433話 四天王ネル戦その4
前回のあらすじ「必殺の銀の炸裂弾!」
―「旧ユグラシル連邦第一研究所・玉座のある部屋」カシー視点―
「ぐぉ……!?」
ネルの胴体部分の白の金属装甲が崩れながら剥がれ落ちていき、その下にある黒い金属で出来た素体が露になる。
「ダイヤモンド・ブレード!!」
「セイクリッド・フレイム!」
シーエはその剣で露になった胴体部分へと、マーバは視界を塞ぐ目的で顔へとすかさず追撃を仕掛ける。それをまともに喰らったネルはさらに無防備な状態を晒す事になる。
「カシー!!」
「分かってるわ!! シルバレット・ボム!!」
そこへさらなる攻撃を私達は仕掛ける。千載一遇のチャンス。ここで一気に畳みかけなければ、次のチャンスは来ないかもしれない。いや……その可能性が高い。
「ぐふっ!?」
追撃で放った『シルバレット・ボム』がネルの腕の装甲を破壊する。そして、それを見たシーエが無防備になった腕を狙って剣を思いっきり振り抜く。すると、ネルの腕は激しい金属音を立てながら本体から離れていった。
「くっ……!! 調子に……乗るな!!」
ネルがその場で足踏みして衝撃波を生み出して、無理やり私達を吹き飛ばして猛攻から逃れてしまった。また、その攻撃で床にばら撒いていた『スプレッド・ステッキィ・ボム』を破壊してしまった。
「……なるほど。さっきのお前の魔法はこの床を凍らせるためか」
「ええ。カシーの魔法が有効な時点で、この魔法も効果があると思ってましたよ。まさか、あなたが自由に飛べないとは思っていませんでしたが……」
「……」
シーエの指摘に黙ってしまうネル。確証は無かったが……私も途中で気付いていた。何せ、ネルはこの戦闘が始まってから一度も上へと逃げる素振りが無かった。ネルの戦闘スタイルなら、少しだけ空に浮いてから急降下の蹴りや、空中からの手刀による斬撃魔法など、上からの攻撃の方が都合のいい物が多い。それなのに、ネルは一向にそのような素振りを見せなかった。
「へえー……あいつ飛べなかったんだ……」
シーエの隣を飛んでいるマーバがそう呟きつつ、ネルが飛べなかったことに驚いている。まあ、ここにいる誰もが同じように思っているだろう。何せ四天王の中でも魔王の右腕と言われるような存在なのだ。それくらい出来ないと様々な面で困ってしまうだろう。
「……飛べない訳では無いがな」
すると静かにこちらを見ていたネルが口を開く。無機質な顔から放たれるプレッシャー……それがまだ終わりじゃないという事を告げている。
「やっぱりか。お前の今の戦い方ではアダマスに勝てるとは到底思えない。そうなると……お前自身がまだ本気じゃないというのは予想出来ていた」
「予想出来ていた……か。本当にそうだったのか?」
「まあ……腑に落ちないところはあるのだがな。何故、お前は最初から全力で行かなかったのか……とかな。魔王の側近なら、俺達をさっさと始末して、王の元へと馳せ参じたいんじゃないか?」
「生憎だが……本気で戦っている。お前らのサイズに合わせてだがな……」
ネルはそう言って、右手を前に出す。その手から紫色の発光が起こると、それがネルの全身を包んだ。
「……換装」
ネルがそう言うと、白色の金属装甲が消え黒の素体が完全に露になる。すると、ネルの周囲に複数のパーツに分かれた緑の大きな装甲が宙に現われ、ネルと合体を始める。
「薫達なら喜んでいただろうぜ……「ロボットらしい!!」って」
「私達にとっては絶望ですけどね……」
どごーーん!!
重々しい音を立てながら、床に着地するネル。先ほどは私やシーエと同じくらいの背丈だったが、かなりごつごつとした腕と足の大きな装甲によって1周り大きくなっており、胴体は胸の部分に拳大の魔石が埋め込まれた装甲を纏っており、頭も狼のような竜のようにも見える兜を被っている。
「ふん!」
そして、最後に大きなウォーハンマーを手にする。アレならアダマスを叩き潰す事も可能だろう。
「……さて」
ネルが自身の背丈ほどの長さのあるウォーハンマーを頭上で2、3度回転させてから構える。
「いくぞ」
その瞬間、私達は咄嗟にその場から離れる。それとほぼ同時に、ネルがその場にウォーハンマーを叩き付けていた。とにかく『スプレッド・ステッキィ・ボム』を再びばら撒き、敵の動きを阻害しようと思ったのだが……。
「ホバリングで常に宙に浮いてて意味が無さそうだな!」
「ええ!」
止まっているとネルのウォーハンマーの餌食になるので、標的にならないように走り回りながら、今のネルの状態を確認してみると、足の裏のブースターによって床に足が付いておらず、その場に浮いたまま制止していた。
「なるほど……Y1型のアーティクルスの特徴は戦闘に応じた武器と装甲の換装。先ほどのが対人戦ようの装甲だとしたら、今のは複数・強敵相手の装甲という訳か……」
「だから本気って言ってたのね……」
先ほどの姿はスピード型と言える装甲であり、敵を翻弄しつつ魔法と徒手空拳によって相手に攻めていくスタイルだった。しかし、私達がそのスタイルの肝である機動力を、床に罠を張ったり、凍結させたりして邪魔をしていたため十分に力を発揮できなかった。そこで今度は、地面の影響を受けず、高い攻撃力と防御力を優先した今のパワー型へと装甲を替えたという事だろう。
「エーオースのクーみたいに1つの装甲じゃなく。別の装甲を持っているのか……他にもあるのだろうか?」
「あるでしょうね……アレで空を飛んでいたら目立つわよ?」
「……確かにな」
ネルの今の姿は大柄な重騎士ともいえるような姿であり、足の装甲はホバリングするための機能が付いているせいか、象の足のような大きい作りとなっている。アレで空を飛んでいたら、ハニーラスの誰かしらが覚えていてもおかしくないはずである。そのため、今のアレとは別の方法で空を飛ぶ手段を持っていると伺える。
「もしかしたら空中戦を想定した装甲もあるのだろうか……」
「残念だけど……それを見る気は無いわ。それより……来るわよ」
ネルが他にどんな装甲を持っているのかを考えながら飛んでいるワブーに注意しつつ、ネルへの警戒を続ける。
「……」
ネルはウォーハンマーを肩に担いだまま、私達の様子を伺っていた。先ほどは休む暇を与えないかのような高速戦闘だったのが、今度は一撃に重点を置いたために、今のように走りながら会話をする余裕が出来ている……はずである。先ほどのハンマーによる攻撃時にはその巨体をものともしない素早さだったので油断はできない。
「……ふん!」
ネルが担いでいたウォーハンマーを床に振り下ろす。それによって、凄まじい振動が発生してまともに移動することが出来なくなってしまった。
「カシー!」
私はすぐさま『フライト』を唱えて、ワブーと一緒に上へと逃げる。その直後に、ネルがさっきいた辺りをウォーハンマーで横薙ぎしており、その床を抉り取ってしまう一撃に恐怖で身震いしてしまう。あのまま、あの場にいたら身体強化魔法を掛けた状態であっても体がバラバラになって吹き飛んでいただろう。
「ここからは空中戦だな。アレの射程範囲まで下がるなよ?」
「ええ」
ワブーが言わずとも分かっている。あんなのをまともに喰らう訳にはいかない。そもそも、私達の戦い方は中~遠距離からの魔法攻撃である。わざわざ相手の土俵で戦う気はつもりは無い。むしろ困ったのは剣による近接戦が主体のシーエ達だろう。シーエ達も『フライト』で既に上へと逃げており、ネルの射程外から様子を伺っている。
「ワブー。『シルバレット・ボム』で様子を伺うわ」
「分かった。だが気を付けろよ……アレで対空装備無いというのは考えられないからな」
先ほどからのネルはウォーハンマーによる攻撃しかしていないが、背中に謎の装備を担いでおり、その形状が砲身と似ているので、それが恐らく対空に関わるような能力を有しているに違いないと私達は判断している。
「くらえ!!」
すると予想通りに、ネルの背中の装備が2つの砲身へと変形し、そこから火炎弾が発射される。弾速はそこまで速くないので避けるのは容易である。しかし、これが対空用の攻撃と考えると何か仕掛けがあるかもしれないので、それからなるべく距離を取る。
すると『ばーーーーん!!』と大きな爆発を上げながら火炎弾が四方八方に弾ける。弾けて出来た無数の火球が勢いそのままに飛んで来たり、山なりにゆっくりと飛んで来たりして私達に襲い掛かって来る。
「アイス・シールド!!」
シーエがそう叫びながら氷の盾を前に展開して、それらを防いでいく。
「あまり得意じゃないんだけど……ウィンド・シールド!」
対して私達は風の防御盾を作り、それらを掻き消すようにして無力化していく。しかし、これでは何の解決にもなっておらず、私達が攻撃から身を守っている間にも、ネルは連射で火炎弾を放っていく。
「厄介ね……もう」
シーエ達とは別れて避けているので、攻撃が分散されてはいる。しかし、それ以上に火炎弾の弾けた後の攻撃範囲と連射スピードによって徐々に追い詰められていく。気が付けば、シーエ達との距離が近くなっている……。
「……このまま俺達を一網打尽にする気か」
ワブーがネルの狙いに気付いて、何か対策を練ろうとする。しかし……それは突如としてやって来た。黒い靄が壁を破壊しながら室内に侵入し、たまたまその進行方向にいたネルの砲身に直撃し、それらをドロドロにして使い物にならないようにしてしまった。
「何!?」
突如として襲ってきた謎の攻撃に驚くネル。それは私達も同じなのだが、何故かそれが味方の攻撃なんだろうと思えてしまった。
「(何となく泉達の仕業だと思ったのは気のせいだろうか?)」
「(恐らくあってるわ。私も同じ意見だもの……)」
私とワブーの意見が一致したところで、この攻撃がエイルとの戦闘の余波による物で、使用者は泉達と判断する。偶然ではあるが、私とワブーは泉達に心の中で感謝しつつ、反撃へと出るのであった。




