434話 四天王ネル戦その5
前回のあらすじ「どこぞの誰かの魔法の失敗作が直撃!」
―「旧ユグラシル連邦第一研究所・玉座のある部屋」カシー視点―
「シルバレット・ボム!」
私は壊れた砲身に目掛けて魔法を放つ。ドロドロになった砲塔とそれを背負う背中、もしかしたらその境が非常に弱くなっているのではないかと思って、そこを狙ってみたのだが……。
「ぐぅう!!?」
すると、こちらの思った通りで、背中側の装甲がかなり弱くなっており素体がいとも簡単に露になる。
「シーエ! 背中を狙って!」
「分かってます!」
それを聞いたシーエはすぐさま怯んだ状態のネルの背後に回り込み、そこから『ダークネス・スパイラル・アイス・ランス』を放つのだが、ネルはそこで前に転がる事でそれから回避している。そこで今度は私が『シルバレット・ボム』を再度放つ。背中を狙えるような位置では無かったが、この攻撃でネルの動きを一時的に止め、シーエにトドメを差してもらうつもりである。
「ふん!!」
しかし、ネルは素早くウォーハンマーを振って『シルバレット・ボム』を撃ち落とす。そして、私達の作戦を先読みし、シーエを迎え撃つため後ろへと体を向ける。既にシーエは接近戦を仕掛けるため、上からネルに向かっている状況であり、このままいけばウォーハンマーの餌食になってしまう。私はそれを察してすぐに魔法を放つ準備をする。
「撃ち落としてやる!!」
「……」
迎え撃つ気満々のネルに対して無言かつ無表情のシーエ。ウォーハンマーの射程距離に入る少し前で、シーエが素早く指を1回鳴らす。それが何を意味するのか私は分からなかった。しかし、それはすぐに形となって判明する。突如として、ネルの背後から氷の棘が出現して、ネルの素体部分を貫いた。
「なっ!?」
背中から起きた衝撃に驚きを示すネル。ネルからは何も見えない位置からの魔法攻撃が完全に決まり、完全に動きが止まった。
「カシー!! 一気にやるぞ!!」
「魔を祓う銀の弾丸の連弾!! シルバレット・デュアル・ボム!!」
私はさらに集中し、2発の銀の弾丸型ボムを作り出し、それを撃ち出す。
「いけーー! シーエ!!」
「極寒の世界を吹き抜ける風よ! 我が剣に纏え! コキュートス・エッジ!」
対して、シーエは『融合』の魔石を使い風魔法と氷魔法の合体魔法剣を繰り出す。動けないネルはその攻撃を前と後ろからもろに喰らい。その分厚い装甲や素体にダメージを与える。
「が……あっ……」
私達の攻撃を喰らって、その場でよろけるネル。さらなる追い打ちを仕掛けるために前へと一歩前に出そうとした瞬間、ネルが「切り離し!」と叫び、身に付けていた装甲を弾き飛ばして、私達を遠ざけようとする。その際に、弾き飛ばした装甲がシーエに直撃し、後ろへと弾き飛ばされてしまった。幸いにも、当たった場所が鎧を着ていた胴体だったため、仰向けに倒れてしまったがすぐに起き上がって武器を構え直していた。そして、シーエと一緒にいたマーバは無事であり、既にシーエの横を飛び始めていた。
「ぐぅううう……まさか、あんな切り札を用意しているとは……」
「残念だが……アレは俺達も予想外だ。まあ……身内の魔法みたいだが」
「……それは運が無かったな」
離れた場所にいる私達とシーエ達の2組を視界に入れた状態で、ネルは項垂れるような仕草を見せる。どうやら私達の様子を見て嘘を言っていないと判断したらしい。その姿に、私も少しばかり同情してしまう。
恐らくだが、あの攻撃は私達を援護するための物ではなく、エイルとの戦闘でたまたまその攻撃をする方向にネルがいただけであり、それこそ、私達の方が運が悪ければ、先程の魔法で即死していたかもしれないのだ。そう考えてしまうと、ネルに運が無かったのは間違いないだろう。
「それと、1つ訊きたいのだが、私を貫いた今の氷魔法は……」
「あなたの思ってる通りですよ。私は実際に見ていませんが……薫さん達が見たあなたのお仲間の魔法を再現したんですよ。先ほどのアイス・グレネードは床を凍らせてあなたを転ばせる目的と、あなたに強力な一撃を加えるための罠だったんですよ」
「はっ……やはりな。どこか見覚えのある魔法だと思った……まさか、仲間の魔法でここまでのダメージを喰らうとはな……」
シーエがここで『アイス・グレネード』を使っていたネタ晴らしをする。普通、戦ている最中の相手にこのような話をする事は無い。だが、今のシーエの様子を見る限り、先ほどの切り離し攻撃によってダメージを受けており、会話をしながら回復に努めていると思われる。対して、ネルは穴が開いた胴体に手を抑えつつも、それをどうにかしようとする素振りを見せず会話を続けている。
「(……カシー。気付いているよな? あの男……まだ、やる気だぞ)」
「(ええ)」
今の攻撃で、装甲の下に隠れていた素体に大ダメージを与える事が出来た。人間で言うなら背骨を貫かれているのだ。その状況なのにもかかわらず、ネルは今も処置をしていない。私達、生命体ではなく機械の体だから直ぐに治せる物が無いというのも考えられるが、それならそれで、一旦ここから離脱するなり、何かしらのアクションがあっていいはずである。
「……魔王様申し訳ありません」
「何だ観念したのか?」
「いや……」
その瞬間『ゴゴゴゴ……』と低い振動音と共に室内が揺れる。そして、振動と共に何か大きい物がこちらへと向かって来ているのが分かる。
「この建物を滅茶苦茶にしてしまう事に……だ」
ネルがそう言った瞬間に、ネルの足元から上へと何かが通り過ぎる。それはメタリックグリーンの金属を持つ長い何かであった。先ほどチラッと見えた物……それは蛇のような龍のような生物の形した頭を持っていた。そしてネルはこの何かに喰われてしまった。
「おい! アイツ喰われたぞ!? 何だよアレ!?」
「マーバ! これは奴の装甲だ!! 気を付けろ! まだ終わっていないぞ!!」
ワブーがそう叫んで、マーバに注意を促す。それは私とシーエにも言えることであり、今も床から出てくるこれは、室内の床を覆い尽くそうかという勢いで出て来きおり、このままだと引き殺される可能性があるので、『フライト』を使ってすぐに上へと避難する。
「これはこれは……アダマスもやられてしまうでしょうね……」
「ええ……こんなの攻城兵器と変わらないわ」
床の穴から出て来たそれの全容が露になる。その姿は赤い目を持つ金属の蛇……そして蛇の頭上にはネルの上半身がくっついており、その胴体は様々なパイプや配線などが蛇の頭部と繋がっていた。
「同調率……100%。起動兵器ヘカトンケイル……全てを破壊する!!」
ネルの言葉を皮切りに、ヘカトンケイルの口が開き、その大きな口内に白く発光する球体が作り出される。
「ああ……これ薫達に見せてもらった映画で見たことがあるぜ。確か……」
「さっさと逃げますよ!」
マーバの言葉を遮り、回避を行動を取るシーエ。私達もその後ろに続いて、ヘカトンケイルから離れようとする。すると、ヘカトンケイルも私達の動きに合わせて頭を移動させる。
「3、2、1……発射」
ネルのカウントダウンが終わると同時に、ヘカトンケイルの口内に作られていた光球が極太のレーザ光線となって撃ち出される。こちらに狙いを定めていたが、カウントダウン直前にさらに加速して狙いを外していたので、当たることは無かった。しかし、その攻撃のせいで、部屋の壁に外と繋がる大きな穴が開いてしまった。
「外に逃げるぞ!!」
「了解!!」
ワブーの提案に従って私達は外へと逃げる。外へ出ると、どこからか戦闘音が聞こえる。そちらへと視線を向けると、私達がいた施設と渡り廊下で繋がっている別の棟の屋上でマクベスとアンドロニカスが戦っていた。その場所は円形状の闘技場のようになっており、その中で激しい魔法による戦闘をしている。
「こっちにちょっかいを出しますかね……?」
「分からないけど……あまり近くにいないほうがいいと思うわよ」
「お前ら! アレも気にしないといけないけど、今は前に集中した方がいいぜ!! というか……避けるぞ!」
マーバのその言葉に、私達は再度ヘカトンケイルの方へと視線を向けなおすと、ヘカトンケイルの口の中にあの光球が作られていた。私達はそれから逃げるために、再び二手に分かれる。二手に分かれた事で、ヘカトンケイルがどちらを狙うべきか考え始める。
「ヘカトンケイル! 右の奴等に照準を合わせよ!」
ネルの指示を聞いたヘカトンケイルがシーエ達の方へと向き、再び光球を発射する。シーエは発射直前に向きを変える事でその攻撃から避け、そこから『ダークネス・スパイラル・アイス・ランス』をヘカトンケイルへと撃ち出すが、その氷が敵を貫くことは出来なかった。
「無駄だ!! そんな矮小な攻撃にヘカトンケイルに通用するわけが無い!!」
ネルはそう言って「ふはははは……!!」と笑いだす。ヘカトンケイルが持つ圧倒的なサイズとパワーに圧倒されている私は、どう倒すべきか再度悩み始めるのであった。




