424話 四天王エイル戦その1
前回のあらすじ「エイル戦開始!」
―「旧ユグラシル連邦第一研究所・2F 階段前の広間」泉視点―
「さてと……お前の相手は俺達だ。覚悟しろ」
そう言って、アイテムボックスから銀色の盾を取り出し、前回のエイル戦と同じように剣と盾の両方を構えるカーターさん。対面するのはエイル1人と、エイルが使役しているガーゴイルとオルトロス2匹。この前みたく呼べるのだとしたら、他にも強力な魔獣が控えているかもしれない。恐らく、この階段前の学校の体育館くらいの大きさの広間にエイルが構えていた理由の1つとして、魔獣を呼び出すのにちょうどいい空間だったという可能性がある。対して、私の召喚魔法であるセイレーンを呼んでも、この狭い空間では生かしきれないかもしれない。
「ふん! あんたらがシェムルに勝ったからって図に乗らないで欲しいわね!」
エイルは両脇に従えていたガーゴイルとオルトロスの2体を制止しつつ話をする。どうやらシェムルがやられていたのは知っていたようだ。しかし、その表情は平然としていたもので、悲しんでいる様子は全くない。
「あら? お仲間がやられたのに、随分淡泊ね?」
「私は魔王様さえよければ何でいもいいの。まあ……シェムルがあんな奴に負けるなんてとは思ってるけど……それだけね」
「非情ね……こちらとしては少しくらいは残念に思って欲しい位だわ?」
ミリーさんが小型の銃を手にしながら、シェムルに話し続ける。この状況でこのような話をする場合、相手の様子を伺ったり、必要な準備をこっそり整える目的があるらしい。ということで、私とフィーロも戦うための準備として魔石をアイテムボックスから取り出して、ヨルムンガンドにこっそり嵌めておいたりする。
「……あ」
エイルの余裕を見て私はフィーロに合図を出して、すぐさま新しく作った水魔法の『アクア・フィルム』を発動させる。エイルとの再戦のために作っておいた魔法であり、私達に周りに目には水の膜を作り出す魔法である。水の膜とは言ったが、正しくは水分を多く含んだ空気の層を作る魔法であり、そのため視認する事は出来ない。
『アクア・フィルム』は特殊な防御魔法であり、物理攻撃と魔法攻撃のどちらも防ぐことは出来ず、その代わりに、エイルの使う毒を水の膜で受け止めて無効化させることは出来る。しかし、全ての毒を防げる訳ではなく、『ポイズン。ショット』みたいに毒が混ざった水を撃ち出す魔法とかには無力である。
「(これで空気中に散布した毒は無効できるはず……)」
「(2人にはどう伝えるッスか?)」
「(まあ……後で?)」
ちなみに、この魔法を知っているのは薫兄とレイスの2人だけで、他の皆には知らせていない。さっきの時に話しておけばいいと思ったけど、この状況で相手に知られずに伝えるのは難しいだろう。
「……ってことで、魔王様のためにも死んでもらおうかしら!!」
フィーロとそんなやり取りをしていると、ミリーさんとエイルの話が終わり、いよいよ戦闘が始まろうとしていた。私達は気を引き締め、エイルの行動に注視する。
「行きなさい!」
エイルの指示と共にガーゴイルとオルトロスの2体がこちらへと向かって襲い掛かって来た。私は応戦するために『スプレッド・ウォーター・ボム』をカーターさん達が当たらないように山なりに飛ばす。効果としては飛ばした水球が地面などにぶつかると爆発して激しい水飛沫を上げる魔法であり殺傷能力は低い。そして、当然ガーゴイルとオルトロスの2体は水球にはぶつからず避けていくが、水球が地面にぶつかった時に拡がる水飛沫と爆発時の衝撃で動きを阻害できている。
ダン! ダン! ダン!
私達の横にいるミリーさんから銃撃音が鳴り響く。その銃撃はガーゴイルとオルトロスの2体に的確に当たっており、致命傷とはいかないがしっかりとダメージを与えている。
「用意した特注弾……しっかりと味わいなさいよね!」
「「グォオオ!!!!」」
すると素早さのあるオルトロスがミリーさんへと目掛けて突進してくる。オルトロスのサイズは大人のオスライオンぐらいはある。それの体当たりとなれば大怪我は免れないだろう。
「ダーク・サンダー!!」
魔道具グリモアの力で貫通能力が高くなったサンダーで襲い掛かって来るオルトロスの上から攻撃を仕掛ける。しかし、オルトロスは咄嗟にそれに気付いてバックステップで避ける……が、そこにミリーさんが新しい銃をアイテムボックスから取り出し、両手でしっかりと構えた状態でその引き金を引く。
「ギャン!?」
それはオルトロスの2つある頭の内の片方に直撃、頭を貫かれた片方の頭は動かなくなってしまった。
「もう1度……!! ダーク・サンダー!!」
片方の頭が動かなくなったことでバランスが取れなくなったオルトロスにもう1度雷魔法による攻撃を仕掛ける。それはバランスが取れずに動けなくなったオルトロスに直撃し大ダメージを与える。そして、ミリーさんが再度ヘッドショットを決めてオルトロスの息の根を止める。
「マグナムで放った特殊弾……お味はどうかしら?」
「ミリーさん! お見事!!」
「ディフェンス!!」
「アイス・シールド!!」
オルトロスを倒した事に私が安堵していると、フィーロが予め決めていた緊急防御の合言葉を叫ぶ。何に対しての緊急防御かは分かっているので、そちらへと氷の障壁を作りだす。それと同時に『パシャン!!』と水飛沫が跳ねる音が障壁の向こうから聞こえた。
「よくも私のカワイイペットを!!」
障壁の向こうから聞こえるエイルの声。召喚した魔獣がやられて酷く怒っているようだ。
「お前の相手は俺達だぞ!」
「チッ!」
カン! キン!
カーターさんの声と同時に起きる金属音。恐らくカーターさんの剣とエイルの特殊な爪がぶつかりあっている音なのだろう。カーターさんはエイルがこちらに攻撃してきたので、その注意を再度自分の方に向けさせようとして攻撃を仕掛けてくれたようだ。
「泉! カーターとサキがエイルとやっている間に、私達はガーゴイルをやるわよ!」
「りょーかい!! フィーロ!」
「いいッスよ!」
カーターさんとサキの2人がエイルとの戦闘に集中してもらうために、邪魔な魔獣はこちらが引き受ける。ガーゴイルもやる気のようで、すでにこちらへと顔を向けている。改めてガーゴイルをよく見ると、頭はライオン、胴体は人間だがその背中には蝙蝠の翼を持っている。まだ、全身が青銅みたいな色をしているので彫刻が動いているようにも見える。
「映画だと……こういう奴って硬い体を持っているらしいけど、どうなのかしら?」
「硬いと思いますよ。カーターさん達とやり合っていたはずなのに、怪我1つ負っていないように見えますし……」
「そうッスね……さっきより近い距離にいるのに、戦ったような痕が残ってないッス」
私達がオルトロスと対峙していた間、ガーゴイルはエイルと一緒にカーターさん達と戦っていたはずである。それなのに剣による切り傷や、火魔法による火傷の痕などが全く無いのである。
「避け続けたにしても……綺麗すぎるわね」
ミリーさんはそう言って、マグナムを前に構える。私も杖を構えていつでも魔法を撃てる用意をしとく。対してガーゴイルはゆっくりとこちらへと歩み寄って来る。先手を打って、攻撃を仕掛けるか……相手の攻撃に合わせてカウンターを仕掛けるか……。
「グォ!!」
こちらがそんな事を考えていると、ガーゴイルの方が先に動く。しかし、オルトロスのように無暗に近づくことはせずに、『ウォーター・ランス』による遠距離攻撃を仕掛けてくる。攻撃を避けようとして、私達がその場から離れると、水で出来たランスなのにそれは床に深く突き刺さってから水に戻っていった。
「水魔法って殺傷能力が低いはずなんだけど……」
「それをあなた達が言うの!? 自分の使う魔法を思い出してごらんなさい!!」
攻撃を避けている最中のミリーさんからの指摘。改めて、自分の水魔法を思い返す……そういえば、召喚魔法でだが、水で敵を貫いていた事に気付く。
「やってたッスね」
「うん」
私達がそう言うと、ミリーさんが呆れたような表情を浮かべる。しかし、水魔法は工夫無しでは貫く事も、切断する事も出来ないのがこの世界の一般常識なのだから仕方ないはずである。
「それよりも……ハイ・ウインド・カッター!」
魔道具グリモアで強化された、黒い靄を纏った『ウインド・カッター』で攻撃を仕掛ける。カーターさんの攻撃に本当に耐えきれるような硬さを持つ魔獣なのかを見極めるために放ったのだが……当初の予想通り、私の攻撃は受けきられてしまった。体に当たったはずなのに切り傷1つ付かないなんて、本当に生物なのか怪しい存在である。
「グォオ!!」
「よ……っと」
すると、ガーゴイルが一気に私との距離を詰めて来て、殴打による攻撃を仕掛けてきた。私はそれを下手くそな避け方で回避する。
ドン!! ドン!!
そこにミリーさんがマグナムによる銃撃を行うが、何とガーゴイルはそれすらさえも耐えきってしまった。
「困ったわね……泉。何か強力な攻撃魔法あるかしら?」
「うーーん……召喚魔法以外には思いつかないですね」
薫兄達なら『獣王撃』や『水破斬』など高火力の攻撃方法があるのだが、私達の使う魔法は火力よりも数がメインである。そのため、このような強力な防御力を持つ相手に対しては、高火力の攻撃方法を持つ味方の補助に徹していた。
「『ミラージュ』を使って攻撃誘導を誘っても意味が無いし……唯一、突破できそうな召喚魔法をここで使いたくないしな……」
「この後、エイルが待ち構えているッスもんね」
「グォ!!」
この間にもガーゴイルが襲って来る。私達は攻撃を避けつつ、この困った相手の攻略方法を考えるのであった。




