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415話 約束

前回のあらすじ「高まる緊張」

―「魔国ハニーラス・王城 中庭の鍛練場」―


「ペクニアさん。カイトさん……こちらの事、よろしくお願いします」


「任せろ。竜に立てつくのがどれだけの愚かな行為か教えてやるさ」


「ということで、こちらの心配は無用さ。君達の方がよっぽど大変からね……無事に帰って来てくれよ」


 明朝……準備を整えた僕たちは王城の鍛練場に集まり、いよいよ魔王アンドロニカスが構える居城へと出発する。


「ミリー。用意した新装備の調子はどうだい?」


「問題無いわ」


 そう言って、ミリーさんが銃をカシャカシャと動かして確認していたのを止めて、それをアイテムボックスに仕舞い込む。ぴっちりとしたライダースーツのような衣服は、これから潜入任務をこなす映画のスパイのようである。


「これより魔王アンドロニカスの討伐に向かう! 3人とも気を引き締めるように!」


 リーリアさんの言葉に「はっ!」と力強く返事をするオラインさんにコークスさん、それとトラニアさんも返事をしており、気合十分である。


「薫のように、見た目から油断させてくる奴もいるだろう……だが、侮るな! この前の模擬戦で得た教訓を忘れるな!」


 「おおー!!」と先ほどよりも力強く返事を返す3人。さらに、周囲にいた他の方々からも力強い返事が起きる。


「何か酷くない?」


「昨日のお仕置きでのやらかしを思い出すのです」


 レイスに言われて、昨日のアレを思い出す僕。夕食後、気持ちを整えようとして、レイスと一緒にここで軽く体を動かそうとしたら、僕たちを見下す連中によって焚き付けられた兵士たちが、僕にいちゃもんを付けて来たので軽くお仕置きしただけである。


「慢心した結果、死にそうになったからな……」


「魔法を寸前で避けつつカウンターとか、的確な急所狙いの攻撃とか……」


「俺、背後から攻撃したのに避けられた上に、俺の大事なあそこを武器で強打された……」


「俺なんてトドメに神霊魔法だからな……しかも『手を抜いたから、大丈夫でしょ?』と聞いた時には、恐怖を感じたけど……嘘だよな?」


「いやいや。本当だと思うぞ……『身体強化魔法を使うのを忘れてた』って言ってたしな。俺、身体強化の魔石を付けてたのにコテンパンにされたんだけど」


「「「「俺もだよ……」」」」


 何か、お仕置きされた兵士たちが涙ながらに語っているが、そこまで酷い仕打ちはしていないと思うのだが……まあ、男の急所を鵺で強打した事だけは悪いとは思っているけど。


 そもそも、一番の問題は彼らの攻撃はかなり隙だらけである。橘さんなら、素手だけで対処出来ただろう。


「そこ! 言っておくが、薫は身体強化魔法を使わずとも、四天王エイルの強化魔獣の命を刈り取る実力者だからな! 見かけでの判断がどれほど愚かな事か肝に命じろ!」


 すると、注意を呼びかけつつ、彼らの話に補足を付けるリーリアさん。それを聞いた彼らの顔がみるみる内に青ざめていき、僕を恐怖の対象として見てくる。


「リーリア姫! 僕を話のネタに使わないで下さいよ!」


「本当の事だろうが! 何なら四天王シェムルと何度も戦ってるとかが良かったか!」 


「そっちの方がまだいいです!」


「薫兄……何かそっちの方がヤバいみたいだけど?」


「え?」


 突如、泉が話に入ってきて、集まっていた兵士たちに指を差す。そちらを良く見ると、体を震わせたり、辛そうな表情を浮かべていたりしている。


「アレと何度も……しかも、そっちの方がいいなんて……」


「ヤバいヤバいヤバいヤバい……」


 何か『あり得ない!』とも言いたげな雰囲気がそちらから漂っているのだが……。


「薫さん。四天王シェムルはこちらの大陸の住人からしたら、狙われたら避けられない『死の象徴』みたいな奴ですよ。それと何度も戦ってる人なんて、薫さん達ぐらいです」


 さらに横にいたマクベスが、この大陸でのシェムルの評価を教えてくれた。確かに、アレに追われたら死を覚悟してしまうのは当然だろう。ロロックと比較しても攻撃に防御、素早さ、応用力の全てがずば抜けている。それでいてまだ奥の手を持っているのだから、油断できない相手である。


「……ということで諸君。検討を祈る! リーリア。無事に帰って来るように」


「はい。父上」


 すると、グロッサル陛下への挨拶を終えたリーリアさんが、コークスさんとトラニアさんがこちらにやって来る。


「で、マクベスの力で一気に敵地に向かうのだな」


「ええ。転移魔法でアンドロニカスの探知ギリギリの場所に移動します。そこからは聖獣で空を飛べる人達の力で向かいます」


「了解した。他に準備が無ければ、さっそく出発する」


 リーリアさんの言葉に皆が頷く。既に準備は整えている……いよいよ最終決戦の舞台に向かうこの状況、小説だったらクライマックスのシーンなのだろう。


「薫。少しいいだろうか」


 すると、グロッサル陛下が僕の名前を呼ぶ。何事かと思って、僕1人でグロッサル陛下の元へ向かう。その間にグロッサル陛下はフロリアさんを除いた人たちを、自分の傍から外させていた。


「何か御用ですか?」


「ああ……少しだけ気になることがあってな……」


「……何か?」


 何かを言おうとするグロッサル陛下。魔王アンドロニカスの凶行を止めるべく、なるべく早く済ませてもらいたい気持ちと、グロッサル陛下が気にしている何かが想像できてしまっていて、それに対して申し訳なさの気持ちがせめぎ合っていて、何とも素気の無い返事をしてしまう。


 一国の王に対して失礼かと思ったが……そこは全く気にしていないみたいで、少しばかり悩んでから、その口が開く。


「失礼だが……そのお面を外して、その顔を見せてくれないだろうか?」


「……」


 そのお願いに対して、すぐに答えられない僕。ここで拒否することも可能だが……果たして、それがグロッサル陛下のこの後の士気に影響を及ぼさないのか気になってしまう。かと言って、この顔を見せたところでグロッサル陛下の望みが叶う事は無く、ぬか喜びにしてしまうのもどうかと思うのだが……。


「少し見せてもいいでしょ? あなたほどの功績を持つ男の顔の傷なんて勲章よ?」


 そこにフロリアさんが、遠回しに見せるように勧める。僕は再度グロッサル陛下の方へと視線を向けると、グロッサル陛下はとても真剣な表情であり、それでいて辛そうな印象も取れる複雑な表情を浮かべていた。


 グロッサル陛下が何も知らないのは間違いない。ただし……僕がグロッサル陛下に関わる何らかの秘密を持っている事に薄々感づいているのだろう。それなら……少しだけばらすのもいいのだろう。


「……僕の顔には怪我はありません」


 僕はそう言って、お面を少しだけずらして2人にしか見えないように顔を見せる。僕の顔を見た2人はそれはとても驚いた表情で僕を見る。


「いいでしょうか?」


 僕はそう言って、返事を待たずにお面を付け直す。2人とも呆気に取られた表情のままだったが、いち早くグロッサル陛下が反応をする。


「あ……ああ。ちなみにだが……」


「性別は男です。けど……」


 僕はそこでグロッサル陛下の方を向いて、微笑んだ笑顔を見せる。お面を付けてるから口元しか分からないだろうが、頭の中では姉であるアンジェが笑った時の顔を思い浮かべてるに違いないだろう。


「僕もグロッサル陛下に話したい事……ううん。僕だけじゃなく泉も一緒にあなたに話したいことがあります。だから……僕たちが魔王を討伐して()()()()()()()()()()を信じてくれますか?」


 僕がそう言うと、グロッサル陛下は静かに目を瞑り、そのまま静かに頷いた。僕もこれ以上は何も言わずに静かに2人の元から離れて、皆の元へと向かう。


「顔を見せたの?」


「うん。後は……お婆ちゃんがいれば、こう言ってたんじゃないかな……って感じの返事をしてきたよ」


「うん? 何で薫殿の祖母がここに出てくるのだ?」


 僕と泉の話を聞いて、不思議がるコークスさん。事情を知っている他の面々はそれに苦笑いをしている。


「転移後に俺が教えてやるよ。俺も全くの無関係じゃないしな」


 そう言って、不思議がるコークスさんの肩を叩くカーター。アンジェの孫である泉の夫になる男なのだから確かに無関係ではない。


「という事で……いざ出陣ッス!!」


「「「おおー!!」」」


 フィーロの掛け声に、他の精霊娘が声を合わせる。それを合図に、マクベスが転移魔法を発動させる。すると、さっきまで描かれていなかった魔法陣が足元の地面に現われ、そこから光が溢れて僕たちを包み込んでいく。


「最終決戦らしさが出てきたね……で、最後まで明かさなくて良かったの?」


「……いいよ。どうせ帰って来るんだからさ」


 魔法によって僕たちの体が光に包まれる中、泉のそんな問いに僕はそう答えるのであった。

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