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422話 シェムル討伐による波紋

前回のあらすじ「宿敵撃破!」

―薫たちが研究所に入ったのと同じ頃「旧ユグラシル連邦第一研究所・玉座の間」アンドロニカス視点―


「……シェムル」


 この施設の外で戦っていたシェムルの反応が消えた。そして、対峙していた相手の奇妙な魔力は残ったまま……。


彼奴(あやつ)が負けるとは……」


 シェムルの戦闘能力は魔族の中なら、ネルの次にはあるだろう。それを負かした相手……その奇妙な魔力はしばらくの間、そこに留まっていたがこの城へと移動を始めた。となると、シェムルを負かした相手は多少の負傷はしただろうが、致命的なダメージを受けていない可能性がある。


「よもや……ここまでとはな」


 この奇妙な魔力……シェムルが狙っていた相手は薫という者の可能性が高い。しかも、奇妙な魔力に混ざって懐かしい……いや、忌々しい奴の魔力も。


「どうなっている……何でアンジェが……それに別の場所からララノアの魔力も微かに感じる?」


 あの魔物2人は魔人種という長寿の魔物ではあるが、流石に老体であり、そもそも満足に戦えるような状態ではないはず。いや、そもそもアンジェの弟であるグロッサルさえあと十数年ほどで亡くなるほどの高齢である。それより先に生まれたあの2人は死んでいて当然である。


「……一体、何が起きている?」


 死んだはずの宿敵達が今日になって現われ、これでマクベスを含めて3人全員が揃った。


「まさか再度戦う事になるとは……」


 しかし、マクベス以外の反応はかなり低い。前回と比べてかなり弱っているはず……あの時のような戦いにはならないはずである。が……気になるとしたら。


「召喚魔法とノーネーム……アレがどう戦いに影響を及ぼすかだな」


 アレは我々も強くしたが、それの強化版ともいえる憑依召喚魔法を使ったシェムルが負けている。薫という者には要注意が必要だろう。


「もしかすると……私の所まで辿り着くかもしれんな」


 ユグラシル連邦の勝利……そして世界統一。そのためにもどんな障害も打倒してみせよう。しかし……一番の……本当の敵は……。


「他ならぬ……私のなのだがな」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―ほぼ同時刻「魔国ハニーラス・王城 会議室」カイト視点―


「王都内に侵入した魔族は……?」


 魔族が攻め込み始めておよそ30分ほど。歩兵部隊はまだ王都への侵入は許していないが、空飛ぶ連中はそうはいかず、いくらか中に侵入されてしまった。


「飛空艇からの砲撃と2番隊の強襲によって撃退しました!」


「さらなる侵入は防げておるのか!?」


「はい! それと……城壁に置かれたを武器によって数を減らせています……」


「アレが活躍しているか……嬉しい事だね。大分、無茶をしたけど……どうにか間に合って良かったよ」


 城門に設置したこちらの兵器ブローニングM2が上手く機能しているようで何よりである。通常弾ではあまりダメージを与えられないかもしれないが、魔石を使った特殊弾は効果てきめんのようだ。


「前哨戦としてはまずまずですね……」


「だな。しかし……戦いはこれからだ」


 室内にいる1人のリザードマンの男性の言葉に、この場にいる全員の緊張が一気に高まる。そう……恐らく、彼らはチェスで言うただのポーン……これから来るのは、ビショップやナイトという強力な駒がやってくるのだ。


ピピッ!


 すると、室内に突如電子音が鳴り響く。その音に魔物の方々が警戒するのだが、それが自分の通信魔道具である『МT-1』から鳴っていたので、僕は慌てて謝罪をしてからそれを手にする。


「緊急連絡ですか?」


「……ああ。差出人は薫からだね」


 同僚にそう返事を返しつつ画面を覗く。そこに書かれているのは『S・ターゲットダウン』の一言。それだけで十分にその意味が伝わった。


「薫からか……で、何の連絡かしら?」


「……S・ターゲットダウン。シェムルの死亡を確認したらしい」


 その言葉に静まり返った室内から歓声が起きる。『死神が落ちたぞ!』と大声を上げる者もいる。


「それは本当か!?」


「……確証が無かったなら、薫はこんな書き方をしないよ」


「開戦してまだそんな経っていないのに……早いわね」


「全くだ」


 グロッサル陛下とフロリア女王がその迅速かつ最高の成果を上げた事に呆れつつも、笑みを浮かべている。すると、すぐに各部隊にこの情報を伝えるように指示が下る……それを聞いた皆の士気が上がったのは言うまでもない。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「旧ユグラシル連邦第一研究所・1F エントランス」―


「これでよし……と」


「ターゲットダウンってどういう意味なのです?」


「目標の死亡を確認っていう意味。米軍の隠語だったかな……口にする時は『タンゴダウン』って言うらしいけどね」


 僕は『МT-1』によるメール機能でシェムルを討ち取った事を報告する。相手にも何となくでその内容が伝わってしまうかもしれないが、特にマイナスになるような点も無いので堂々と連絡をする。


「しかし……死屍累々ってまさにこの状況かな」


「なのです」


 建物内に入ると、広いエントランスに大勢の魔族の死骸が打ち捨てられていた。見た限り……味方はいないようだ。


「警戒しながら進もう」


「了解なのです」


 死骸に紛れて襲って来る奴がいる可能性を考えて、その死骸からなるべく距離を取りつつエントランスから伸びる通路へと向かう。エントランスには2階へと続く階段も両脇にあったのだが、この通路だけ死骸が転がっており、恐らく皆は魔族を撃退しつつここを通った可能性が高い。皆と合流するためにも、その通路を足元に注意しながら進んでいく。


 通路内はかなり悲惨な状況だった。いくつかある扉全てに血が付着しており、壁は血以外にも打撃痕や刀痕が至る所に残っていた。いつもの感覚だったら、この光景と蒸せるような血の臭いに吐き気を催していたかもしれない。


「敵は……後ろからは来ていないようだね」


「……薫。いくら何でも手薄過ぎないですか?」


「うーーん……それは僕も思う」


 僕たちと死骸以外にこの通路に誰もいないという状況に不気味さを感じていたが、さらに不気味な事に、倒れいてる死骸の種類が下位のゴブリンやウルフなど……中位が少しいるが高位は全く見当たらない。


「魔族の王を守るには少し心許ないね……」


 最強の戦力である四天王が守っているから他の兵はいらないという可能性もある。戦った感じアクヌムとシェムルの戦い方は単独向きである。下手に味方を付けてもその魔法の威力で消し飛ばしてしまうため、敢えて置かない……という理由もあるかもしれない。


「……あれ? 何か戦っているような音が聞こえるのです?」


「そうだね」


 奥の方で金属のぶつかり合う音とどなり声のような物が聞こえる。僕たちは急いでそちらへと向かうと、広間に群がる魔族たちとリーリアさんたちが2階へと上がる階段付近で戦闘を行っていた。しかし……その魔族の群れは先ほどの死骸たちと同じように中位以下の魔族の群れだった。


「泉たちがいないのです」


「恐らく先に行かせたんだろうね」


「薫とレイス!? どうしてここに……いや、勝ったのか?」


 すると、僕たちがいる事に気が付いたリーリアさんが驚いた表情でこちらに声を掛ける。それによって、リーリアさんたちを襲っていた魔族の群れの一部がこちらへと向かって来る。


「風燐火斬」


 『鎌鼬』と『セイクリッド・フレイム』の魔法を四葩と鵺に纏わせ、僕は向かって来る魔族の群れへと突撃する。相手は魔法を使って遠距離攻撃で仕留めようとするが、それらはシェムルと比べたら児戯であり簡単に避けられる。


「ぎぎっ!?」


 1体のゴブリンがそんな驚きの声を上げる中、僕はその首を『鎌鼬』で両断。その近くにいるウルフを『セイクリッド・フレイム』の火炎斬りで一刀にする。仲間のそんな姿を見たためか、魔族からの攻撃が止んでしまう。それだけではなく、リーリアさんたちへの攻撃の勢いも衰えていた。


「……そっちから来ないの? なら……僕たちの方から行かせてもらうよ!」


 僕が攻め続ける事でリーリアさんたちを守る事に繋がる事が分かったので、戦意を喪失しているこのチャンスを狙ってさらなる追い打ちを掛ける。僕は魔法を解除し、四葩の魔石を『ジェイリダ』の魔石に変更する。


「翠色冷光!」


 シェムル戦でも使った冷気を纏った四葩を横薙ぎで振り、凍てつく斬撃が多くの魔族に当たるように飛ばす。先ほどは拡散型だったが今回は集約型。三日月状の斬撃が前方に飛んでいき、当たった物を切断、切断に至らなかった者には凍結効果による行動の阻害を引き起こす。それを見たリーリアさんたちが横から強襲して、その数を減らしていく。そんな挟み撃ちによる攻撃を続ける事十分ほど……ついに魔族の群れを掃討する事に成功した。


「終わったのです」


「だね……」


「薫! レイス! 無事だったか!」


 剣を片手に携えたリーリアさんが僕たちに走り寄って来て、僕たちの無事を祝ってくれた。その後ろにはオラインさんたちも一緒に……。


「オラインさん……グラッドルに水必要ですか?」


「そうじゃのう……やってもらっていいかのう?」


 リーリアさんたち4名の今の状態だが、全員多少の怪我はあれども重度と言えるような怪我は負っておらず返り血も少ない。しかし、オラインさんの相棒である熊のグラッドルは返り血を大量に浴びており、呼吸が荒々しく興奮しているため、見た目は凶暴な熊にしか見えない状態になっている。


「野生の本能という奴かのう……見事な活躍なのじゃ!」


「ガルゥ!!」


 オラインさんの言葉に強い返事をするグラッドル。見た目はアレだが……しっかり理性?はあるらしい。とりあえず、その全身に付いた血を落とすために魔法で水を生成して上からぶっかける。血が固まってしまって落ちない汚れになってしまったのもあったが、それでも先ほどよりかは大分綺麗な状態にはなった。後は、オラインさんが持って来た風の魔石で濡れた毛を乾かしてもらえば、とりあえず見た目は大丈夫になるだろう。


「さてと……今の状態を訊いてもいいですか?」


「ああ」


 僕たちはそこで休憩を取りつつ、お互いに何をしていたのかを報告し合うのであった。

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