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419話 四天王シェムル戦その1

前回のあらすじ「立ちはだかる宿敵」

―「旧ユグラシル連邦第一研究所・正門前」―


「待ちくたびれたよ……ふぁあ~……」


 僕たちを前に大きな欠伸をして余裕を見せるシェムル。しかし、誰も絶好のチャンスだと思って攻めようとはしない。武器を持たず、それでいて気怠そうに見えても、シェムル相手ではそうとはならないと分かっているのだろう。何よりも……マクベスが動かないところがそれを物語っている。実力では上でも無駄な体力の消費は抑えたいのだろう。


「貴様……!」


 と思っていたら、頭に血が上りやすいトラニアさんが剣を片手に突っ込みそうである。しかし、その隣にいたオラインさんが宥め、単独行動を取らせないようにしてくれた。おかげで、下手な動きをしなくて自分としては助かった。


「さてと……ようこそ魔王城へ……まあ、アイツ以外は歓迎かな?」


「アイツ?」


「うん? ああ、薫達は出会っているアイツだよ。エイル。せっかくこの辺りに念入りに罠を仕掛けたのに引っ掛からないことに激怒してるんじゃないかな……」


「あの女か……」


 カーターがあの戦った事のある女芸人魔族を思い出し頭を押さえる。あのエイルの戦い方はなかなか厄介であり、それを思い出すと憂鬱になるのだろう。


「まあ、そんなのはいいけど……」


 そう言って、シェムルが門の前から横にずれて塀に寄り掛かる。その行為に『何のつもりだ』とか『何を狙っている』と仲間から声が上がる。一方、僕からしたらゲームやら漫画やらの、あのお決まり展開だと感じ取る。


「僕とレイス以外は行っていいって事?」


「せーかい……って事で、他は通っていいよ」


 その言葉に驚く者もいるが、僕たちとシェムルのこれまでのやり取りを知っている者からしたら『そう来たか……』と言いたげな表情をしている。


「どうするのです?」


「それは……やるしかないんじゃないかな」


 レイスの質問にそう答える僕。シェムルの言葉通りに従えば、他の皆はここを素通りできるのだろう。それならなるべく大勢が中に入れた方がいいだろう。


「自殺行為だぞ!」


「大丈夫……それに、僕たちもケリを付けないといけないからさ」


「そういうこと……あ、それとそこのチビがマクベスだよね。魔王様が『自分の手で決着を付けたい』って……他の奴らはそれ以外の奴を相手しろってさ」


「……なるほど。そちらの指示に従えば、こちらはそれだけ他の四天王に有利に戦えるということですか」


「そういうこと……で、どうする?」


「……薫、レイス?」


「皆は行って……ここは僕たちが引き受けるよ。その方が良さそうだし……」


「みたいなのです」


 僕とレイスは皆から離れて、塀に寄り掛かっているシェムルの前へと移動する。リーリアさんたちがそれを止めさせて集団で戦うのを提案するが、それは泉たちが却下してさっさと門をくぐって中へと入っていった。庭から建物まで大した距離は無いので、あっという間に建物前へと到着して中に入っていってしまった。


「……不用心なのです」


「ああ……それは俺も思う。けど……建物内とかに罠があったら住みにくくない?」


「まあ……それはそうかも」


 どこかのゲームのように室内に地雷やレーザー部屋や釣り天井……そんなのがあったら生活が不便過ぎて不満続出ものだろう。そんなくだらないやり取りを互いに目を合わせたまま行う。焦りは敗因に繋がる……そして、相手に主導権が握られないようにしっかりしなければならない。対して、シェムルも焦っておらず、むしろリラックスしている……当然だろう、何せ一番の目的が達成されたのだから。


「それにしても……何で僕たちかな? 一番強いのはマクベスだけど?」


「魔王様にも訊かれたけど……興味がそそられないんだよね……」


 そう言って、自分の武器である黒い両刃剣を何も無い場所から取り出して手に持つ。僕も鵺を黒剣にして構え、レイスは戦いの邪魔にならない服の胸元に隠れる。これで……互いに戦う準備が整った。


 周囲に邪魔をする者はいない。それを教えてくれるかのように、風が吹いても木々のさざめきしか聞こえない。その時に、僕たちとシェムルの間に葉っぱが一枚落ちていく。その動きは不規則で落ちたと思ったら少しだけ浮き上がり、そしてまた落ちていく。何回かその動きをして葉っぱが地面に落ちた。

 

カチン!!


 その瞬間、互いに前に走り出し初撃を繰り出すと、互いの剣と剣がぶつかり高い音が響く。そのまま鍔迫り合いが始まるが、すぐに互いに後ろに引いて次へと移る。


「ウィンド・カッター!」


「鵺。大盾!」


 シェムルの攻撃を鵺で防ぐ。体が隠れるような大きな盾を作ったので、その一瞬だけ相手の姿を見逃す事になる……当然だが、シェムルはそれを好機だと察して、僕の後ろへと攻撃を仕掛けてくるだろう。僕は慌てて、もう一方の手に自分の武器をアイテムボックスから出して、自分の後ろへと振り抜く。


ガキン!!


 再度、響く金属音。しかし、今度は鵺ではなく四葩であり、青く輝く剣と黒剣がぶつかりあう構図になる。


「あはっ!」


 実に楽しそうな笑顔を見せるシェムル。その間に、鵺を短刀にして、それをシェムルへと向ける。


「雷撃!」


 僅かな隙をついて光速の攻撃を繰り出すが、シェムルは僕が手を前に出すタイミングで急いで横へとずれて雷撃を紙一重で避けて、僕たちから距離を取る。


「ふう……」


 僕はそこで一息吐く。それはシェムルも同じようで呼吸を整えていた。短時間に行われた先ほどの攻防でやっぱりとは思っていたが、シェムルの方がスピードは上である。


「ははっ……!!」


 すると、先程よりも口元を上げた笑みを浮かべるシェムル。どこか気怠そうないつもの雰囲気は無く、この状況を非常に楽しんでいる様子である。


「……さあ、いくよ!」


 再び、こちらへと走り出すシェムル。しかし……こいつは違う。僕は体を少し横へとずらして後ろからの突き攻撃を避ける。『なっ!?』という声を聞きつつ、体を回転させて四葩でシェムルに切り付ける。


「ウィンド・バースト!」


 すると、自分も巻き添えにした突風を起こして、回避と攻撃を同時に行う。吹き飛ばされた僕は手に持っていた2本の剣を地面に差して、後ろにある森の方へと吹き飛ばされるのを回避する。


「今のは驚いたのです。それに……さっきのアレって泉とフィーロの『ファントム』みたいなのです」


「……うん」


 レイスが今の分身と回避行動に驚きの言葉を上げる。風魔法をメイン……いや、それしか使っていないはずのシェムル。今の分身はどうやって生み出したのだろうか? どういう仕組みかしっかりと理解して対策を取りたいところだが……そうはさせてくれない。


「エリア・ウィンド・カッター!!」


 無数の風の刃がドーム状に生み出される。その範囲は広くシェムルの後方まで広がっており、僕たちとシェムルのを囲う檻のようである。


「これは全方位からの攻撃……無数の刃が(けい)を襲うのです!」


「ここでジョークを放り込まないでよ……」


 そもそも……あちらは無数の桜の花びらだが、これはそれよりもかなり少ない数である。だから、こちらの方が幾分かマシである。


「やれ!!」


 シェムルが上げていた手を振り下ろすと、風の刃が時間差で襲い掛かって来る。僕は慌ててその場から離れると、そこに風の刃が地面を切り裂き地面に無数の切り後が残る。僕はそれを横目にひたすら移動を続ける。止まれば……今の地面のように切り裂かれてしまうだろう。


「薫!」


 レイスに名前を呼ばれ、慌てて黒剣を持って襲い掛かるシェムルの攻撃を鵺で受け止める。シェムルはすぐにその場から引くと、今度は風の刃が降り注ぐ。


「……黒雷刃」


 僕は四葩にグリモアの力を加えた雷を纏わせてそれらを打ち消す。そして、そのままシェムルの方へと駆け寄る。


「はっ!」


 シェムルに近付いたところで、僕は四葩を振るがシェムルは一気に距離を取る。そして、またまた風の刃が降り注ぐので、今度は鵺を大盾にして防ぎ、僕は再び走り出す。


「薫! これ終わりが無いのです! さっきから風の刃が補充されてるのです!」


 レイスのその言葉に、僕は辺りを確認すると確かに先ほどから風の刃が降り注いでるのに、一向に減る様子が無い。こうなってしまうと、シェムルの限界が来るまでこの攻撃を耐え続けるか、これを打ち消す魔法を放つかになるのだが……前者の方法は止めといた方がいいだろう。その前に僕の体力の方が持たないだろうし、仮にシエルを呼んで移動し続けてもらうという方法も考えたが、シェムルのこの攻撃では上手く走り回れないので大怪我させてしまう可能性が高い。


「どうするのです?」


 黙って走り続ける僕にレイスが心配そうに訊いてくる。僕はそれを言葉ではなく、黒剣状態の鵺を球体状にしてみせる事で、この後何をするのかを教えるのであった。

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