そうね。私も激闘の後だし……少し休まないと」


 大怪我しているシーエだけではなく、ここにいる全員がすぐにマクベスの応援に行くのは不可能である。私自身、魔法の連発による疲労ですぐに動く気にはなれない。


「な、何だコレは!?」


 すると、私達以外の声がしたのでそちらへと視線を向けると、薫達が部屋の入り口から入って来る。その際、リーリア姫と護衛のコークスさんが部屋の惨状を見て唖然としていた。


「大丈夫ですか?」


「ええ。大丈夫よ……まあ、すぐには動けないけど」


「誰と戦ってたのです?」


「四天王のネルだ。アイツの正体だが……」


 そこで、合流した薫達と情報を交わしていく。そこで、ネルが喰らったあの黒い靄による攻撃が泉達の物だと知る事になった。


「コッペリアシリーズの1体ね……そして、そいつの切り札が巨大ロボットだった」


「そこにシーエさんたちが巨大ロボットを跡形もなく消し去る凍結魔法を放つなんて……灰燼に帰すと変わらないですね」


「そうですね……あの大質量の物が微塵も残さず消えてしまうとは私も予想外でした」


「信じがたい話だが……この部屋を見るとな……」


「リーリア様のお気持ち……ご理解します」


 ネルとの戦いを聞いていたリーリア姫達は信じられないようであったが、私達とこの部屋の様子でどうにか信じてくれた。こうなるのなら、どうにかしてネルの残骸を残して置くべきだった。


「これは……凄いわね」


 すると、ミリーが何かを発見したようで全員がそちらに視線を向ける。瓦礫から掘り出されたそれはネルが戦闘中に切り離した脚部の装甲だった。


「様々なハイテクノロジーをグージャンパマで見たから、そこまで驚く事は無いと思ってたんだけど……これは凄いわね。これを利用してブーツを作成すれば、さらに高度な空中移動が可能になるわ。それだけじゃなく、ロボット工学に応用できれば……」


「てっきりヘカトンケイルの下敷きになって粉々になってたと思ってたけど残ってたのね。もしかしたら、瓦礫に埋もれただけで無事な装甲が他にもこの部屋にあるかもしれないわ」


「なら……少し探してみるわ。あなた達の護衛も兼ねてね」


「え? あの……ミリーさんはここまでですか?」


「魔王相手にするにはきついわ。ネルを倒した後は支援に回るつもりだったし……魔王の事はマクベスと……」


 ミリーはそう言って、薫とレイスの2人を見る。


「僕たちに任せる……ですか?」


「ええ。まともに相手に出来るのは、もうあなた達ぐらいよ……後は任せたわ」


「どうするのです薫?」


「行くよ。どうやらここにいる魔王アンドロニカスは本物。だとしたら、ここで戦う意味に何があるのか……」


「やはり、薫さんもここまでの相手の作戦が稚拙過ぎると思われているんですね」


「シーエさんたちから聞いたネルの能力を考えたら、やっぱりここで戦うのは意味が無いですから……。けれどもし……ここで戦う理由があるとしたら。それが自分たちの勝利に関わる物だとしたら……」


「薫さん……」


「……まあ、そもそも僕たちに『いかない』という選択肢って無いですよね?」


「「「「……」」」」


 その薫の発言に、薫とレイス以外の全員が静かに目を逸らす。何度も言うが、今回の目的は『魔王アンドロニカス討伐』である。一応、撤退という選択肢もちゃんとあるのだが……。


「ブラック企業も真っ青なのです」


「そうだね……まあ、そろそろ行くとしますか」


 薫はそう言って、この部屋の奥にある通路へと歩き出す。それを見たレイスもすぐさま薫に向かって飛んでいってしまった。


「リーリア姫様はどうされますか?」


「それだが……コークス。すまないが来てもらうぞ」


「しかし、姫様……」


「勘違いするな。遠くからこの戦いの終わりを見届けるだけだ……行くぞ」


 そして、リーリア姫もコークスを連れて薫達の後を追って行った。残ったのは私達とシーエ達、それに護衛を買って出てくれたミリーだけである。


「さてと……あなた達が回復するまで護衛しましょうかね。それとも……あの子達が勝って戻って来るまでかしら……ね」


「そうかもしれないわね……」


 私達は薫達の武運を祈りつつ、体力の回復に努めるのであった。

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