42話 Let's enjoy first Flight !
前回のあらすじ「準備中」
*お正月ということで特別に今日の夕方にも投稿します。
本年も宜しくお願い致します。
―「ビシャータテア王国・庭」―
「うおぅ! 凄いねこりゃ!」
「火力調整のために乗り込んだ形になったけど……なんていうか少し揺れてるわね」
「ついに空飛ぶ道具を作ったんだな俺らは」
「そうじゃな……まあ、ここからが始まりじゃがな」
お馴染みの形になった気球が目の前に2つ並んでいる。片方はガスボンベで加熱してるのに対して、もう片方は5個の魔石を上手く配置して加熱している。また係留飛行に必要な地面とのロープはかなり長い物が用意されて既に地面の杭に結び付けられている。ちなみにこのロープはカシーさんたちが用意したそうで絡まる心配の無い特別な物となっている。
「榊! そっちの様子はどうだ?」
「問題なさそうですよ社長! いつでも行けます!」
「よし! そしたら試験運転といくぞ!」
「よし! 俺も乗るぞ!」
王様が目を輝かせながら手を挙げている。
「いや……王様。ここは一回安全を確認してからの方が?」
「何を言っているのだシーエ! ここは王としては誰よりも早く乗ることは威厳にも関わることなんだぞ!」
「王様……ただ早く乗りたいだけだよな……」
「マーバも何を言ってるのだ! とりあえず俺が一番に乗るぞ!!」
周りが何とか宥めようとする中、王様は気球の方に走っていってしまった。
「全く……子供なんだから……」
「父上……」
「お父様……」
「(王様……ご家族の方々が呆れていますよ……)」
「(なのです)」
王様のご家族が呆れている中、僕とレイスはお互いにしか聞こえないように小声でツッコミを入れておく。
「まあ、しょうがないですね。それで薫さん達に申し訳ないんですが……」
「警備兼落ちた際にレスキュー出来るように近くにいて欲しいんだよね?」
「ええ。王妃様達はどうされますか?」
「私はいいかしら……ちょっと怖そうだし」
「……実は乗りたいと思ってました」
「お兄様と同じで……」
そう言って2人も気球の方に向かう。
「魔法使いとして飛べるのはお前達だけだからな。頼んだぜ」
「分かりました! あ、箒……」
「今、出すよ」
アイテムボックスから箒を取り出して泉に渡す。そういえば中に入れっぱなしだった。
「ありがとう! でも、やっぱりアイテムボックスが欲しいな」
「あると便利ッスよね」
「金貨まだ1枚ぐらいしか使ってないし……買えないかな?」
「今度は魔道具屋に行ってみるッスよ!」
今度、魔道具屋に行こうと話し合う泉とフィーロ。そういえば、魔道具とか魔石とかの店に1回も行ったことがないし、どこかのタイミングで僕たちも取材込みで行くとしよう。
「飛翔」
「フライト!」
安全対策のため、鉄壁を発動させてから飛翔魔法を唱えて、気球の方へと向かう準備を整える。
「シーエ……飛んでますけど?」
「そういえば王妃様は聞いてなかったんですね……」
「ふ、副隊長……」
「お前達絶対に誰にも言うなよ。今回の気球への選抜はどれだけ口が堅いかで決めたんだからな」
何か後ろでそんな会話が聞こえたが……気にしないでおくとしよう。気を取り直した僕たちは、既に浮き始めている気球の傍まで近づいていく。
「うむ! その魔法は本当に便利だな!」
「……そういえば泉さん達も飛べるんですね。しかも箒に乗ってるなんて、本当に魔女みたいです」
「いやー。薫兄と異世界に行ったら……なってました」
「いいな~。私も契約出来ないかな……」
「えーと。基本的には無理かと……」
「うちらはたまたまどこか落ち着ける場所を探してたッスからね。精霊は基本的には奔放するのが好きッスから……それと精霊に軽い気持ちで契約を口にすると大変な目に遭うッスよ」
「くっ! 残念です!」
「話は済んだか? 気球を飛ばすぞ! 紗江準備しろ!」
「はあ~い……」
2台の気球がバーナーの火力を上げて徐々に上昇を開始する。ちなみに異世界製の気球にはカシーさんとワブー、それと王様と榊さんの4人。普通の気球には直哉にドルグにメメ、それと王子にお姫様の5人が乗っている。紗江さんはトランシーバーを持って地上から指示をする役目だ。
「おおー! 飛んでるぞ!」
「はあ~。炎の魔石をこんな形で使用して飛ぶなんてやっぱり驚きだね……」
「凄いな。これが飛ぶって感じなのか……」
「あ、あの? お、お兄様……それもそうですが、もっと凄い方法で飛んでいる人が……」
「魔法です。だから気にしないで下さいお姫様」
僕はこちらに指を差しているお姫様に対して、キリッとした表情で答える。
「いや。気にしますからね!? 薫さん達ってやっぱり女神の化身とかじゃないですよね? この前のキトンの姿すごく似合ってましたし!」
グサー!!と僕の心臓に何かが刺さった音がした。その衝撃で墜落しそうに……恐る恐る、お姫様に確認をする。
「見たんですか……?」
「はい。ドローインの白黒でしたが」
「それは実に私も見てみたいな! 薫がどんな事をしでかしたか気になっていたんだ!」
「えーと。これですけど……」
「見せないで!! というか何で持っているの!?」
「えーと……」
王女がそーっと顔を背ける。
「いやー。快適ですね」
「そうだね~。飛べるあたしらでもここまで高くはそうそう飛ばないしね~」
「お! 城を見下ろすぐらいまでの高さになりましたぞ」
王子様たちが話に関わらずまいと、気球からの景色を各々述べ始めた。
「どれどれと……ぶ、ぶははは! 似合っているじゃないか薫! これは女と言われてもしょうがないんじゃないかな!?」
「はい。薫さんのお陰でキトンが流行っていますからね」
「見事なインフルエンサーじゃないか薫!」
「からかわないでくれないかな……」
「薫のテンションがただ下がりなのです!」
「はは……まさかの攻撃に精神的ダメージを負いましたよ……」
「悪い悪い! っと、少し下げるか」
取り付けていた地面と繋がっているロープに余裕が無くなったみたいだ。
「これでどうやって操作するんだい?」
「このリップラインというのがある。これを引くと天頂部の排気弁が開いて暖かい空気が逃げて降下する。移動するのは風任せだがな」
「なるほどね……。じゃあ思うように移動出来ないのかい?」
「まあそうだな。そこは風を読んで操作するしか無いんだが……この世界には便利な事に風魔法があるらしいじゃないか。それを利用すれば今度は飛行船のように自由に移動できるかもしれん」
「うーーむ……そこは試していかないと何ともいえんな。どの位の威力でどれだけ移動するかなんて分からんしの……」
「あのー。そもそも何で温めると浮くんですか?」
お姫様が手を挙げて聞いてくる。確かに原理を知らないと不思議でしょうがないだろう。
「ユノの言う通りだな。そういえばどうしてなんだろう?」
「薫! スケッチブックと白衣と眼鏡の準備を!」
「いやいやなんで僕なの? プロである直哉が普通に説明してよ」
「いや。さっき泉のやつから聞いてな? それならここはと思ったんだが?」
「振らなくていいから。普通にどうぞ……」
「分かった。という訳でお約束も済んだことだし」
何がお約束なのだろうか……いや、もうツッコまないからね。
「説明すると、バーナーによって球皮内の空気が70~100℃位の高温に温められる。そうすると温められた空気は上に集まり、逆に冷たい空気は下に集まりこの穴から外へと逃げていく。すると押し出した空気の分だけ球皮内の空気の密度が低くなり浮力を得るということだ」
「空気の密度?」
「うむ? ああ、そうか。この世界では空気の概念が薫が来るまで無かったんだったな」
「ええ。薫さんから初めて酸素や窒素なる物質があることを知りました」
「そうだ。それらは我々の目で捉えることは出来ないがこの球皮内にも存在してるし、今我々のいるこの場所にもある。ただ現在、この2つには違いがある。それが密度だ。密度というのはある一定の空間内における重さを表したものになる」
「空間内の重さ?」
「2人に分かりやすく言うと、地面に円を描いてそこにどれだけの人が入れるかをイメージすると分かりやすいかな。人々が動かなければ範囲内の人はそれだけ入り合計の重さは増加するし、人々が走ったりしていたら走るためのスペースが必要だから当然人数が少なくなって軽くなるよね」
僕はスケッチブックだけアイテムボックスから取り出し、そんな絵を描いて2人に見せた。
「なるほど……」
「薫の言ったこと描いたことが空気でも行われているという事だ。温めれば空気を構成する物質が運動して密度が軽くなり、その結果浮き上がるという事だ。まあボイル・シャルルの法則の説明をしたいところだが……科学の知識が無い者に説明するにはちょっと無理があるな」
「ご、ごめんなさい」
「いや。誤らなくて結構だ。むしろ逆にそちらにとって当たり前の魔法の知識が、今の私には分からないしな。つい先日まで魔力が私達の世界にも普通に存在するなんて聞いたことが無かったからな」
「そうなんですか?」
「ああ。全く薫はとんでもない証明をしたものだ。魔力は私達の世界に存在する。ではどうして今まで観測されなかったのか? どうすればそれを観測できるのか? そんな問いが出来てしまったのだからな。携わってしまった技術者としては追及しなければならない課題だ」
「難しいですね」
「だが面白い。まだ私達の世界にはこれだけの未知があったというのはな」
直哉が恐らくこの日、一番の笑顔を見せる。まるで子供が新しいおもちゃを手に入れた時のように。
「俺もだな。魔法の力とは違う科学の力というのを思い知ったぞ!」
「そうだね。これから何を造るか楽しみだよ!」
「とりあえず薫のところにある魔法陣をうち会社にも設置して欲しいんだが……」
「「「「……」」」」
「どうやら無理か……」
「カシーの奴が調査中だ。まだまだ時間はかかると思うぞ?」
「あの魔法陣が僕の蔵に繋がっているのが分かったのが2ヶ月前ぐらいだからね。そこはしょうがないかな」
「あれってそんなつい最近だったのですね。私達、結構な頻度で普通に使っていたのです」
「うん」
「薫さんの方では何か分かったのですか? そのご先祖様が私達の世界の住人で、その方が関わっているとか話されてましたが?」
「僕の方も調査中だよ。ただカーターの話を聞くとおじいちゃんやおばあちゃんがまだ生きていた頃になりそうだけどね」
「ほう。面白いで話ではないか! となると君の先祖はサキュバスか!」
「……何でそのチョイスかはツッコまないよ。でも魔物という線はありだと思うけどね」
「「「!!」」」
王女様たちが驚いた表情でこちらを見る。1人を除いて。
「王子はその考えがあったんですね?」
「ええ。薫さんのように歳に対して若く見える種族は限られるので。父上や母上もエルフやドワーフ、それか魔物だろうとは……」
「そうだったのですか!?」
「まあ、確証は無いからな。あくまで一つの可能性だ。だからお前にも話さなかった」
「話されなかった理由は分かりますし、そこはしょうがないとは思います。ただその可能性があるということにビックリしただけです」
「魔物なんて今やお伽噺になりつつあるからね……」
「子供の頃、母ちゃんがおやすみ前の話として聞かせてくれてたな……懐かしいぜ」
「私にとっては君がどれだけ属性をつけるのか見物になってきたな!」
「そんなのはいらないから! それはそうとあっちの気球にいる王様が手を振っているよ!」
「本当だわ。お父様ったらはしゃいでますね」
「少し距離があって見にくいが……満面の笑顔っぽいな」
「とりあえずだ! 難しい話はここまでにして空の旅を楽しむとしようじゃないか!」
直哉のその意見に全員が賛同する。その後、僕たちは空中遊泳をしばらく楽しみ、そして地上に戻るのだった。
「ちなみになんだけど、これってどれだけ高く飛べるんだい?」
「うん? これがどこまでかは分からないが、この原理で一番高く飛ぶ気球だと10000m以上……今が大体100mとして、この高さの数百倍はいくぞ?」
「おう……」