423話 次の戦闘へ
前回のあらすじ「『S・ターゲットダウン』って分かりにくいよね? → 薫がプレイしたゲームの影響だからしょうがない」
―薫たちが研究所に入った直後ぐらい「旧ユグラシル連邦第一研究所・2F通路」泉視点―
「おや……これは」
「マクベスさんどうかしました?」
「……シェムルが倒されましたね。反応が消えてます」
魔王アンドロニカスがいる場所へと向かって移動している中、マクベスからふと薫兄達の勝利が告げられる。
「薫さんの様子とかは……?」
「無傷がどうかは定かですが……反応が移動しているので、生きてはいますね」
「……あら。どうやらそのようね」
すると、カシーさんが手に持っていたМTー1を見せてくれた。『S・ターゲットダウン』と書かれている以外には何も書かれていない画面。
「『シェムルに勝利!』って書かれてますね」
私が画面に書かれている内容を伝えると、皆が静かに喜び合う。あの2人が負ける訳が無いと思ってはいるが、こう無事が分かると凄く安心する。
「……この先に行くのよね?」
「はい」
そんな中、ミリーさんだけ腕時計のようなものを操作しつつ不機嫌そうな顔を浮かべ、マクベスにこの先に進むのか確認している。そして、そのマクベスも難しい顔をしていた。
「2人ともどうかしたんッスか?」
「この先……待ち伏せされているみたいね。しかも……」
「四天王の誰かですね」
ミリーさんとマクベスがそう結論する。そして、恐らくこの2人の会話からして、そこを避けて通る道は無いらしい。
「それと……無数の反応かしら?」
「あ。そうなると……エイルじゃないですか? 確か魔獣を使役してますし。それにネルっていう四天王はリーリアさんとオラインさんから聞いた話だと、魔王の右腕とも言える存在なので、今も魔王アンドロニカスの傍にいるんじゃないかと……」
「泉の言う通りで、その可能性は高いわね……」
「どうするぜ? 誰が戦うか決めておかないと……」
「マーバの言う通り。シェムルは俺達をタダで通してくれたが……次もそういくとは限らないからな。ここは決めておくべきだな。ちなみに……エイルだったら俺達はパスするぞ? 毒と爆発では相性が悪いしな」
「そうね。霧散する毒を爆発でどうにかする……っていうのは出来ないでしょうから」
「なら……俺とサキが相手するか。無毒化とはいかないが……一部は処理できるからな」
「そうしたら……私達も。いいよねフィーロ?」
「もちろんッス。それに……旦那様と一緒の方がいいッスもんね?」
フィーロのその言葉に、私は誰にも見られないように顔を背ける。確かにその気持ちはあったけど、それ以外にも、毒を得意な風魔法で吹き飛ばしたり、水魔法で洗い流したりという、ちゃんとした理由があって……。
「はいはい……変な死亡フラグが立たせないように」
「いや、逆に今はそれが生存フラグになることがあるらしいッスよ」
「そうなの? あ、でも確かに『これって死亡フラグだよね?』って言ったら、結局あの2人は……」
「そんなジンクスどうでもいいわよ……とりあえず恋人同士頑張ってちょうだい」
サキとフィーロの会話に、ミリーさんが入って強制的に終わらせる。そして、通路の角に差し掛かった所で、角を覗き始めた。
「覗いてないで来なさいよ。そこにいるのバレバレよ!」
少し前、どこかで聞いたことがある声が通路に響くと同時に、ミリーさんが素早く顔を引っ込める。その瞬間、ミリーさんが覗いていた通路から炎が吹き荒れる。
「どうやら……シェムルのようにはいかないようね」
「ええ……チラッと見えたけど通路の先に広間があって、そこに上へと続く階段があったわ」
そこの通路に入った瞬間に攻撃を始める気満々のエイル。そして上に行くには、どうしてもここを突破しないといけないらしい。
「面倒ッスね……元研究所っていうからシンプルな作りかと思えば、階段が階層ごとに分かれて設置されていたり、1階と2階で微妙に作りが違うし、さらには階段前に広間があったり……まるで迷路のような構造してて変な建物ッス」
「そうでもないよ。地球にだって、テロリストなんかにすぐに占拠されないように、こんな風に迷路のような現役の建物ってあるから……例えばテレビ局とかがそうだったかな。恐らくここもそれを見越して作られたのかもしれないね」
「へえー」
「そこ。そんな話をしている場合じゃないでしょ? 上がるにはここを通らないといけないみたいなんだけど……ここはマクベスにばーんっとやってもらえないかしら?」
「温存しておきたいので、出来れば他の方にお願いしたいのですが……」
マクベスさんはそう言って、私達の方に振り向く。しかし、魔法を使うためには通路に飛び出さないといけないので、そのタイミングで待ち構えてるエイルとその魔獣達の総攻撃を受けてしまう恐れがある。つまり……今いる場所から攻撃する方法がある魔法使いがいないか問われているのだが……。
「泉達が持っていないなら、私達は無理ね」
「『ファントム』による誘導は可能ですけど……今みたいに通路内が攻撃で埋め尽くされてしまっては意味が無いですね。後は投擲系の武器は持っていないですし……『ダイダルウェーブ』みたいな強力な魔法だと味方も巻き込むし……」
「俺達だと手詰まりか……」
そこで溜息を吐く私達。薫兄なら鵺を盾にして進む事が出来たのだろうが、私達にはそのような便利な物が無いので、さっさと諦めて他の方法を模索する。
「無いようね……なら、私がやるわ」
私達が考えている間に、ミリーさんは通路の角に隠れつつ、アイテムボックスから形状の違う3種類の手榴弾のような物を取り出す。
「あ、それ……」
「泉達は分かるわよね? ってことで……それ!」
ミリーさん素早くピンを抜いて、それらをエイル達が待ち構えている通路内へと角に隠れつつ、腕だけを出して放り投げる。私とフィーロは素早く耳を塞ぎ、その通路とは反対方向へと振り向く。それを見た他の皆も私達と同じ行動を取る。
「そんな物で……!!?」
エイルが何か叫んだのは聞こえたのだが、その後に起きた爆発音と激しい閃光のせいで、その後を聞くことが出来なかった。
「オクタ・エクスプロージョン!!」
「援護するわ!」
その爆発が終わった直後に、カシーさんとワブー、そしてミリーさん3人が通路に飛び出して、追撃を始める。さらにカーターさん達が3人の前へと飛び出す。私とフィーロも遅れて皆の攻撃に混ざる。
「ガウッ!!」
「はあーー!!」
カーターさん達が剣と魔法で魔獣達に攻撃を仕掛ける。魔獣達がカーターさん達の相手をしている時、私達は通路を進みつつ、援護射撃を繰り出していく。威力よりも連射性の高い魔法を使い、相手が攻撃する暇を作らせないようにする。
「4人共! 伏せなさい!! オクタ・エクスプロージョン!」
カシーさんがそう叫ぶと同時に強力な8連爆発魔法をである『オクタ・エクスプロージョン』唱える。カーターさん達4人が前に出ているのにそのような魔法を撃ってしまうと、同士討ちになる可能性があるのだが、4人はカシーさんの言葉通りに身を屈めてくれたので、『オクタ・エクスプロージョン』は4人の上を通過して通路の先にある広間へと着弾して大きな爆発を起こす。その隙に、私達はその広間まで一気に進み、広間へと入る。階段が目の前にあり、そこを守る魔獣が数匹立っていた。肝心のエイルは……。
「スパイラル・フレイム・ランス!!」
「スパイラル・アイス・ランス!」
カーターさん達が攻撃魔法を撃つ声が聞こえたのでそちらを振り向くと、カーターさん達がエイルと魔獣達を相手に戦っているのが見えた。
「マクベス! そいつら任せてもいいかしら!?」
「はい! 大丈夫です!」
サキの声に、マクベスさんはそう返事をして階段前の魔獣達を無言のまま一掃する。魔獣達の体は鋭い刃で切断されたかのように体が真っ二つにされていた。風魔法か水魔法で仕留めたのかもしれない……が、本人が魔法名を唱えずに強力な魔法を使ったため、どんな属性で、どんな系統かは不明である。本人に訊きたいところだが、マクベスはそのまま3階へと続く階段を昇り始めてしまった。また、カシーさん達も一緒に行こうとして階段を上がり始める。
「ここは任せたぜ?」
「任せてちょうだい」
「2人も気を付けろよ!」
カーターさん達が魔獣と戦いつつ、マクベスさんと一緒に3階へと行くことにしたシーエさん達に気遣う言葉を掛ける。シーエさん達も同じように2人を気遣いながら、階段の方へと走り出す。
「させるか!!」
それを見たエイルが上らせまいと、ポイズン・ショットを繰り出そうとする。
「サンダー・ボルト!!」
私は咄嗟に雷による魔法攻撃を仕掛ける。シーエさん達に意識が向いていたエイルはそれを避ける事は出来ず、私達の攻撃が直撃する。それによって、エイルは手に持っていた試験管を地面に落とし『ポイズン・ショット』が不発に終わった。そして、その間にシーエさん達がマクベスさん達の後を追って階段を昇って行った。
「さてと……こいつらの相手は俺達だ。気を付けろよ!」
「分かってるわ。泉達も毒には気を付けなさいよ?」
「はい!」
「って……ミリーもこっちでいいんッスか?」
「上の罠とかはマクベスに任せたわ。それに……こいつらに勝った後、案内役の私がいないとダメでしょ?」
「勝つ? この私に勝つですって……?」
すると、雷が直撃したエイルがこちらを向いて立っていた。その両側にはフェニックスの巣で対峙した事のあるガーゴイルとオルトロスが脇に控えていた。
「大口何か叩いちゃって……後悔するわよ?」
「後悔するかどうかはどうでもいいわ……私達の悲願のためにも勝たせてもらうわオバサン?」
睨み合いながら、売り言葉に買い言葉が相応しいやり合いをするミリーさんとエイル。私はそんなやり取りを見つつ、次の攻撃に備えるのであった。




