432話 四天王ネル戦その2
前回のあらすじ「頭を剣で叩かれても平気です」
6/17追記:作者の都合で次回の更新は6/26になります。
―「旧ユグラシル連邦第一研究所・玉座のある部屋」カシー視点―
「この私の正体だと……?」
「ああ。そうだ……」
ワブーが腕組しながら、ネルと会話を始める。
「お前から感じる違和感……それが何なのかやっと気づいた。単刀直入に言う。お前……魔族じゃないだろう」
そのワブーの発言に驚く私達。対して、ネルは驚きもせずに静かにこちらを向いたままだった。それを確認したワブーはそのまま話を続ける。
「お前から感じる魔力がどこか妙だと思った。それが何なのかがイマイチ分からなかったが……カシーとお前が近くで戦った時に分かった。お前の魔力はコッペリアの連中と同じだ。だから魔族じゃないお前は全身を黒の衣服で身を包み、さらには認識阻害の魔法でフードの中を見られてもいいようにしていた……違うか?」
「……」
ネルがワブーの問いに答えず少しばかり沈黙する。すると、ネルは頑なに被り続けていたフードを脱ぎ、ついにその素顔を晒す。
「なるほど……魔王様とマクベス以外にも現存していたとはな……」
そう言って、私達を見るネル。その顔は陶磁器のようなほぼ白一色の肌であり、オレンジの瞳をした目もあり、口もスムーズに動いている……しかし、セラのように完全に人型にした存在ではなく、地球の映画などで見られる機械仕掛けだと人眼で分かるような人型のコッペリアだった。
「結構いるぞ? 少なくとも4種は現在も動いていたしな」
「なるほど……それだけの数に出会っていれば気付かれても当然か。如何にも、私はイレーレ達が作った戦術兵器型コッペリアの1種……Y1型のアーティクルスのネルだ」
正体がバレて、ゆったりとした口調で自己紹介するネル。ただし、その顔はセラのように変化する事が無いので、どのような感情で話しているのかが、イマイチ読み取れない。
「戦術兵器……アダマスのような戦闘系か」
「アダマス……久しいな。良く叩き潰してやった相手だ」
「ふふっ……」と笑うネル。『叩き潰す』というのは比喩ではなく、文字通りに叩き潰しているのかもしれない。そうなると、全身がアダマンタイトと覆われているアダマスを叩き潰せるほどの実力者なのかもしれない。
「さて……こうなれば、これも必要ないな」
ネルが手を前に出すと、着ていた衣服が一瞬にして消えて、その姿を完全に現す。アダマスが不格好な大柄の鎧騎士だったが、こちらはスマートな拳闘士であり、その全身を顔と同じ白い陶磁器のような色をした金属で覆われており、それに覆われていない可動部は黒一色となっていた。
「なるほど……全身が鎧に覆われており、それから繰り出される拳は武器になるってことですか……」
「あいつの腕と足が一体どうなってんかと思ったけど、そう言う事だったんだな……」
衣服を着た状態でも、かなりの細身の人物だと思っていた。しかも、シーエ達の攻撃を腕や足で防いでいる事と金属音からして、中に何かしら仕込んでいるとも思っていた……だが、それがただの外骨格というのは予想外である。
「……さて」
一言呟き、ネルが動き出す。それは先ほどとは比べ物にならないぐらいに素早く、よりキレのある動きだった。そして、その勢いのまま私へと向かってきて、腹に蹴りを入れてくる。対応に遅れた私はそれによって横へと飛ばされてしまった。
「カシー!!」
蹴られた私が、横へと思いっきり吹き飛ばされ床に倒れ込んでしまった姿を見て、無事なのかを確認するために叫ぶシーエ。私は体を捻りながらすぐさま起き上がり右手で杖を構える。
「まさか……避けるとはな」
「これでも……戦闘経験豊富なのよ。これくらいは出来ないと……生きていけないわ」
私は蹴られた脇腹の痛みで息を切らしてしまう。ネルの体は金属で出来た体であり、その蹴りとなれば刃の無い剣をフルスイングした時と変わらない威力となる。いや、身体強化魔法を使った魔法使いでこれなのだ。生身で受けていたら即死だっただろう。
「大丈夫か?」
「大丈夫そうに見える……?」
ワブーの言葉に返事をしつつ、私はアイテムボックスからポーションを取り出そうとする。ネルは私がポーションで回復すると察し、それを阻止しようとするが、私とネルの間にシーエ達が割り込んでそれを妨害する。
「私達が相手ですよ」
「私達……? 精霊ごときに……」
「セイクリッド・フレイム!!」
ネルがシーエと、拳と剣による鍔迫り合いをしていると、その横にいたマーバが魔石を使って『セイクリッド・フレイム』を使用する。いつもは私達が使ってはいるが、精霊でもこの魔石を使う事は可能である。
「クッ!!」
その予想外の攻撃に怯むネル。その好機をシーエは逃さず、火を消そうとするネルに対し攻撃を仕掛けていく。それを見た所で、私はポーションを飲んで先ほどのダメージの回復に努める。
「さて……どう倒すべきか」
「ええ」
ネルの正体は戦闘型コッペリア。戦闘型のコッペリアの強さに関してはこの身をもって知っている。
「アダマスはその巨体故に可動部が剥き出しだったところに砂を突っ込み、詰まらせた事で動きを止めた。エーオースのクーは私達の爆発魔法によって脆くなった装甲を、薫達の魔法剣で粉砕した……」
「……ここに薫達が丁度良く来ないかしら」
「耐えれば来るだろうが……アレを相手に防御に徹して耐えきれると思うか?」
ワブーが指差す方向……火を消し終えたネルがシーエ達と、静かでそれでいて激しい高速戦闘を繰り広げている。
「無理ね……」
防御に徹していても、いつかは耐え切れずに先ほどのように大怪我……いや、致命傷を受けてあっという間にやられてしまうだろう。
「高速戦闘……」
そこで、ふとある魔法を思い出した。味方の行動を阻害するため、あまり使用しない魔法なのだが……。私は思い出した魔法について、ワブーと小声で相談する。
「なるほど……いい案じゃないのか。アレには効果テキメンだろう。とりあえず、それで攻めていくぞ。シーエ達にも悪いしな」
ワブーの言葉に、休んでいた私は立ち上がり、杖を前に構える。
「スプレッド・ステッキィ・ボム!」
私がそう唱えると、杖の先端から無数の小さな赤い光球が山なりに飛んで、空中で拡散していく。シーエ達も私がどんな魔法を使ったのか理解して、その光球に当たらないように一度大きく後退する。そして、ネルが後退したシーエ達に肉薄しようと前に勢いよく出ようとしたタイミングで、飛んでいた赤い光球は床に散らばり、そのまま床に張り付く。
ネルは床に張り付いた光球に警戒し、それを踏まないように走って移動する。その判断は正しく、この光球にうっかり触れてしまうと、触れた箇所に光球が接着し、時間経過によって小爆発を引き起こす魔法である。しかし……それはあくまで触れた場合の話であり、通常のボムのように爆発させることも出来る。つまり……。
コン!
杖の石鎚で床を叩く。すると、ネルの前にあった赤い光球達が連鎖爆発を引き起こす。威力は弱く、ネルにはダメージを与えられないだろうが、それでも高速での戦闘を阻害し封じる事は出来る。そして、それは思惑通りにネルの動きを一時的に止めることに成功した。
「スパイラル・アイス・ランス!」
すかさず、シーエ達の魔法攻撃がネルに撃ち込まれる。ネルはそれを避けようとするので、私は再度石鎚を床に叩きつけ、ネルが逃げようとする方向に爆発を起こし、逃がさないようにする。
「ふん!」
避けられないと悟ったネルは、撃ち出された氷の槍を叩き落とす。それを見た私達は、再び『スプレッド・ステッキィ・ボム』を放ち、ネルの周囲に赤い光球をばら撒いていく。
「(カシー。この魔法、一定の効果が期待できるようだ)」
「(そのようね)」
私達はそう小声で話し、互いに笑みを浮かべるのであった。




