433話 四天王ネル戦その3
前回のあらすじ「防御こそ最大の武器」
―「旧ユグラシル連邦第一研究所・玉座のある部屋」カシー視点―
「くっ……」
『ポン!』という爆発音とともに、ネルの体が傾く。
「ここです!」
そこにシーエが『ダイヤモンド・ブレード』でネルの傾いた胴体を切り付ける。当たった瞬間、金属音と共に跳ね返ってしまうが、剣が当たった場所に氷が生成されていた。
「ふん!」
ネルは素早く炎を纏った手刀でカウンターを仕掛けるが、シーエはそれを軽々と避け、ネルから一定の距離を取る。そして、ネルはその炎を纏った手で、自身の体に出来ていた氷を砕いてしまった。
「カシー! もう一度頼むぜ!」
「ええ!」
マーバの言葉に、私達は再度『スプレッド・ステッキィ・ボム』を山なりに飛ばして周囲の床に散布する。この攻撃方法は思った以上に有効であり、ネルは四苦八苦しながら戦闘を続けている。
「どうしてお前はこんな床で戦えるのだ!?」
無数の爆発を引き起こす光球があるという地雷原で、ダメージはなくとも動きが阻害されるているネルに対して、シーエは先ほどと変わらない戦いを続けている。
「まあ、気にしないで下さい……彼女とは長い付き合いでしてね。何となくで分かるんですよ」
表情を変えず、あたかもそれが本当のかのように話すシーエ。実際にはそれもある事はある。私もシーエが戦いやすいようにと、少しだけ光球どうしの距離を調整はしていたりもする。ただし、あくまでそれだけであり、バラバラに飛ばしているには変わらない。
実際のタネの仕掛けだが……シーエの空間把握が凄いだけである。「ここから2歩後ろに光球がある」、「後、1歩で爆発する……仕掛け時だな」と瞬時に判断しており、それに合わせて動いているだけである。この能力のおかげで、シーエが戦闘で負傷する頻度はかなり少なく、むしろケガをする方が珍しいぐらいである。
「くそ……また……!」
「ダークネス・スパイラル・アイス・ランス!!」
ネル動きが止まった所に放たれた魔道具グリモアによって強化された『スパイラル・アイス・ランス』を至近距離でぶっ放す。貫通能力が高い状態でネルの体に直撃したが、その白い金属には傷は付いていなかった。
ガン!!
無言で放たれたネルの拳による攻撃を剣で防ぐシーエ。普通なら攻撃を喰らって怯むところなのだが、戦闘型コッペリアという全身が機械である存在に、痛覚など設けていないのだろう。
「何とも厄介だな……」
「それはこちらのセリフですね……」
互いに距離を取り向かい合う。私はネルから強襲されないように、既にシーエ達の後ろに移動済みである。
「うむ……」
ネルがこの攻めきれない状態に唸り声を上げる。しかし、それはこちらも同じであり、あの硬い白い金属に傷1つ付けられない状況であり、有効打を決められていない。
「……ふう」
シーエから疲労の声が漏れる。このように近距離戦闘が長引く事は、そう頻繁に起きる物では無い。今のシーエのように集中力が切れてしまうのだ。本来なら相手も同じ条件なのだが……コッペリアに呼吸は必要ないので、このように疲労が声として漏れることは無い。
「……」
「……」
静かに睨み合う私達。しかし、ネルはすぐさま攻撃を仕掛けてくるだろう。ネルにとってこのまま戦闘が続いて、下の階から来た味方との合流は避けたいはずである。一方、私達はそれを望んでいるが、それを当てにしてはならない。
カーター達は泉達と一緒に今もエイルとの戦闘を続けているだろう。薫達はシェムルとの戦闘に勝利して、この施設内へと入って来てはいる。しかし、戦闘ができるような状態なのかは分からないし、仮に戦闘が出来るならここではなく、マクベスと一緒に魔王を討伐してもらうべきである。
「結局、私達で何とかしないといけないか……」
そう……この戦いは私達だけで勝たなければならない。本当の討伐対象である魔王に勝つためにも……。
「それで……勝つための何かは閃いたか?」
「閃いてるなら、すぐにでも行動に移してるわよ……ワブーは?」
「無い。と思っていたが……どうやら突破口はあるみたいだな」
そう言って、笑みを浮かべるワブー。その視線の先にあるネルの姿を見て何を閃いたのだろうか。
「閃いてはいないぞ? 単にアイツの欠点に気付いただけだ……シーエ! 『アイス・グレネード』を使え!」
「そんなの当たらねってワブー! ここは別の魔法がいいんじゃねえの!?」
「安心しろ! それも折り込み済みだ! 試しにやってみろ!」
ワブーの言葉にマーバは渋るが、すくさまシーエがその提案に乗ることを決め、マーバも『アイス・グレネード』を放つ準備を始め、剣を握る手とは反対に薄群青色に光る光球を作り出す。
「……」
こちらへと向かってくるネルの下半身に向けて、無言で投擲された光球。上半身だと、その拳で撃ち落とされてしまう可能性があるからの選択だろう。もちろん、足で蹴り落とされたりする可能性もあるが、『スプレッド・ステッキィ・ボム』によって地雷原となった場所で戦っているせいで、足を使っての攻撃は先ほどより控えており、恐らく今のネルなら撃ち落とすより避けるを選択するだろう。
「チッ……!」
予想通りに『アイス・グレネード』を避けるネル。『アイス・グレネード』はそのまま床に落ちて弾け、周囲を凍らせる。
「もう1回!」
シーエは続けて『アイス・グレネード』を投擲する。それはネルの動きを読んで、今のネルがいる場所から少し右にずれた位置に落ちていく。このままなら、ネルがそこに移動したと同時に当たる絶妙なタイミングである。しかし……ネルはこちらを向いた状態であり、『アイス・グレネード』がどこへ投擲されたのか見ているので、当然だがそれを避けてしまう。
「エクスプロージョン!」
「ぬっ……!?」
シーエが魔法を使って隙が出来たところに、ネルが一気に距離を詰めて攻撃を仕掛けようとしたので、その2人の間に『エクスプロージョン』を放ち、爆発を起こしてそれを止めようとする……が。ネルはそのまま突っ込み、シーエに炎の拳による渾身の攻撃を仕掛ける。
ガン!!
しかし、シーエはそれが来るのが分かっていたかのように、その拳を冷気を纏った魔法剣で受け止める。
「くっ……ここまで長引く相手は初めてだ……」
「こちらは結構な数ありますね……そのうちの1人はそちらの身内なんですが?」
「シェムルか。怠惰な奴だったが……」
ネルは何かを言おうとしたが、そこから何も言わずに拳と蹴りによる連続攻撃を仕掛けていく。火・水・風のいずれかの魔法を代わる代わる使いシーエを追い詰めていく。シーエも自分が有利な間合いを取ろうとして、ネルの攻撃による反動を利用して回り込もうとする。
「させるか!」
しかし、ネルは離れない。シーエと一緒にいるマーバが『セイクリッド・フレイム』による援護をしようとするのだが、あまりにも近過ぎるのと、ネルの攻撃によって自身が大怪我するのを防ぐため、なかなか手を出せずにいる。
かく言う私達も同じであり、シーエが距離を取ってくれるのを静かに見守っている状態である。仮に援護に行っても、近接戦では私達は足手まといにしかならない。
「どうしようかしら……あれだけの激しい近接戦ではシーエに当たるわ」
「そうだな……カシー。グリモアを使用した爆発魔法をいつでも放てるように構えとけ。もう少しでネルに大きな隙が出来るぞ」
ワブーのその言葉に、シーエとネルが戦っている場所を再度見る。そこで、この後何が起こるのかを把握した私は魔法を放つ準備を始める。あの金属を突破できる魔法……ここで派手な爆発はいらない。あの爆発の威力を一点に集中させ、あの金属の肌を破壊できる魔法を……。
「はあぁっーーーー!!!! 喰らえ!!」
ネルが大きな掛け声を上げながら、大きく足を開いて大振りの攻撃を放とうとする。シーエの相手の攻撃を受け流すに特化した防御に業を煮やし、この攻撃で防御を崩し、素早い連撃で確実にダメージを与えようという考えなのだろう。
ガン!!
「シーエ!!」
「なっ!?」
シーエがネルの攻撃を受け切れずに、構えが崩される。それを見たマーバが声を上げるとほぼ同時に、ネルも何かに驚いたような声を上げ、そのままバランスを崩して床に転倒してしまった。それを見た私は、この場で作った新たな魔法をぶっつけ本番で発動させる。
魔法は使う本人の想像力である程度は思った通りの魔法が撃つ事が出来る。そこに更なる力や能力を加えるには、如何に科学的な理論を組み込めるのかが鍵となる……。まあ、例外はいるのだが……今はどうでもいい話である。
「私の使える2つの魔法を1つにするような感じで……」
貫通能力のある『ネイル・ボム』をベースに、二重爆発魔法の『ディピロ・エクスプロージョン』を組み合わせ、さらに貫通能力が高くなるように鋭さを、二重ではなく多重ともいえる連続爆発を……。
「まるで銃弾だな」
そう呟くワブー。確かに見た目は銃弾に見える。が、その周囲を魔道具グリモアによる黒い靄を纏わせ赤黒く発光している。そして、最後に回転を加え威力を高めようとすると、赤黒く発光していたそれが銀色に変色していく。どうしてこうなったのか……これこそ私の想像力が関係しているのだろう。地球で聞いた化け物を倒すための聖なる弾丸……。
「喰らいなさい……! シルバレット・ボム!!」
私の掛け声と共に放たれる銀色の魔法の弾丸。それは転倒していたネルの胴体にぶつかると重々しい爆発を何度も引き起こし、それによってネルの体が吹き飛ぶ。
「ここです!!」
すかさずシーエが走り込み、ネルへと渾身の振り下ろしを喰らわせる。それは『シルバレット・ボム』が当たった箇所への的確な攻撃であり、そこを中心にして、胴体部分を守っていた白い金属を破壊するのであった。




