425話 四天王エイル戦その2
前回のあらすじ「オルトロス撃破!」
―一方「旧ユグラシル連邦第一研究所・2F 階段前の広間」カーター視点―
「喰らいなさい!」
エイルが自分を守るように浮遊していた毒液をこちらへと飛ばす。俺はすぐさま盾を前に出して、その出力を最大限にして大きな炎の盾を作り出す。気化した毒を吸わないように、先程からマスクを付けて戦っているのもあって、今の所は問題無く戦えているようだ。
「(薫から戦い方の教示を受けておいて良かったわね)」
「(ああ。それ以外にも念のために他にも対策を練っているしな)」
この戦いのために幾つもの策を講じた俺達。この盾も前回の反省をいかして、カーバンクルの魔石に風の魔石、それを融合の魔石で炎の大きさをさらに自由自在に変更できる『バーニング・バックラー』という攻防一体の魔法盾にしておいた。これで、仮にエイルが毒の雨を降らせてもこれを上に掲げて、出力を上げればそれすらさえも防げるだろう。また、毒に対して薫やカイトに対策案を一緒に練ってもらったので、必要に応じてそれらを使う用意も出来ている。
「キィーー!! 面倒な相手ね!!」
思った以上に攻撃が通らずに激昂するエイル。それもそのはず……最初から俺とサキが受け持つつもりだったのだ。早々に攻撃が通ってしまっては困る。
「(あっちは大丈夫かしら……)」
エイルから目線を逸らさずに俺に話しかけるサキ。オルトロスを素早く仕留めた3人だったが、今はガーゴイル相手にどうやら苦戦を強いられているようだ。
「(応援に行きたいところだが……こいつがあっちに行ったらそれこそ問題だ)」
3人がガーゴイルとの戦いに専念している。もし、こいつがそれに気付いて不意打ちなどを喰らわせようとしたら直撃してしまう可能性が高い。俺はそれを避けるために次の策を出す。
「フレイム・ナイト!」
『フレイム・ソルジャー』の強化版である魔法を唱える。前に出した手から撃ち出された3つの炎の玉が立派な鎧っぽい物を来た3体の騎士の姿になり、手に持っているクレイモアと言われる大きい剣を持って戦闘を始める。魔法で作った騎士に毒は効かない。
「本当に面倒ね!!」
こっちの対処に夢中になっているエイル。俺は3人がその間にガーゴイルを仕留めてくれる事を願うのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―同時刻「旧ユグラシル連邦第一研究所・2F 階段前の広間」泉視点―
「グオォ!!」
魔法で作った水の槍を撃ちまくるガーゴイル。氷の壁でそれを防ぐが徐々に削れてしまうので、その度に新しい氷の壁を作りそちらへと避難するというのを繰り返している。
ドン!! ドン!!
ガーゴイルの隙を突いて、マグナムによる攻撃をし続けるミリーさん。しかし、一向にダメージを与えられていない。
「ああ~!! こうなるんだったらあなた達に頼んで、あのレールガンを持ってくるんだった!!」
「通用しますかね……高位のドラゴンには効かないって、セラさんが確か言っていたような……」
「言ってたッスね……」
ガーゴイルに反撃を仕掛けつつ会話をする私達。攻撃に効かない相手に普通は絶望する所なのだが……どうも緊張感が無い。
「こいつの攻撃ってこれだけッスかね……?」
「ううん。確か炎のブレスを吐けたはずだよ。ほら、前回の戦闘時にさ」
「ああ……逃げる際に吐いてたッスね。そうなると、こいつって水と火の魔法を使用するんッスかね?」
「他の属性を使うかもしれないわよ……未知数な相手である以上、気を付けなさい」
マグナムに弾を装填しつつ、ミリーさんが注意を促す。ミリーさんを見ていると分かるのだが、ガーゴイルとの戦闘に集中しつつも、エイルへの警戒を外していない。
「それで……いい策は思いついたかしら? それだけ冷静にいられるなら何かしらあるでしょ?」
「うーーん……」
私はアイテムボックスからある物を取り出す。その形状から『命を刈り取る形』と言われる武器……。
「この武器ですかね」
私のもう1つの専用武器である可変戦鎌『シンモラ』を取り出す。持ち手を操作すると、鎌の先端部分が回転して、鎌の独特なあの刃が斧の部分になり、その刃の対面に付いていた槍のような形状の飾りが、持ち手と水平になるように移動することで飾りではなく本当の槍としての役目を果たすようになる。
「戦鎌からハルバートへと変形する魔法使い専用武器……私からしたら大ハズレ武器ね」
「ははっ……」
ミリーさんの辛辣な言葉に言い返せない私。戦鎌からハルバートに変形して使いやすくなった……かと思いきや、ハルバートも熟練の使い手じゃないと扱いに困る武器らしいのでその意見はごもっともである。
「それでアイツをぶった切るつもり? それとも貫く気かしら?」
「それは……」
氷の壁から頭を出してガーゴイルの様子を伺う。すると、私の顔を見たガーゴイルはすぐさま水の槍を飛ばしてきたので、私は慌てて頭を引っ込める。
「……トリシューラかな」
「了解ッス!」
「トリシューラ……? インドの神様であるシヴァの持つ三又の矛よねそれ? 貫くつもり?」
私はミリーさんの言葉に返事を返さないまま魔法の準備をする。『シンモラ』に『ジェイリダ』の魔法が込められた魔石を嵌め込み、魔道具グリモアに嵌め込まれた黒い魔石も使用することで『シンモラ』の矛先に黒い靄が漂い始める。そして……私は水魔法の準備を始める。
「3つの力の象徴を掲げし槍よ。破壊神によって解き放たれし力をもって悪しき者共を撃ち滅ぼせ! 氷葬・トリシューラ!!」
私はそう言って『シンモラ』を上に掲げる。すると、槍の先端から3匹の氷の龍が流水を纏いながら現れ、私達の周囲を飛び始める。
「ミリーさん! 少しの間、ガーゴイルの意識をそっちに向けられますか!?」
「任せなさい!」
私がそう言うと、ミリーさんは氷の壁から出て普通の銃で連射する。ガーゴイルがそちらに意識が向いているのを確認した私は、ミリーさんとは反対方向から氷の壁を出て、すぐさま、シンモラの矛先をガーゴイルに向ける。
「いけーー!!」
私がそう命令すると。3匹の氷龍がガーゴイルに向かって飛んでいきガーゴイルに巻き付く。そして、氷龍がガーゴイルに噛み付き、その噛み付いた場所から徐々にガーゴイルの体を凍らせていく。
「召喚魔法……?」
「いえ! ただの攻撃魔法です!」
ミリーさんの言葉に簡潔に答えつつ、ガーゴイルが口を開いて、何かしらのアクションを起こそうとしていたので氷龍の1匹を操作して、氷龍の胴体をねじ込ませる。開いた口が閉じられずに開けっ放しになったままのガーゴイルが暴れ、氷龍達を引き離そうとするが、その拘束は解かれることが無く、むしろ口が開けっ放しになった事で、そこから凍結効果が侵食していく。
「グ……ァ……!!」
口の中が凍っていくのを防ぐために火を吐くガーゴイル。氷龍が口を塞いでいるため、火が口の隙間から溢れ出ていく。しかし……それはすぐに収まってしまった。極低温からの急激な温度の上昇……それによって起きたのは自身の崩壊だった。
『バキン!!』という音と共に自身の口が砕け散り、ガーゴイルの口が使い物にならなくなる。その隙に口を塞いでいた氷龍が動いて頭をガーゴイルの真正面に向け、お返しと言わんばかりに、凍える息吹を吐き出す。口が無いためその息吹が体内へと防ぐ事が出来ず、ガーゴイルは外と中から一気に凍らされていく。
「グォォォ……」
呻き声を上げながらガーゴイルが倒れる。そして、ガーゴイルはそのままゆっくりと動きを止めていった。
「驚きの魔法ね……」
ミリーさんが銃を構えたままガーゴイルへと近付いていく。そして、手を振り魔法を止めるようにこちらへと指示をするので、私はブリューナクを解除する。
「まさか……凍死なんてね」
「ガーゴイルが生物だったのが幸いでしたね。これが作り物だったら倒しきれていたか……」
「その時は召喚魔法でどうにか対処できたでしょ?」
「切り札ッスからね……まあ、今は止めといた方がいいッスかね」
「そうなんだよね……」
召喚魔法であるセイレーンの弱点……それは全力を出すには大量の水が必要だということだ。水を使っての攻撃手段が豊富なセイレーンは水の量によって強さが変わってしまう。今回のように閉所でかつ、水の無い場所では最低限の力しか使えない。
「それよりも……」
私達は今も戦っているカーターさん達の方を見る。そちらではエイルが呼んだ魔獣と炎の騎士が戦っている中で、カーターさんとエイルも互いの武器を使っての近距離戦を行っていた。
ダン! ダン!
すると、そこにミリーさんがマグナムによる援護射撃を行う。カーターさんとの戦闘に意識が向いていたエイルに、それらは直撃して体を大きく仰け反らせる。しかし、エイルはすぐに態勢を戻し、ミリーさんへと魔法による攻撃を仕掛けようとしていた。
「ダーク・サンダー!!」
私達はすかさず雷魔法でそれを阻止する。雷魔法の直撃を喰らったエイルの体から煙が出ており、体が麻痺している状態、カーターさんはその好機を逃すことなく、炎を纏った剣で一太刀にしようと大きく振る。
「がはっ!?」
燃える剣による攻撃が直撃したエイル。しかし、その体が切れることが無く、ただ、エイルを壁に吹き飛ばしただけに留まってしまった。もちろんカーターさんが手加減している訳では無い。全力で斬りかかったが、エイルにはその刃が通らなかっただけである。
「3人とも無事だったか?」
「はい」
エイルの呼んだ魔獣が炎の騎士達によって倒された所で、カーターさんとサキの2人がこちらに合流してきた。見た感じ、怪我や毒の心配は無さそうだ。
「無事の確認はいいわ。で、あなたの見立てでいいんだけど……エイルを斬れそう?」
「……分からない。全力で斬ったはずなのに、結局壁に吹き飛ばしただけだったしな」
「前の戦いから思っていたけど……あいつって滅茶苦茶硬い?」
サキのその言葉に私達全員が反応する。前回の戦いでも、その丈夫な体だと伺える様子が何回かあったのだ。そして……先ほどのアレを見て確信に変わる。
「ああ……痛いわね……」
エイルの声が聞こえたので、そちらを振り向くとエイルが服に付いた埃を祓いながら、平然と起き上がるのであった。




