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41話 気球を設置しよう!

前回のあらすじ「あいつ…自らをカオス化しやがった」

―「ビシャータテア王国・お城の外周」―


 窓から部屋を出てそのまま着地……はせずに、どこぞのネコ型ロボットみたく少しだけ浮いた状態を維持する。


「これで素早く上に逃げられるはず……」


「そうですね……」


「とりあえず注意しながら進もう……ひゃ!?」


 ここから移動しようとした瞬間、背中に衝撃が走りそのまま僕は地面に倒れてしまう。


「ふふふ……」


 背中から聞こえるカシーさんの声。そこで何が起きたか把握して、逃げようと体を動かすが、女性とは思えない力でカシーさんが押さえつけられてしまう。


「つ・か・ま・え・た!!」


 ……何この妖怪? 2階から僕の背中目掛けて飛び降りるなんて、もはや正気の沙汰じゃない。


「薫!!」


「もう逃げられないわよ!! 観念しなさい!!」


 僕の視界の片隅から光る物がチラッと見える……終わった。お母さん、お父さん、昌姉。先立つ不孝をお許しください。せめて、楽な方法で……。


「どんな風に痛めつけてあげようかしら?」


 ……オワッタ。


「カシーさん! ごめんなさい! アイス・ボール!!」


 泉の声がしたと思った瞬間、どこかで何かが勢いよく砕ける音がする。その直後、背中にかかっていた重さがなくなり体が軽くなる。ゆっくり体を起き上がらせ振り返ると、カシーさんが後頭部にたんこぶを作り倒れていた。


「大丈夫? 薫兄?」


「危機一髪ッスか?」


「た……助かった」


 カシーさんに向けていた顔を上げると、向こうから泉とフィーロの2人が、シーエさんとマーバ、それにワブーの3人を連れてこちらにやって来る。


「良かった! 大丈夫でしたか?」


「大丈夫です……でも、どうして皆がここに?」


「すまん。カシーのやつ俺に睡眠薬を仕込んだみたいでな……。起きたらこの馬鹿がいなくなっていたことに気付いて、この馬鹿を捕えるためにフロリアンにいたこいつらに助けを求めてからお城に来たんだが……正解だったな」


 まさか、パートナーに睡眠薬をしかけるとは……本当に正気の沙汰じゃない。さっきなんか光る何かで僕を襲う気だったし……。


「そういえば、カシーさん何を……うん? あれって針?」


 光る何かを使って僕を襲おうとしたカシーさん。その光る何かが気になって辺りを見回すと、地面に1本の針が落ちていた。


「おい。お前らそれに触るなよ。体が麻痺するぞ」


「麻痺毒って……こいつ本当に何やろうとしてるんだよ」


 マーバが心の底から呆れているようで、大きい溜息を吐いている。


「最近、『あっちに行きたい行きたい!』って駄々をこねていてな……俺がいなければ大丈夫だと無視していたんだが……。まさかこっちに来た技術者を捕まえようとしていたとは……」


「それって完全に闇落ちしてるじゃないの……。あれ? それなのに何で薫兄が襲われてたの?」


「念のために薫にはそれを邪魔してもらうように、カーター達と一緒にお願いしていたんだが……すまん。まさか逆恨みするとは……」


「大丈夫。ギリギリ無事だったし……うん。ダイジョウブ……」


「本当に大丈夫なのです!? 目に涙を浮かべいるのです!?」


「えー……素直な気持ちをどうぞ」


「凄く! 怖かった! さすがに武術経験あっても背中にあんな風に載られたら無理だし! あんな怨霊に襲われるなんて思っていなかった!!」


 シーエさんに言われて素直な気持ちを吐露する。いくら何でも、このカシーさんは怖すぎた。僕を女と勘違いしてストーカーしていた男に襲われた時ぐらいの恐怖と同じだった……その時の恐怖を思いただしてしまって、もう目から涙がこぼれて止まらない。


「落ち着いてください。もう大丈夫ですから」


 そういってシーエさんが僕と同じ目線になるように座り、優しく頭を撫でてくれる。


「ここからは私達も加わりますので安心してください」


「グス……すいません」


 頭を撫でられて少し落ち着いていく。


「シーエ。そのまま抱きしめろ。より落ち着くと思うぜ」


 ……マーバがニヤニヤしながら、シーエさんに変なアドバイスをしてくる。


「変な事を言わないように……で、他の皆さんは何を期待してるのですか?」


 シーエさんが怒った表情で、いつの間にか集まっていた警戒中の騎士や、庭を管理している庭師などの野次馬に視線を向ける。その中には王様達の姿もあった。


「いや。そのなんかドキドキしちゃって……ドラマならこのまま、その」


「泉さんの気持ちが分かりますね。お二人とも美形ですし……襲われた薫さんなんて服が乱れていて、いよいよこの後……って感じですよね」


「……思わず撮影してしまった」


「まあ。ムードはこれで台無しだがな。しかし、本当に違和感が仕事をしないな」


「……この状況下で何を考えてるんだお前達は?」


「ワブーの意見に同意です」


「グス……」


「皆、薫の事を少しは心配して欲しいのです……」


 今度はレイスが僕の頭をその小さな手で撫でてくれている事に凄く癒されるのであった。


 その後、僕が落ち着いた所で王宮の敷地に隣接する庭へと移動を始める。お城には大小の違う庭が3ヶ所あり、今回、気球を飛ばすための場所はその中で一番広い庭になる。


「落ち着いたから…もうしないから…これ外してくれないかしら?」


「異世界の方々…特に薫さんのためにもそのままです」


 今、カシーさんは自分で用意したロープでグルグル巻きにされて、シーエさんに牽引されながら大人しく歩いている。


「しかし驚いた! ロープが勝手に人に巻き付くとはな!! これは魔石に込められた魔法なのか?」


 直哉が興奮気味にワブーに尋ねる。ちなみにワブーも研究者ということは既に伝えている。


「ああ。このロープの先端に付いている魔石なんだが、ある無属性魔法が込められていて、対象に巻き付くようになっている。ロープ本体も月の雫を使って強化していてな、そんじゃそこらのの刃物じゃ切断することは不可能な強度になっているぞ」


「なるほどな……これの作成は君達がやっているのか?」


「ドルグ達と一緒にやっている。用意した魔石に魔法を込めて道具に嵌め込んだり、その道具の調整や整備などをドルグ達がメインに行っていて、俺達は研究と月の雫の生成をメインにやっているがな」


「つまり4人で魔道具を作っているのか……」


「ああ。それだから生産できる魔道具の数は少ない。魔石に魔法を込めた物ならドルグ達で作れるから市場にたくさんあるのだが、月の雫に関しては俺達にしか出来ないからな。ちなみに言っておくが、月の雫の生成を他の奴らがやると何の変化も起きないか、霧散してしまうぞ」


「ふーーむ……魔法使いが7組もいるんだろう? もっと生産を増やさないのか?」


「増やせないだ。この国を動かすためにそれぞれが得意分野で仕事をしている。俺達は市場用の魔道具の作成の他に、新魔法の開発、王国の防衛に訓練、王都を機能させる為に必要な施設への魔道具の供給。他の面々も大体こんな感じでな……こう見えて色々忙しい身なんだ」


「うーむ……そうか。しかし、月の雫の作成……これを機械で出来ないものか……」


「そうですね社長。月の雫……これはいわば私達の世界でいう機械の基盤とも燃料ともいえるような代物。これを大量生産できる方法は必要かと」


「そうだな……紗江、今の会話を記録しといてくれ。後はいい儲け話になりそうな箇所があったら、そこは抜粋しておくように」


「なんでもいいのですか?」


「お前は私達技術者とは違い経営担当だ。儲けになるような物なら、何でもいいからピックアップしておいてくれ……流石に費用が無いのでは研究にならん」


「かしこまりました」


 紗江さんが持ってきていた鞄からメモ帳を取り出し、そこに皆の会話の内容を書いていく。その間にも直哉と榊さんにワブーの3人の話し合いが続いている。


「薫の連れてきたあの人たちいいチームワークね」


「まあね。それにこちらの技術を悪い事に使うより研究に情熱を賭けるような人たちだから、そこは信用してもらっていいかな」


「薫がそういうならそうなんだろう」


「まあ……私らがみても悪い奴には見えねえな」


「……そういえばカシーさんをあそこに混ぜなくていいんですか?」


「させないようにしているぞ。ほら」


 カーターが指をさす。そこには必死に直哉の所に向かおうとしているカシーさんをシーエさんが掴んでいるロープで必死に抑えている。その横には悪い事をした犯人を連行するかのように背の小さい立派な口髭をしている男性が一緒に歩いている。またカシーさんの口に精霊が布で喋れないように縛っている最中だった。


「いつの間にか人が増えているけど……あの人たち魔法使いだよね?」


「そうだ。そういえば紹介してなかったな。さっきワブーが話していた魔法使いだよ。彼らが魔石に魔法を込めて魔道具を作る役目をしているドルグとメメだ」


 その声を聞いて縛る作業をしていた精霊がこちらに振り返る。


「おう! 紹介すまねえな! あたいがメメだ! そしてこっちがドルグよろしくな!」


 雰囲気的に女棟梁みたいな感じの精霊が、自分の紹介と一緒に相棒の背の小さい立派な口髭を持つ男性を紹介する。


「おいおい。少し丁寧に説明しろって……ったく。俺っちはドワーフのドルグだ。魔石に魔法を込める作業以外にも魔道具の開発や整備もしとるからな! それとこの馬鹿が迷惑をかけて済まない。後でワブーと一緒になってお灸をすえておくから許してくれや」


「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」


 改めて顔を見るが、口元に赤茶色の大きな髭を生やし、全体的にごっつい顔をしていて、僕たちがイメージするドワーフを絵に描いたような人物だった。


「自己紹介が済んだところで訊くんだが……お前らいつから来たんだ? 応接間でてっきり話を聞くかと思ったんだが?」


 王様がドルグさんたちに、応接間にいなかった理由を尋ねる。そういえば魔法専門の技術者ともいえる人たちなのに何故いなかったんだろう?


「水の浄化用の魔石を急いで必要量を作っていただけだ。王様が依頼していたはずだが?」


「したけどよ。急ぎでは無いって言ったはずだぜ?」


「ははは! そりゃあ急ぐさ! この気球が飛んだら、これを改良をする作業が待っているのだからさ! 今のうちに時間を空けときたいんだよ。こいつは」


「お前もだろう? 『急げ!急げ!』って言っていたのはどこのどいつだか……。とにかくだ。他に必要な事があるのなら優先順位をつけといてくれ。国の運営に支障が無いようにはしたいからな」


「分かっとる。そちらも開発に必要な要望があれば出しといてくれ」


「それなら……度々こいつをあっちに行かせろ。うるさくてたまらんわい」


 ドルクさんがカシーさんに向かって親指で指差しをする。


「うむ……薫とレイスもいいか?」


 王様に行かせてもいいかと訊かれるが、僕としては答えは一つ。レイスを見ると首を縦に振ってくれた。


「はい……『あいつ自らカオス化しやがった』を事前に止められるなら」


「薫に同意です」


 うん。今回のようなことが回避できるなら喜んでやろう……そう心に決めるのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―数分後―


 王宮の裏に一番広い庭があり、今そこに異世界製の気球が置かれている。木々も無く、芝生だけの何もないこの場所は、様々な行事や緊急時の避難場所として使われているとのことだった。


「薫! ここら辺に出してくれ!」


「りょーかい! ……解放」


 アイテムボックスに入れておいた気球を、直哉が指定した場所に出す。


「よし。そうしたら、さっそく指導しながらやっていきますかな」


「よーし! これから気球のテストを開始する! 総員気を引き締めるように!」


「「「「はい!」」」」


 カーターの呼びかけに他の騎士が応える。ちなみに彼らは今回の実験の手伝いをするために集められたメンバーとのことだった。


「まずはバスケットとバーナーに球皮をつなぎましょうか。あ、薫さんすいませんがカメラをお願いします。バッテリーは替えてあるのでしばらくは大丈夫でしょう。ああ! 紗江さんも設置のお手伝いをお願いします!」


 榊さんが指示と指導の2つをやるので、ここからは僕がカメラを回す。黙々と皆が作業を続けていき、あっという間に気球が組みあがってしまった。


「こんな風に中の空気を温めて……」


「これがバーナーの変わりですか……いえ。そうですよね。魔石から炎が出るのがこちらの世界ですもんね」


「結構、強い火を出すのね……このぐらいかしら?」


「あちらと比べるともう少し強くていいんじゃないか?」


「おーい。このクラウンロープってやつを引っ張るのを手伝ってくれや!」


 いつの間にか解放されていたカシーさんも手伝う中、最終工程である球皮内部の空気を温める作業に入り、徐々に球皮が膨らんでいく。


「膨らんでいくぜ!」


「凄いですね!」


「ええ。そうね」


 フィーロの感想に続けて、2人の女性が感想を述べている。ふと、この声は誰の物かと気になって、後ろを振り向く。


「王女様! こ、こんにちは」


「はい。こんにちは泉さん」


 振り返ると、そこには王女様とお姫様が立っていた。泉が緊張しながら挨拶を済ませた後、僕も2人に挨拶をする。


「はあ、はあ……何とか間に合いましたね」


 すると、そこに王子様も息を荒げながらやってきた。


「おうアレックス。ちょうどいいタイミングだぞ」


 王様の家族が集まる中、その間にも球皮はどんどん膨らんでいく。


「そういえばカーター、球皮って何で出来てるの?」


「ワイバーンの革だ。火に強く、軽くて空気が漏れない、それでいて大量に必要となった時にあいつらが来てくれたからな。ちなみに泉とフィーロも手伝ってくれたよ」


「いい経験になったわ」


「そうッスね」


「本当に二人には助かったわよ。なんせあちらの設計図を分かりやすく言ってもらわないといけなかったし。布同士をしっかり縫い合わせないといけなかったし……本当に助かったわ。それと事前に魔法を使って風の漏れがないのは確認済みだから。問題はないはずよ」


 僕がそんな話をカーターたちとしている中、その後も球皮は順調に膨らみ、ついに気球はお馴染みの姿になるのであった。

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