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416話 魔王の元へ

前回のあらすじ「秘密をチョイ出し」

―「魔国ハニーラス・王城 中庭の鍛練場」―


「グロッサル陛下……薫のあの口振りって……」


「皆まで言うな……」


 転移魔法陣の光が消え、我が娘とあの不思議な男は魔王の元へと向かってしまった。あの最後の言葉……あれは明らかに姉の事を知っているような口振りだった。いや……本当に何かしらの関係者なのだろう。ずっとマスクを付けていたあの男の素顔……我がずっと帰りを待ち望んでいた姉の顔だったのだから。


「やれやれ……民を守るため、この身を犠牲にしても戦うつもりだったが、そうはいかなくなってしまたな」


「あら奇遇ね。私もあの子の秘密を知りたくなったわ……」


 我ら2人……早速、信頼できる臣下達を呼び寄せて、王都の防衛に本腰を入れるのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―転移してからしばらく後「旧ユグラシル連邦第一研究所から離れた場所にある森」―


「まさか、アンジェ様の血縁者とは……」


 お面を外した僕の顔をじっくりと眺めるコークスさん。そのすぐ横にいるトラニアさんも驚いた様子を見せている。


「確たる証拠になるか分からないけど、お婆ちゃんが持っていたペンダント……魔国ハニーラスの王家の紋章が刻まれた物なら持ってるけど……」


「いや……そこまで見せてもらわなくてもいい。どうして、リーリア様がここまで信頼をしているのか……やっと理解できたよ」


 そう言って、今までのリーリアさんと僕たちのやり取りについて納得するコークスさん。トラニアさんも、マクベスによる転移魔法で、魔王アンドロニカスがいる旧ユグラシル連邦第一研究所から大分離れた森へと飛び、そこから4匹の聖獣に乗って移動中である。ただ、オラインさんにはパートナーである熊のグラッドルがいるので、グラッドルに浮遊の魔石の付いた魔道具を装備してもらい、その体にロープを括り付けた形で、カーターたちのグリフォンに引っ張られて移動している。


「よしよしいい子なのじゃ」


「がう!」


 ついに宙を飛ぶことを恐れなくなったグラッドル。その元野生動物とは思えない姿に『魔石が及ぼす生物への影響について』という形で論文を出すことが出来るだろうな……と思ったりしている。


「……あ、薫さん。このままだと魔族の集団に鉢合わせします。右に逸れましょう」


 すると、聖獣には乗らずに1人飛行魔法で飛んでいたマクベスが進路の変更を伝える。


「りょーかい。シエル?」


(はーい!)


 シエルが今の進行方向から右へと逸れていく。こんな風に移動を続けて数時間……罠や戦闘などの危険を考慮していたが、今の所は特に何も起きていない。


「ねえ薫? これ、私必要だった?」


 すると、泉が契約している聖獣ユニコーンであるユニに一緒に乗っているミリーさんが自分の存在意義に関して疑問を感じたらしく、僕にここにいる理由があるのか訊いてくる。


「必要ですよ。今はこうやって大きく迂回して避けられますけど、目的地に近くなったら拠点からの迎撃を考えて徒歩で移動しますし、狭い拠点内部では隠密行動が必然ですし……下手すると、2、3組に分かれて行動する時に斥候役が1人もいないのは危険ですから」


「そうなったら……私と薫、それとマクベスは別々に分けた方がいいわね」


「そうですね……その方が均等に戦力を振り分けられますね」


「いやいや、チョット待って? 僕が斥候役なんて無理だよ? 何か違和感があればシエルに訊いたりするし……って、何で皆僕の事を哀れな目で見るのかな?」


 僕がミリーさんとマクベスに対して斥候役は無理だと伝えていると、何故か周りにいた他の皆が『お前……何を言ってるんだ?』と言いたげな視線を向けてくる。


「相手の殺気を、息をするかのように普通に感じる取れており……」


「イレーレ時代の施設に潜入時には、大量の極悪トラップを踏み倒して……」


「四天王アクヌムの作戦を見破って、それを防いだり……」


「女装しても全然違和感が無いしッスもんね……」


「フィーロ? 最後のそれは違うからね!? それよりも……この話の一番の肝は『相手の罠を事前に発見して避けるか解除する』という能力が必要だからね?」


「踏み倒せるじゃん」


「そんな原始的な方法は求めていないからね!」


 そう……そんな解決方法を僕は求めていない。相手にバレない様に静かに解除して、安全となった道を隠れながら進むというのが、ベストな進み方だと思っている。


「でも薫さん。実際に破壊した方が早いですよ?」


「そうそう。それに今回は相手が既に侵入されるのが分かっている状態だから、隠れてなんて無理よ」


 そこにマクベスとミリーさんが、僕の案が難しいと指摘する。言われてみればそうなのだが、出来れば面倒は避けたいところである。


「皆。そろそろここら辺で休憩を取りたいと思うんだが……」


 すると、カーターが持っていた懐中時計を見ながら休憩を取ることを提案する。僕も確認すると、既に移動を開始してから2時間ほど経っていた。そろそろ僕たちを運んでくれている聖獣たちを一度休ませてあげるべきだろう。


「そうなると……どこか開けた場所があるといいんだけど……」


「いや。今回は森の中に入った方がいいだろう。森の中に罠を仕掛けている可能性もあるが……相手はこっちが何回か休息を取ると踏んでいるはずだろうから、それがしやすい場所には何かしらの対策を仕込んでいる可能性が高いはずだ」


「でも……森の中だと昆虫型の魔獣とかを仕込んでおいて、そいつがカサカサと……」


 泉がそう言うと、言った本人も含めた数名の女性が肩を震わせる。虫がうじゃうじゃと這いよってくる光景を考えたら、確かにそうなってもしょうがない。


「つまり……無数のGが襲って来るッスね」


 その瞬間『ヒィッ!?』と、肩を震わせていた女性たちから小さな悲鳴が起きる。色々な虫の大軍のイメージが一気に大量のGに変わってしまった。毒とか攻撃性は低そうだが、精神的なダメージは一番かもしれない。


「確か……グージャンパマって、ジャイアントGって名前の人の頭を丸かじり出来る奴が……」


「ミリーさん! 言わないで! これ以上は、フィーロとミリーさんを除いた女性陣の精神がボロボロになっちゃうから!」


 僕は慌てて、その発言を止めさせる。既に手遅れかもしれないが、さらなるジャイアントGの情報が公開されるのは勘弁して欲しい。そもそも……僕の気持ち的にも優しくない。


「大丈夫ですよ? 私達で周囲を凍らせますので」


「昆虫型の魔獣は厄介だが……シーエとマーバなら対処できるしな。なんなら……薫の持つジェイリダの魔法でも対処できるんじゃないか?」


「薫さんの持つ魔石……確かに可能ですね。そうしたら、あの付近がいいかと。所々、魔獣の気配を感じますが、大した強さは持っていないようですし」


 マクベスが指差す場所、僕たちは先程から森の上を飛んでいるのだが、そこも森の一部であり、他の場所と何が違うのかが明確に分からない。これには聖獣であるユニコーンのシエルも同意らしく、あくまでマクベスだけが分かる感じである。


「とりあえず休憩に入ろう。こいつも騒がしくてな」


「くぁー!」


 カーターの聖獣であるグリフォンが鳴いて『休ませろ!』と要求してくる。僕の聖獣であるシエルは『まだまだイケる!』とは言っているが、何が起こるか分からないこの状況では、疲れきる前に休むのが鉄則である。


 そんな訳で、移動を始めてから初めての休息を取るために、木々を潜り抜けて森の中へと下りる。下り立った場所の周囲は木々が乱雑に並んでおり、この見通しの悪い立地状況を利用して攻められたら、相当苦戦するような場所である。


「アイス・ゾーン」


 すると、シーエさんたちが魔法を使う。すると、周囲の温度が少し下がった気がする。


「こんな感じで、昆虫型の魔獣が不活発な環境を作るんです」


「なるほど……そうしたら」


 僕は黒剣状態の鵺にジェイリダの魔石と風の魔石、それに融合の魔石の3つをセットする。


「寒風よ来たれ……寒気凛冽(かんきりんれつ)


 僕はそう唱えて、鵺を地面に突き刺す。すると、周囲に草木に霜が降り、先程よりも気温が一気に下がる。


「これなら安心……なのじゃが、いくら何でも寒すぎるのじゃ!?」


「この季節に息が白くなるとは……」


「2人ともこっちに……」


 すると、泉がオラインさんとリーリアさんの2人を呼んで、いつの間にか用意した魔石で動くストーブ型魔道具で暖を取るように勧める。そして、皆がその周りに集まり暖を取り始める。そこで、僕はミリーさんに手伝ってもらい、即席で温かいコーヒーと聖獣用にホットミルクを用意して配っていく。それが終わったところで、僕も暖を取りつつ休憩に入る。


「温かい……けど、何でそんな物を持って来てるんだ? 戦闘向きでは無いし、今の季節的にも不要だろう?」


「まあ……『備えあれば憂いなし』って所ですかね」


 リーリアさんの質問に、泉はそう言って言葉を濁す。一体、その言葉に何の意味があるのか……泉のパートナーであるフィーロ以外、その返答を不思議に思うのであった。

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